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突撃、突入

「……ってーわぁけだけど、みんなーオッケー?」

 グランダイナはアムルクシオン甲板の下で事情を聞いていたであろう仲間たちに声をかける。

『悠ちゃんが行くなら私ももちろん!』

『その通りだよぉ! あたいも命懸けで戦うよぉ!!』

『こんなスリリングなのから閉め出しなんて無しだよ!』

『そんな水臭いこと、ふざけんなって話だよな』

『私たちがやらなきゃ、いったい他の誰がやるっていうのかしら?』

『ああ。俺たちでやるんだ!』

 それに対する仲間たちの勇ましい返事。少女とひとりひとりそれぞれに契約で繋がった竜たちも加わったそれに、グランダイナは深くうなづく。

 だが闘志を揮わせる少女や子竜たちに対し、いおりは沈痛な面持ちでうつむいたまま歯噛みする。

「せっかくこうして……また戦うことが出来るようになったと言うのに、私には結局……教え子たちをみすみす危機にさらすことしか出来ないと言うの……ッ!!」

 悔しさを滲ませた、半ば呻くような呟き。

 子どもを、それも教え子を戦わせている自身の不甲斐無さへの憤りは左手の鉤爪をその肌に食い込ませる。

 穴開き裂けた皮膚から滲み出る血。

 赤い珠を作ったそれが大きく膨らみ、白い頬を伝って垂れる。

 自傷に至るまでに己を責めるいおり。そのマントに覆われた肩に、白銀の装甲を持つ手が乗る。

 それにいおりは顔を手放し振り向いて、バイザー奥に輝くウィンダイナの目を見つめる。

「裕香……」

「ここで、悠華ちゃんたちに任せなきゃいけないのは私も悔しい。でも、力になれない事は無い。そうでしょう?」

 言いながら双眸に柔らかな光を灯すウィンダイナ。

 その言葉にいおりは色違いの目をゆっくりと瞬かせると、表情を引き締めて首を縦に振る。

「……それもそうね。私としたことが悔しさに曇ってやるべきことから目を逸らしていたわ」

 そして強い輝きを取り戻したオッドアイを十二岐大蛇に襲われた町へと向ける。

「せめてあの門までみんなのを無事送り届けること、そして、帰ってくる場所を守ること……これ以上この町を傷つけさせて堪るものかッ!!」

 頭を切り替えたその様子に深くうなづくウィンダイナ。

 いおりはそんな友へうなづき返すと、グランダイナとそれ以外の教え子を乗せたアムルクシオンへ目をやる。

「この場は私たちが引き受けるッ! だから、あなた達は自分に出来ることを精一杯やってきなさいッ!!」

 恐ろしい戦地へ向かう教え子へ向けた力強い激励。

 黙ってそれを聞くグランダイナらを前にして、いおりは振り返りながらマントを掴んで身に絡め、ザータン・フォイアーを持ち直す。

「……そして、必ず……生きて帰ってきなさいッ!!」

 そして投げるようにして言ったその言葉を引き金に、いおりは後ろ髪引く未練を振り切るようにしてアムルクシオンから飛び立つ。

 広げたマントと炎を竜の翼のようにして広げ、暗い空へ舞ういおり。

 空を焼く炎の翼から放たれる赤と黒の火。それは暗黒を切り裂いて心命船を取り囲む蛇の首に次々とぶつかり爆ぜる。

「このアムルクシオンなら突入にも必ず耐えられる。必ず道は切り開くから」

 そう言ってウィンダイナは銀の装甲に包まれた拳を突き出す。

「うっす。頼りにしてまっせ」

 自身へ向けられた拳骨を受けて、グランダイナもまた己の拳を向けられた拳へぶつけるようにして押し当てる。

 銀と黒。堅い音を立てて重なる鉄拳二つ。

 そしていおりを追いかけて跳躍するウィンダイナに対し、グランダイナはまるで落とし穴にでも落ちるように心命船の内へ吸い込まれる。

 アムルクシオンの床へ膝立ちに降り立つ黒い鋼鉄のヒーロー。

 続いて塞がる天井。そして同時に強靭な巨体は乾いた砂のように崩れて散る。

「ふぅいー……いやぁ飛び降りたときはどーなるかと思ったぜよぉ」

 風化するように消える鎧の残骸。その中から悠華が癒しの力に満たされた空間で背筋を伸ばす。

「悠ちゃん、テラくんも無茶して……でも、無事で良かった」

『ホントに心配したよぉ兄様ぁ!』

「ゴーメンゴメン。ま、センセ達もいるし何とかしてくれるとは思ってたーんよ? グランダイナになりそこなっても受け止めてもらえるとか」

 寄ってくる瑞希とフラムの火組に悠華は軽い調子で詫びる。

 反省を見せない友の様子に、瑞希は苦笑交じりにため息を溢す。

 その背後。アムルクシオン外の様子を見せる正面モニター。そこでは輝く風を纏ったウィンダイナが後ろ回りに前方宙返りしてからの飛び込み蹴りを大蛇頭の一つに叩き込んでいる様が映る。

