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地、風、水入り乱れて

「な、あぁあああああッ!?」

『ポッポー! ポーッ!!』

 口の汽笛を鳴らしながら迫る、ピエロ顔を前面に突き出した機関車の巨体。

 横合いからの直撃コースを躊躇無く進むそれに、車両を支えるグランダイナのみならず、車両の中の仲間たちも焦りを露にする。

 見る見るうちに迫る闇色の鋼鉄。

 それと自身が支える車両とをグランダイナは見比べ、そして硬質な目に光を灯す。

「ちぃーっと荒っぽいかもだけど、掴まれぇええッ!!」

 吠えるように叫び、息を吸うグランダイナ。その全身を巡るラインから再び光を放って、漲らせた力を前へ。

 しかしその直後。グランダイナらへ向かう汽車のピエロ顔が大きく歪む。

『ぽっ……ぶうぇッ!?』

 口汽笛の形に作っていた口をひしゃげさせて濁った声を吐く汽車。

 続けてすぐさま嘔吐を堪えるように頬を膨らませる。

『ウヴォヴァアアッ!?』

 そして濁った奇声を伴い、汽車の顔面が爆ぜる。

「アハハハハハハハハハッ!?」

「ハ、アアアアアッ!!」

 弾けて崩れた顔面から飛び出したのは、緑と青の二人の魔法少女。

「アハハ! いーい歯応えーッ!」

「黙れ! どちらが上か思い知らせてやるッ!!」

 サイコ・サーカスにさらわれ、囚われていたはずの二人の無事な脱出。だがその二人はどういう訳か、互いに杖をぶつけ合っては揉み合うように宙を舞う。

 しかしその一方、青の梨穂と緑の鈴音が飛び出してきた汽車は、顔面のあった場所こそ空洞になったものの、依然として慣性のままに車輪を動かしてグランダイナたちへ突っ込んできている。

