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死闘、サイコ・サーカス

「みずきっちゃんフォローお願い!」

 笑顔のまま虚空からナイフを取り出すサイコ・サーカス。

 それにグランダイナは鈴音をホノハナヒメへ渡して踏み込む。

「撃ち抜けぇッ!」

 同時に梨穂の放った水流がサイコ・サーカスの握ったナイフを狙撃。その刃を砕く。

 そしてグランダイナは得物を無くした敵へ肉薄。

「やあっはああああああッ!!」

 鋭い気に乗せて突き出す鉄拳。

 だがサイコ・サーカスは大砲じみた拳から身を横にして逃れる。

『おっと?』

 しかし拳から放たれた衝撃波がサイコ・サーカスの身を叩き押す。

 波を受けてわずかによろめいたその足元。そこへ火札が滑り込んで弾ける。

『お、おぉ?』

「ハァアアアアアアッ!」

 サイコ・サーカスがバランスを無くしたのに合わせ、グランダイナは突き出した腕を振るい、その勢いに乗せて回し蹴り。

 だがサイコ・サーカスは崩れた姿勢を保とうともせず、自ら倒れて丸太のような蹴りを潜る。

 すかさず後ろ回りに転がり逃れようとするサイコ・サーカス。それをさせじと梨穂が針のように鋭い水流を放つものの、転がる勢いのまま振るわれたピエロジュースにやすやすと蹴散らされてしまう。

