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巨大な殺意

『ルゥウウォオオオオオオオオオッ!!』

 唇の無い、歯がむき出しの口を大開きにして咆える巨大な悪魔の(むくろ)

 喉に宿った鬼火を揺らすそれは、ビリビリと町を包む闇を震わせる。

「ぐッ!?」

 叩きつけるようなそれに、悠華はクレーターの中で歯を食い縛る。

 そして振り絞った力を右手に灯し、身を起こそうとする。だが咆哮に伴う圧力に負けてクレーターの底へと押し込まれる。

「う、ぐ! ぐぁ……ッ!?」

 重圧に押さえ込まれながら、苦悶にうめく悠華。

 その一方で、頭からも腕を生やした巨大悪魔は蔦柱に埋まった体を外へ出す。

 こじ開けた穴から出した右足。骨格に黒い皮膚を被せたようなそれを踏み締め、同じく骨と皮だけの腕を柱に突っ張って残る下半身を引き出そうとする。

 そうして引きだされその全体像は先に例えた通り悪魔の骸、それもミイラと言うべきものである。

 筋肉や脂肪が乾ききって萎んだ骨の透けて見えるやせぎすの巨体。

 あばら骨や眼窩など、ところどころに開いた穴から青い炎をちらつかせ、頭に備わった副腕、肩から伸びた羽根の骨組みを広げる。

『オォオオオオオオオッ!!』

 悪魔のミイラはまた一つ吠えると、へその緒のごとく柱と繋がっていた尾を全て引き出す。

 産声にも似た咆哮の中、勢い余って振るわれる尾。

 それは周囲の家々を薙ぎ払い、砂の城を崩すように町並みを削り飛ばす。

 軽々と宙を舞う二階部分や屋根。電信柱の上半分を含めた家々の破片が悠華の上に降り注ぐ。

 変身を解かれるほどのダメージ。それに加えて生身で受けた圧力に悠華は未だ立ち直るどころか這うことすら出来ずにいる。

 何を成す術もなく潰されるのを待つばかりの悠華。

 だが倒れた悠華へ降り注ぐ瓦礫との間に炎の札が割って入り防護幕を展開。火をつけて瓦礫を作った張本人へと跳ね返す。

『ルゥヴォォオオオオオオオオオオオッ!!』

 しかし巨大な悪魔は火のついた瓦礫を表皮に当たるに任せて前進。

 いくら痩せぎすとは言え、アパートを易々と見下ろすほどの巨体が軽いはずもなく、その一歩を受けた地面が大きく揺らぐ。

 そして未だ地響きの収まらぬうちに踏みだされる第二歩。

 民家を蹴散らしながらのその着地点はまさに動けぬ悠華の上。

「うおッ!?」

 だが身動きのとれぬ悠華に今度は炎の帯が巻きつき、クレーターから一本釣りに引き上げる。

 引かれるままに空を横切る悠華。しかしそこへ蹴散らされた瓦礫の雨が容赦なく襲いかかる。

「悠華ちゃん、起きてる!? ピヨってないッ!?」

「しっかりなさい! だらしないわよッ!」

 悠華へ襲いかかるモノを蹴散らす風と水。

 退げられる悠華と入れ替わりに瓦礫を迎え撃ちながら前に出た鈴音と梨穂は、地を踏もうと降りてきた巨人の足へ躍りかかる。

「悠ちゃん、大丈夫!?」

「う、うん……なんとか」

 受け止めてくれた小柄な、しかし豊かなスタイルの巫女へ頷く悠華。

 正面へ向き直ったその視線の先で、風のメイスと氷の刃が巨大な足を叩く。

 凍気を含んで拡がる風。

