077.意識的おねだりと無意識おねだり
十二月です。
こちらではクリスマスは当然ありません。
教団が片付いたら、四季のお祭りを作る話はゼファス様ともしているけど、今はない。
新年になると全員が一斉に一歳年をとるので、その時にはちょっとしたお祝いをする。つまりみんな誕生日。
日本のお正月みたいなのはない。
学園はあと十日程登校したら冬休みに入る。
私はいつもの如く冬篭り用の本を探す……のだけれど、今年もアンクルモアシリーズの最新刊を購入したので、堪能するのです。
今年は四冊発行されたのだ!
あぁ、楽しみ! 早く冬休みになぁれ!
そうだ、シェフに頼んで、ガレット・デ・ロワを作ってもらおう。
今年は準備出来ていないから、アーモンドで代用して、来年はラトリア様にお願いして陶器の王冠とか鳥を作ってもらおう。流行るかな?!
うふふふふ、楽しそう。
「ミチル、新年のお祝いにジーク様に何を贈ればいいかしら?」
モニカ本人をあげるのが一番喜ばれると思うよ、と心の中で答えていたら、モニカにじとっと睨まれた。
「変なこと、考えてますでしょう」
ぎくっ。
「いいえ? 殿下はモニカからの贈り物でしたら、何でも喜ぶと思いますよ?」
うふふ、と笑ってごまかす。
鋭いな、モニカ?! びっくりしたよ?!
なんでバレた?!
そこからぐだぐだと、あれでもないこれでもないと始まって、最初は真面目に答えていた私は、またしても心の中でユーが贈り物になっちゃいなよ、とツッコミを入れた。
「ミチルこそ!」
「?!」
突然モニカが大きい声を出すからびっくりした。
「来月、ルシアン様に何を差し上げるのですか?」
そうなんですよ。
実はモニカの相談に乗ってる場合ではなく、私も考えなくてはならないのですよ。
去年はチーズケーキを作って食べてもらったんだけど、今年もスイーツというのもね、喜ぶとは思うけど。
香水も時計もあげたし、結構悩ましいよね、男性へのプレゼントって。
そうだ!
思わず手を叩いてしまった。
「何か思い付きましたの?」
「マフラーを編みます。ルシアンはノウランドのような寒い場所にも行くので、使えますもの」
「私も作りますわ!」
……王子にマフラー?
使うっけ……?
「いいのです! ミチルと一緒に作ることが大事なのです!」
本来の目的の王子へのプレゼントという意味合いが消えた瞬間だった。
学園近くのお店が建ち並ぶストリートに、モニカとルシアンと殿下の四人でいる。
本当はモニカと二人で来たんだけど、ルシアンがコンパス機能をフル活用して来ちゃったので仕方なく……。
しかも王子も連れて。
……王子、忙しいんじゃなかったっけ?
まったく、情緒もへったくれもないですよ。
乙女心をなんだと思ってんですか。
……と、最初は思っていたんだけど、こうしてズラリと並ぶ毛糸をルシアンにあてがってみると、自分が思っていた毛糸の色がイメージと違っていて、いてくれて良かったかも、と思った。
自分へのプレゼントとしてマフラーを私が編むと知った途端に、ルシアンは笑顔になって、周囲のお客さんたちが大変なことになってるけど、私は何も見えない気がつかない。
「ルシアン、この色はどうですか?」
最初は暖色にしようかと思ってたんだけど、ルシアンの顔立ちにはやっぱり青系が似合うし、なにより私が青系好きな為、気が付いたら青系の棚の前に来ていた。
「キレイな色ですね。私としては、ミチルの瞳の色も捨てがたいですが」
私の瞳と同じ色だとちょっと明るすぎて、マフラーにすると存在感がありすぎるんだよね。
「グリーンはいつも何かしら身に付けてらっしゃるでしょう?」
よし、エジプシャンブルーに決めた!
