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大地の抱擁

 叫んだ悠華は強く輝く両腕を頭上へ。

 立ち込める暗黒の中に燦然と輝くそれはまさに夜明けの光。

 その輝きを二つに分け、大きく弧を描きながら下ろしてへその前に合流。

 弾ける音と共に輪を成した光の軌跡は、そこから拡がり回転。悠華を包む光の球となる。

 押し潰そうとするような瘴気を含む闇の中、それを確かに押し返す輝き。

『おお!』

 パートナーを核としたその中へ、テラは自ら飛び込む。

 地組の竜と契約者を揃って包んだ光の球。それは激しく輝きを強め、周囲に立ち込める瘴気をかき消す。

「イィヤッハァアアアアアアッ!!」

 力強さを増した光球から轟く叫び。

 続いて弾けた光の下から黒い巨躯のヒーロー、グランダイナが駆け出す。

 逆スペード型のクリアバイザーのホーン部はテラの頭甲のように獅子のたてがみを模した形に展開。

 人竜一体となってみなぎる力。グランダイナはそれを全身のエネルギーラインから溢れさせながら、ヴォルス・エイバンへ突撃する。

『クフフ、確かに今までにも増してパワーは上がったようだが……その程度で、無謀な』

 しかし輝きを強めて立ち向かう大地の戦士を見下ろして、ヴォルス・エイバンはせせら笑う。

 そして様々な獣首を連ね重ねた塔の土台、幾匹もの大小様々なひるの群れが蠢き、その合間から生えた尾がうねる。

 空を引き裂き振り下ろされるトカゲの尾。

 自身の進む先に落ちてくるそれに構わず、グランダイナはただ直進。

 頑ななまでのその突進に、ヴォルス・エイバンは笑みを深める。

『クフ、愚かな』

 嘲笑の直後に無防備なグランダイナを打つ尾の一撃。

 巨大恐竜のそれにも似た打撃は、巨躯とはいえ人間サイズに過ぎないグランダイナをその輝きもろともに押し潰す。

 塞がれ消える夜明けの輝き。それにヴォルス・エイバンのつまらなそうな鼻息が続く。

「だっしゃああッ!」

 が、重みある爆音の残響を気合の声が退け、また光輝く闘士が軽々と巨大な尾を押し退ける。

『ほう!?』

 覆いかぶさる重厚な暗雲。それを自ら軽々と吹き飛ばして再び姿を見せた光に、ヴォルス・エイバンは驚きと期待を合わせて目を見開く。

 そして今度は鎌首もたげた蛇のように構えたサソリの尾を振り下ろす。

 今度はどうだと言わんばかりに迫る甲殻を連ねた尾。

 だがグランダイナはやはり避けるそぶりもなく、頭上に降ってくる鋭い針に見向きもしない。

 グランダイナの足よりも太く長い針。それは言うまでもなく、構えもなしに突き進むグランダイナの顔面を直撃。

 しかしグランダイナが針を受けた頭を無造作に、走る勢いに任せて振るう。

 すると角の展開したクリアバイザーに触れていた針が、まるで食い千切ったかのように半ばから折れる。

 さらに折れた針をグランダイナが掴み取れば、それは瞬く間に分解。光に転じて腕のエネルギーラインへと吸い込まれる。

『なんと!?』

 それにはヴォルス・エイバンも驚きを隠しきれず、愕然と目を見張る。

 よもや負の感情の凝縮体である自身の体を、断片とは言え、潔癖なる竜とその契約者が吸収できるとは考えてもいなかったのだろう。

「どーしたい!? こんなモンじゃアタシらは止まらんぜいッ!?」

 対してグランダイナは、予想外の光景に半ば呆けたヴォルス・エイバンへ叫び、さらに力強く踏み込む。

『おのれ! 多少我らに近づいた程度で調子づくなッ!』

 勢いを増しての接近に、ヴォルス・エイバンは声を荒げて瘴気を放つ。

 合わせて蠢いていた蛭が床へ潜ると、その直後、グランダイナの踏み込んだ足場から蛭の口が飛び出す。