 ホノハナヒメの癒しと守りの炎に守られてなお吹雪のまま叩きつけてくるそれに、悠華たちは堪らず目を細めてうめく。

 辺り一面を瞬く間に雪景色へと変えるほどの凍てつく風。

 しかし直に叩き込まれたはずの巨人の足は、まるで気にした風でもなく次の一歩を踏み出した逆の足を支える。

「くッ!」

「あっはぁ、やっるう……」

 地響きが波打って押し寄せる中、梨穂と鈴音は打ち込んだ勢いを反転させて離脱。

 それから足が地を踏むよりも早く、水流と風とで制動。二人は重ねて切り返してもう一撃と飛びかかる。

 そして再びの吹雪。

 だが激しく吹きつけた雪は辺りの白をさらに分厚く塗り重ねるものの、冷気を叩き込まれた足は氷をぶつけられたほどにも感じていないように悠然とその歩みを続ける。

「う、わぁッ!?」

 巨大な質量の塊の無造作な動き。それに押し退けられる形で、吹雪を叩き込んだ二人は再び後ろ跳びに退避。

 そのままバク宙の形で身を翻し、悠華を保護したホノハナヒメの側にまで下がる。

 それを追いかける形で踏みだした巨人の足が固まった竜の戦士たちへと迫る。

「クッ! 鈍いヤツめッ!!」

 見る見ると大きさを増してくる爪先に、梨穂が吐き捨て射撃。

 そして契約者たちは一団となって飛び退く。と、同時にホノハナヒメは結界を展開。接近を阻む壁と残す。

 しかし水流弾も火炎防壁もものともせず、巨大な足はその大きな歩みを進める。

『チクショウが! 全然効かないなんてそんなのアリかッ!』

『瑞希の反射術仕込みの壁まであっさり力技で破るなんて! こんなのありえないよぉ!』

 反抗にも怯まず動じず緩まず迫る足に悲鳴じみた声を上げる水竜と火竜。

 そんな声の中、固まっていた少女と竜たちは追いついてきた足を前に三つに散開。

 傷を負った悠華と、その身を苦しみを焼く炎に包んで大きく距離を取るホノハナヒメ。

 その一方で鈴音とウェントの風組は逆に巨大悪魔へ接近。その膝にとりついて腿へ、腰へと駆け上げる。

「すずっぺッ!?」

「鈴ちゃんッ!?」

『無茶だッ』

「おぉりゃぁああああああああああッ!!」

 悠華やホノハナヒメら仲間たちの驚きの声が響く中、鈴音は光る風の軌跡を後に悪魔の巨体の上へと突撃。

「こういうデカブツ相手なら! 足元ちまちま狙うよりかぁああああ!!」

 そうして梨穂の放つ水レーザーの援護の中、鈴音は叫びのままにうろの様な腹、破れた川に包まれたあばら骨を駆け上がる。

 壁を駆け上がるその足が鎖骨へ届こうかというところで、ようやく壁の主はその意識を下へ向ける。

 かち合う目と目。

 それと同時に鈴音は一際強い風を放って跳ぶ。

「目玉狙いがお約束ぅううううッ!!」

 緑に輝く風を身に纏って、右手のレックレスタイフーンを突き上げる鈴音。

 そのまま鬼火を灯した眼窩へと吸い込まれるように飛び込む。

『ウゥッ!? グゥオォオオオオオオオッ?!』

 目玉と宿った鬼火。それを眼窩の内からかき回す暴風に、巨大悪魔は出現して初めての苦悶の叫びを上げる。

『グゥ、オッ!? ガ、ァアアアアアアアアッ!!』

 頭を振り回して悶える悪魔のミイラ。

 ヒトと蚊、あるいはそれ以上に開いたサイズ比の相手の攻撃に、巨体はその手足や尾をメチャクチャに暴れさせる。