 射撃を蹴り払ったその勢いに乗せ、着地からすぐさま跳躍。重ねて撃ちこまれた水のレーザーをかわし逃れる。

「さっきはよくもやってくれたなぁッ!!」

 だが大きく距離を取って着地したサイコ・サーカスへ、さっきの仕返しと怒りを露わにした鈴音が蹴りかかる。

 すっかり気を切り替えた鈴音のつむじ風を帯びた蹴り。

 しかしサイコ・サーカスは腕を立ててそれをブロック。

『ふふ……ならもう一度吹き飛ばしてあげる』

 そして含み笑いを溢し、蹴りを受け止めた腕を一閃。しかしまた木の葉を吹くように飛ばそうというその力に、鈴音はその場で宙返り。飛ばされることなくその場に留まる。

 鈴音は風を受けて羽根を回す風車さながら、受けた力を受け流し、利用。

『む!?』

「やぁああああッ!!」

 風を殴ったような腕を振り抜いたそのままうめくサイコ・サーカス。鈴音はその頭上へ、回転の勢いのまま無謀な嵐を振り下ろす。

 恐るべき強敵の力。

 それすらも風車軌道で加えた鎚矛メイスの一撃。

 だが必中必殺と思しきそれすらも、サイコ・サーカスはひらりと飛びかわして回避。代わりに殴られた床が爆風にたわむ。

 それを仮面のような笑みのしり目に、サイコ・サーカスは掌を上に手を構える。

 が、突き上げの指示に備えたその動きをとっさに中断。腰を捻って振り返る。

「ヤァッハァッ!!」

 拳を固めて待ち構えていたグランダイナは、打ちごろの軌道で飛んでくる強敵目掛け、右足を後ろ床へ突き入れるに合わせて右拳を打ち出す。

 黒の鉄拳は盾と割りこんできたピエロドレスの腕に構わず、その腕もろともにサイコ・サーカスの身を打ち返す。

『面倒な!』

 サイコ・サーカスは大きく吹き飛びながら、しびれを払うように拳を受けた腕を振る。

『があッ!?』

 直後、背中から弾け広がった炎に声を上げる。

 空中に仕掛けられていたホノハナヒメのトラップは、かかった獲物を捕らえようと、広がった炎を縄として中心のサイコ・サーカスへ。

『小癪なマネを!』

 意識の外を突いたトラップへ忌々しげに吐き捨てて、サイコ・サーカスは腕を一振り。

 縛りにかかる炎縄と、それを生み出す札を細切れにして散らす。

「もらったああッ!」

 そこへ魔傘から氷刃を伸ばした梨穂が滑走。文字通りに滑り込みながら、両手持ちに構えたウェパルを振り上げる。

『ぬるいッ!!』

 しかしサイコ・サーカスは鋭い反応を見せ、瞬時に肉薄しての斬撃に炎の縛鎖を切り裂いたナイフを氷刃にぶつける。

 そのまま両者は刃の根元を噛み合わせた鍔迫り合いに移行。

 両腕で持ち上げにかかる水の少女に対し、サイコ・サーカスは片手で抑えこんで見せている。

「う、うぅうう!?」

『中々に冷や冷やさせてくれるようにはなったようね?』

 梨穂が歯を食いしばり、うめきながら潰されまいと押し上げる。その険しく強張った顔に鼻先を寄せながら、サイコ・サーカスは悠々と戦士たちの戦いぶりを称える。

 その一方で両目を左右に走らせ、挟み込むように飛んできた風の刃と火炎弾を逆の手に呼び出したナイフで散らす。

『……けれど、結局はそこまで。本気の殺意の前には波間に消える泡の様なものッ!!』

 そして両翼からの奇襲を払った刃を逆手に、押し潰すように梨穂へ振り下ろす。

 だがその瞬間、水の衣に隠れていたマーレが水のブレスを発射。

 それは両者の間で岩波のように散って足元が水浸しに。

 水を吹きかけられて出来た刹那の隙に、梨穂は水たまりを後ろ滑りに鍔迫り合いから離脱する。

「ぬるいのはそちらの様ね!」

 押し込みの勢いにも助けられた高速でのスケート。梨穂はそうして水飛沫を散らして身を翻しながら、ライフルのように構えた傘から氷と水の弾丸をサイコ・サーカスへ。

『チィッ! 理屈倒れ風情が生意気なッ!!』

 あられ混じりの雨と降り注ぐ弾丸。それにサイコ・サーカスは舌打ちを一つ。両手のナイフで鋭い氷粒を切り払いながら跳び逃れる。

 そうしてサイコ・サーカスのかわす先を先読みして、霰弾混じりのレーザー水流を撃ち込む梨穂。

 しかしサイコ・サーカスは射線に入るよりも早く虚空を蹴って、三角跳びに水レーザーを回避。

『ふん』

 同時に、殴りかかるグランダイナの拳に蹴りをぶつけ、明後日の方角にナイフを放る。

 投げられた刃物はそのまま、不意に現れた空の裂け目に。その直後、火札を構えたホノハナヒメと鎚矛メイスを振りかぶり飛ぶ鈴音のすぐ傍の空が裂け、ナイフが何十本と二人を襲う。

