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魔法少女ダイナミックゆうかG  作者: 尉ヶ峰タスク
ガール・ミーツ・ファンタジア
17/100

結成、マグマ同盟!

 金色の月の昇った夜。

 静かな闇に包まれた宇津峰流闘技塾道場。

「ふぃーさっぱりしたぜよぉ」

 その一角で、悠華が襖を足で滑らせる。

 その姿は「せつないぜ」と書かれたシャツ一枚にハーフパンツ。乾かしたての髪もまとめずに流している。

『お疲れ様。今日は朝と夕方と二回も戦うハメになったから、疲れたでしょ』

 そんな風呂上がりです。といった風体の悠華をテラが迎える。

「いんやそれほどでもぉ? 正直まだ実戦より婆ちゃんの稽古の方がきっついわぁ」

 相棒に軽い口調で返しながら、悠華は畳を踏んで自分の部屋に入る。

『えぇ……マジでぇ?』

 肩をすくめて笑う悠華をテラは苦笑交じりに眺める。

「そうそう。ウチの婆ちゃんは稽古は実戦以上に厳しくという主義なのよ。トホホ」

 軽口を返しながら、悠華は襖を開けて重ね畳んだ布団を引っ張り出す。

「それにテラやんと契約してからはホントに傷の治りもアホみたいに早いし、戦闘の傷や疲れは苦にならんね。いや残念ながらマジで」

 そして部屋の真ん中に布団を敷き敷き、二連戦を苦にしていないことを強調する。

『ならいいけど、無理はしないでよ? 特に戦闘では』

「アタシを誰だと思ってやがる。戦いで無くても無理や無茶なんかするもんかっての」

『そうだった。悠華はそう言うタイプだった』

 腕組み胸を張る悠華に、テラは吹き出すように笑みを深めて頷く。

 その間に悠華は整えた寝床に腰を下ろす。

「戦いって言やあさあ、テラやんの妹ちゃん? アンタがなんではっきり言えなかったのか理解できたわ」

『ゴメン悠華。フラムのヤツ、オイラが絡むと何でか見境無くなるから』

 たてがみ型の甲殻に守られた頭を伏せて詫びるテラ。そんな相方に悠華はひらひらと手を扇がせて笑う。

「やははん。びっくりはしたけど構やしないって」

 あっけらかんとした悠華の言。

 それにテラがもう一度頭を下げる。

 首肯とも礼とも取れるその動作から顔を上げると、小さなライオンもどきは表情を引き締めて口を開く。

『フラムと言えばあの契約者、いったい何者なんだろう? それにフラムにオイラの契約をでたらめに歪めて吹きこんだのも気になる……』

「吹きこんだ方はさっぱりだけど、契約者の方はいくらか見当はついてるよ」

 首をひねるテラに対し、悠華は敷布団の上で足を胡坐に組み直して膝に頬杖をついて呟く。

『ホントに!?』

「まあね。状況やらなんやらから考えると、ね」

 本来の姿の悠華を探していたこと。激昂するほどにその安否の心配をしていたこと。

 そしてそうした心情を抱えてあの戦いの場に駆けつけることの出来る者。

「気持ち的には、信じたくは無ぁいんだけどねぇ……」

 悠華はそれらの条件に当てはめて絞った候補の顔を思い浮かべて、ため息をつく。

 すると不意に机の上で着信音が鳴る。

 声を上げて持ち主を呼ぶスマートフォン。

 その呼び声に悠華は腰を上げて手に取る。

「どうやらあちらさんも察したみたいだあね」

 そして発信者を示す画面に目を落として、苦笑を浮かべてため息。その手に収まった電話には「みずきっちゃん」の文字が表示されていた。


※ ※ ※


 翌日の山端中学校。昼休み半ばの体育館裏手。

 そこで瑞希と悠華が並び座っている。

 普段の二人らしくもなく一言も言葉を口にせず。ただ時々探るように、互いに視線を向けては逸らしを繰り返している。

 タイミングを探り合っては図りかねて沈黙。

 気まずい膠着状態。それに悠華はサイドテール根元に触れて、意を決して顔を上げる。

「みずきっちゃん……」

「あのね……」

 しかし同時の切り出しに、出だしから言葉がかち合い交ざる。

「あ、ほんじゃみずきっちゃんから……」

「う、ううん。悠ちゃんから先に……」

 そして互いに話の切り出しを譲り始める。

 悠華はそんなやり取りに小さく吹き出すと、いくらか解れた笑みで頷く。

「分かった、じゃあアタシから。昨日は心配して探しに来てくれてあんがとね」

 はにかみながら礼を告げる悠華。昨夜メールで送った無事を知らせて詫びた物とは違うそれに、瑞希は赤縁の眼鏡奥で目を見開く。

「それじゃあ、やっぱり……」