『トゥアァアアッ!!』

 画面越しに伝わってくる鋭い気合。

 頭だけで自分の数十倍もある相手を一蹴りで押し返したウィンダイナは、蹴りいれた足を曲げてジャンプ。大蛇おろちの頭に灯った第三の鬼火目の側へと降り立つ。

『ライフゲイルッ!!』

 そして己が杖の名を叫ぶや否や、その光刃を鬼火の漏れ出る裂け目の縁へ突き立て、柄をしっかと握った上で天空の付根へ向けて蛇の背を駆け上り出す。

『ギ、ギシャアアアアアアアッ!?』

 先に頭からその首を大きく消し飛ばして見せた光と風の浄化エネルギー。

 そんなモノを流しこまれ続けた上に、心命力を注ぎ込む傷口を引き裂き広げてられては大蛇の首も堪らず声を上げて悶える。

 だが右へ左へと悶え振り回されるその上を、ウィンダイナはちょっとした坂道程度の感覚で魔法陣を刻み残しながら昇っていく。

「うわぁーお、さっすが先輩、すっげぇの」

「あんな風に動けたらきっと気持ちいいよね」

 画面向こうでのウィンダイナの活躍。それを眺める悠華に続いて、操縦席近くで身を乗り出した鈴音が感嘆の声を上げる。

 苦悶に暴れるまま、別の首にぶつかる大蛇首。だがウィンダイナは素早く光刃を引き抜いて跳躍。衝突前に別の首に跳び渡る。

 そんな一連の動きを一挙手一投足見逃すまいと、鈴音は憧憬に輝いた目を注ぐ。

「いいなぁ……私もああやって」

 そうして鈴音は、脳裏へ刻み付けようするように魔装烈風の動きを追いかける。

 鈴音の顎を持ち上げてたどる動きのまま、天へ翔るウィンダイナ。

 それと並ぶ形で、火翼を広げた魔女が宙を駆け寄る。

 その杖からほとばしった火炎流は、牙を剥いて降ってくる蛇の頭を真っ向から迎撃。瞬く間に焼き払う。

『ウンベゾンネン・グリューヴュルムヒェンッ!!』

 同時にいおりは翼のようなマントを翻し、ファイアミサイルを下方に向けて発射。

 闇の中を蛍が舞い降りるように火光の尾を引きながら、しかしそれとは比べ物にならぬ獰猛なまでの破壊をアムルクシオンへ迫っていた蛇頭にもたらす。

『シャギャァアアァォオオオオオオンンッ!?』

 連なり轟く爆発。それすらも押し退けるような苦痛の絶叫が心命船の外装すら貫いてびりびりと少女と竜たちの皮膚を叩く。

「いいんちょッ!」

 痺れるような振動。それに悠華は座席を支えにしながらも画面の中で誘うように杖を振るう炎の魔女を確認。操縦席へ叫ぶ。

「言われなくてもッ!!」

 が、梨穂はそれを受けるかそれよりも早くアムルクシオンを操作。いおりの炎が開いた道へ向けて竜の頭を模した船を上昇させる。

「全員席に座って体を固定! 出来なきゃ何かにしっかり掴まって歯を食いしばるッ!!」

 進むべき道を描くように火の粉舞う中、天空の洞へ向けて加速するアムルクシオン。

 重力を振り切ろうとするロケットさながらの加速と重圧。

 それを梨穂の警告を受けた悠華たちは、それぞれ手近な座席にしがみついて耐える。

 声にならぬうめきが噛み合わせた歯の隙間から上がる一方、船体の外を映すモニターにはアムルクシオンと並走する形で飛翔するいおりの姿が。

 変身していないとはいえ竜とその契約者が懸命に堪える中、いおりは魔女に変わった身一つで涼しい顔をして追従。加えて迎撃に向かってくる大蛇の首たちを炎で焼き払いまでしてみせる。

