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4.人狼伝説

・モモシコフ・モフモフビッチ


 一日経ってもリーゼロッテはボクチンを外には出してくれなかった。必ず戻ると約束してもダメだった。リーゼロッテは可哀想な子だ。彼女は父と母に放置されている。その埋め合わせがボクチンだった。


 そんなリーゼロッテに威嚇したり、傷つけるのは嫌だ。

 でも、ドゥと会いたい……。ドゥはきっと無事だ。ボクチンのドゥは、絶対絶命のピンチになっても生き延びる凄い男なんだ! 死ぬわけがないよ!


「あのね、それでね、モモシコフ。最近のパパ、やっぱり変な気がするの……。時々息も荒くなるし、この前なんて、凄い目でわたくしを見ていたの……」

「うーん……どうしちゃったんだろうね。そんなに変わっちゃったの……?」


「うん……まるで、まるであれは、別人、別人よ……」

「ドゥがいればボクチンの代わりに考えてくれたのにな……。大丈夫だよ、ロッテ。きっと、ロッテの思い過ごしだよ」


「ありがとう、モモシコフ……。そうよね、きっと、そうよね……」

「元気出して、ロッテ」


 ボクチンはロッテと仲良くなるところから始めることにした。まずは信頼関係を築いて、本当の友情が芽生えてからドゥを探す手伝いをしてもらおう。


「ああ、なんてふわふわなのかしら……。モモシコフ・モフモフビッチ、わたくしをわかってくれるのは貴方だけよ……。ああ、モモシコフ・モフモフビッチ……」

「ボクチンは、モモゾウだよ。大切な人に貰った名前なんだ」


 だけどその時、狼の遠吠えが外から響いてボクチンとロッテは一緒にすくみ上がった。ロッテはベッドにボクチンを抱えて潜り込んで、ブルブルと大げさに震えていた。


「ロッテ、どうしてそんなに震えてるの……?」

「モモシコフ、貴方は知らないの……? あれは人狼よ、きっと人狼の鳴き声よ……っ!」


「じんろー……それって、何?」

「人間に化ける狼よ!! 街の人はみんな言っているわっ、人狼がわたくしたちの隣で暮らしてるって!」


「狼……狼は、ボクチンも、嫌い……。狼、しゅごく、怖い……」

「わたくしもよ、モモシコフ・モフモフビッチ……! わたくしたちを怖がらせる人たちなんて、1人残らず世界から消えてしまえばいいのに……っ」


 ボクチンとロッテは一緒に掛け布団の中で震えた。人狼なんて嘘だ。人狼なんていないさ。ボクチンたちを怖がらせようと、意地悪な人が広めたただの噂なんだ。そう言ってボクチンは、可哀想なロッテを慰めた。


 ボクチンは狼が嫌い。凄く凄く、嫌いだ……。



 ・



「そういうわけでしてね、王都では人狼の噂で持ちきりなのですよ」

「ぅ、ぅぅ……ほ、本当、なんですか……?」


「さあ、私は見たことがありません」

「そ、そこは、否定っ、して下さい……っ」


 王都行きの荷台の上で、奇妙な噂を聞かされた。王都オドフの人々は今、人狼というまことしやかな噂に翻弄されているそうだ。


 人狼に人がさらわれ、さらわれたその人間が人狼にすり替えられて戻ってくる。そして増えた人狼はまた人をさらって、都市で暮らす人々を次々と人喰いの人狼に変えている。というたちの悪い噂だ。


「はっ、よくできた話だな」

「ド、ドゥくんはっ、こ、こわ、怖くないの……っ?」


「都合がよすぎるだろ。どうやって元の人間とそっくりの人狼を用意するんだよ」

「そ、そうだけど……でも、そのっ、そのくらい、できちゃうかもしれないでしょっ!」

「怖がらせ過ぎてしまったかもしれませんね。ご安心を、ローザ。この国には結界がありますから、モンスターは入ってはこれません」


「あ、そっか……それも、そ、そうだね……」

「結界……ってなんだ?」

「古くよりこの国を守る魔法の壁です。これがある限り、やつらはこの地に近付くことすらできないそうです」


 言われてみれば、そんな物があったような気がしてきた。

 まあいいか。だったら人狼は嘘で、これから俺はつつがなく仕事をこなせる。


「ドゥくん、ローザ、着いたらうちの店を手伝ってくれませんか?」

「も、もちろん、そのつもりです……っ」

「なんで俺まで」


「社会勉強だと思って下さい。真面目に汗水流して働くのも悪くないと思いますよ」

「金貨を取り戻してやったのになんてやつだ。……しょうがねぇな、アンタにも借りがある。わかったよ」


 どうせ仕事は夜だ。俺たちはアベルの頼みに応じて、王都に着いた後は彼の店を手伝うことになった。いざ手伝ってみると、商店の店員というのも新鮮味があって悪くはなかった。

 一生続ける気には、到底なれなかったけどな。


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