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・エピローグ3/3 本当の勇者

・英雄ドゥ


 その日、王都の賑わいは過去最高潮となった。一目でいいから救国の英雄たちを祝福したいと願う者たちが、このセントアークに集結していた。


 パレードに加わる気はなかったが、報酬に色を付けてくれるというので俺は折れた。それに以前のパレードとは異なり、このパレードには主役が何十人もいた。

 7台もの山車が王都を練り歩き、英雄たちに感謝と勝算と祝福が喝采となって捧げられた。


「長く生きたけれど、こういうのは初めて! 世界が虹色に輝いて見えるわ!」

「わ、私のような半端者が、こんな賞賛を受けていいんでしょうか……?」


 ラケルはいつだって謙虚でひかえめないいやつだった。ペニチュアお姉ちゃんは山車から花びらを撒いて、常闇の眷属と恐れられていた頃が嘘のように明るく笑っていた。


「ヒャッハーッッ、たぎるぜぇぇーっっ!!」

「ディシム、危、ない……。だめ、暴れる、だめ、ディシム……ッ」


 ディシムはソドムさんに肩車でまたがり、大きな胸を揺らして大きく両手を振っていた。

 普段物静かなソドムさんも、今日ばかりはずっとニコニコと笑っていて、なんだかんだディシムといいコンビだった。


「愛してるぜ、てめーらっ! 愛してるぜ、マイダーリン、ソドムゥーッッ♪」

「ディ、ディシムッ、ダメッッ、困るっっ!!!」


 大変そうだけどな……。


「楽しいねっ、これ!」

「オデット、君は意外に肝が据わっているよね……。僕は何度やっても落ち着かないよ……」


 カーネリアとオデットは一緒になって砂糖菓子を撒いていた。


「だって、自分がまさかこの場所にいるだなんて、今でも信じられないもん! ほらカーネリアッ、やるからには楽しもうっ?」

「……うん、君を見習うことにするよ。君のそういうところは魅力的だ」


「えっ、それってもしかして口説き文句!?」

「ち、違うよっ、ただ君を見習いたいと思っただけだよっ!?」


 楽しそうだった。笑い合う2人の姿を見ているだけでも、金に釣られてパレードに参加した価値があったと思った。


「ドゥ様、このたびは本当にありがとうございます。貴方がいなかったら、この国は魔軍に乗っ取られて破滅していました。感謝しています……」

「アイオス、アンタは王族らしくふんぞり返っていろ」


「で、ですが……オレは援軍を呼んできただけで……」

「その援軍がこなかったら負けていた。アンタも立派な英雄の1人だ」


 姿は俺に似ているくせに気質はこの通りの気弱さだ。その姿が見ていられなくて、俺はアイオス王子と手を繋ぎ、大観衆に向けて掲げて見せた。


 すると観衆たちは、王子と盗賊の妙な友情に興奮した。もう片方の手を振ると、王子が控えめに、モモゾウが短い手をまねをした。


「ドゥ、あそこ見てっ、リューンがいるよ……っ」

「ぁ……っ、本当だな……。きてくれたのか……」


 モモゾウが耳元に寄って、それから視線を誘導するように軽く飛んでから旋回して戻ってきた。

 母と弟、義父が街角の一角にいて、アイオス王子と並ぶ俺を見上げていた。弟は驚いてこちらに何かを叫んでいたが、ここからではよく聞こえなかった。


「ドゥ、ガブリエルとベロスはまだ見つからないらしい……。国外に逃げた可能性が高いって……」

「ならお手上げだな」


 女官を斬ったというガブリエルはともかく、ベロスについては個人的に見直した。ヤツは無謀な突撃命令を突っぱね続けて、両軍の激突を防いだ。


 ベロスがもう少し愚かだったら、多くの将兵が大河に溺れ死んだり、同国人同士の争いで命を落としていただろう。

 あきれ果てた男だが、結果的にやつはこの戦いで最も多くの人間を救った臆病者となった。


 魔将が討たれたことにより、南方の沿海州がモンスターの恐怖から解放された。ソドムさんは出身地に訪れた平和に、いつもよりもずっと口数を増やして喜んでいた。


「プルメリアとマグダラ、こっちにきたらよかったのにね」

「ぼ、僕はちょっと、マグダラは困るよ……。最近、マグダラは変なんだ……僕を、お姉さまって呼び出して……。困る……」

「わか、る……。とても、困、る……」


 迷惑そうにディシムを肩に背負ったまま、ソドムさんがカーネリアに同情していた。

