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魔法少女ダイナミックゆうかG  作者: 尉ヶ峰タスク
ガール・ミーツ・ファンタジア
9/100

新たな絆……と、近況報告

 夕焼けに染まるくろがね山端の町並み。

 大きな公園わきの道をメガネの少女、瑞希が歩いている。

 今の彼女の服装は山端中の校章を持つセーラー服ではない。

 膝を隠す桜色のスカート。そして胸元の盛り上がった白のブラウス。

 そうした落ち着いた私服に身を包んだ瑞希は、本屋の買い物袋を抱えて道を歩く。

「やっぱり悠ちゃんと一緒に来た方が良かったかな」

 空いた隣の空間を眺め、一人呟く瑞希。だが、普段はそこで何時もおどけおちゃらけている親友の姿は無い。

 その親友は放課後に校門を出たとたんに、待ち構えていた祖母の宇津峰日南子によって連行されてしまったのだ。

 瑞希はそんな猛禽に捕まったネズミめいて連れ去られた悠華の姿を思い出して、小さく笑みを溢す。

 しかしこの場に居なくても気持ちを賑やかす友の不在に、その笑みも陰ってしまう。

「悠ちゃん今週は週末忙しいみたいだし、どうしようかな……」

 そしてうつむいてため息混じりの独り言。

 積極性の薄い瑞希にとって、悠華は小学校時代から友達と呼べる唯一人の存在だった。

 大人しく人の良い瑞希は、ややもすればイジメの的にされかねない。でなくとも断りきれない頼まれ事でパンクしかねない。

 だが悠華が傍にいたことで、そこまでの事態には陥らなかった。孤立すれば即便利屋か、おもちゃにされかねなかった瑞希を、悠華は一人にはしなかった。

 だが他に特別親しく、信頼できる相手を必要としなかった分、悠華の予定が埋まるととたんに手持ちぶさたになってしまう。

「……図書館にでも行こうかな?」

 ぽつりと呟く瑞希。

 不意にその前方。公園の敷地内にある生垣が音を立てる。

「ん?」

 敷地と歩道とを区切る柵。その奥で下生えを揺らす生垣。それに瑞希は足を止めて揺れる枝葉を見つめる。

「なにかな? 犬か、猫? 怪我してたら愛さんに診てもらおうか」

 枝葉の奥に居るモノを思い浮かべ、期待半分心配半分といった顔で瑞希は近づく。

 そして柵の傍にしゃがんで、低く手を差し出す。

「おいでおいで……あ、でももしヘビとかだったりしたら……」

 呼びかけたところで、瑞希はようやく生垣に潜むのが危険なモノである可能性を思いつく。

 だが手を引き立ち上がるより早く、赤い何かが柵の隙間をすり抜け出て来る。

「ひゃんッ!?」

 手に触れたそれに、瑞希の口から思わず高い声が飛び出る。

 だが手から上がってくる柔らかな毛の触り心地に、瑞希は引きかけた体を戻す。そして、直したメガネ越しに手に乗るモノを確かめる。

「羽根の生えた……子犬?」

 瑞希の口をついて出た言葉通り、その姿は両肩から鳥の翼を生やした子犬であった。

 ただしその体毛は艶やかな赤。そして額から前に突き出す形で二本の角も生やしていたが。

「え、えっと……愛さんに診てもらって、分かる……かなぁ?」

 明らかに尋常の生き物でない羽根、角持ちの赤い犬。

 獣医師の腕や知識に関わらず、このファンタジックな生き物の正体が分かるとは思えない。

 瑞希はそんな不思議な生き物を腕に抱いて、毛並みを分けて怪我がないか探す。

「怪我は、してないみたい……けど弱ってるみたいだし、どうしよう……」

 傷は見当たらないが、弱っている理由も見つけられず、瑞希は困ったように眉を寄せて辺りを見る。

 だが近くに頼りになりそうな人は見当たらない。

「あ、悠ちゃんに相談したら……」

 スマートフォンを求めて瑞希はポーチを探る。

『お、お腹減ったよぉ……』

「ひゃッ!? しゃ、喋った!?」

 不意に奇妙な生き物の口から飛び出た人の言葉。それに瑞希は驚き、手荷物もろとも取り落としかける。

 しかしお手玉しながらもどうにか何も落とさずに堪えると、赤羽根犬はようやく目を開けて、瑞希を見る。

『あんたは……!?』

 そこで赤い子犬は目を見開き、瑞希の顔をまじまじと見る。

 そして霞を食むように顎を空動かししてから瑞希の顔から目を放さずに頷く。

『助かったぁ……兄様あにさまを見つける前に飢え死にするかと思ったよぉ……』

「え、えと、何か食べる? 今ちょっと持ってないけど、家に帰れば何か……」

 安堵の息を吐き、一人頷く赤いの。それに瑞希は戸惑いながらも問いかける。

 だが赤いのは首を横に振って、それを断る。

『食べ物はいいよぉ、ありがとう。もうあったかい優しさから出たものをもらったから。でも、もしよかったら……あたいに力を貸してほしい。兄様を取り返したいんだよぉ』


