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魔法少女ダイナミックゆうかG  作者: 尉ヶ峰タスク
ガール・ミーツ・ファンタジア
20/100

憎悪の与えるモノ

『……うか……悠華ッ!?』

「う、うぅ……」

 頭に響く声。

 頭蓋骨を内側から揺らすようなその呼びかけに、全身を襲う痛みまでもが呼び起されて響く。

「ぐぅ……ぅう……」

 背中から前面からと挟み込むような痛みに、悠華のうめき声が強まる。

 そして目を開けた悠華が見たのは、流れる土砂で出来た壁であった。

 ぐるりと頭を巡らせれば、土砂の壁は周囲をドーム状に包み囲んでいる。

「何これ? 何がどうなって……?」

 疼く痛みに顔をしかめながら身を起こす悠華。

『遅れてごめん。でも、最悪の事態は避けれたみたいだね』

 土に汚れたセーラー服の肩を抑える悠華の横で、テラが安堵の息を吐く。

「テラやん……って、なんでこっちに? みずきっちゃん、いおりちゃんは!?」

 瑞希といおりを任せて別行動をとっていたはずの相棒。この場にいてはおかしいその姿に、悠華は詰め寄るように尋ねる。

『落ち着いて悠華。悠華が危ないってなったら、いおりさんが行ってこいって』

 悠華の勢いに押されつつも、テラはこの場に駆けつけた訳を答える。

「じゃ、いおりちゃんと合流できたワケ?」

『うん。巻き込まれた女の子たちをまとめてたトコにね』

「そっか……って、みずきっちゃんは!? みずきっちゃんは一緒じゃないの!?」

 テラの口から語られたいおりの状況。それに悠華は胸を撫で下ろそうとした手を止める。

 それにまたテラは僅かに身を引きつつ口を開く。

『瑞希は逃げ遅れの保護に向かって分かれたから。でも、フラムとの念話じゃあすぐに合流できそうな感じだったよ』

「そっか。こりゃアタシが足引っ張っちゃった感じだぁね」

 苦笑とため息交じりに、立ち上がる悠華。

 それに合わせて土砂のドームに穴が開き、その穴から広がるように崩れて消える。

『とにかく今はいおりさんと合流しよう。瑞希もそうするだろうから、反撃はそれからだよ』

「そうだね。ま、みずきっちゃんなら頭使ってうまくやるだろうし、そうするとしようか」

 悠華はそう言って土に塗れて痛む体を解しながら、辺りをぐるりと見回す。

「しっかしテラやんが隠してくれて助かったけど、アタシをぶっ飛ばしてくれたデカタコ足どもはどこに……」

 戦っていた敵の姿を探して警戒の目を巡らせる悠華。顎を上げて視線が上を向くと、校舎屋上の端から覗く触手を見つける。

「まっずッ!」

 それに悠華は慌ててテラを引っ掴んで校舎に密着。建物の陰に身を隠す。

 その判断の早さが効いたか、屋上からはみ出た触手は降りて来ることなく戻る。

 それからも触手が何本か建物の端からはみ出すものの、どれも悠華を探す事無く引っ込む。

「ふぃー……アタシを見つけたワケじゃないかぁ」

 襲って来ないタコ足に、悠華は額と鼻の下とを拭う。

 しかし安堵の息を溢すや否や、テラがその顔を強張らせる。

『なんだって!? 本当なのかフラムッ!?』

 思念で送る言葉を口に出すテラ。

「なに? なんだっての!?」

 相棒のただならぬ様子に悠華は意識を切り換え、念話を受信。聞き逃さぬよう意識を澄ませる。

『ウソも冗談もないよぉ! 瑞希が捕まっちゃったのよぉ!?』

 思念でのやり取りに切り換えたところで、見計らったかのように送られてきたフラムの返事。

『みずきっちゃんが!? そんな、どういうコトッ!?』

 その内容に悠華も詳しい情報を求める思念を飛ばす。

『どうもこうも……瑞希と念話が繋がらなくなっちゃったのよぉ! 居場所を探ったら敵のタコ足に囲まれてるし、ノードゥス使って飛ぼうとしても邪魔されるしなのよぉ!』

 パートナーである瑞希の危機を示す状況。それに取り乱したままに念話を投げ放つフラム。

『落ち着けフラム! オイラと悠華ですぐ助けに行くから!』

『でも、でも兄様ッ!』

 テラが慌てる妹を落ち着かせようと念を送るも、フラムの放つ思念は風に煽られた炎のように揺れ続ける。

『フラちん、いおりちゃんたちは大丈夫?』

『そんな、今瑞希が大変なのよぉ!?』

『いいから答えて!』

 混乱のまま、非難するようなフラムの思念。

 それに対する悠華の意思の声に、フラムもテラも息を呑む。

『……ゆ、悠華?』