 マグダラが俺たちの仲間としてここにいて、ガブリエルとベロスが国を捨てて逃げた。おかしな話だった。


 国を救った俺には莫大な報酬を請求する権利があった。そこで俺はその権利を、全てプルメリアに譲った。今の彼女にはもっともっと多くの金が必要だった。


 スティールアークは圧政から解放され大半の者が開拓を捨てて故郷に戻ることが決まっていたからだ。プルメリアにとってそれは痛手で、新たに開拓民を募る必要があった。


 エクスタード市の防壁は破壊され、そこを故郷とする兵士の多くが命を落とした。プルメリアの功績は極めて大きかったが、内戦の爪痕は決して小さくなかった。


 しかし前向きに考え直せば、クロイツェルシュタインを蝕む膿が、内戦により抜き取られたことにもなる。


 長らく俺や民が嫌悪した腐敗貴族たちは失脚し、最後まで忠義を貫いた者たちが勝利した。この国はきっとこれから変わるだろう。少なくとももう少しまともな国に。


 そして有名になり過ぎてしまった俺は、やはりクロイツェルシュタインを去らなくてはならない。モモンガを連れた救国の英雄ドゥを誰も知らない世界へ、俺たちは旅立とう。


「ん……なんだ、オデット?」

「ドゥは……カーネリアと、ここでキスしたんだよね……?」


「そ、その話か……。まあ、強引に……不意打ちで――んっっ?!!」


 その時、観衆が沸いた。

 勇者カーネリアにライバル現る。とでも彼らの目には映ったのだろう。ブロンドの美しい少女が、盗賊ドゥに飛びつくようにくっついて、唇を奪った。


「オデットッッ、それは、ぼ、僕の……っ」

「カーネリアの物だって決まってないよ! 悔しかったらやり返してみなよっ! 私と間接キスになるけどねっ!」

「ま、待て、カーネリア……ッ、アンタ、目つきがおかし――止めっ、人前――」


 俺の周囲はキス魔が多い……。

 予期せぬサプライズに王都の民は大興奮だった。それはもう、ただでさえ巨大なこのお祭り騒ぎの声量が倍になるほどの、圧倒的な熱狂が故郷を包み込んだ。


「盗賊ドゥよ、救国の英雄よ。今日この日、そなたに勇者の称号を授ける!! 滅亡に貧する劣勢の中奮戦し、魔将グリゴリの陰謀を阻止し、見事討ち滅ぼしたそなたこそ、勇者に相応しい!!」

「な……何を言っているんだ、あの王は……?」


 パレードの終着点は王城前の広場だ。バルコニーの真上から、王は静粛する民に叫んだ。



「国民よ!! 救国の英雄、勇者ドゥを称えよ!! 彼こそが英雄!! 彼こそが真なる勇者!! 英雄ドゥよ、我がクロイツェルシュタインと共にあれっっ!!」



 カーネリア……アンタ、俺をハメたな……?

 彼女に恨みがましい目を向けても、彼女は胸を張って王の演説が正しいと笑うばかりだった。


「君こそが勇者だ。君こそが真の勇者なんだよ、ドゥ。盗賊だからだとか、悪党だからだとか、貧しい平民だからだとか、そんなことは関係ない。真の勇者は君なんだっ!!」


 この日、俺は勇者様に勇者にされた……。

 光栄で、嬉しくて、認めてくれる気持ちが幸せな反面――やはり性急にこの国を去らなければならないと俺は確信した。俺は勇者じゃない、義賊でもない、ましてや王子でもない。


 俺は、身勝手で傲慢なただの盗賊だ! 俺は、勇者なんかじゃない……。


 - 3章 王都陥落から始まる盗賊伝説 終わり -

これにて3章完結となります。

ここまでお付き合い下さりありがとうございます。

4章のプロットはたった今用意しています。


プロットを最後まで完成させて、それから執筆となりますので、たぶん短くとも5日ほどのおやすみをいただくことになると思います。

また新作の連載や書籍版「砂漠エルフ」の改稿作業もしたいので、ここからは2日に1回更新に変更させて下さい。


感想や誤字報告ありがとうございます。

おかしな感想が来て以来、感想欄を見るのが怖くなっちゃっていますが、感想をいただけてとても励まされております。


4章は北方の雪国を舞台にしたお話です。既存のキャラクターたちから一度離れて、ドゥとモモゾウのコンビの二人だけを軸にして、遠い異国での活躍を描いたお話になります。

それでは、ここまで本作を読んで下さり本当にありがとうございました。テンプレからはもう完全に脱線していますが、これからも自分の書きたいお話を書いてゆきます。

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