「ぃやっばあッ!?」

 思わぬ仲間の登場に固まっていたグランダイナは、動きを止めぬ機関車に危機感と力を込め直して、車両を押す。

「ドォオワァアアオオゥッ!!」

 気合を轟かせての踏み込みに押し出されて、斜面を尻から登りだす車両。

「ゆ、悠ちゃんッ!?」

 不意に揺れる車体の中、ホノハナヒメを始めとする仲間たちから驚きの声が上がる。

 車輪があり、いくらか破壊されて軽量化されているとはいえ、多くの乗員を収容可能な車体を、グランダイナはその剛力で押し上げて線路上から避難させる。

『ダメだ悠華ッ! 間に合わないッ!!』

『ぶつかるよぉッ!!』

 だがテラとフラムが叫ぶ通り、すでに間近に迫った機関車の車体から逃れるには時間が足りない。

 このままではホノハナヒメたちの乗る車両は直撃を免れても、グランダイナは闇色の巨体に身構える間も無く撥ねられるのは必至。

「ふ、んッ!!」

 しかしグランダイナは抱えた車両を体ごと押し上げながら、踏み出した足を斜面に突き入れ沈める。

「宇津峰さん!?」

「悠華さんッ!?」

 足を錨とし、自身をその場に縫いつける行為に驚きの声が上がる。

「ぬぅありゃぁああああああああああああッ!!」

 だがグランダイナは仲間たちの声に構わず、アンカーと撃ち込んだ足を支えにちゃぶ台を返すようにして仲間たちを乗せた車両を押し上げる。

「きゃぁあッ!?」

「う、クッ!?」

 瞬く間に遠ざかる悲鳴を正面に受けながら、グランダイナは爆薬の後押しを受けたかのように斜面を駆け上る車体を見据える。

 その右側面へ真っ直に突っ込む、速度を緩める術を失った汽車。

「がぎゃッ!?」

 硬質な激突音と濁った声。

 それを後にグランダイナの黒金くろがねの巨体が、錨とした足を引き抜かれて宙に舞う。

 巨大な足を動かして歩いて行く、アリの形をした山。

「あ、ぐ……」

 撥ねられた衝撃に明滅するバイザー奥の目。それで遠ざかる要塞アリを眺めながら、グランダイナは空を横切りながら呻く。

「悠華ちゃんやっほ。助けが居る感じ?」

 そこへ風を渦巻かせて水のレーザーをかわした鈴音が、飛ばされている巨体に近づいて空中を並走する。

「すずっぺ……」

 空中で軌道を切り替えることも出来ずに宙を飛ぶグランダイナは、楽しげに首を傾げて自身を窺う緑の少女の名を呟く。

 対して鈴音は飛んできた水の弾丸をかわしながら、小首を傾げて見せる。

「アタシをかっ飛ばして! すずっぺッ!!」

「はぁいなーッ!」

 グランダイナの口から飛び出したとんでもない提案。すると鈴音は口元をにんまりと持ち上げて、それに了承の声を返す。

 同時に撃ちこまれた水と氷の弾丸。それを鈴音は空中で身を捩り回避。

 そうして翼の様なリボンフリルを捩って回転軸を傾けた緑の少女は、風を頭に固めたメイスを両手にバッティングスタイルを構え、グランダイナの望み通りにそれを振り抜く。

「あは、かっきぃーんッ!!」

「おぐッ!?」

 鈴音の口が放った軽快な音とは対照的に、重い打撃音とうめき声を放つグランダイナ。

 だが黒い鋼鉄に覆われた巨体は、鋭い放物線を描いて望み通りに要塞アリへと打ち返される。

 跳ね飛ばされた勢いを超えるスピードで空を戻るグランダイナ。

 そうして歩く要塞アリにぶつかるようにして取りつく。

「あたた……ナァイスバッティン……」

 鉄板を打ちつけたアリの表皮。傾きのあるその上で、グランダイナはレックレスタイフーンに打たれたところをさすりながら、呻くように友のバッティングを称える。

 だが身を起こそうとしたその体は、つるりとした表皮に滑って斜面を下り出す。

「のぉわッ!?」

 滑り落ちる身体に、グランダイナは慌ててアリの表皮に指を立ててブレーキ。

 擦れ合う指先が火花を散らす中、黒い巨体は斜面を下へ下へと滑っていく。

 そうして滑り落ちるままに、訪れる急傾斜。

「なんとぉッ!?」

 しかしグランダイナは離れかけた指をしっかとアリの外骨格へ食い込ませ、放り出されるのを免れる。

「ふぃー……」

 グランダイナは右手一つでぶら下がりながら、取り敢えず落下を避けたことに安堵の息を洩らす。

 そうして残る左手で斜面を掴み、巨体の上に戻ろうとする。

『はぁーい』

「さ、サイコ・サーカスッ!?」

 よじ登ろうとしたところで手の真上に現れたレディピエロ。

 その白い顔が笑みを深めて足を持ち上げると同時に、グランダイナは体を右に振って身体ごと命綱たる手をずらす。

 直後、右手の掴んでいた崖の縁をピエロシューズが踏み崩す。

『そおれそれそれそれそれぇ!』

 その一撃を皮切りに、掴む指を狙って降り注ぐストンピングの雨。

「うぅッ、くッ、よッはぁッ」

 対してグランダイナはぶら下がった体を絶えず左右に振って、指をピエロシューズの下から逃がし続ける。

 しかし一打も打ちこめていないにもかかわらず、サイコ・サーカスの笑みは陰るどころか深みを増す。

 回避できるギリギリの速度で繰り返される踏みつけ。弄ぶためのそれをかわし続ける中、不意に足場である要塞アリが大きく揺らいでバランスを崩す。

『あらぁっと!?』

 片足を上げた姿勢で、緊張感の無い声を上げながらよろめくサイコ・サーカス。

「ヤッ、ハァアアアアアアッ!!」

 その隙を逃さず、グランダイナは振り子状に振り回した足を大きく振り、その勢いのまま逆立ちでの蹴りを繰り出す。

『アハン』

 だが奇襲気味に振り回した踵もサイコ・サーカスには易々とブロックされてしまう。

 しかしグランダイナもその程度では止まらない。受け止められた蹴り足を反発力に乗せて引き、身を支える手を軸に反転。

「ハイヤァッ!!」

 その勢いのまま、逆方向からの蹴りをぶつける。

『お、おおお!?』

 予想の外を突けたのか、その蹴りはとっさに身を捩ったサイコ・サーカスの脇を掠める。

「ハイ、ハイ! ハイィイイッ!!」

 その機にグランダイナは、ぐらつき続ける足場の上で回転を加速。