「うおっとぉ!?」

 足元から飛び出す蛭にグランダイナは思わずバイザー奥の目を点滅。

 装甲越しに食い付き、力を吸い取ろうとするそれに構わず、グランダイナは足を進める。

 先陣切って食いついた一匹二匹は逆に吸い取り、干物、そして光に変える。

 しかし足元を絡めとり、のし掛かりにくる蛭の数は無数。たちまちに押し包まれて走りを鈍らされてしまう。

『これは受けきれるかなッ!?』

 瞬間、ヴォルス・エイバンの胴に並ぶ獣首たちが一斉に咆哮。

 それに合わせて放たれた破壊光がグランダイナを襲う。

「おぉりゃあ!!」

 目の前を埋める彩りの定まらぬ眩しさ。

 それにグランダイナは自身を抑える蛭の群れを光に変えて吸収。振り切るや否やその場で震脚。右掌底を打ち上げる。

「翻土、転、しょおうッ!」

 取り囲む蛭たちを衝撃波が吹き飛ばし、山吹色の光を灯した掌が津波を成す光線とぶつかり合う。

 衝突。そして打点を中心に広がる波紋。

 それが壁のようになって、破壊の力を押し止める。

「うあおうッ!?」

 だがそれも一瞬。

 瞬く間にヴォルス・エイバンへ天秤が傾き、グランダイナは押し寄せる混沌の光に再び集ろうとしていた蛭もろともに飲み込まれる。

「ゆ、悠ちゃんッ!?」

 焼けつくような眩しさ。直撃から爆発的に広がるそれに目を細めて、ホノハナヒメはいまだにダメージの色濃い身を起こす。

 徐々に弱まり、闇に塗り返されていく混沌の光。

「あっつつつ……こーれは思ってたよりきっついわぁー」

 その中心部には、焼け焦げた足場を踏んで煙を上げるグランダイナが。

 体から上がる煙を払いながら軽口を叩いて見せるその姿に、仲間たちからは安堵の息が。対するヴォルス・エイバンからは舌打ちが溢れる。

「ほぉら、どーしたい? もっと撃ってきなって。アタシが受け止めるからさ」

 グランダイナはそれらを受けながらヴォルス・エイバンへ向けて手招きさえしてみせる。

「憎いんっしょ? なんもかんもぶっ壊したくなるくらいに許せないんっしょ? なら、この胸くらい安く貸すからぶつけてきなって。ホレホレ」

 そうして言葉を重ね、両腕を開いて分厚い胸甲を晒し、さらに撃ってくるように誘う。

 しかし、普段どおりのおどけ調子ではあるが、反面装甲の焼け焦げは、先の一撃が決して浅いモノでは無かった事を雄弁に物語る。

 ホノハナヒメら三人がかりでの治癒を受けて回復はしたものの、それ以前の消耗も当然軽くはない。

「ほぉら、来なって。遠慮するこたないからさぁーあ?」

 しかしグランダイナはおどけた強がりをさらに重ねて、ヴォルス・エイバンへ一歩踏み出す。

『知った風な口を生意気にッ!』

 「来ないならこっちから行くぞ?」と、言わんばかりの前進。それにヴォルス・エイバンは苛立ち混じりに吐き捨て、体を開く。

 ヴォルス・エイバンの人の女を模した部位。

 みぞおちと獣面塔の境目、そこと乳房が開いて混沌の光が覗く。

 新たな目と口が開いたかのような形でみなぎる、彩り定まらぬ輝き。

 光は色を不規則に、目まぐるしく変えて行きながら煌々と強まる。

 その間には閃く間に赤から緑、青から黄へと変わるエネルギーがスパーク。頭全ての雄叫びに乗せて放たれたモノを超える威力にビリビリと空気に震えが走る。

 漲り、滾り、高まるエネルギー光。

 今にもせき切り溢れ出そうな力の膨張のまま、ヴォルス・エイバンの巨体が反れる。

『これでも耐えられるかッ!?』

 半ば試すような叫びと共に放たれた膨大な破壊の光球。

 直径がグランダイナのおよそ十倍。稲光をコロナの如く迸らせたエネルギー塊は、周囲を様々な色に染め替え続けながらグランダイナへ。

