一人外れ
「いやいや悠華ちゃん。戦うも何も、今日出てきたヴォルスはさっきので真っ二つだよ?」
梨穂への共闘を申し出たグランダイナに対し、上空の鈴音がヴォルスの落ちた辺りを指差す。
だがその直後、海面が渦巻き逆立って、鈴音を目指す。
『ヤバい! 鈴音ッ?!』
「え!?」
空へ駆け昇る水流の先端。そこには二つに分けたはずのヴォルス・クリオネが。
大口を開けて襲いかかるそれを、鈴音はとっさに羽根のようなリボンフリルらを羽ばたかせて回避。
「あっはは……スリリングゥ」
間一髪にヴォルスの顎から逃れた鈴音は、冷や汗混じりに顔を上げる。
海へ背を向けて、空を舞うクリアボディへ逆襲の構えを取る鈴音。
だがその背後で海面が渦を巻き始める。
「すずっぺ、まだッ!?」
叫び、ホノハナヒメの千早を飛び立つグランダイナ。
「きゃああッ?!」
しかし海面を割って現れた透き通った花びらにも似た大口が、半ばまで振り返った鈴音の後半身に食らいつく。
「五十嵐さんッ!?」
不意を打って現れた二体目。それに風を操るリボンを封じられ、成す術もなく海へと落ちて行く風の魔法少女。
その鈴音の危機に、急ぎ晃火之巻子から伸びる炎を手繰る。
「ヤァッハァアアアアアッ!!」
その間に、飛び出していたグランダイナが鈴音を海面へ誘う重しとなるヴォルスへ足から突き刺さる。
蹴り足に触れるや否や、柔らかく撓むクリアボディ。
ゼリーにも似たそれは、しかし打撃を押し返すどころか何の抵抗もなく崩れ飛び散る。
「んなぁあッ!?」
ヴォルス・クリオネの想像を超える無抵抗ぶりに、グランダイナは堪らずクリアバイザー奥の目を明滅。その勢いのまま、寒天状の飛沫の間を突き抜ける。
しかし鈴音へ食らいついたヴォルスの口は、半身を失いながらもその力を緩めずに風の翼を封じ続けて海面へと引きずり続ける。
そうしてすれ違い、海へと落ちて行くグランダイナと鈴音。
「……すずっぺッ!」
透き通った破片の中、グランダイナは背後を落ちる鈴音へ身をよじる。
「ゆ、悠華ちゃん……ッ!?」
だが互いに逞しい鋼の腕と華奢な腕をそれぞれ精一杯に伸ばしたものの、その指先が辛うじて掠めただけで二つの手はその体ごとブレーキを得られずに離れて行く。
「悠ちゃんッ!!」
そんなホノハナヒメの声と共に、海へと落ちて行くグランダイナへ向けて炎の帯が空を走る。
腕に巻きついた炎の帯がピンと張りつめると同時に、鈴音が鈍い音を立てて水を割る。
直後、ホノハナヒメの手元へと巻き戻されるグランダイナの巨体。
炎の巫女の助けを受けて軌道修正をしたグランダイナは、海水をつま先で蹴り弾きながら鈴音の起こした水柱へ。
「いいよぉーみずきっちゃん、切り離してッ!!」
「う、うんッ!」
そして腕を引く炎の帯が解除されるのに続いて、鋭く伸ばした腕から波紋の中心へ飛び込む。
海中に幾つも瞬く小さな明かり。
ぽつりぽつりと水に浮かぶ岩と、そこに生えた海藻。
流れに揺れるそれから生まれる光のおかげで妙に明るい水の中。
クリオネに囚われたまま深くへと沈んでいく鈴音。もがくそれを追いかけて、グランダイナは逆立ち姿勢に足を動かし潜る。
腕をかき、水をばた足に蹴って、もがき沈む友へ一直線に。
その先で鈴音へ絡み付いたクリアボディが大きさを増す。
明るいとは言え水中。しかも透明なものと言うこともあり、錯覚を疑うような変化。
しかし潜り近づいたことで、見つけた変化が幻でも見間違いでも無かったことが分かる。
鈴音に食らいついた口と、そこに繋がる肩のように見える部分。ヴォルスの体は確かにそれだけを残して弾け飛んだはず。