 かすれた声で呟く瑞希。そんな親友に悠華は右手中指の指輪を掲げて見せる。

「そ、アタシが昨日の黒いヒーローの中の人。テラの契約者ってぇわけ」

 苦笑気味に緩めた頬のままに悠華が正体を明かす。

 すると不意に瑞希の眼鏡が激しく輝く。

『ノードゥスもらったぁあッ!!』

 炎にも似た輝きから叫び飛び出すもの。溢れた赤に融け込むようなフラムは、悠華の右手目掛けて一直線に飛ぶ。

「フラム、だめッ!」

『もきゃんッ!?』

 だがその飛翔を瑞希がとっさに尻尾を掴んで制止。それにフラムは目を剥き、全身の毛を逆立たせて悲鳴を上げる。

「止めてフラム! お願いだから!」

 相方が声を上げて怯んだ間に、瑞希は掴んだ尻尾を引きよせて豊かな胸に包み抱える。

『瑞希、どういうつもりよぉ! あたいを裏切るつもり!?』

 フラムは相棒の胸の内でもがきながら、非難の声を投げかける。

「……ごめん、ごめんねフラム。でも私、無理だよ……友だちをこれ以上傷つけるなんて、できないよ」

 対して瑞希は、捕まえたフラムごとその体を丸めて縮める。

「なるほど相棒と約束があったから……ならみずきっちゃんでも戦わなきゃってなるか」

 グランダイナの正体に戦意を無くし、相棒を止める瑞希。その姿に悠華は、平穏に済ませられる可能性を見込んで安堵の息を漏らす。

『なによぉ! アンタに何が分かるってのよぉ!?』

 しかし瑞希の胸の内にいるフラムは相棒とは対照的に敵意を剥き出しに唸り吠える。

 それには悠華も苦笑を深めて肩をすくめる。

「やぁれやれ。嫌われたもんだぁねぇ」

 そして右手中指に光る契約の法具を指で擦る。

「テラやん。こっちの説得は任せるよ」

『えぇえええええッ!?』

 山吹色の輝きの中から、驚きの声を上げて飛び出すテラ。

『あ、兄様ぁあああ!?』

 そんなこの場に現れた兄の姿に、フラムは瑞希の腕と胸の間で目を輝かせる。

 フラムが現金なまでに喜びを露わにする一方。テラは着地するや否や首を横に振る。

『いや悠華も昨日見てただろ!? 任されても今のフラムが聞く耳持たないし!』

「諦めんなよー。やれば出来る出来るってー。アタシらなんでも気持ちからって言うじゃんかー。もっと熱くー。燃えが足りんがー燃えたらんがー」

『うっわ悠華にだけは言われたくないセリフーッ!?』

 明らかに感情のこもっていない冗長な励まし。それにテラは苦笑交じりに身を引く。

『む、むぐぐぐぐぅ……ッ!』

 そのやり取りに、フラムは瑞希に抱かれたまま呻く。

「だ、ダメ! ダメだよフラム!?」

 火の舌をちらつかせるフラムを、瑞希は抱く腕に力を入れて制止しようとする。

 瞬間、不意に辺りの景色の色味が反転。

「なんじゃこりゃぁあ!?」

『この歪みはッ!?』

 学校の敷地を飲み込む、ひっくり返った色。

 敷地とその外とを区切る塀やフェンス。それを補強するように濃い霧が学校外の景色を覆い隠す。

「まさか……学校ごと幻想界にってぇことッ!?」

 その異常な景色を見回し、身構える悠華。その隣では、瑞希もまた不安げに周囲を探る。

『いや、ここは二つの世界の狭間……ヴォルスの作った歪みが生み出した奴らの領域だ! この景色や建物も幻に過ぎない!』

 警戒する二人の間で、テラが緊張に顔を強張らせる。

 その口が閉ざされるや否や、鈍い音が二人の背後から響く。

 固い物のへし折れ曲がるような音。それに悠華が振り向くと同時に、同じ音を響かせて二人の背負っていた鉄扉が歪む。

 そして三度目の音が響くと同時に、太い触手がひしゃげた扉を貫き飛び出す。

「やばいッ!?」

 とっさに悠華は瑞希を庇い、その場に身を伏せる。続いて触手が悠華の肩を掠め、靄を被ったフェンスにぶつかる。

うぅ……」

「悠ちゃん!?」

 うねる触手から離れながら、悠華は裂けて血の滲む肩を押さえる。

「なぁにかすった程度さ。婆ちゃんの拳の直撃に比べりゃ軽い軽い」

 悠華は案じる瑞希に軽口を返して立ち上がり、大木の様に太いタコの足へ身構える。

「さぁて、アウェーに引っ張り込まれたっぽいけど、やるっきゃないかねぇ」

「なら私も一緒に……」

『あたいは嫌だよぉ。やるんならアンタらだけで勝手にやればいいんだよぉ』

 親友と共にと慌てて腰を上げる瑞希。だが腕の中のパートナーが、その言葉と行動を遮る。

「フラムッ!?」

 瑞希は協力を拒む相棒を非難じみた声色で呼ぶ。

 悠華はそんなやり取りを交わす瑞希組を一瞥。動きの鈍いそれを認めながら胸の前で掌と拳をぶつけ合う。

