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14.シルヴァランドの人狼

「ああっ、素敵ですドゥ様……。小さいのになんて可憐な……っ」

「ロッテ、小さいは余計だ……。傷つくぞ……」


 リーゼロッテを頼った。モモゾウを手紙を持たせて使いに出し、屋敷の外に連れ出して買い物に付き合ってもらった。

 彼女のコネを使って手頃なお仕着せを調達すると、いくつかの小物を確保してアベルの店に戻り、試着を行った。


 ヘアピンで雰囲気を変え、靴底の高い靴で身長を少し高く見せた。

 胸に詰め物をして大きく見せて、首に素朴な銀の首飾りを巻いた。


 後は俺だと気付かれないように香水で体臭をごまかせば、化粧で少し手を入れるだけでそこそこ育ちのいい女が出来上がった。


「どうだ?」

「素敵っ、とっても萌えますの! 男性にしておくのが惜しいくらい素敵ですのよ!」


「ふんっ、当然だ。だがロッテ、このことは――」

「ご心配なく。何度も言われなくともわかっていますわ。これは、お父様の仇討ちですの……」


 彼女には真実を伝えた。あの書斎に落ちていた指と、俺には皆目よくわからない書類を見せた。

 気丈に振る舞っているだけかもしれないが、貴族の女というのは強いのだと感心させられた。反面、彼女がとても心配になった……。


「ドゥ様、こっちのビーズのブレスレットは付けていかないんですの?」

「あまりゴテゴテとさせると侍女らしくない」


「そうですけど、きっと付けた方がかわいいですのっ。こっちのリップも使いましょう!」

「わかった……」


 彼女はこれから屋敷に戻ることになる。

 父親に化けた人狼がいるかもしれない屋敷にだ。そう考えると、今だけでもやさしくしてやりたかった。


「ドゥ様、わたくしとお友達になって下さりありがとうございます。わたくし、今がとても楽しいですの。……まあ、アベル様!」

「これはこれはリーゼロッテ様。ドゥ、まだ行っていなかったのですね」


「……アベル、よければロッテに仕事を任せてやってはくれないか?」

「なんですって……?」

「そうなんですのっ! わたくしお店のお手伝いに憧れていて……あの、ダメですか……?」


 俺はいずれこの国を去る。だったら今のうちにロッテには新しい繋がりを見つけてほしかった。


「そうしくれたら俺も仕事に取りかかれる。頼むよ、アベル」

「盗賊ドゥ……貴方は私の胃を痛くさせる天才ですよ……。ではお嬢様、接客のお手伝いをしていただけますか?」

「ええ、もちろんですのっ! ドゥ様、いってらっしゃいませ。どうか、ご無事で……」


 俺はアベルの店を出て、徴税長官パブロの屋敷のある貴族街を目指した。

 今回はマッカバン邸のように簡単ではない。書類泥棒が現れた以上、向こうも警戒して新入りなんて迎えないだろう。


 屋敷についての入念な下調べから始めて、日没を待ってから潜入することに決めた。



 ・



 潜入後もしばらく様子を見た。

 パブロの屋敷は四方を高い塀で囲んだ屋敷で、敷地面積で言えばマッカバン邸に劣っていた。


 だが庭があり、薔薇園があり、大理石の彫刻が立ち並ぶその姿は、それが理解したがい成金趣味であろうとも超金持ちの家であることは一目瞭然だった。

 ヤツの私財を空にしてやりたいやりたいところだが、それではイルゲン村への暴挙は止まないだろう。


「ドゥ、門の方で来客だって」

「モモゾウ、お前は本当に優秀だ。その話、気になるな……」


 何も動きがなければパブロの書斎に忍び込んで、書類の類を盗み帰る予定だった。


「でもね、変なんだよ。馬車からおっきなバックが運ばれてきたの」

「それは具体的にどれくらいだ?」


「えっとね……今のドゥが、2人くらい入るくらい……?」

「怪しすぎる……。行き先は恐らく応接間だろうな」


 来客は必ず応接間に招待される。下調べのかいもあって、先回りは簡単なものだった。


「ぇ…………」

「今回はお前に任せた。ヤバくなったら叫べ」

 

「ぇ……っ、えっ、えええええええーーっっ?!!」

「大丈夫だ、万一のときは俺がバックアップに入る。お前は隙間に隠れて話を盗み聞くだけでいい」


「ピィィ……。記憶を失っても、ドゥはモモンガ使いが荒いよぉ……っっ」

「お前は俺が必ず守る。だから頼む、ロッテのためだと思って忍んでくれ」


 つかの間のご主人様の名前を出すと、モモゾウは勇気を出してうなづいてくれた。

 そういうわけで俺は本棚の隙間にモモゾウを押し込んで、応接間から離脱した。


 蛇が出るか蛇が出るか、どうなるかはわからないが――恐らくろくな繋がりではないだろう。やつらの秘密を暴けるかどうかは、モモゾウのノミの心臓に全てがかかっていた。

ストックが尽きました。次回の投稿が遅れるかもしれません。(定型)

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