 肘を折り、あるいは伸ばして回転軸を変え、長い鉄筋じみた足を様々な角度から叩き込む。

 これもまた宇津峰流闘技術の一。反天辺威独楽はんてんべいごまである。

『へぇ……お、おお!? これは、意外に!?』

 カポエイラを取り込んだ、倒れた姿勢からの奇襲を目的とした蹴り技の嵐。それにさしものサイコ・サーカスも進退のタイミングを見切れずに防戦に釘づけになる。

「せいッ!」

 股関節を開き肘を曲げ、ブロックした腕を避けて脇を打ち、逆の足を後に続ける。

『うっく!?』

 それにサイコ・サーカスが深く腰を落として脇をしめる。が、グランダイナは肩と背中を支えにした回転でそれを空かし。

「やぁッ!」

『うぐ?!』

 そして遅延ディレイをかけた蹴りで状況打破をしようとする動きの出鼻を抑える。

「はぁああああああああッ!!」

 そしてそこから反動を利用して逆回転。遠心力を味方につけた踵が空を切り裂く。

『グッアッ!?』

 不意を突いて切り返しての蹴りは、完全にサイコ・サーカスの反応を上回り、防御の整っていない上腕を直撃。重く鈍い音を残してピエロ女の上体を薙ぎ倒す。

「ふぅッ」

 それを契機に、グランダイナは鋭い呼吸と共に独楽の軸と使っていた腕をバネとして跳躍。

 空中で身を翻すと沈みながらも歩みを止めない要塞アリの背中に、改めて足から降り立つ。

 だがそこからサイコ・サーカスを仕留めにかかるのではなく、踵を返して傾き始めた要塞アリの体を駆け上がる。

 その正面には黒い物に囲まれた崩れた車両が。安定を失った足場に揺られ傾き始めていた。

『ふん……どうやら感づかれてたようね?』

 グランダイナの行動に、倒れていたサイコ・サーカスはまるで蹴りのダメージなど残っていないかのように、軽々と立ち上がる。

 僅かに眉をひそめたその手には、いつの間に握っていたのか何本ものナイフが。

 そしてサイコ・サーカスが扇状に広げたそれを投げ放とうとする直前、グランダイナは大きく足場を踏み鳴らして跳ぶ。

『むッ?!』

 グランダイナの動きを追いかけ、サイコ・サーカスが顔を上げる。

『うわぉあ!?』

 それとほぼ同時に、サイコ・サーカスの背を大量の水が撃つ。

 重力をものともせず真一文字に奔る鉄砲水はピエロ女の全身を飲み込み、グランダイナの走っていたコースを後ろから貫く。

 水流はそのままホノハナヒメらが乗る車両を掠め、群がっていたモノたちの一部を洗い削ぐ。

 しかしその為にただでさえ不安定だった車体が大きくぐらつく。

「なんちゅうことを……ッ!!」

 それにグランダイナは、空中に居ながらに背後を見やる。

 しかし水の球に乗って浮かぶ梨穂はそんな視線をよそに、強敵を撃った傘を回しながら誇らしげに髪を掻き上げる。

 グランダイナは、何を巻き込んだかまるで認識してない様子の梨穂から目を外すと、足場を踏んだ衝撃を流す間も惜しいと駆け出す。

 大きく揺らぎ傾く足場を、爆音を重ねて黒い巨体が走る。

 だがその行く手を二又のピエロ帽子のような頭をしたヴォルス兵が塞ぐ。

「邪魔すんじゃない!」

 地響き伴う駆け足を止めぬまま、グランダイナは両腕を振り上げ両脇から迫る敵にぶち当てる。

「ってぇー……のぉッ!!」

 そして敵の首に引っかけた腕を同時に振り抜くのに合わせて真正面へ頭突き。首を軸に回転するピエロ兵を両サイドに、正面の敵を叩きつけたクリアバイザーで潰すように押し倒す。

「ふん!」

 そのまま仰向けにのけ反った雑兵を抱えて突進。前方を塞ぐ敵との衝突の緩衝材とする。

 闇色の人形を盾にした突撃に、ピエロ兵の壁はあっさりと破れて崩壊。

 やがてグランダイナ自身の放つ光と天から射す光に、盾と抱えた雑兵が暗黒の粒子となって融ける。

 グランダイナは前面を覆うそれを拭い払いながら拳を握ると、掴みかかってきた敵をリーチの差で一方的にカウンター。後続の敵に叩きつける。

 背中からの衝突に、将棋倒しに崩れる一団。それを左へのステップで避けてほぼ直角にコースを変更。

 直後、再びグランダイナのいた空間を水のレーザーが射抜く。

 だが黒い闘士は、後ろで傘を向けて髪を掻き上げているであろう青の魔法少女を振り返りもせず、前に出てきたピエロ兵を前蹴りで吹き飛ばす。

「あっははぁ、かっきーんッ!!」

 宙に舞う敵。

 その前に緑の魔法少女が割り込み、打ち頃の球を待ち構えていたバッターのようにメイスを振り抜く。

「アハ、気ん持ちいーいッ!!」

 言いながら鈴音は眩しいまでの笑顔を見せ、ピエロ兵の群れを手当たり次第に打ち上げる。

 打ち上げられて梨穂のいる方角へ次々と飛ぶピエロ帽のヴォルス。それはグランダイナの背後へ回ったはしから爆音へと変わって散っていく。

「みんな! 持ちこたえてッ!!」

 暴れる鈴音の意図の無い援護を受けて、グランダイナは群がる敵を引きずり、振りほどきながらひたすら前へ前へと進む。

 だがそうして敵をかき分けて必死に突き進む先。黒だかりに包まれぐらつく車体の傍に裂け目が走る。

「サイコ・サーカスッ!!」

 裂け目を広げて現れた闇と金色のレディピエロ。その冷たい嘲笑に、グランダイナは足を急がせる。

「大物はもらうわッ!!」

 しかしそれを追い抜いて迸る渦を巻いた水流。

「なッ!?」

 グランダイナの脇をすり抜け、サイコ・サーカス目掛けて真っ直ぐに進む梨穂の水の魔法。

 だがサイコ・サーカスは真正面から迫るそれを避けようともせずに、その場に足を止め続ける。

『……フフ』

 レディピエロはそのまますぐ前にまで迫った水流に対して、指を空に縦一文字。空間を裂く。

「バカなッ!?」

 吸い込まれていく砲撃に梨穂から声が上がる。

 直後、グランダイナや鈴音、梨穂のすぐ傍の空が裂け、暴力的なまでの水流を吐きだす。

「う、わ……ぁあああああああああああッ!?!」

今回もありがとうございました。

次回は2月6日18時に更新いたします。

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