 対するグランダイナは自分の言葉を覆すことなく、やはり回避も何も無く前進。しかも腕をブロックに出すことすらせず自ら直撃を受けに。

「うぐぅうッ!?」

 双方向からの接触。自ら望んだ形で迎えた直撃にグランダイナは呻き声を噛み殺す。

 そして圧し掛かる巨大なエネルギー球を、開いた両腕と分厚い胸甲とで抱えるようにして受ける。

「ぐぅ!? うぅううッ!!」

 装甲を徹して体の芯まで焼く熱と、押し潰しにかかる重圧。グランダイナはそれらにうめきながら、しかし軸足を後ろへ突っ張って踏ん張る。

 しかし重いエネルギー塊はその場で支え切るには余りにも重すぎて、グランダイナの体は後ろへと押し込まれる。

 踏ん張るメタルブーツは足場と激しく擦れ合い、通り過ぎた端から火柱にも似た勢いで火花が弾けて波を作り、タイヤ痕にも似た焦げ目を軌跡と刻んで行く。

「う、ぐぐ……いぃぃやぁっはぁあああああああああああッ!!」

 破壊光を叩き込まれた勢いに負けて押し込まれながらも、グランダイナは吠えるように叫びながら抱え止めていたエネルギー塊を抱き潰す。

 己を抱くように腕を振り抜いたグランダイナ。それを中心に混沌の彩りを持つ破壊エネルギーが弾け飛ぶ。

「……ッ! 効かぁあああああんッ!!」

 黒い闘士は上体を丸めたそのまま深く息を吸うと、叫びながら内向きに固めていた力を反転。体を反り開いて踏み込む。

 それからすかさず逆の足を踏み出し、後退りさせられた分を一息に取り返す。

 しかし激しく焼け焦げて煙を上げる腕や胸の装甲。そして弾けて切れたエネルギーライン。

 それらの浅くは無いダメージ痕を見る限り、先ほど堂々と張り上げた叫びはとても信じられたものではない。

 だがグランダイナは割れたエネルギーラインから山吹色の光を溢れさせながら、それを無視して突撃を続ける。

『おのれッ! 何のつもりかは知らんが、そちらの思い通りにはッ!』

 ひたすらに無防備な接近を選ぶグランダイナ。それをさせじとヴォルス・エイバンは数多の獣面から迎撃の魔力砲を繰り出す。

 接近を阻むよう、壁を作るように撃ち込まれる砲撃。

 しかしグランダイナは怯むことなく前進。真正面からのものに胸を撃たれ、そのダメージにうめくも、一拍の間を置いて足を前に。

 加えて尾や長鼻。伸びる舌が前進を続けるグランダイナへ。

 砲撃の間隙に四方八方から潰しにかかる巨大な肉鞭らを、黒いヒーローは受けては押し退け、受けては押し退け。それを繰り返しながらただ前へ。前へ

「う……ぐぐぅ……ッ!」

『この、止まれッ! 何故止まらんッ!?』

 漏れ出る光を尾と引き、呻き声を溢しながらも突き進むグランダイナと、その接近を叩いて阻みにかかるヴォルス・エイバン。

 どれだけ撃たれても止まらぬ黒い闘士の歩みに、ヴォルス・エイバンはでたらめに攻撃を繰り出し続ける。

 やみくもに暴れるその様からは今までの悠然とした態度が完全に失われている。

 それはまるで怯えた子どもが、がむしゃらに手足を振り回しているようで。

 幼く、しかしその勢いのままに振るわれるには余りにも大きな力。

「ぐ、うっぐぅう!?」

 立て続けに撃ちこまれる衝動的な暴力。それにグランダイナの膝からついに力が失われる。

 膝が折れ、その場に崩れるグランダイナ。

 瞬間、混沌の光が止めとばかりに鋭い螺旋を描いて迫る。

 だが焼け焦げた胸板を貫こうとするそれを横合いから割り込んだ青が遮る。

『なにッ!?』

 光線を弾いたのは水流に運ばれたウェパル。

 魔傘はその場で、折れた骨の支える傘布を開くと、破れたそれでグランダイナへ降り注ぐ光を弾く。

「行ってッ!!」

『頼んだ!』

 そして響く梨穂とマーレの声。

 その後押しを受けて、グランダイナは返事をする力も脚に込めて前へ進もうとする。