「ひゃんッ!?」

「きゃあッ!?」

 不意打ちの刃の雨。それに二人は悲鳴を上げながらも、とっさに構えた杖を振るって迎撃。

 そうして作られた連携の間隙。

 サイコ・サーカスはその機を逃さず、グランダイナの拳を足場にして跳ぶ。

『そぉれ』

「クッ!?」

 合わせて残ったナイフを梨穂を狙って投げてその動きを牽制。

 刃を迎え撃つのに、梨穂がわずかに滑る足を鈍らせる。そのすぐ後ろにサイコ・サーカスは音も無く舞い降りる。

「ウゥ!? 回り込まれたッ!?」

 それに梨穂は青のコートを翻し、水飛沫を散らしてのスピンターン。刃を備えたウェパルで振り向きざまに切りつける。

「何ッ!?」

 だがその氷刃による斬撃はサイコ・サーカスがいつの間にか右手に握っていたカードとぶつかり受け止められてしまっていた。

 伸ばして立ててもよれることの無い硬いものとはいえ、たかが紙。

 しかしそんなカードが心命力に砥がれた刃をほんの一ミリも受け付けることなく止めきっている。

 信じがたいその様に、梨穂は相棒ともどもに目を瞬かせる。

 対するサイコ・サーカスは牙を剥くような笑みををさらに深めて、刃を受け止めたトランプカードを扇形に開く。

 刃を振り戻し、切りかかったのとは逆にスピンしながら離脱。

「この! このッ!」

 そして梨穂はぐるぐると独楽のように回りながら、鋭い水流に乗せた雹を繰り返し発射。

 しかしサイコ・サーカスは水流に押されて飛ぶ弾丸の数々を、扇と開いたカードを盾に次から次へと弾き飛ばしていく。

 また足元狙いのものをステップを踏んで避けながら、サイコ・サーカスは左の手に取り出した二枚を梨穂へ投げる。

 手を離れるや否や、クラブの6は吹雪の熊、ハートの6竜巻の鷹へと変化へんげ。爪と牙、嘴を突き出して氷水の魔法少女へと襲いかかる。

「この私に吹雪が通じるとでもォッ!?」

 獰猛な熊を模った吹雪の塊。

 梨穂は水と冷気を司る者としてそんなものを刺し向けられた憤りを口にしながら、凍気の熊を魔傘で切り伏せる。

 凍れるような殺意で出来た雪風の塊。それが裂けて散りゆくのを氷刃切り返しながら絡ませ、竜巻の鷹へと振り上げる。

 冷気を練り上げた逆さ縦一文字。

 だが空気を凍らす刃とそこから飛んだ三日月型の冷気は、横回転を描く風とステップを踏んだピエロにともども避けられる。

 そして塵を含んだ翼を羽ばたかせて、風の鷹はその嘴と爪を梨穂へ。

「アァラァアアッ!!」

 が、梨穂へ斜め上から覆いかぶさるような鷹型の風を、気合の叫びを尾と引いたグランダイナが飛び込みざまの拳で砕く。

「宇津峰さん!!」

『悠華かッ!!』

 援護にと割り込んだ大地のヒーローに、安堵の声を上げる水組。

 グランダイナはそんな仲間に頷いて、着地に沈んだ膝を伸ばしてサイコ・サーカスへ踏み込む。

『行け! 悠華ぁッ!』

「ずああッ!!」

 声を上げて輝きを増した相棒の力を後押しに、爆音を残して輝く右拳を打ち出すグランダイナ。

『う、むぅ!?』

 拳自体が爆音を放つ打撃。サイコ・サーカスの顔面へ真っ直ぐに伸びる剛拳に、ピエロは剣状に伸ばしたカードを当てて顔を反らす。

 そんなサイコ・サーカスの白い頬を掠め、浅く裂く。

 カードソードに阻まれながら、余波だけで敵を傷つけた拳。

 突き出されたままの拳の傍ら。浅い皮膚の裂け目から黒い粘液が溢れ出す。

「……本気で全てを、生きている場所まで……何もかもを破壊するのが本当にらっきーの、荒城智子自身の望みなのかッ!?」

『なにッ!?』

 組み合い、競り合いながらの問いかけ。それにサイコ・サーカスは、頬から黒いものを流しながら不快げに片眉を歪める。

「ヴォルスに憑かれたような状態で言うことを、全部が全部本音だなんて思えるかってーの!」

 叫び、突き出した拳とは逆の腕で掴みかかる。

 が、獣の爪のようなそれはサイコ・サーカスが後ろ跳びに跳んだことで空を切る。

『ただ我々が人間を良いように操っているとでもッ!?』

 跳び退きながらサイコ・サーカスは剣と固めたカードを投げつける。

「ふんぬぅ!!」

 だがグランダイナはトランプカードの弾幕へ突き出した拳から飛び込み破る。

 その勢いのまま、腰を返して逆の拳を撃ち出す。

 しかし弾幕を砕いて踏み込んだグランダイナの拳は一枚のカードをぶつけられ、相殺される。

『我らは人々が隠した本性をさらけ出しているに過ぎないわッ!』

 止められた拳に構わずにグランダイナが振るう蹴りを、サイコ・サーカスは仰け反りかわしてからバク転。

『それはこの我らとて例外ではない! 正義気取りのお前らは目を背けるだけだろうけれど!!』

 そして言葉と共にトランプカードを投げつける。

 だが散弾の如くグランダイナを襲うカードは割り込んだ炎に触れて火に巻かれて跳ね返る。

『むぐッ!?』

 跳ね返ってきた炎にとっさに顔の前に腕を盾とかざすサイコ・サーカス。

「いやぁああああッ!」

 燃えて反射したカードの弾幕にたたらを踏んだところへ、レックレスタイフーンを突き出して突撃。

『チィッ!!』

 サイコ・サーカスは竜巻纏う鈴音の突撃を腕の陰から一瞥し舌打ちを一つ。抜き放ちながら伸ばしたカードソードで風のメイスを逸らす。

 軌道を逸らされきりもみに飛んでいく風の少女。

「まだまだぁッ!!」

 その一方で梨穂が背中から氷の刃で切りかかる。

 だがサイコ・サーカスは足元に裂け目を開くとその中へ落ちて逃げ込む。

「クッ!」

 梨穂は急ぎ魔傘を翻し、閉じる裂け目へ氷刃を吐き下ろす。が、その切っ先は裂け目が閉じるのに間に合わず、物理的な裂け目を柔らかな床に作る。

 直後、その真上に裂け目が開き、落ちてきた足が帽子越しに水の少女の頭を踏む。

「ぐあッ!?」

 頭から踏みつぶされて膝を突く梨穂。辛うじて頭を持ち上げ立ち上がろうとする彼女を踏み台に、サイコ・サーカスは宙へ舞いあがる。

 跳躍から一行の頭上にカードを雨とばら撒くピエロ。

「やぁっはぁああああッ!!」

 だがグランダイナは雨と降り注ぐカードを装甲任せに受けて突進。放物線を描くサイコ・サーカスの軌道を追いかける。

 当たる端から地水火風の力に変わって弾けるトランプ。しかしグランダイナはあくまでダメージを無視。サイコ・サーカスへ向けて拳を構える。

「破壊衝動が本性全部だとか抜かすなら! ピエロメイクの仮面をまた引っぺがして聞いてやるッ!!」

 そしてピエロの着地に合わせ、叫びと共に踏み込みに乗せた拳を放つ。

 だがサイコ・サーカスは着地からスムーズに体重を移動。砲撃じみた黒い鉄拳を潜って逆スペードのバイザーに守られた鋼鉄のマスクにぶち当たる。

「がッ!?」

 完全にカウンターのかたちで入った拳に、大地の戦士がうめいて膝をぐらつかせる。

 さらにそこへすかさずに回し蹴りが直撃。鋼に覆われた二メートル超の巨体が軽々と飛ばされる。

 弾力のある柔らかな床に跳ねるグランダイナ。と、同時にサイコ・サーカスは指を鳴らす。その音色が響き渡るのに続いて、ばら撒かれたトランプが爆発する。

「きゃぁああああああああッ!?」

『うぅあああああああああッ!?』

 連なる爆発。それに悲鳴を重ねて巻かれる四組八対の契約者たち。

 そして爆発が生んだ光と振動が静まると、そこには体から煙を上げて倒れた戦士たちの姿が。

『ならやって見せればいい。口だけでは無くね』

 冷たくそう言い放って、サイコ・サーカスは粘液の溢れた頬を指先で一撫で。その指先を「J」の字で飾られた左とは逆、右目に爪痕の様な三本筋を塗りつける。

今回もありがとうございました。

どうぞ完結までお付き合いください。

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