「変身ッ!」

 早口の宣言と急いだ動作。

 それが幸いし、薙ぎ倒そうと振るわれた触手を光の殻が弾き返す。

「ヤッハアッ!」

 そして殻を破り現れたグランダイナは気合を一つ。テラと瑞希たちを抱えて地を蹴り跳ぶ。

 爆音と歪みを後にした跳躍。直後、その真下を二本目の大触手が貫く。

「……ホントに悠ちゃんが、こんな……」

 腕の中から上がってくる視線と声。

 呆然とした友のそれに、悠華はグランダイナの仮面の下で苦笑する。

「ねえフラちん」

 しかしグランダイナはそんな瑞希の視線は置いておいて、音もなく着地しながらフラムへ呼びかける。

『気安く呼ばないでよぉ!』

 無加工のフレンドリーな声音に返される歯を剥いての威嚇。

「ままま、それはともかくちょいと聴いてよ」

 しかしグランダイナとてこの返しは想定の上。すぐさま駆け出し、言葉を続ける。

「アタシは何もフラちんとテラやんを引き離したかった訳じゃないんよ」

『兄様を連れていってよくもそんなッ!』

 今にも噛みつき火を吹きそうなフラム。しかしグランダイナはそれにも、背後から降ってくる触手にも慌てず応対。

「ホぉントだってぇ。むしろフラちんを応援したい位なんだから」

 言いながら右へのステップで触手を回避。すかさず重い音を響かせたそれを左足で蹴りつける。

 吹き飛び、壁にぶつかるタコ足。鈍い音の響くその脇をグランダイナが走り抜ける。

『ならなんで故郷から兄様を!?』

「考えてみなって。幻想界じゃ難しいことも、アタシらのトコなら出来るかもって」

『え?』

 その一言に、今までの噛みつくようなフラムの目が一変する。

『ちょ、悠華?』

「どういうこと?」

 フラムの興味を誘った言葉。それにテラと瑞希は揃ってグランダイナに注目する。

 それにグランダイナは硬質なツインアイを明滅させて目配せ。そして後ろから迫る触手を肩越しに見やる。

「幻想界じゃ親の目が気になって出来ないことが出来るじゃないってぇコト」

『ふぁ!?』

『どぅえ!?』

 追い縋るタコ足をカウンター気味に蹴り返しての一言。それにフラムの目は輝き、テラは目玉を落とさんばかりに見開く。

「周りを壊したりなんだりしないなら、アタシらのトコなら思う存分仲良くしていい! アタシはフラちんとテラやんの兄妹仲を応援する!」

『マジで!?』

 さらに後押しの応援宣言。それに異口同音に竜の兄妹が叫ぶ。

 喜色満面と驚愕全開。籠った感情こそ違うものの声をそろえた兄妹に、グランダイナは横なぎの触手を踏みつけつつ頷く。

「もちろん大マジさ! みずきっちゃんと一緒にウチに遊びに来て、思う存分兄と妹で仲を深めるがいいぜよ!」

『今までごめんなさい。是が非でも協力させて欲しいよぉ』

 グランダイナの強い後押しを受けて、フラムは掌を大回転。今までの攻撃的態度を詫びて協力を申し出る。

「よしッ! みずきっちゃんこれで同盟成立ぜよ!」

「う、うん!」

 現状におけるフラムにとっての利を説いて取りつけた協力宣言により、二組が戦う必要が消滅。

 心置きなく共闘可能な同盟の成立に、瑞希の顔が安堵に明るくなる。

『ちょ、ちょっと待って! 同盟は良いけどオイラは!? オイラの負担がやけにデカイ気がするんですけどぉッ!?』

 しかしそこへ、テラが代価とした自分をほったらかしにまとまろうとする同盟話に激しく突っ込む。

「お主は何を言っているんだ? 兄妹での望まない戦いをせずにすむ以上のコトがあるのか? いや、ない」

『その通りだよぉ兄様』

 グランダイナの返しに、今までの態度が嘘のようにフラムが追従。

「あ、あの。フラムが行き過ぎないようにはしてみるからっ」

 さらに瑞希もフォローはしているものの、相方と親友よりに後押し。

 味方のいないこの状況に、テラは返す言葉を失ってうなだれる。

『さあ瑞希、あたいたちも行くよぉッ!』

 テラの無言を協調の為の負担認可と取ってか、フラムは目を輝かせて瑞希に号令をかける。

「う、うんッ! 転火、変現ッ!」

 相棒の態度の変化に戸惑いながらも、瑞希は変化のための言霊を放ち、眼鏡のつるを弾く。

 続いてグランダイナが触手を踏みきって跳躍。そして抱えていた友だちを上方向に投げる。

 空へ打ち上がった瑞希の体は、瞬く間に眼鏡から溢れ出した炎に包まれる。

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