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呪い兎の誘う舞台

 先代と当代の竜の契約者たちの一団。

 それらを含む人々が見守る中、斎主と巫女に先導された羽織袴の新郎と白無垢の新婦が、親族を引きつれて本殿へと進む。

「いんやー、神道スタイルってーの? イメージに無かったけど、これはなかなかどーして」

 行列を包み響く雅な音色。それを邪魔しないように悠華は腕組み小声でつぶやく。

「はー……名前を見てからもしかしてって思ってたけど、まさか今日結婚するいおり先生の友達が愛さんだったなんて」

 その左隣では瑞希が、ゆったりと進む行列を見つめながら、感嘆の息を溢す。

「おろ? みずきっちゃん、いおりちゃんとゆうゆう先輩のお友達の花嫁さんの事知ってんの?」

 悠華はそんな友のつぶやきを耳に止めて、白無垢着物の花嫁を見つめる瑞希に耳打ち尋ねる。

「あ、うん。知り合いの獣医さんなの。まさか先生たちの友達だったとは思わなかったから」

「なぁーるほどねー。つくづく世間は狭いってことだぁーねー」

 見上げて答える瑞希に、悠華は行列を眺めながら繰り返しうなづく。

 そんな悠華の脇腹を何者かが小突く。

 それに悠華が顔を向ければ、険しい顔をした梨穂が。

『少しは黙って静かにしなさい』

 人指し指を唇に当て、鋭い視線と思念での注意。

 突き刺すようなそれに、悠華は苦笑まじりに軽く肩をすくめる。

『おーらいおーらい。もう声には出さないから勘弁してちょーよー』

 念話でとはいえこの場で口論を始めては面倒。祝いの席で問題を起こさないように、悠華は素直に委員長の注意に従う。

 その流れに、瑞希は不満げな様子を滲ませながらもそれを飲み込む。その一方で鈴音はと言えば、我関せずと、掌の下で退屈そうな欠伸を溢していた。

 そうして水面下での緊張は表に出ることなく無事に流れた。

 行列の中心である小柄な白無垢が親友二人に気付いて微笑み、裕香といおりは小さく手を振ってそれに応じる。

 そんな平穏な行列が進んでいく中、不意に悠華は寒気の様なものを感じ取る。

 めでたいこの場にそぐわない不穏な気。悠華はその出所を探すように頭を巡らせる。

 すると同じように訝しげな目で辺りを探る瑞希と梨穂。そして眠たげな眼を一転、獲物を求めるようなそれに変えた鈴音の姿が。

 しかし同時に、裕香がいおりと孝志郎の肩に触れてうなづきあい、三人いっぺんに参列者の集団から外れて駆け出す。

「……ちょ、センセ……」

 音もなく抜け出した三人に、悠華は思わず声を上げかける。

 が、周囲を見回してそれを飲み込み、同級生たちと共に飛び出した大人たちを追いかける。

 斎場として提供されている神社の外。迷い無く駆け出た裕香たちに遅れて、四人娘も飛び出す。

 壁を作るように立つ裕香たち。その背中の向こうには尋常でない雰囲気を纏う女性が一人。

「あんなに祝われて、幸せを味わって……一人身の私の前で見せつけてくれて……なんて、憎らしいッ!」

 呪いそのものになったような目を、長い髪の隙間から覗かせた女。

 女は親指を血がにじむほどに噛みながら、呪詛の目を神社に向け続ける。

 その視線を遮るように裕香といおりが体をずらす。

「友だちの式に何かさせたりはしないわ」

「一人身の苦しみには同情するけれど、ね」

 視界を遮る裕香たちの存在に、妬みの女はその瞳に宿した濁りをさらに強める。

 殺意同然にまで高まるそれ。そんな妬み女から、孝志郎が裕香を庇ってさらに前に出る。

「……守って、庇って……しかも、それをするのが相手付き……!?」

 その孝志郎の行動が、妬み女の煮えた油の如き感情に火を落とす。

『どこまで私を惨めにさせる気なのよぉおおッ!?』

 噛み砕かれた爪。

 その固く鈍い音色を引き金に、嫉妬と憎悪が周囲を濁った色に染める。

「クッ! みんな、気を付けろッ!」

 一同を飲み込もうと広がる妬みの空間。それを前に先頭に立っていた孝志郎が、警告と同時に右手中指の指輪を弾く。

「う、うっす!」

 続いて悠華たち当代の契約者もまた、各々の契約の法具に触れてパートナーとの繋がりを強める。

 しかし契約の証が放つ輝きもろともに、空間の濁りが一行を真正面から呑みこむ。

「やっばッ!? このタイミングで転移するとッ!?」

 最悪のタイミングでの転移。それに危機感を露わに息を呑む悠華。

 直後、繋がりのぶれて変身を阻害された一同が、空に海と陸のある空間へと放り出される。

