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魔法少女ダイナミックゆうかG  作者: 尉ヶ峰タスク
ガール・ミーツ・ファンタジア
12/100

もう一人の契約者

「うおのわぁああッ!?」

 一本釣りで釣り上げられるように裂け目から飛び出す悠華。

 まるで投げ放たれた独楽の様に触手から解き放たれ、きりもみ回転に空を舞う。

「たわっばぁ!?」

 そのまま音を立て、声を上げ、地面へ落着。そして転がり仰向けに草原に倒れる。

「う、うわらばぁ……」

 悠華は陸の浮かぶ空を仰いで倒れながらも、どこか余裕のある呻き声を吐き出す。

 両手足を支えに身を起して、頭を振る悠華。

 そこへ脳天めがけた触手が迫る。

「ニョホッ!?」

 鞭の振り下ろしにも似たそれに悠華はとっさに横転。だがやり過ごしたかと思いきや、二本、三本と次々にタコ足の鞭が追いかけてくる。

「うわ! ひゃッ……ふひぃ!?」

 右へ左へと転げ回り、降ってくる触手をかわす悠華。

 しかし六本の足は悠華の転がる先に回って落ちてきて、まるでゆっくりと手のひらを閉じるように逃げ場を狭めて行く。

「まずっ!?」

 そして方々からの触手に追い詰められ、遂に逃げようの無いタイミングでの一撃が悠華を捉える。

「……ッツ!」

 思わず差し込んだ右腕を打たれ、その痛みに悠華の眉が堪らず歪む。声は噛み殺したものの、体は否応なしに強張る。

 その動きの鈍りを逃さず、更なる触手が悠華へ殺到。

 万事休す。

 もはや悠華は群がるタコ足にその身を縛られ、為す術もなく絞め潰されるしかない。

『うおりゃああああッ!』

 瞬間、悲観を突き破るように指輪が輝き、雄叫びを上げた地竜・テラが躍り出る。

 宝石に似たたてがみ状の甲殻が輝き開く。すると同時に悠華の周囲の地面が爆発。迫る触手を押し返し、悠華を地下へと落とし逃がす。

「ちょ!? ……おおっ?」

 荒っぽさの過ぎる救援。それに抗議の声を上げかけた悠華を、集まった土塊が下から支えて落ちる勢いを緩める。

 そうして出来た足場へ、テラも遅れて降り立つ。

『ゴメン、遅くなった。転移しかけたところで幻想界に移ったから、狂っちゃって』

「もうちょっと遅れてたらヤバかったけど、間に合ってくれたからよし!」

 援護の遅れを詫びるテラ。そんな相棒の素直な詫びに、悠華は親指を立てて見せる。

 そうしている内に足場となっている土塊が着陸する。

「洞窟?」

 テラの開けた穴が通じたのは広い空間であった。

 そこかしこに散らばる光を放つ菌類が、洞窟内部を星明かりのように照らしている。

 その明かりの中に浮かぶ異形の影。

 身構える悠華に対して、その歪な人影は身を捩って細いモノを伸ばしてくる。

「ヤッハァッ」

 だが悠華は半身の構えのまま素早く両手を打ち合わせる。

 拳と掌の間から、音を立てて広がる輝き。

 光を灯した手を振り上げ、迫る触手へぶつける。

 迎撃。そして間髪入れずに開き下ろした腕が、後続の触手を弾いて行く。

 そして下腹前で拳と掌が合流。それを合図に広がる光が即頭部を狙う触手をも跳ね返す。

 悠華をすっぽりと包み込む光の球。それは内で育つ雛鳥を守る卵のように、打ち込まれるタコ足の鞭を弾き続ける。

 やがてその強固な殻も、生まれ出でようとする内からの力に負けて爆ぜ散る。