だが今水中で鈴音にまとわりつく半透明の塊は、人を模したその形を腰のあたりまで再生させているのだ。
瞬く間にその姿を取り戻そうとする恐るべき再生能力。
今もなお、文字通り見る見るうちに再生を続ける体は、五本の指を備えた腕と魚の尾に似た下半身を復元させる。
加速度的に進むヴォルスの再生に、グランダイナは急ぎ海水をかき分けて、友を掴もうとする腕を捕まえる。
『ゆ、悠華ちゃん……ッ!?』
『た、助けてくれぇ、ヘぇルプ……』
助けに入ったグランダイナを認め、鈴音は水中で目を白黒。
そしてパートナーと敵との間に挟まれたウェントと合わせて、助けを求める思念を絞り出す。
『もーちょいの辛抱だから、待っててぷりーず……っとぉ!』
鈴音に食いついた敵に組みついたグランダイナは、掴んだヴォルスの腕を引き千切る。
苦痛に悶えるクリオネの体を掴み直して、グランダイナは息を吸う代わりに、逆スペードのクリアバイザーに守られたアイパーツを輝かせる。
すでに千切れた腕の再構築を始めているヴォルス・クリオネ。
おぞましいまでの生命力を見せる敵から鈴音を救うべく、グランダイナは魔法少女と、食いついたクリオネとの間に鋼の指をねじ込む。
そして一気に引き剥がそうと、丹田から全身へ伸びるエネルギーラインに光を走らせる。
しかしその瞬間、奇妙な水流がグランダイナの装甲を叩く。
敵と仲間との間に手をそのままに、光り輝く目を周囲に走らせるグランダイナ。
警戒の目が明かりの浮かぶ海中を探る。
そうして水の中を走った目が、異様な揺らぎに包まれた赤い光を捉える。
その奇妙な輝きは、二つ、三つと数を増して、渦の中心を目指すようにグランダイナたちへ近づいてくる。
接近する不穏な気配。それにグランダイナはヴォルス・クリオネの引き剥がしを急ぐ。
だが黒い闘士が力を込めて腕を引いた瞬間、赤い光を宿した花弁がアーマースーツの背中へと食らいつく。
『悠華ちゃんッ!?』
また新手のヴォルス・クリオネの襲撃。それに鈴音が目を剥いて、口から泡を吐く。
今格闘している二体目どころか、さらに数を増やしたヴォルス。
恐らくは分断した破片のそれぞれが、分裂するように元の形へ再構築して数を増やしたのだろう。
『このくらい、心配いらないってッ!』
しかし心配する鈴音に対して、グランダイナは装甲を蝕まれながらも、器用にカメラアイの右だけを明滅。
思念だけでなくウィンクも合わせて無事だと主張。そして食らいついた敵に構わずに鈴音からクリオネを引き剥がしにかかる。
だがそこへ二体目、三体目とさらに足や腰へとヴォルス・クリオネが食らいつく。
しかしグランダイナはさらに食いついてきた敵を無視して、全身を発光。鈴音たち風組を捕らえたクリアボディをむしり取るようにして剥がす。
『すずっぺ!』
機動力の肝を自由にした瞬間に合わせて合図の思念をぶつける。
『う、うんッ!』
と、同時に鈴音は酸素不足で蒼くなった顔でうなづき、ウェントと力を合わせて風のバリアを展開。周囲の海水をヴォルスもろともに吹き飛ばして、水上を目指し上昇する。
「おぉーう、やっるぅすずっぺッ!」
鈴音の作った空間の中で息継ぎついでに一呼吸。
そしてヴォルス・クリオネの口から解放された体を戻ってきた海水に浸しながらドルフィンキックで鈴音を追いかける。
水面越しに閃く炎の輝き。
ホノハナヒメの戦いの軌跡を見据えて、グランダイナは敵の土俵から離れようと水をかいて加速する。