「まったく……敵わないわよね」

 師の戦い振りに舌を巻きながら、梨穂は降ってくる燃え残りや切り身の下からアムルクシオンのボディを右へ、左へと振り回して逃がす。

「き、気持ち悪いぃ……」

「い、いいんちょ、もーちっとソフトにできなーい?」

「先生レベルを注文されても困るわ! 今の私じゃ直撃を避けるので精一杯よッ!」

 目の回りそうな機動に鈴音が根を上げ、悠華が急機動を抑えるように願う。が、梨穂は正面に集中したまま手一杯だと叫び返す。

「シンジテルヨイインチョー、デキルデキルーガンバレガンバレー」

「そんな嘘くさい励ましで和むものかぁッ!! というか余裕十分でしょうが! いいから気が散る、舌噛む、黙るッ!!」

 対する悠華のわざとらしい棒読みでの励まし。それを梨穂は一蹴、正面から迫る火だるまの大蛇をかわす。

 だが炎上した巨大な蛇の頭とすれ違った瞬間、燃え行くそれから異形の影が飛び出す。

「なッ!?」

 それは組み合って手の様な形を成したヴォルス・デーモン。肢を広げた蜘蛛のようになって正面を塞ぐ悪魔の塊に梨穂はとっさにアムルクシオンの舵を切る。

 が、反応の速度の問題を越えたタイミングでの出現は、回避を許してはくれない。

 そして機体の鼻先に展開したバリアと接触。

 しかし弾き返すことはかなわず、悪魔の群れが作る掌はそのまま正面に張りつく。

「ウ、クゥッ!?」

 視界を塞ぐ敵と、大きく速度を落とすアムルクシオン。梨穂はモニターを埋め尽くす敵を睨みながら、水晶球型の舵を押し込んでアクセルを入れる。

 だが張り付いた敵はまるで離れる様子もなく、障壁を齧り削るように歯を激しく噛み鳴らす。

『キィイイアアアッ!!』

 そうして心命船の上昇を妨害するヴォルスを、鋭い気を放ったウィンダイナげ蹴り飛ばす。

 爆ぜるように飛び散る悪魔と突き抜ける風。その直後、アムルクシオンはブレーキから解き放たれたかのように再加速。その直後、斜め下から迫っていた混沌の破壊光線が機体の尻を遠火に炙る。

 そうして再び上昇を始めたアムルクシオンのモニターの隅では、ウィンダイナが蛇の胴を踏み渡りながら付いてきている姿が確認できる。

 頼もしい風と炎、そして時折閃く雷に守られて四対の契約者たちを乗せたアムルクシオンはさらに高くへ。

 噛みつこうと迫る蛇の首。それをアムルクシオンは一つ、二つと跳ねるようにして回避。そしてその直後、挟み込むようにして大口と混沌の光が迫る。

 しかし大口は風の刃が、カオスブレスは黒の炎がそれぞれに迎え撃って機体には僅かにも触れることを許さない。

 そしていよいよ、暗黒の門が一行の目前にまで迫る。

 だがしかし、敵の本拠地へ続くそのゲートを内から出てきた黒い顔が塞ぐ。

 十二の首と同じく鬼火を灯した三ツ目。

 鷲の嘴の様な鼻の下には、目尻を越えて裂けた口が乱杭歯を覗かせている。

『いおり! あれを使うッ!!』

『応ッ!!』

 十二岐大蛇の腹にある怪物の顔。それを見上げて、ウィンダイナといおりは声を交わす。

 応答から間髪入れず二人は杖を重ねて一閃。黒い炎の塊と光輝く風を放つ。

 空を駆け上ったそれらは、こちらを見下ろす怪物の鼻先に当たって散る。

 八つに別れた黒い火は十二岐大蛇の胴体を囲むように天に灯る。そして輝く風はさらにその外側に輪を作るようにして流れる。

『渦巻け!』

『爆ぜよ!』

 そして杖と言葉を交差。

 瞬間、八つの炎は黒い火柱となって伸び、風の流れは勢いを増して炎を蛇の胴体もろともに包みこむ。

 墨色の炎の中に光を煌めかせた、しかし星空にも似て美しいそれは大蛇の首十二を胴体と寸断。門を塞いだ顔を炎の嵐の内に封じ込める。

 その一方でウィンダイナといおりは赤を内、緑を外とした光の魔法陣を足場に光刃と杖を絡めて、天へ突き上げる。

『はぁあああああああああああああああッ!!』

 そして重なり合った猛々しい声と共に、輝く風を帯びた黒い炎が天に渦巻く火炎嵐ファイアストームを貫く。

『暗き炎よ……闇にありて恐れを焦がせ。絶望を焼き尽くせ……』

『輝く風よ……流れろ、思いのままに。希望へ続く道を開け……』

 爆音を上げて結界を打ち抜く、光る風に砥がれた闇の炎。

 それは二人の詠唱に伴って勢いを増し、結界の中で激しく吹き荒れる。

『希望の風に舞えぇええッ!!』

『絶望を焼く炎を運べぇええッ!!』

 そして強い声で放った言霊を乗せるように炎嵐の刃が太く膨張。それを受ける結界も内圧に負けて大きく膨れ上がり爆発する。

 飛び散る光る風に包まれた黒炎。

 その後には闇であることは変わらず、しかし禍々しさの無い清らかな黒がぽっかりと口を開けている。

「うっへぇえ……」

 塞がれていた道をこじ開けた合体技。

 その威力の凄まじさに、アムルクシオンの中では目を見開いた一同が呆然とした息を溢すばかり。

『今よッ!!』

『頼んだわッ!!』

 そこへ響く道を切り拓いてくれたウィンダイナといおり二人の声。

「は、はいッ!!」

 それに正気を取り戻した梨穂は緩み掛けていた舵を押し込む。

 正面で口を開けて待ち構える暗黒洞。

 白銀のヒーローと黒い魔女が見送る中、竜の頭を模したアムルクシオンは真っ直ぐに天空の門の中へ飛び込む。

今回もありがとうございました。

明日もどうぞよろしくお願いします。

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