 仄かな闇に融け行く光。その中心に浮かび上がる黒い巨体。硬質な全身を走るエネルギーラインが自らオレンジの光を放ち、辺りをより明るく照らす。

「ふうぅッ!」

 普段とはまるで違う低く重い吐息。グランダイナとして加工した声に続き、逆さスペードのバイザーの奥で硬質な両目が輝く。

 放った光と共に洞窟に広がり響く震動。

 その中心に立つグランダイナと向かい合い、触手の塊がその身をくねらせる。

 袋状の体を支える太い二本の触手。

 その逆側にある、眼球に挟まれた嘴形の口を備えた頭らしい小さな突起。それ以外の外縁部から六本の触手が放射状に延びる。

『ギギャギャギャギャ!!』

 タコを思わせるヴォルスは、いきり立ったように嘴を噛み鳴らし、骨の通わぬ体を捩る。

 瞬間、捩じり溜めたゴムの反発に乗せたように打ちだされた触手が放たれる。

「すぁらぁあ!」

 対するグランダイナは、厳つく逞しい巨体に馴染んだ気を吐き、肘を軸に左腕を立てて触手の鞭へぶつける。

 光を帯びた腕に絡みつくことなく跳ね返る鋭い肉の鞭。

 負けじと逆側からも繰り出されるそれ。

「オウッ!」

 だがグランダイナは踏み込みながら振るり上げた右腕で弾き飛ばす。

「……気合、集中……唱えて信じ、声を上げて鼓舞する……!」

 先達より叩き込まれた教えを唱えながら、グランダイナは鞭を弾き、タコ足と装甲をぶつけつつ前進。嵐の様な鞭の乱打にもまるで怯む気配を見せない。

 契約者としてのいおりの教え。それはある種の自己暗示であった。

 呪文の詠唱、決めポーズや定まった動作による精神的なスイッチ。それによって戦闘への集中を高め、迷いを押しやる。

 理屈の上ではスポーツ選手などに見られるプレー前の予備動作、ルーティン・ワークでのパフォーマンス維持と共通する技術である。

 このいおりが経験則で学んでいた技術を文字通り叩き込まれたことで、グランダイナのエネルギーラインを巡る輝きが安定。

 まだ悠華自身の軸には及んでいない表層を固める程度の付け焼刃ではある。だが、いおりの教えは不安定なグランダイナを支えている。

「ヤァアッ!」

 一際鋭い声を張り上げて三本束ねの鞭を殴り弾き、すかさず跳ね返したそれに自ら腕を絡めて掴み取る。

「ッハァアアアアアアッ!!」

 そして絡め掴んだタコ足を潰さんばかりに握りしめて踏み込む。

 激しく揺れる洞窟。天井から石や砂の降る中、グランダイナは触手を絡めた腕を振り上げる。

 それはヴォルス・オクトパスの地面に食いついた吸盤を力任せに引き剥がす。

『ギギギャアッ!?』

 嘴形の口からの悲鳴。

 回転するそれが岩壁に跳ね返り、続いて軟体の肉塊が激突する。

「ハッ! ハァッ! ヤァアッ!」

『ギ!? ギィ!? ギバァッ!?』

 繰り返し張る気合の声。それに伴い響く重い激突音。

 そしてグランダイナは左右の腕を輝かせ、右腕に掴んだ肉縄を絞るように引き寄せる。

「ハァアア! 宇津峰流闘技術! 翻土、転翔ォオッ!!」

 グンと勢い付いて迫る肉塊を見据え、グランダイナは左の震脚と同時に左の掌底を振り上げる。

『がぶぁばぁらッ!?』

 爆音。そして地震。

 洞窟を揺るがすほどの力が込められた掌の直撃。それに肉塊は繋がれていた触手が負けて千切れ、天井へと打ち上がる。

 さらに震動。

 天井部を震源とした地震を巻き起こしたヴォルス・オクトパスは、土壁に沈んだ勢いのまま上昇。テラのこじ開けた穴を押し広げて外へ飛び出す。