しかしあと一かきで水面へ届くと言ったところで、黒い闘士の推進力が急に重みを加えられたように、ガクンと失われる。
「むぐッ?!」
ヒロイックなマスクの奥で息を乱して、下方を確かめるグランダイナ。
その視線の先には、両足それぞれに食いついたヴォルス・クリオネの姿があった。
人間の女性を模した曲線を描く半透明のボディ。その胸の奥にある赤い核を輝かせて、グランダイナを捕らえたヴォルスは黒いヒーローを水中へと引きずり込む。
腿から脛へと走るエネルギーラインを通して、力を満たした足を振り回して食いついた敵を蹴り砕くようにして振り払う。
大振りの蹴りで砕いたことで、ヴォルスの破片は生まれた流れに乗って散る。
だがそれを後続のクリオネが大きく開いた口で取り込みながら、グランダイナに水上へ振り返る隙も持たせずに食らいつく。
振り払った端から食いついてきたそれを蹴り飛ばそうと、グランダイナは再び足を振りかぶる。
だが構えた足を振り抜くと同時に、別方向から泳いできたクリオネ人魚が頭を解いた口で黒い闘士の腕をくわえる。
グランダイナはそれも力瘤を作るように力を込めて、また吹き飛ばす。
が、しかし、またも間髪いれずにヴォルスが別方向から噛みついてくる。
振り払っても振り払っても、次から次へと間を置かずに齧りついてくる半透明の人魚もどき。
砕いた端に破片から再生して、ヴォルス・クリオネはその数を増していく。
逃げようとすればするほどに追手を増やす悪循環。
やがてそれにグランダイナの振りほどく速さは敗れて、四肢を封じこまれる。
鋼鉄に護られた腕と脚に続いて、背中、顔面とヴォルスの体当たりじみた噛みつきを受けるグランダイナ。
ヴォルスたちはかぶり付きに視界を覆い隠してさらに、再生途中のモノを駆り立て、数の限りを尽くしてグランダイナへ殺到。
そうして赤い核がいくつも輝くクリアボディが、グランダイナに身をよじる隙間も許さないほどの塊を形作る。
消化液を帯びた触手をグランダイナに絡めて、海の深くへと沈めようと泳ぐ半透明の塊。
このままでは為す術もなく、海中で消化されるのを待つばかり。
『悠華ァアッ!!』
『悠ちゃんッ!?』
だがグランダイナの脳裏に最悪の結末がよぎった瞬間。それを焼き潰すような思念が言葉となって響き渡る。
直後、ヴォルスの内にある赤をかき消すほどの濃密な紅蓮がグランダイナを包む塊へ迫る。
海水を蒸気と散らし、ヴォルス・クリオネたちから水気を奪い砕くもの。
それは果たして、炎の帯を隙間無く巻き付けて赤く染まった、巨大な錐形の石であった。
「悠ちゃんッ!?」
「み、みずきっちゃんッ?! テラやん、フラちんもッ!」
グランダイナを救った石の真後ろ。そこにぴったりと張り付いていたホノハナヒメとテラそしてフラム。
高熱を含む蒸気の中、ホノハナヒメは巨大な焼け石から炎の帯を解くと、グランダイナの手を取る。
「は、あぁあああああッ!!」
そして炎を背中から翼のように吹き出すと、海水を押し返しながら上昇。
蓋するように降ってくる海水。それを蒸発させながら突き破って、ホノハナヒメはグランダイナと共に海上へ。
そして大地と炎の二組は手を繋いだまま、ホノハナヒメが足場と浮かべていた千早へと足を降ろす。
「助かったよ。ありがとね、みんな」
堰の切れたように披露を乗せた息を吐き出して、グランダイナは助けに飛び込んで来てくれたみんなに礼を言う。
「うん、間に合って良かった」
『まったくもう、心配させてくれるよ』
『あたいも兄様と一緒にヒヤヒヤだったよぉ』
それに心からの安堵の笑みを返すホノハナヒメと、苦笑の竜兄妹。