※ ※ ※


「はあぁ……せっかくの日曜だってのに何だっていおりちゃんのトコまで行かなきゃならんのかねぇ……」

 昼前の日差しが盛んな中。後ろ頭に手を組んだ悠華がアパートの廊下を歩み進む。

 日曜と言うことで、その服装は上がオレンジのラインが入った黒のジャージ、下はスパッツに裾の広いハーフパンツと活動的な私服となっている。

『いやいや。アドバイスとかいろいろ聞きたいって言ってたのは悠華の方じゃないか。それを言うならいおりさんだって時間割いてくれてるんだしさ……』

「はぁいはいはい……じょぉーだんが通じないよねぇ、テラやんはさーあ」

 指輪越しに始まりかけた小言。それに悠華は組んだ手を解くと、うんざりだと言わんばかりに肩をすくめる。

 そして「315・大室」と表札の掛った部屋の前で立ち止まり、呼び鈴を押す。

「いおりちゃぁん、どもッス。宇津峰悠華ッスよぉ」

 呼び鈴越しに中へ呼びかける悠華。

 するとわずかな間を置いてドアが開く。

「だから、いおりちゃんはやめてって言ってるでしょ」

 開いたドアからの苦笑混じりの顔と声。

 ドアの隙間からのぞくのは、黒いタートルネックにジーンズ姿のいおりであった。

「ゴメンゴメン。いおりちゃんセンセ」

 眉を寄せる私服姿の師に対して、軽々と朗らかに悠華が返す。

 それにいおりは困り笑いを深めて小さく息を吐く。

「……いらっしゃい。上がって」

「お邪魔ムシ……もといお邪魔するッス」

 呆れ諦めたように招くいおり。それに従って、悠華はドアを潜って部屋に入る。

「おいで、テラやん」

 そして履き馴れたスニーカーを脱ぎ揃えて、相方を召喚。

 悠華の指輪から飛び出したテラは、いおりへ向けて深々と頭を垂れる。

『こんにちわ。いおりさん』

「うんテラくんもいらっしゃい。さ、奥にどうぞ」

 挨拶を済ませて、いおりに促されるままダイニングキッチンに通される悠華とテラ。

 案内された部屋は、正面奥にテレビ。その手前に四人掛けのテーブルを配置した、機能を圧縮したよくある空間であった。

「今お茶を淹れるから。座って待ってて」

 椅子の一つに腰かけた悠華とその膝に座ったテラ。その来客を横目に、いおりはお茶の準備を始める。

『ああ、お構いなく』

「お茶菓子も出るんスか?」

 悠華の口から飛び出した建前も礼法もまるで無い言葉に、テラがその膝の上から転げ落ちそうになる。

「おっと、気ぃを付けなよテラやん」

『悠華さあ……いくらなんでもそれはどうなの? 親しいとはいえ先生相手にさあ……』

 落ちかけた相棒をを支える悠華。テラはその腕と膝の中で呆れを前面に呟く。

 だが悠華はそれに対し、口の両端をにまりと吊り上げサムズアップ。

「ダイジョブダイジョブ。こんな口きくのはいおりちゃん先生だけだから」

「……これは、親しまれてると喜べばいいのかしら? それとも軽く見られてると嘆けばいいのかしら?」

 悠華のこの一言には、手慣れた様子でお茶を支度するいおりも苦笑を深める。

「やっははは、もちろん親しみオンリーに決まってるじゃないッスか」

「そう言うことにしておきましょうか」

 調子のいい悠華。それにいおりは苦笑のままため息をひとつ。急須と湯呑、茶菓子のおはぎを乗せた盆を手にテーブルに着く。

「おはぎイエス! O・H・A・G・Iイエス!」

 お茶と合わせて出されたおはぎに、悠華は異様に高いテンションでガッツポーズ。

「いーいただきまぁっす」

 はしゃいだ勢いそのままに、餡子で包まれた餅菓子を飛びつくように掴み一頬張り。

 そして口に含んだそれに目を見開き、次いで大きく開いたまなこをとろけさせる。

「ほふぅ……こりゃ堪らんですなぁ。甘味が強すぎず弱すぎず……絶妙のバランスですばい」

 口中に広がる甘味に、悠華はとろけた息を吐いては締りの無い顔で二口三口と繰り返し齧り付く。

 口に含んだおはぎをじっくりと楽しんでから、悠華は湯気の立つお茶を一口。

 先に含んだ甘味で際立つ、温かな翡翠色の茶の旨味。

 それに悠華は再び満足な息を吐いて、湯呑を置く。

「いやぁ美味しゅうゴザイマスゥ……」

 さらにとろけた吐息を重ねる悠華。

 そしてまたおはぎを一齧り。お茶でリセットして鮮度の上がった甘味を咀嚼しながら、振る舞われた餅菓子に目をやる。

「それにしてもコレ、フツーに売ってるのじゃ無いッスよね?」

「そうね、一応私の手製だから」

「手製って……手作りってことッスか!? すっげ!」

 柔らかに目を細めながら言ういおりに、悠華は手の中のおはぎと目の前の恩師を見比べる。

幻想種パンタシアのテラくんも来るから、市販品じゃダメだろうと思ってちょっと張り切っちゃったけど、宇津峰さんの口に合ったみたいで良かったわ」

