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魔法少女ダイナミックゆうかG  作者: 尉ヶ峰タスク
ガール・ミーツ・ファンタジア
23/100

サイコ・サーカス

「ヤッハアァアッ!!」

 気迫一発、斜めの構えから棍を突き出すグランダイナ。

『ウッ!?』

 ピエロ女はとっさに身を捩って回避。しかし右頬を裂いたその鋭さに目を剥き、息をのむ。

「エヤァアッ!」

『アガ!?』

 その驚きに凍った頬を撃つ横薙ぎの翻土棒。その一撃にピエロ女の体が首を軸に回転。左半身を下敷きに地に落ちる。

「ハアアッ!」

 翻土棒を横振りの勢いのままに振り被るグランダイナ。そしてグラウンドに横倒しになった派手なピエロ姿に向けて、棍を縦一閃。

『クッ!』

 しかし唐竹割りの一打からピエロ女は転がり逃げる。

 空振り地を打つ翻土棒。その一打はまさにその名の如く地を砕いて翻す。

「イヤァアアッ!」

 転がり距離を取るピエロ。それに向けてグランダイナは埋まった石突を振り上げる。それに伴って地面に裂け目が走り、石と土が飛び上がる。

 散弾のようにレディピエロを襲う石と土。

『こんなもの!』

 それを手足を軽く振って弾きながら、ピエロ女は立ち上がる。

 だがその瞬間、巨大な岩がその眼前に迫る。

『大物にしたところで!』

 先の石と同じ感覚で軽く砕こうと迫る岩を迎え撃つピエロ女。

 だが砕いた岩の陰から飛び出したのは、棍を突き出すグランダイナ。

『しまった!?』

「リャアアッ!」

 翻土棒にまとわせた岩を盾にしての奇襲。それは狙い通りにレディピエロの虚を突き、その右肩をも突く。

『あッ……クッ!?』

 苦悶の呻きを残して後ろへ飛ぶピエロ女。

「また浅い! 押し込む!」

 得物を通して伝わった手応えの軽さに、グランダイナはピエロがまた自ら後ろに飛んで威力を殺したと見切り追いかける。

 重い音を響かせて踏み込み、しなる山吹色を袈裟がけに振り下ろすグランダイナ。

 その一打の軌道を、ピエロ女が割りこませた手持ちのカードに受け流される。

『このッ』

 棍を逸らした動きから続いて、カードが連なり伸びて剣となり、返す刃と振るわれる。

 グランダイナは怯まず踏み込み、刃を肩の装甲に滑らせる。

「ヤアッ!」

 弾ける火花をアーマーに照り返しながら翻土棒を振り上げる。

 が、それをピエロ女は右手に回り込んで回避。

「クッ」

 それを追いかけてグランダイナは身を捩り、得物を肘に添えた形で突き出す。

 だが白い鼻先へ伸びたそれは、首の捻りにかわされて空を貫く。

 突き出した翻土棒に手を添え掴むピエロ女。その足元を刈るようにグランダイナは鋭く右踵を振るう。

 しかしレディピエロは手をかけた翻土棒に体重をかけて、オレンジに輝く蹴りを跳びかわす。

 棍を跳び越えるのに合わせて閃くトランプソード。

 その切っ先にグランダイナは逆スペードのクリアバイザーをぶつけつつ、ピエロの掴んだ翻土棒を振り上げる。

「ふんッ!」

 ヒロイックな仮面から響く気合い。それと共に打ち上がるピエロ女。

「三節変化! 翻土棒ッ!」

 宙へ浮かんだ敵を見据える両眼が煌めき、振り上げた翻土棒が分割。魔力光の鎖に結ばれた三節棍へ変化する。

「ヤァハァアッ!」

 鎖となった光の文字を伸ばして、棍の一節が弧を描いて空を駆け昇る。

 標的へ届いたそれは伸び走った勢いのまま、斜めににピエロを叩き落とす。

『ウグ!?』

 しかし打撃を受けながらも、レディピエロは空中で不可視の鉄棒を掴んで、振り子状に跳ぶ。

 落下軌道をねじ曲げたそれを追いかけて、グランダイナは三節翻土棒を振るう。

 しかし一節を伸ばし振るう度に、ピエロ女は不可視の鉄棒を掴んでは跳び移りを繰り返してかわす。

 三節棍を振るう黒い闘士の頭上で繰り広げられる空中ブランコのショー。観客を翻弄するその軌道から、不意に鋭いものが放たれる。

 グランダイナは伸ばした節を振り戻しつつ、手元の二節で降り注ぐモノを叩き落とし迎撃。地に刺さったトランプカードを尻目に次々と降り注ぐモノを弾き落としていく。

『Welcome to the Psycho Circus』

 ピエロ女が歌う様な声と共に、さらにトランプを投げ放つ。

「セ、ヤアッ!」

 対してグランダイナは身を翻しながら三節棍を横薙一閃。さらに立て続けの切り返しで放たれたカードを打ち払う。

「テラァ! 援護頼む!」

『でもこれじゃあ巻き込んで……』