だが気が和んだのもつかの間。すぐに土と火の二組を乗せて浮かぶ千早回りの海が渦巻き立ち上がる。
『ヤッバイよぉッ!?』
海面の異常にいち早く気づいたフラムが叫ぶ。
その上擦った警鐘の直後、赤い核を宿した透明な花が水流に乗って躍りかかる。
「ハアアッ!」
四方から迫るそれに、ホノハナヒメは金幣から帯形の炎を引き出し、自分たちを囲ませる。
円形にできた結界と正面衝突。火だるまになって跳ね返るヴォルス。
「テラやんッ!」
『行くぞぉッ!』
それをよそにグランダイナとテラの大地組は互いに声を上げて合図。
直後、結界を越えた水流に乗ったヴォルス・クリオネ三匹を、テラの石弾が迎え撃つ。
敵を迎撃し、落ちてくる巨石。それと同時に、明確に結界を越える軌道を選んだ敵が飛び込んで来る。
「翻!」
だがグランダイナは短い叫びと共に繰り出した右拳で、巨石越しにヴォルスを殴る。
パンチに砕けた石から零れ出たのは山吹色の短棒。
「土!」
己の杖の一部であるそれを掴んだグランダイナは、その場で腰を切り返し、空いた逆の腕でまたも杖のパーツを含んだ石もろともに敵を殴る。
そのまま左右それぞれに掴んだ杖の三分の一を振り上げて透き通った大輪を殴り飛ばすと、足を逆一文字に蹴り上げる。
「棒ッ!」
呼び声の締めと共に巨石を捉える蹴り足。
それに応じて割れた石から飛び出た三節の一つは、真正面からヴォルスを貫き砕く。
「みずきっちゃん、出していいよッ!」
「ええッ!」
続けてグランダイナが発進を促すと、ホノハナヒメは結界としていた炎の帯を振り回して解除。同時にグランダイナの足場である千早を操り動かす。
「いぃやっはぁッ!」
「ふぅうッ!」
人を乗せて飛ぶ不思議な巫女外套。
前方でタイミングを外れたヴォルス・クリオネは、グランダイナが太鼓を打つ要領の短棍で叩き潰す。
その一方でホノハナヒメの振り回す炎の帯が後方で狙いを失ったヴォルスを打って火をつける。
敵を薙ぎ倒しながら、海上低空を滑り飛ぶ二組。
「えぇやッ!」
飛行速度に合わせて軌道を修正してきた透明な大輪。斜め前方からのそれを、グランダイナは左右と腰の切り返しに乗せた短棍の打撃で打ち倒す。
そして落ちてきた三節目を光の鎖に繋ぎ受け止めると、身を屈めて横薙ぎの炎を潜る。
同時に低く傾けた姿勢のまま腕を振るい、オレンジの光鎖で繋がった三節棍を一閃。低くから掬い上げてくる敵を迎え撃つ。
「やっはあッ!」
「清めの火よッ!」
その勢いのままグランダイナは身を捻りつつジャンプ。ホノハナヒメが火炎帯から千切り投げた札を飛び越えつつ、高い軌道からの敵を遠心力任せに叩き薙ぐ。
そうしてグランダイナは時に火を潜り、飛び越え。
ホノハナヒメはしゃがむ、立つを繰り返して三節棍の軌道から逃れる。
二人の繰り出す長い橙と赤。それはぶつからず、絡まらず、迫りくる敵に対する鉄壁の守りとして迎撃を続ける。
そうして二人が敵を迎え撃つ中。緑色の風が敵の一群れに突っ込み吹き飛ばす。
「あっはははははッ! スカッとするぅうッ!!」
腹の底からの笑い声を響かせながら、鈴音は風を凝縮したメイスでクリアボディのヴォルスを見つけた端から叩き潰していく。
「すずっぺッ!?」
『息継ぎ終わったらもう元気だったのよぉ』
腹いせを楽しむ鈴音。すっかり元気に暴れまわるその様子にフラムが、呆れ混じりに溢してからファイアブレスを海面に放つ。
そんな暴風の吹き込みに続いて、さらに鋭い水流がいくつも水面を叩き、柱を作る。