 いつものパートナーとはまるで違う、地響きにも似た激しい気。その発露にテラは探るように声をかける。

 悠華はそんなテラの声と目に気づくと、サイドテールにまとめた髪を触りつつ息を吐く。

『それで、どうなのフラちん?』

 先ほどよりも柔らかな意識での問い。

『それは、大丈夫。あたいがいおりさんと協力して張った結界もあるから……』

 それに応じたフラムの思念。先の思念の迫力に押されてかやや縮こまったそれに、悠華は頷く。

『分かったよ。ありがとう。じゃあこっちが合図するまで、いおりちゃんとみんなを守ってて』

『う、うん。瑞希のコト、お願いしたよぉ』

 護衛継続の指示に返ってくる了解の返事。それに悠華は首を縦に振る。

『任せといて』

 悠華はそうしてフラムとの念話を切って、右手を固く握りしめる。

 するとその拳を飾る契約の指輪が光を放ち、右拳を眩い輝きが包む。

『悠華……ッ!?』

「変……身ッ!」

 普段とは明らかに気の入り様の違う声音。それに続いて乾いた音と輝く光が悠華の胸元、そしてへそ前から広がる。

 光の卵を破り現れる黒い巨漢のヒーロー。グランダイナ。

 ヒロイックかつメカニカルなフルフェイスマスク。その上半分を覆う逆スペード型バイザーの奥で、鋭い目が光を放つ。

「行くよ、テラ」

『あ、ああ!』

 いつになく真剣なグランダイナ。それに引っ張られるように、相方であるテラも力強く頷く。

 するとグランダイナはそのたくましい足で地を蹴り、垂直に跳躍。

 爆音を踏み、ロケット同然に上昇するグランダイナ。打ち上がった黒い巨体はその勢いのまま、重力に負ける事無く一跳びに校舎の上に出る。

 屋上へ躍り出たグランダイナ。その足音に、二棟に渡って屋上を埋める程のタコがヌラリとその巨体を蠢かす。

 粘液に覆われた褐色の体表。山のようなその中心から幾つもの太い足が伸びる。目に挟まれた口からは、幾万を数える細いタコ足が溢れてうねる。

 うねり絡まったその一部、膨らんで節を成したところを見て、グランダイナの全身を駆け巡るエネルギーラインがぐわりと輝く。

 縄を作るように絡み合った触手の膨らみ。その中心裂け目から縛られた瑞希の姿が覗く。

 炎巫女への変身を解かれたセーラー服姿。

 両腕を上に縛られ、ぐったりと気を失ったその身は、大小様々なタコ足にされるがままにまさぐられている。

 小柄な体格に対して不釣り合いなほど育った胸も、絡みついて絞る触手が強調する。

「……う、あう……」

 囚われの瑞希から漏れる苦しげな吐息。

 それを耳にして、グランダイナはエネルギーラインの輝きを強めて足を踏み出す。

「よくも……よくもよくもよくもォオッ!!」

 火をくべた炉の如く、蓋の裂けた火口の如く力を漲らせるグランダイナ。

 ヴォルス・クラーケンの行う瑞希への仕打ち。それにグランダイナこと悠華は、生まれて初めての身を焦がすほどの強い殺意を抱いた。

 双眸のギラつくヒロイックな仮面越しにも憤怒の表情が透けて見えるほどに。

『うぐ……ッ!? だ、ダメだ悠華! 怒りの心が激しすぎるッ! こんなこんな心で力を使ったりしたら……ッ!』

「うぁらぁあああああああああッ!!」

 荒れ狂う大きな力。テラはそれに怯みながらも、パートナーへ制止の声を投げかける。

 だがグランダイナは激しい怒りのままに荒ぶり、猛々しい気を吐き踏み込む。

『悠華ぁあッ!?』

 テラの制止を振り切っての突進。

 激しく輝く光の塊となったグランダイナに、クラーケンはその目を眩しげに瞬かせ、太いタコ足を振るう。

「ゼェエアッ!!」

 襲いかかる巨大な触手。空をかき混ぜ迫る丸太の様なそれを、グランダイナは短くも鋭い気合に乗せた拳で迎え撃つ。

 真っ向からの衝突。

 爆音を轟かせたそれに、質量で圧倒するタコ足が千切れて吹き飛ぶ。

 粘液と体液をまき散らして吹き飛ぶ触手。それはグランダイナを叩き潰そうとしていた後続とぶつかり巻き込む。

「オォリャアッ!!」

 そこへグランダイナは間髪いれず踏み込み、鋭利に輝くチョップを絡んだ太い触手の群れへ叩きつける。

 その一撃は、まるでバターを切るように絡んだ軟体の丸太たちを切断。

 苦痛にうねる触手の鏡の様な断面。その間を割り広げるようにしてグランダイナは本体へ続く道をこじ開け進む。

 強行突撃するオレンジの光を目掛けて、またも降る巨大なタコ足。

「ぐッ!?」

 とっさに掲げた腕を支えに受け止め、両足を屋上に沈めるグランダイナ。