『お、オイラの為に?』

 笑みを深めるいおりの言葉に、テラは悠華の膝で声を上げる。

「幻想種にとって気持ちのこもったものは、良かれ悪しかれ強い影響を持つものだからね。テラくんも遠慮なくお食べ?」

『は、はい』

 促すいおりの言葉に従って、悠華の前に出されたもう一皿のおはぎに食いつくテラ。

 悠華はそんな相棒を見下ろして、それから関心の目をいおりへ向ける。

「やっぱ一緒に戦った経験者だけあって、詳しいッスねいおりちゃん先生」

「まあね。それにしても懐かしい話……もう十年前になるのね。ねえアムとルクスはが今どうしてるか、詳しく聞かせて?」

 いおりは教え子の視線に頷き答えて、その膝のテラへ目を向ける。

 するとテラは菓子から口を離して、口周りについた餡子を舐めとる。

『あ、はい。母も父も体を幻想界の基礎に変えてからは、少しずつ混沌を世界に固めて、平行して物質界との境界を保ってます。自由になる体は無いですけど、オイラたちには念話で色々話をしてくれてます』

「そう。話せるくらいの自由はあるのね」

 テラからかつてのパートナーの有り様を聴いて、いおりは小さく息を吐く。

 その顔は安堵に満ちて柔らかに和んだ笑みに緩む。

「しかしアムが母親ね……立場上いい母親とは行かないだろうけど、どう?」

 テーブルに軽く身を乗り出して、いおりが重ねて訊ねる。

 楽しげな笑みと、気持ち弾んだ調子の声。

 それにテラは首を横に振り応える。

『体の在り方からの不自由とかは確かにありますけど、オイラたち兄弟の中に両親を嫌ってるのはいませんよ』

「なら上手くやれてるのね」

 再び息を吐き、いおりは椅子に背を預ける。

「やっぱりテラやんの兄弟の誰かに、先生か、もう一人に契約してもらってさ……アタシは補欠に控えてた方がいい気がするんスけど? オカンとオトンが契約者なら相性いいんじゃないッスか?」

 そこでお茶を一口すすって、悠華が一言挟み入れる。

 それにいおりは慎ましい胸の前で腕を組み、眉根を寄せて首を横に振る。

「……難しいと思うわ。今でも意識的に体力を気力でカバーするくらいは出来るし、幻想界では弱体化していたとはいえ炎の魔法を撃てた……つまり……」

『母さんといおりさんの契約は消滅していたわけじゃなく、多少歪んでてもまだ生きてる。オイラたちとの契約は一対一、重複はできない。それに……』

「……仮にいくらか誤魔化せても、今の宇津峰さん以上の力を発揮できるとは思えないわ」

 テラと言葉を継ぎ合ってのいおりの説明。

 そうしていおりは目を伏せ、悔しげに下唇を噛む。

 だが悠華はそんな師を前に後ろ頭に手を組み、長い鼻息を伸ばす。

「やっぱアタシが踏んヴぁるしかないのねぇ……」

 だらけ声を溢れさせて、悠華は首をひねる。

 わざとらしく、見せびらかすような落胆。

 それにいおりは沈んだ顔を軽く緩ませる。

「ごめんなさい。期待に添えなくて」

「いいんスよぉ。楽出来るなら出来たらいいなぁって言ってみただけなんスからぁ」

 教え子の命懸けの戦いを肩代わりできない事。

 それをすまなそうに詫びるいおりに対し、悠華はあくまでだらけ調子で返す。

『まったく悠華は……まったくもう……』

 呆れのままに苦笑するテラ。悠華はそのたてがみに指を滑らせて口の端を持ち上げる。

 張り詰めかけた空気が緩くたるんだところで、悠華は改めていおりへ目を向ける。

「そう言えば、先生の友達のユウカさんってどんな人で、どこにいるんスか? その人からもアドバイス聞きたいなって思うんスけど」

 その悠華の問いに、いおりは小さく笑みをこぼしてテレビ類のリモコンを手に取る。

「そうね……すぐに会って話すことは無理だけれど、見てみる?」

「はえ?」

 いおりの言葉の意味に察しがつかず、呆けた声を出す悠華。

 それをよそに、いおりはテレビの電源をオン。次いでレコーダーの電源を入れ、次々と映像再生の操作を進めていく。

《さあ来るがよい封魔戦士たちッ! この魔剣将エリー・ゴースが相手だッ!!》

「へ?」

 やがてテレビに映し出されたのは、長い黒髪をポニーテールにまとめた女剣士。

 際どいレオタードの上に纏う黒い防具。

 直刃の長剣を構えるその姿は、敵役らしい装飾に飾られながらも堂々と凛々しい。

 そしてその胸には豊かな実りが、これでもかと己を主張していた。

「……彼女が吹上裕香。十年前に宇津峰さんの鎧の原型、魔装烈風ウィンダイナを纏って戦った私の戦友。そして今は、子供向け特撮番組専門のアクション女優よ」

「はぁああッ!?」

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