 が、しかし蓄積したダメージはやはり重く。それに引かれた体が心について行けず、前のめりに倒れる。

 そして盾になってくれていたウェパルも、ついに破壊光に負けて燃え消えだす。。

「うぅあぁあああああッ!!」

 だがウェパルが消滅するその刹那、気を張り上げた突風がグランダイナの巨体を攫う。

「す、すずっぺ……!?」

 グランダイナを運ぶ緑の嵐。それは果たして折れまがったメイスから風を放って飛翔する鈴音であった。

 鈴音は折れていない右腕でグランダイナの胴を抱え、風を吐くレックレスタイフーンをウェントとで抑え込む。

 しかし荒れ狂い、明後日の方向に頭を向けるレックレスタイフーン。

 それは鈴音とグランダイナを振り回し、でたらめな方向へとその身を飛ばす。

「私だって! 私だってッ! もうただ寝転がって見てるだけじゃないんだからぁあッ!!」

『ああ、いいぞ鈴音! 面白くなってきたッ!』

 傷ついた体を振り絞った気力で奮い立たせる鈴音と、そんなパートナーを励ますウェント。

 そうして風組二名がかりで嵐を吐き出すメイスを押さえ込み、制動。ヴォルス・エイバンへ向け、抱えた黒いヒーローと共に突っ込む。

『こっちに寄るなぁッ!!』

 嵐が運んでの突撃。それをヴォルス・エイバンが混沌の光を放ち迎え撃つ。

 辛うじて力任せ制御しているため、鈴音たちは今直進しか出来ない。

 だが真っ直ぐに破壊光線とぶつかり合う他ないグランダイナと鈴音の前に、紅蓮の炎が割って入る。

 宙に魔法陣を描く炎。それは混沌の光を触れたところから赤く塗り返す。

「悠ちゃんお願いッ!」

『兄様ぁあッ!』

「おぉおッ!」

 ホノハナヒメの叫びを受け、グランダイナは正面の火炎結界を叩き、方向転換。直角に上昇する。

 続けて鈴音の腕が胴から離れ、グランダイナは刃混沌の光を飛び越えて宙に投げ出される形になる。

 そして前回りに身を翻したグランダイナの下には、驚愕に顔を凍らせたヴォルス・エイバンが。

『なにッ!?』

 仲間たちがなけなしの力を振り絞って作ってくれたチャンス。それを逃すまいと、グランダイナは右拳を固く握りしめる。

「いぃいやぁあっはぁあああああああああッ!!」

 音が鳴るほどに固めた拳。それに続いて光が漲り太陽の如く輝く。

 そして渾身の気合を光と共に放ちながら飛び込み、振り上げた拳を振り下ろす。

『うぐぉあッ!?』

 飛び込みざまに繰り出した拳。それはヴォルス・エイバンの額、そこに埋まった智子の傍に落ちる。

 光と音とを弾けさせた鉄拳。

 仕置きの拳骨さながらにヴォルス・エイバンを揺らしたその一撃は、額に埋まった少女の体を飛び出させる。

 暗黒の巨体より吐き出された少女。それを受け止めようと、グランダイナは腕を広げて懐へ迎え入れる。

『待て! 行くなッ!』

 少女の飛び出し抜けた穴。そこから小さな黒いモノが智子に続いて飛び出す。

『おのれがぁあッ!?』

 智子を抱えたグランダイナへ牙を剥く闇。その姿はまるで短い蛇。ツチノコかあるいは蛭を思わせるそれは、大口を開けたままグランダイナへと飛び込む。

 だがしかし、グランダイナはそんなツチノコもどきをも構わず腕に抱きかかえて懐へ迎え入れる。

『なッ!?』

 思いがけぬ抱擁。それに戸惑い声を上げるツチノコもどき。

 グランダイナはそれと智子とを確りと抱きしめる。

「……大丈夫。アタシが一緒にいるからさ、ね?」

『……え?』

 気を失った智子、そしてツチノコもどきを両腕に抱いたまま、グランダイナは両者へ柔らかく声をかける。

 それらを抱いたまま、グランダイナはその体を光と解いて、テラと分離。本来の悠華の姿に戻る。