 そうして足の止まったところへ、切り裂き抜き去った触手が回り込む。

 そのまま包んで潰そうと狭まる包囲。

「フンッ!」

 しかしグランダイナはその身から放つ光を緩めず、荒く猛った息を一つ。のし掛かるタコ足を握りしめ、むしり千切る。

「オォオリャリャリャリャリャリャリャリャッ!!」

 思いがけぬダメージに止まった触手。グランダイナはそれに片っ端から掴みかかり、滑る表皮を手の内に握ってむしる。

 掴んではむしり、握ってはむしりの繰り返しに、触手は虫やネズミに食われたような様相へと成り果てる。

 それに一本のタコ足が、怯えたように本体近くへ逃げる。

「ウリャアァアッ!」

 しかしグランダイナはそれを許さず躍りかかり、弾力のあるタコ足に右手の指を沈める。

 飢えた野獣の牙の如く食い込む指。グランダイナは逃げようともがく触手に曳かれるままに加速。左手を食いつかせると同時に右腕を引き、触手の表皮を肉もろともに引き千切る。

「アァアリャリャリャリャリャリャリャァアッ!!」

 そして左、右と入れ替えるように、逃げる触手へ指を食い込ませては肉をむしっていく。

 両腕を飢えた野獣と変えたグランダイナ。

 その猛獣然とした突撃に、ヴォルス・クラーケンの目に怯えの色が滲む。

 触手の一本をむしりつくしたグランダイナは、そのぼろぼろの触手へ一際深く両腕を突き入れ、縦方向に引き裂く。

『グゥオォアアアアアアアッ!?』

 足を裂かれる痛みに、クラーケンが叫び悶える。

 その隙にグランダイナは跳躍。痺れたように動きを止めるタコ足の合間を前回りに抜けて飛び込む。

「ウゥアァアアアアアアアアッ!!」

『ギィヤアァアアアアアアアアッ!?』

 文字通り目の前に飛び込んだグランダイナは、その勢いのまま体液に塗れた右拳でクラーケンの眼球を貫く。

『ア、アアッ!? 眼ェエッ!? 眼がァアアアアアアッ!?』

 直径がグランダイナの背丈ほどもある眼球を破られ、触手を振り回し悶え苦しむヴォルス。

「ヤアッ!」

 でたらめにぶち当たった触手に揺れる屋上。

 そんな不規則な振動の続く中、眼球から拳を引き抜いたグランダイナは、拳を抜いた穴から溢れだした体液に構わず、細いタコ足を吐き出す口元へ向かう。

「エェアアアアッ!!」

 そして瑞希を縛る細かな触手束を掴み、右腕を刃の形に振りかぶる。

「う、ぐ……ッ!?」

 だがいざ手刀を振り下ろそうとした瞬間、それまで煌々と輝いていたグランダイナの体が光を失う。

「ぐ、なんで……いきなり……?」

 不意に固まった関節に呻くグランダイナ。そしてそのまま自重に負けたようにその場に膝を突く。

『強すぎる怒りと殺意、その反動が出たんだ……ッ! オイラにも、今の悠華は強すぎる……!』

 テラが息を喘がせながら、突然の消失の原因を告げる。

「う、うぐぅ……」

 暗い激情に任せた暴走のツケ。身にのし掛かるそれに呻きながら、グランダイナは両腕で触手を掴む。

 掴んだそれを引き千切ろうと力を込める。

 だが先ほどまで濡れた紙を裂くように千切れていたものが、今はまるで強靭なゴム縄に変わったかのようにびくともしない。

 それどころかほんの僅かに気を抜けば、それだけで掴んだタコ足が抜け落ちてしまいそうなほどにグランダイナは弱っていた。

 先ほどまでの猛った野獣の如き様から一変しての弱々しいありさまに、ヴォルス・クラーケンもその萎縮していた触手を振り上げる。

『今までよくもまあ好き放題に……そのゴツイ鎧をひんむいて、丸裸にしてしゃぶりつくしてやる』

 舌舐めずりを交えたようなクラーケンの声。それに続いて半ばから千切れ飛び、切断した足が泡だって再生する。

 生え治った触手は、その先端に鋭い爪の様な突起を備えてうねる。

「く、うぅうッ!」

 大きく振り上げられたそれを見上げて、グランダイナはなおも掴んだ細い触手を千切ろうと力を込める。だがやはり触手はびくともせず、ただ握りの弱い手が滑るばかりであった。

『ふはははははははははッ! くすぐっているつもりか? 焦るなよ、今すぐ存分にマッサージさせてやるッ!』

『悠華ぁッ!?』

 響くクラーケンの嘲笑と、相棒の名を叫ぶテラの声。

 そして爪を備えた触手が振り下ろされる中、グランダイナのエネルギーラインが淡く輝いた。

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