 そうして開いた穴から洞窟が崩落を始める。

『うわ、わ、と!?』

 さすがに潰されては堪らないのか、落石を避け走るテラ。逃げてきた相棒を抱えて、グランダイナは頭を越える高さにまで右足を掲げる。

「落ち着きなってのぉッ!」

 そして揺らぐ地面へ一喝と合わせて振り下ろす。

 重い音を響かせ、地に刻まれる魔法陣。

 印のように打たれた光輪が地に染み込む形で融け消えると、柱の崩れて揺らいでいた洞窟が支えの全てを取り換えられたかのように揺れを止める。

 落ち着きを取り戻した洞窟。その天井の穴から、グランダイナはテラを抱えて跳び出る。

 幻想界の太陽「ルクスの陽」に照らされた地上に降り立つグランダイナ。

 その正面には左の触手三本を半ばから失ったヴォルス・オクトパスが。

『シギ……ギ、ギギィ』

 タコのヴォルスは触手を引き千切られた痛みに悶え苦しんでいたが、グランダイナの戦車じみた重い歩みに身を起こす。

 残った触手をくねらせての威嚇。

 だがそんな虚勢などどこ吹く風と、グランダイナは勢いを緩めずに歩を進める。

 黒い戦士の躊躇皆無な接近に、ヴォルス・オクトパスは触手鞭で地を叩きながら後退。

 だがそれでもグランダイナは怯まず前進。

 威嚇しつつ後退。

 構わず前進。

 威嚇、後退。

 無視、前進。

 後退。

 前進。

 そんな追跡を繰り返した末に、ヴォルス・オクトパスはバランスを崩し、その歪な軟体を後ろから倒す。

 べシャリと音を立てて倒れたタコ。

 グランダイナはその機を逃さず、爆音に似た足音を轟かせて一気に踏み込む。

 だがその瞬間、二足歩行用の触手の付け根にある二つの墳口が展開。墨色の霧が噴き出される。

「のわッ!?」

 猛然と噴き出し視界をふさぐ煙幕。それにグランダイナは堪らず驚き声を上げる。

 僅かに足を鈍らせたものの、敵の姿をくらませる黒い煙を薙ぎ払いながら突撃。

 だが煙幕を突き抜けた先に、ヴォルスの姿は影も形もない。

「逃がしたッ!?」

 グランダイナは焦り頭を巡らせ、消えた敵の姿を探す。

 だが求めるタコの姿は足の先すら見つかることは無い。

 グランダイナは敵の奇襲を警戒し、探す目を走らせながら身構える。

 風と草葉の揺れる音が妙に響く静寂。

『あれだけの間に遠くに行けるハズはないよ。オイラも地面を使って探すよ』

 テラはそう言ってグランダイナの腕から飛び降りる。

「ちょい待ち!」

 だがグランダイナが制止しようとするが早いか、落下途中のテラの体を触手が絡め取る。

『うわ、わあ!?』

「言わんこっちゃない!」

 相棒の拉致を阻止しようと手を伸ばすグランダイナ。だがそこへ四本の触手が邪魔させまいとまとわりつく。

「うげッ!?」

 二足立ちに使っていた足を含む四本のタコ足。両の腕に巻き付くそれに、グランダイナは思わず素に帰った声を上げる。

 残った手足の全てを駆使した渾身の締め上げ。不意を突かれたグランダイナの腕関節は極って、持ち味の怪力も封じられている。

『く、くそおッ!』

「テラ……ッ!」

 もがいている間にも、テラを巻き取った触手は持ち主へ。その両目に挟まれた口目掛けて進んでいく。

「翻土棒ッ!!」

 大口を開けたタコに招かれる相棒を見かねて、グランダイナは叫び土を蹴る。

 抉るように土を巻き上げる蹴りと呼び声に応え、山吹色の輝きが土塊に混じって飛び出す。