「う、おわッ」

「悠ちゃんゴメン! 避けるので精一杯で!」

 苦痛に荒れ狂い、激しい地響きと共に振り回される巨大な手足。ホノハナヒメはそれを悠華を抱えて必死にかい潜り続ける。

「暴れ回るほど苦しいのなら、目薬でも点して上げようかしら!」

 対して梨穂は威勢良く叫んだものの、でたらめに振るわれた腕にぶつかり巻きこまれ、飛沫が上がる。

「永淵さん」!?」

「いや、取りつけてる! いけるっしょ!」

 目を剥き声を上げるホノハナヒメ。だが悠華が言うとおり、ミイラの腕に打たれたかに見えた梨穂は、水飛沫を伴って滑りだす。

 そのまま下から上へと、尋常でない流れを描く水に乗って悪魔の頭へ。

 そして遡った勢いに乗せて肩から飛魚のように飛び上がる。

 飛沫を尾と引いて飛ぶ水の魔法少女。その手が構えた傘杖の先端は、角のように生えた腕が庇う眼を狙う。

「今よッ!」

 そして枯れ木のような、しかし列車ほどに太いその腕がずれた刹那、僅かに覗いた鬼火へ向けてレーザーの如き水流が注ぎ込まれる。

『ウッグ!? ルゥオオオオオオオオオオオオッ!?』

 直に飛び込んだ鈴音に続いて、入り込んだのとは逆の目へ猛烈なまでの勢いで注がれる水流。それには巨大悪魔も堪らず、苦悶の叫びのボリュームが一段と上がる。

 そして苦悶の叫びに比例して激しくなった身悶えに、鈴音が眼窩から振り落とされる。

「ひやッ?!」

「きゃんッ!?」

 狙ってか狙わずか、鬼火の目から飛び出した鈴音は梨穂と衝突。

 もう一発と狙っていた水流砲の狙いはねじ曲げられ、黒く乾いた皮膚に弾けて散る。

 そうして二人と二匹で絡まりながらも風を振り回して空中制動。コートの裾や長いリボンを絡め合いながらも闇色の空に踏みとどまる。

『おいウェント! もっと早くに制動補助しないかッ!』

『やる前にぶつかってお互いそれドコじゃなかっただろ!?』

 絡まり合った契約者の衣装の中から荒い口をぶつけ合う兄弟。

「ちょっと! 前見て前ッ!!」

 そこへ悠華の投げかけた警鐘。

 それにマーレとウェントがそれぞれの契約者ともどもに悪魔のミイラに目をやれば、揺らめく一対の鬼火とぶつかる。

『ウルゥオォオオオオオオッ!!』

 鬼火を猛々しく燃え上がらせての咆哮。

 その声を帯びた風を受けて、梨穂と鈴音は声を上げる間もなく吹き飛ばされる。

 続いて蔦柱から剥がれ出たヴォルスたちが、巨大悪魔へ吸い寄せられるように移動を始める。

 乾いた黒い肌に触れた端から、砂に水を注いだように消えるヴォルスたち。

 それが幾度も繰り返されると、やがてやせぎすな巨大悪魔の肉体が膨らみ始める。

 水に浸した乾物が戻るように一回り、二回りと巨大な悪魔は同胞を取り込み膨らんでいく。

「このまま膨らますものか!」

 むくむくと質量を増していく巨体。拡がる血流によって皮膚の蠢いているその顔を目掛けて、梨穂は突き出したウェパルから水流を放つ。

 しかしこれ以上強化などさせまいと放った狙撃は、太さを増した角腕に阻まれて鬼火の目には届かない。

『ルゥグゥウオォオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 頭に生やした腕を上げると同時の咆哮。