「だからもう、暴れる必要なんかないんよ? もう二人だけじゃないんだからさ、らっきーも、ヴォルスも……苦しみはアタシも一緒に受け止めるからさ」

『やっぱり、悠華は本気でヴォルスを……』

「おーいおい、アタシはいつだって本気だーったじゃん? 逃げる時も立ち向かう時もね。それに、テラやんのねーちゃん、闇の竜だって分かったらこーするしかないっしょ?」

 心配そうなテラに対して、悠華は抱いた腕を解かぬままおどけ調子に応える。

 悠華の言うとおり、ヴォルスとは本来竜の兄弟の一番手となる存在であった。

 しかし、ルクスとアム・ブラが先の崩壊の再来を警戒し、負の心命力を封じたことでそれを司るはずであったヴォルスも生まれる前に幻想界から追放されることとなってしまった。

 そうして憎しみを募らせたヴォルスは、愛を知らぬまま育った智子と出会い、ただお互いだけを支えとして結びあったのだ。

 悠華はヴォルスとも繋がったことで誕生の秘密を知り、ヴォルスに必要なものを知ることになったのであった。

「ほら、もう大丈夫。怖くない怖くない」

 愛を知らぬヴォルスとその契約者。それらを揃って抱く悠華の姿は、癇癪持ちの子どもを宥めあやす母のよう。

 これまで求めても与えられることの無かった愛。

 ヴォルスはそれにまるで憑物が落ちたかのように安らいだ様子で、抱擁を黙って受け続ける。

「ほら、おいで……」

 そうしてヴォルスが落ち着いたところで、悠華はまた柔らかく声をかける。

 するとヴォルスはその声に誘われたように悠華の胸の中へ沁み込むように姿を消す。

「う……くぅ……」

 身の内に宿ったヴォルス。その力に悠華は小さくうめきながらも小さく息を吐いて負の心の生む力を受け入れる。

 直後、ヴォルスの抜け殻となった獣面の塔が揺れ、崩れ出す。

 さらに辺りを取り囲む混沌の光の走る壁もひび割れ、崩落を始める。

『まずい、この空間が崩れ始めた! 早く脱出しないと!!』

 辺りに起きた変化に、テラが慌てて脱出を促す。

「早く! 悠ちゃんッ! こっちに!」

 悠華たちから少し離れた場所では傷ついた少女たちが固まって手招きをしている。

「うん、今行くよ」

 悠華がうなづき振り返ると、仲間たちとの間に光の道が出来上る。

 先をきって走りだすテラに続いて、悠華は智子を抱えて光の橋を歩き出す。

 合流を急いで進む地組。

 その近くを岩のようになったヴォルスの一部が 降って通り過ぎる。

 そうして降ってくる残骸は徐々に大きく、数を増して激しくなる。

 崩壊が勢いを増す中、悠華は仲間たちの目と鼻の先にまで近づく。

「悠ちゃん、あとちょっとよ!」

 落盤を防ぐ魔力のドームへ先行するテラが飛び込む。するとその一方で満身創痍の仲間と共に防護結界を維持しながら、ホノハナヒメが悠華へ向けて手を伸ばす。

 親友の伸ばした手に、悠華は鈍りかけの足に鞭を打つ。

 だが、そんな悠華の頭上に一際巨大な塊が降ってくる。

 自分を押し潰そうとする大塊。悠華はそれを見上げて息を呑み、抱えた智子を仲間たちへ投げる。

「らっきーを、お願いッ!!」

「ゆ、悠ちゃん!?」

 智子を仲間たちの結界に放り込む悠華。その直後、身を乗り出し手を伸ばしたホノハナヒメの目の前で、悠華の姿は巨塊の下に消える。

「ゆ、悠ちゃぁああああんッ!?」

『悠華ぁああああああッ!?』

 そしてホノハナヒメらは消えゆく少女の名を叫びながら、白い光の中へと吸い込まれる。

今回は二話連続更新です。先に97話をどうぞ。

ゆうかGも残す所最終回のみ。どうぞ最後までお付き合いください。

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