「うっぐッ!?」

 刹那、伸びてきた鋭いものが先頭に立っていた孝志郎を襲う。

「孝志郎ッ!?」

 苦悶の声を上げてたたらを踏む恋人の姿。それに裕香は礼服であることを感じさせぬ身軽さで前に。六つの腕を持つ体を二本足で支えた白いウサギの懐へ一気に踏み入る。

『な!?』

「ええッ!?」

 敵味方双方から挙がる驚きの声。

 そんな声が響く中、化けウサギは慌てて伸ばした腕を戻しながら拳を振り下ろす。

「キィイアッ!!」

 だが裕香は振ってくる拳を潜ると鋭い気合を一つ。体ごと跳ねるようにして、その輝き漲る右拳を敵のみぞおちへ叩き込む。

『ぐふっ!?』

 痛烈なジャンプアッパーに浮かびあがり、よだれと呻きを吐きだすヴォルス・ラビット。

「裕香、下がれッ!」

 敵が苦しみ悶えるその隙に、炎の礫を投げ放ついおり。

 そのフォローを受けて裕香は敵の懐から素早く離脱。腕を抑えた恋人の傍らへと戻る。

「大丈夫、孝志郎!?」

「ああ、ちょっとかすった程度、だ!」

 言いながら孝志郎は改めて指輪を弾いて額へ。契約の法具から飛び出した猿の頭に自身の頭を食わせる。

「みんな、変身!」

「え、ええ!」

 そこから全身を黒雲に覆い隠した孝志郎に遅れて、悠華たちもまた各々の法具に再び光を灯し、四色の竜を呼びつつ光に身を包む。

『お、おのれぇえええッ!!』

 戦士へと変身を始める一行に対して、六本腕の化けウサギは研ぎ澄ました刀のような前歯を閃かせ、いきり立つままに襲いかかる。

「それよりも、裕香の方こそ無茶が過ぎる、ってぇッ!」

『ぎゃん!?』

 しかし胸元を膨らませた雌ウサギの突進は、軽口と共に放たれた稲妻の拳が迎え撃つ。

 悲鳴を掻き消す雷鳴。

 それを尾に曳いて吹き飛ぶウサギを正面に見据え、黒雲から屈強な忍者が姿を現す。

「……といっても、俺の仲間たちもまだまだ昔のようにとはいかないようだけどな」

 敵を迎え撃った手をスナップさせる孝志郎だった忍び。

 猿の顔を浮き彫りにした額当てをはめたつるりとしたスモークバイザーのフルフェイスメット。

 屈強な肉体を包むのは鎖帷子をインナーにした、虎か雷を思わせる柄の忍び装束。

 顔こそメットに遮られて窺い知れぬが、ぎこちなさを解すようなストレッチからは、己の調子に対する不満が見て取れる。

「おーや? お兄さんも契約者で、何ぞ問題を抱えてらっしゃると?」

 そこへ変身を終えたグランダイナが進み出て並ぶ。

 その黒い鋼の巨体を、幻雷迅は呆気にとられた様子で見上げる。

「……おっどろいたな。マジでウィンダイナにそっくりの色違いだ」

「……ホント……でもちょっと、いやかなり悔しいな。孝志郎とのダブルヒーローの先越されちゃった」

 幻雷迅と裕香。右と後ろ双方からの驚きの声。

「いやー、それについてはもーしわけない?」

 裕香からの妙な悔しさも含んだ声に、グランダイナは戸惑いながらも振り向き頭を下げる。その隣の幻雷迅は忍び装束に身を包んだ体を再び解しながらうなづく。

「でまあ、俺の問題ってのは、昔仲間たちに負担かけすぎちまったせいで、今は全力が出せないってことくらいだな」

 己の抱えている問題をさらりと挙げる幻雷迅。それに頷こうとしたグランダイナの間を、咳払いと水の弾丸が通り抜ける。

『ぎゃッ!?』

 レーザーのように通り抜けたそれは、立ち直りかけたウサギを直撃。その衝撃で起きかけの出鼻をくじいて押し倒す。

「今はのん気に話をしてる場合では無いのでは? 敵を目の前にして緊張感の無い」

 呆れと苛立ちの半々といった調子で、青いアシンメトリーなコートに着替えた梨穂は、射撃に使った傘型の杖を重に見立ててくるりとガンプレイ。

 それにグランダイナはその硬質なバトルスーツに覆われた肩を軽く上下させる。

「そーの辺は一緒に戦ってきたみずきっちゃんを信頼してるし? いいんちょにすずっぺ。センセや先輩も当てにしてるからってぇこーとで?」

 仲間たちへ頼りにしているとの一言。丸投げとも取れるその言葉に、梨穂は頭痛を堪えるようにしかめ面の側面に指をあてる。

「……もういいわ。大して強い奴では無いみたいだから全員でかかってさっさと片付けましょう」

「おーう、賛成」

 これ見よがしな深いため息。それに続いての提案にグランダイナはうなづき、敵へ向き直る。

「そうね。早く終わらせましょ」

「おっけー。やるよやるよぉ」

 それに続いて、ホノハナヒメは炎からハートの環を鈴生りにした金幣を呼び出して構え、へそ出しのミニスカートドレスになった鈴音も杖を片手に前衛として踊りでる。