「気にしない! まとめて撃つ気で撃ちまくれ!」

 そして相棒への援護要請と同時にトランプを迎え撃ち跳躍。飛び回る敵めがけて舞い上がる。

 互いに棍とカードを振るい交錯。鋭い音色を後に残しすれ違う。

 そこへ降り注ぐ石礫の雨。

 放物線を描いて降った石の弾幕は上昇していたピエロ女とグランダイナの双方を撃つ。

『チィイッ』

 煩わしげな舌打ちと共に、ピエロ女は構えていたカードを引いて、不可視の鉄棒を掴んで後ろ跳びに跳躍。

「エェアッ」

 が、弾幕から逃れ距離を取ろうとするそれに、グランダイナは身を撃つ石礫を無視して身を捩り、棍を振るう。

『なにッ!?』

 振り向きざまの横一閃。それにピエロ女は見えざる足場を膝で噛み、後ろ回りに身を翻す。

 逆エビに反ったピエロドレスの上を薙ぐ三節棍。

 だがグランダイナは降り注ぐ石を薙ぎ払ったそれを振り戻し、魔力光の鞘をレディピエロへ絡める。

『なあッ!?』

「オォリャアアアアア!」

 光の鎖に繋がれ、驚愕の声をあげるピエロ女。それをグランダイナは巻き付けた勢いを殺さずに振り回す。

『あ、あ、ああ、ああああああああ!?』

 前後左右四方から響く声。それを先端に、グランダイナの頭上で魔力鎖がヘリのローターの様に円を描く。

 落下の勢いに負けて狭まるどころか、逆に重力に逆らえてしまえそうな回転。

 その外周ではピエロ女に鎖と巻きついた翻土棒の一節が、降り続ける石礫を磁石の様に吸い寄せて絡め取っていく。

 石を吸い寄せる塊は見る見るうちにその大きさを増して行き、グランダイナが着地の足音を響かせるころには、直径五メートルほどの石塊にまで成長していた。

「ヤァアアアアッハァアアアアアアアッ!!」

 色濃い着地の残響をかき消すような気合。

 轟くそれを引きながら、巨大な石塊を振り回してグランダイナが走る。

 砂煙を巻き上げて向かうその先には、赤い結界に包まれた校舎へ足を伸ばすクラーケンが。

「どっせえぇえええええええええいッ!!」

『な!? ぬわぁああああ!?』

 気合の叫びを受けて襲撃に気づき、目を剥くクラーケン。見開かれたその脇にピエロ女を核とした石塊が轟音を上げてめり込む。

『うぶぁああああッ!?』

 濁った悲鳴を上げるクラーケン。

 振り上げられたその足触手の尽くは根元から末端まで波打ち震えて、次いで芯を引き抜いたかの様に崩れ落ちる。

 太いタコ足の着地に、連なり響く重い地鳴り。

 グランダイナはそれを靴底に受けながら、タコの身の内に続く魔力鎖を引く。

 それに応じて緩み崩れた軟体から飛び出す山吹色。

 レディピエロとそれを包む石塊を置き去りにした棍の一節が戻り繋がり、一本の戦棍へ戻る。

「はあッ……はあッ、はぁ……」

 グランダイナは得物に寄りかかるようにしてうつむき、荒く息を吐いては吸う。

 激しく上下する肩に合わせて、喘ぐように体内を換気するグランダイナ。

 その側へテラが駆けより、続いてよろよろと落ちるように飛んできた巫女服の瑞希が降り立つ。

「はぁ……はぁ……」

『瑞希!? だいじょぶ?』

 苦しげな息を吐き、膝を着く瑞希。

 フラムはその肩から半ば転がり落ちながらも、音もなく着地。隣の兄と共に契約者たちへ心配そうな目を向ける。

「はぁ……ッ、みずきっちゃんは休んでなよ、ちょいと息を整えたら……あのデカブツごと、浄化しちゃるからさ」

 乱れの色濃い呼吸のまま、グランダイナは翻土棒に体重を任せながら、傍らに立つ仲間たちに親指を立てて見せる。

 だがその調子のいい言葉とは裏腹に、呼吸に合わせて明滅するエネルギーラインは弱々しく、今にも消え入りそうなほどにか細い。

「そんな、でも……私だって!」

 そんなグランダイナの状況を察してか食い下がろうとする瑞希。だが膝を地面から離すことが出来ず、浮かしかけたところで再度崩れる。

『瑞希!?』

「いいから、ここはなんかあった時の為に控えててって。こっちならもう一呼吸するうちに……」

 立ち上がり損なった瑞希を気遣う言葉をかけて、グランダイナは深く息を吸って、吐く。

 そうして寄りかかっていた翻土棒から体重を受け取る。すると両手に掴んだ得物を緩く先を下げた形で突き出し、腰を深く落とす。

 呼吸を整えながら、ゆっくりと残った力を寄り合わせるように構え直すグランダイナ。

「ヤァッハァアアアアアアアアッ!!」

 やがて微かな輝きを湛えていたばかりのエネルギーラインが光を放ち、同時に激しい気合が響く。