 皮膚に張りと、その下の筋肉にも力を満たして膨らんだ悪魔の顔。そこから放たれた怒涛の如き音の勢いは先の比ではない。

「うぉわぁッ?!」

「ひゃぁあんッ!?」

 闇を震わせ伝い来る振動の津波に、竜の契約者たちは堪らずに押し流される。

 地面へ叩きつけられる悠華とホノハナヒメたち土火の二組。

 水組は壁、風組は屋根と、他二組の契約者も場所が違うだけで似たり寄ったりの状況に陥る。

 場所は違えど押し流されて叩きつけられた竜の戦士たちは、揃って暴力的な咆哮を放った者へ向けて顔を上げる。

 八対十六個の目を集めるその巨体は、完全に枯れ木のようであった肉体に瑞々しい力を満たしていた。

 低く唸りながら背中の羽根を広げる巨悪魔。

 骨組みを皮で包んだだけであったその羽根も、今は分厚い皮膜が骨組みの間に張られていた。

 その蝙蝠に似た翼を大きく上下。旅客機まるごと一機よりもなお広く大きな翼が生み出した風に、竜の戦士たちは目を庇う。

「みずきっちゃん! アタシらを、アタシとテラやんをアイツに向けて投げてッ!」

 繰り返し叩きつけてくる羽ばたき風。それを堪えながら、悠華は傍らの巫女へ叫ぶ。

「でも悠ちゃんそんなことをしたら!」

『そ、そうだよぉ!』

 身を包む癒しの炎。その中からの悠華の提案に、ホノハナヒメは相棒と揃って難色を示す。

 未だ悠華の傷は癒え切っておらず、明らかに戦線復帰には早すぎる。そんな状態で突撃するなどと言いだされては、ホノハナヒメも親友として易々とうなづけるはずもない。

 だがその逡巡の合間にも上下する翼はその勢いを増し、吹き下ろす風もさらに強く叩きつけるようになる。

「ダイジョブだって! 頼むよみずきっちゃんッ!」

『ああ! オイラたちを信じてくれッ!』

 しかし悠華は圧力を増す風の中、テラと一緒に重ねて炎組に願う。

 契約の法具そのものである眼鏡を貫く瞳と願い。そして力強く叩きつけてくる風にホノハナヒメは下唇を噛む。

「……分かったッ!」

 躊躇いを振り切るように炎の巫女は声を上げ、眼鏡を輝かせながら体を翻す。

「いっけぇええええええええええッ!!」

『お願いよぉおおおおおおおッ!!』

 ホノハナヒメとフラムは声を重ね、悠華を包んだ炎の帯を振り回して伸ばす。

 遠心力も加えた勢いで発射される悠華の体。

 叩きつけてくる風を真っ向から叩き割りながら、悠華は固めた右拳を左手に叩きつける。

「いっくぜよテラやんッ!」

『おおッ!』

 手の間に輝きを灯した悠華は共に飛翔する相棒とうなづき合い、手の間に輝く力で円を描く。

 輝く力で身を包み、再びグランダイナとして現れる大地の契約者。

 姿を変じた力の残滓を後に散らして、風に抑えられて弱まった勢いを取り戻す。

 逆風をものともせず、猛然と宙を走るグランダイナ。

 だがその逆風の発生点である巨大悪魔は、まるで意に介した様子もなく悠然とその羽ばたきを強める。

「その余裕をッ!」

『ぶっ壊してやるッ!!』

 いざ飛び立とうと屈伸した巨体を睨みながら、グランダイナとテラは気合の声を張り上げる。

 逆風を押し返すような声に合わせ、光の塊となったテラがグランダイナの体に重なる。

 一体化。そしてたてがみ状に展開するクリアバイザー。

「イィイヤッハァアアアアアアアアアアアアッ!!」

 今出せる全力全開の力を右の拳に漲らせ、グランダイナは突撃。

 そして今まさに飛び立とうとする巨大悪魔の顔面に、眩く輝いた拳から飛び込む。

 そこへやはりガードに割って入る腕型の角。

 だがしかし獅子のたてがみを開いたグランダイナの拳はブロックに入った角を真っ向から砕く。

 そして防御を力任せに貫いた拳はその勢いのまま悪魔の顔面、両眼の中間点へと突き刺さる。

今回もありがとうございました。

最後まで変わらずガンガン行きますよ!

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