それぞれの杖を振り回しながら、グランダイナとホノハナヒメが降り注ぐ流れを辿り顔を上げる。
「永淵委員長」
そこにいたのは、ダイヤに人魚のシルエットを入れた模様の傘を開いて構える梨穂であった。
「私が水の流れを操って敵を集める! 私が指示する通りに動いて仕留めなさいッ!」
崩れない水柱の上から、指揮担当に立候補する梨穂。
「はぁー? 何言ってんの?」
『何様のつもりだよ』
しかし梨穂の高圧的な指揮権主張に、風組は反感で顔を歪める。
そしてホノハナヒメも言葉にこそしないが、不満顔で眼鏡を整える。
「よっしゃ任せたッ! 作戦練ったりなんだりはよろしくッ!」
だがグランダイナは不満反感一色の仲間をよそに、梨穂の立候補を承認する。
「悠ちゃんッ!?」
「本気で任せる気なのッ!?」
揃って避難めいた声を上げるホノハナヒメと鈴音。
そんな二人に、グランダイナは三節棍形態の翻土棒を上へ放る。
「みんなゴメン! でもここはアタシの顔を立てると思って、ねッ!?」
そして手を打ち鳴らすと、仲間たちへ頭を下げて拝み倒しにかかる。
頭を下げるグランダイナと、水中で蠢く敵の群れ。
その二つを受けて火組と風組の契約者二人は渋々と首を縦に振る。
「……分かったわッ!」
「もう! 悠華ちゃんが言うんじゃ仕方ないなぁッ!」
差し迫った事態も合わせて、半ば捨て鉢に共闘を受け入れる二人。
「ありがとうッ! そーんな二人だから愛しちゃうよんッ!」
するとグランダイナはいつもの軽い調子で感謝を告げ、放り投げていた三節翻土棒をキャッチ。飛び込んできたヴォルスを水の中へ叩き返す。
「……とにかく行くわよッ!」
続いて水柱に立つ梨穂が開いたままの傘を一振り。合わせて海流が深くからうねり、水がヴォルス・クリオネを捕らえる袋となる。
「明松さんはこの上から炎で拘束! あとは五十嵐さんがフルパワーでまとめて叩き潰してフィニッシュよッ!」
グランダイナを排除した、梨穂による浄化までのプラン。
「……捕らえよ、炎……!」
それにホノハナヒメは渋い顔で眼鏡を直しながらも、晃火之巻子の側面から伸ばした炎の帯をヴォルスを包む海水の塊へと巻きつける。
「じゃ、いっくよぉーッ!!」
蒸気を上げて完成する炎の拘束。続いてメイスを両手に構えた鈴音が突風となって空を走る。
このまま風を固めたメイスによる一打で決着。
この場の誰もが鈴音の突撃を見てそう考える。
「悠華ちゃんパァースッ!!」
だが鈴音は、炎に包まれた塊をメイスでバッティング。グランダイナ目掛けて打ちだす。
「なぁッ!?」
思いがけぬ鈴音の行動。それに青の魔法少女と赤の巫女は大きく目を見開く。
「まさかのここでッ!?」
そして当のグランダイナもまた慌てて三角形に組んだ翻土棒を右腕に纏わせ構える。
「エェイヤッハァアアアアアッ!!」
そのまま突っ込んでくる炎の包みに向けて、杖の助けを受けた拳を突き出し迎え撃つ。
「命支える大地……豊かなるその袂に抱かれるまま身をゆだね……」
肘まで沈みこむ腕を中心に広がるオレンジの魔法陣。
それを正面に、グランダイナは浄化の言霊を詠唱。
「命の輪に、還れッ!!」
そして結びの言葉に続いて炎の包みが内圧に負けて爆散する。
爆風が水面を揺らし、少女たちの肌を叩く中、グランダイナは振ってきたヴォルスの寄り代だった少女を抱きとめる。
グランダイナが振り向くと、梨穂と視線が重なり絡む。
浄化の一部始終を見ていた梨穂の目は、苛立ちにも似たざわつきに揺らいでいた。
今回もありがとうございました。
次回は3月20日18時に更新いたします。