 保護膜を剥がすように光を脱ぎ捨て現れたバトルロッドは、テラを招く触手を追い抜いてタコの口へ収まる。

『ガバアバッ!?』

 山吹色の戦棍を口から生やし、悶えるヴォルス。その触手から零れ落ちたテラ目掛けて、グランダイナは緩んだ触手を振りほどいて駆け出す。

『お、わ!?』

「よっ……とぉッ」

 グランダイナは放物線を描く鎧ライオンを左手に受け止め、落とさぬように抱える。

『ギバァアッ!』

 そこへ狙いすましたかのように噴き返される翻土棒。

「……っととぉおッ!?」

 だがグランダイナは空いた右手で得物をキャッチ。左に抱えたテラを後ろへ逃がしつつ突っ込む。

「返してくれて、ありがと……さんッ!!」

『ギギィ!?』

 体に巻きつかせるように棍を振るい駆けこんでの横一閃。

 閃いた山吹色の打撃は触手のガードもろともにヴォルス・オクトパスの軟体を叩き、吹き飛ばす。

『ギャッ!? ギギィイッ!!』

 膨れ腹から地面にぶつかり跳ねながらも、ヴォルスは五本のタコ足を駆使して追い打ちを牽制。

 だがグランダイナは右へ棍を打ち、返す一打で左を払い、触手の鞭が作る壁をこじ開ける。

「ハ! ハ、ハァッ!」

 行く手を阻む肉鞭の壁に穴をあけて突き進むグランダイナ。

 だがヴォルスは弾かれた触手を巻き取るように収めながら再度煙幕を噴霧。視界を塞ぎにかかる。

「二度同じ手が通じるかってぇの! 翻土棒、三節転ッ!!」

 主の命に応えるように、翻土棒はその身に二筋の光を走らせ、分割。オレンジの魔力文字の鎖で繋がれた三節棍へ変化する。

「ヤァッハァアアアアッ!!」

 威勢良い声に乗って伸びる銘打たれた第一節。通常の三節棍と異なり、伸縮自在の魔力鎖で繋がれた棍はその射程を大きく伸ばして煙幕を貫く。

『グギィッ!?』

 煙向こうから上がる苦悶の声。それに姿をくらませての仕切り直しを防いだ手応えを感じ取り、グランダイナは残る二節を左右の手に握り、槍のように構えて突進。

 煙幕を吹き飛ばす勢いでの直撃。そして接続。

 墨色の霧が晴れた後には、一本の棍に戻った翻土棒を止め杭として地面に繋がれたタコの姿があった。

「そぉりゃあああッ!!」

 突き刺した地面もろともに翻土棒を振り上げ、ヴォルス・オクトパスを打ち上げるグランダイナ。

 そして振り上げた勢いのまま再び三節棍へ変じた得物を振るい、浮かび上がった敵に打撃を浴びせる。

 打ちおろし、振り上げ、右薙ぎ、返し。

 時に大きく伸ばし、時に身に纏うかのように。

 嵐の如き打撃で敵を空中へ浮かせ続ける。

「いぃやっはぁあああああああッ!!」

 そして締めとばかりに、遠心力を存分に上乗せした一際大振りの一撃でタコを叩きつける。

 鈍い音を立てて堕ちるヴォルス。

 グランダイナはそれを見据えて、三角形を描いた翻土棒を右腕に纏わせ拳を構える。

 しかしその瞬間、タコへ降り注ぐ火炎。

「なッ!?」

『この炎、まさかッ!?』

 突然の横槍に、グランダイナとテラは揃って熱気から身を庇う。

 立ち上る火柱。その種の振ってきた方向へ顔を上げる二人。

 そこには浮かぶのは、長袴の巫女服に千早を羽織を纏った一人の神道巫女。

 緩く波打つ赤い髪。それを飾る炎を模した金の髪飾り。

 そして顔を角付きの狐か狼を思わせる赤い面で隠した巫女であった。

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