 地面で花火が炸裂したかと紛う、輝きを伴った大地と大気の揺れ。

 まさに火薬に打ち出されたかのような踏み込み。それに乗ってグランダイナは渾心の突きを繰り出す。

 全身の輝きを握り手を介して受け取った翻土棒。光輝くその先端が迷いなく崩れた軟体へ向けて突き進む。

「が!?」

 だが次の瞬間、打撃を受けていたのはグランダイナの顔面であった。

「悠ちゃん!?」

『悠華!?』

 瑞希と竜の兄妹三つの口から飛び出る驚愕の声。それを仮面の軋みの中に聞きながら、グランダイナは突進の勢いをそのまま反転させられて吹き飛ぶ。

 黒い巨体が鈍い音を残して跳ね返り、地面を二度、三度と弾んでいく。

 そしてうつ伏せに地に伏せると、そのまま砂煙をあげて滑って停止。

 続いて黒いヒーロースーツの巨体が風化するように崩れて、倒れ伏した悠華の姿が露わになる。

「う……うぐぅ……ッ」

 呻きながら顔を上げる悠華。その口の端からは血が零れ、頬や額からも赤いものが滲んでいる。

 そんな血まみれの顔が見据える先にあるのは黒い槍。

 緩んで潰れた軟体から伸びる円錐状の突起である。

「くっ……そ、待ち構えてたって、ワケ……!」

 それが自分を手ぐすね引いた上で迎え撃ったのだと、自分が下手を打ったのだと悠華は理解する。

 まんまとしてやられたことに歯噛みする悠華。その眼の先で、突起を割って現れたピエロが嘲笑を浮かべる。

「お前がッ! よくも、よくもぉおッ!!」

 現れたピエロ女に、瑞希が怒りに炎を溢れさせて舞い上がる。そうして昂ぶるままに白い嘲笑へ躍りかかり炎を放つ。

 だが怒りのままに荒れ狂った炎は標的を逸れて崩れたクラーケンを焼くばかり。

「あうッ!?」

 そして懐へ放り込まれた何かが瑞希の胸元で爆発。瞬時にその体を炎に包む。

 煙の塊から吐き出される瑞希。煙の尾を引いたその姿は血に汚れたセーラー服に戻っており、無防備に地面へと落ちていく。

『危ない!』

 だが不意に悠華の倒れた地面が柔らかく波打ち盛り上がり、落ちてきた瑞希の体も柔らかく受け止める。

 そして砂に乗るテラと飛んできたフラムが合流するや否や、砂の高波は悠華と瑞希を乗せてグラウンドを走る。

「み、みずきっちゃん!?」

『だ、大丈夫! 気絶してるだけよぉ!』

 傍らに倒れる友を、動かぬ身を捩って覗きこむ悠華。それにフラムが瑞希の体を診て回り答える。

 それらを乗せて距離を取ろうとするテラのサンドウェーブ。だがピエロ女はそれを追いかけようともしない。

「あいつ、なにを?」

 動きの無い敵に波の上から疑念の眼を向ける悠華。だが次の瞬間、悠華の目は驚きに見開かれる。

 ピエロ女の半身が埋まったクラーケンの巨体。それが見る見るうちに縮んで、ピエロ女に啜られ始めた。

「なぁッ!?」

『仲間を、食ってるって言うのか……!?』

 その思いがけぬ行動に、大地組の二人が揃ってわななきの声をあげる。

 対してピエロ女は悠華たちの反応などどこ吹く風と、クラーケンの体を音を立てて啜り上げていく。

 やがて山のようなタコの化け物の体はピエロ女に吸い尽くされる。

『けぷっ』

 小さな、しかし妙に響くピエロ女のゲップ。その右手はみぞおちの辺りを軽くさすり、逆の手には男一人を顔面を掴んでぶら下げている。

 満足げな息を吐いたピエロは、左手に掴んだぐったりと動かない男を一瞥。身の無くなったカニの殻かエビの尾でも棄てるように放り出す。

「て、テラ!」

『うん!』

 無造作に宙を舞うスーツ姿の男。その落着を、てらの柔らかな砂が受け止める。

 だが次の瞬間、悠華たちを乗せていた砂の波が力を失い、砂山を崩したように広がる。

『しまった!?』

「うあッ!?」

「あう……!?」

『きゃん!?』

 半ば投げ出されるように、柔らかな砂の上を転がる一同。

『兄様? どうしたのぉ?』

『ご、ゴメン。オイラも心命力切れだ……』

 いち早く立ち直ったフラムの問い。それにテラは重たげに体を持ち上げながら答える。

 そんな支えるのがやっとと言った風体のテラと、それを身を寄せて支えるフラム。

 その一方で、悠華もまた瑞希に這い寄って、その小さな体を助け起こす。

『見捨てておけばよかったものを、偽善の代償は高くついたわね、ドラゴンども?』

 底冷えのする声。

 それに一同が背筋を震わせ向き直れば、そこには血の気の無い顔を向けて悠然と歩み寄るピエロ女の姿があった。

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