 グランダイナ、幻雷迅、鈴音の三人を前衛。ホノハナヒメといおり、裕香を後ろ。そして梨穂を遊撃役として中衛に。

 そうして陣形を組んだ一同は、改めて各々に敵へ向けて得物や拳を構える。

『ぐ……くくッ!』

 隊列を整え、すぐにでも踏み込もうとする契約者たち。それに六腕の化けウサギは背中を見せて逃げ出す。

「あ、待てッ!」

「逃がすものですか!」

 一方的な狩りの予感に、衝動を抑えるほどの恐怖を突かれて逃げるヴォルス・ラビット。それを追いかけて鈴音が踏みだし、梨穂が水の弾丸を放つ。

「先生、裕香さんも乗ってください!」

「ええ!」

「分かったわ」

 先行して追跡する二人に対し、ホノハナヒメは裕香といおりの二人に乗り物として自身の羽織る千早を浮かべて寄こす。

「よっしゃ、アタシらも追いかけまっせ!」

「ああ!」

 グランダイナと幻雷迅は二人がそれに乗るのを確かめると、地鳴りを響かせて駆けだす。

「あはは、鬼ごっこだね!? ウサちゃん待て待てぇ!」

『う、くぅッ!?』

 後方からの水のレーザーをかわしながら跳ねるように走るヴォルス。そうして逃げ道を狭めたところへ風に乗って飛翔する鈴音が踊りかかる。

 圧縮空気を頭にしたレックレスタイフーンの振り下ろし。化けウサギは叩きつけようとするそれを辛うじて飛び込むように跳ねて避ける。

『うぅッ!?』

 しかし伸びきった足を水のレーザーが貫通。その勢いのまま幻想界の平原を白い毛皮に包まれた体が転がる。

 倒れ、立ち上がろうともがくその姿に、鈴音は顔を喜びに彩る。

「あは、つっかまぁえたぁああッ!」

 獲物に追いついた鬼は、歓喜のままにレックレスタイフーンを掲げ、六つの腕で後退りするウサギへ向けてそれを振り下ろす。

『そうはいかない!』

「ぎゃん!?」

 だが空気を凝縮したメイスヘッドがウサギの頭を捉えようとしたその瞬間、横合いから割り込んだ闇と金色に彩られた何者かが鈴音を蹴り飛ばす。

「すずっぺッ!?」

「撃て、ウェパルッ!」

 弾み跳ねる緑のドレス。

 小柄なその体を痛みつけようとする闇と金の影を狙い、梨穂が傘を操り水を撃つ。

『はぁい』

 だがしかし、レーザーのように空を走った水は軽い掛け声で弾かれる。

「なにッ!? このッ!!」

 梨穂は自身の水の魔法を易々と弾かれたことに歯噛みし、連続で水のレーザーを連射する。

 だが闇に金色の彩りを添えた影は踊るようにしてその尽くをかわしていく。

「サイコ・サーカスッ!?」

 不意に現れた蛾の形をした髪のピエロ女サイコ・サーカス。

 乱入してきた強敵の姿に、グランダイナは幻雷迅と共に走りながら警戒も露に拳を構える。

『どーもー、こんにちはぁー』

 仲間の援護に足を緩めぬそれらに対して、サイコ・サーカスはまるで顔見知りにするように挨拶をする。と、同時に軽く手を挙げて何者かに合図を送る。

『どぉらぁあああッ!?』

 その声に応えて地を割り現れたのは、山のように巨大な虫。

「どわ!?」

「な、なにッ?!」

 表皮のそこかしこに金属光沢を帯びた部位を持つそれに足元から押し上げられ、グランダイナは堪らずバランスを崩す。

『ギ、ギギィイイ!!』

 そこへ巨大虫の体から飛び出した黒いものが躍りかかる。

「こン、のォ!」

 だがグランダイナはとっさに腰を落としてその腕をガード。アリ人間とでも言うべき襲撃者の腕を掴み、足元に叩きつける。

「っせい!」

『ギギャッ!?』

 バウンドするその体をすかさず蹴り飛ばすグランダイナ。

『ギシャアアアッ』

 だが残心を持って構え直したそこへ、新手のアリ人間が顎を鳴らして躍りかかる。

「せい! や、はあぁあッ!」

『ギギャァ?!』

 その一匹のみならず、次々と新手の現れるアリ。それを出てくるはしから殴り、蹴り倒しながら、グランダイナは仲間の様子に目を走らせる。

 ホノハナヒメは幻雷迅と共に、同じくアリの化け物から裕香といおりを守り、捌いている。

 だが梨穂と鈴音は、ヴォルス・ラビットと共に、揃って空間の裂け目へと落とされる。

「きゃ!?」

「なんですって!?」

『それでは、そちらはそちらでショーをお楽しみくださいませ』

 そしてその一言を残して、サイコ・サーカスもまた自身の開いた裂け目の中へ落ち、姿を消した。

今回もありがとうございました。

次回は1月9日18時に更新の予定です。

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