毛糸を五玉と編み棒を持ってレジに向かったら、ルシアンが支払いをしようとするので必死に阻止し、セラに払ってもらった。
危ない危ない。
ルシアンは私にお金を使いたい人なので不服そうだった。
おかしいから! それ!
プレゼントなのに本人に材料費払ってもらっちゃうところでしたよ!
買い物を終えて、モニカと王子はどうなったかなーと思って見に行ったら、いちゃこらしてて何も決まってなかった。
君たち、なにやってたの? 今まで……。
「あの……まだお時間かかるようなら、先に帰ってもよろしくて?」
恐る恐る話しかけると、二人は笑顔で頷いたので、ルシアンとお店を出た。
あれはマフラーそのものが立ち消えそうだな……。
やっぱりモニカがプレゼントに……。
「私も何かミチルに贈り物がしたいです」
なんだ急に?!
あからさまに不機嫌そうな顔でルシアンが言った。
「ミチルは全然欲しいものをおっしゃって下さらないし、母上ばかりミチルに贈り物をしています」
お義母様からは定期的にドレスが届きます。あれ、定期便らしいよ。
まぁまぁ、と苦笑しながらセラがなだめてる。
なんか変な図。
そんなこと言われても困ったなー、欲しいものないからなー、本も買っちゃったし、と思いながらルシアンから逃げていたら雑貨屋さんが見えた。
大きな窓から店内の様子が見える。
簪が並んでる。しかも和風、っていうか燕国風か。
「あのお店に入っても良いですか?」
セラとルシアンが頷く。
お店の中に入りさっき見かけた簪を探す。
私を追いかけてルシアンとセラも店内に入ってきた。
店内に既にいたお客さんたちがセラとルシアンを見て色めき立つ。
デスヨネー。
あった!
蓮の花の簪!
淡いピンク色の花弁は、根元から先に向かってピンク色が濃くなっている。花弁が幾重にも重なっているのに、花弁のグラデーションの所為なのか、ピンクが強すぎず、淡い印象さえある。
横に添えられた葉は、翡翠色でこれも淡い色合い。
ちょっと付けてみたい。
「付けてみてもいいかしら?」
店員さんに声をかけると、笑顔でOKしてくれた。
さすが貴族も来るストリートです。店内に鏡があります。
鏡の前に立って、蓮の花の簪を髪に合わせてみる。
うん、私のアッシュブロンドでも、合いそう。
「どうですか? ルシアン、似合いますか?」
ルシアンの方を向くと、ルシアンが口元に手を当てて、私を見てる。
「……よく似合ってますよ」
セラが私にこそっと、おねだりするのよ! と言うので、あ、なるほど、と思った私は、祈るように手を合わせて、ルシアンを上目遣いに見つめてみた。
おねだりのお作法、これであってる?
「ルシアン、私、この簪が欲しいのです。出来ましたら、ルシアンからいただきたいですわ」
セラがあちゃーっという顔をしてる、おねだりとしていかんらしい。
おねだり難しい……。難しいよ……。
ルシアンはふふっ、と笑って、いいですよ、と言ってくれた。
おねだりのお作法としてはいかんかったけど買ってくれるって!
ルシアンに簪を買ってもらったので、店員さんには直ぐにつけるから包装は不要だと断りを入れた。
はい、とルシアンに渡すと、きょとんとしている。
「ルシアンが私の髪に挿して下さいませ」
そうお願いすると、ルシアンがうっとりした顔をした。
ちょっとちょっと! 色気がダダ漏れですよ?!
周囲の女性客が赤面してますからね?!
「ミチル、もう一度言って?」
何を?!
「え? 簪を、ルシアンの手で挿して欲しいです?」
「何で疑問形なのよ……」
イヤ、だって、何故に復唱させるのか不明じゃない?
セラにツッコミを入れられながら、ルシアンに背を向け、簪を挿してもらった。
「ありがとう、ルシアン、大切にしますわ」
お気に入りの簪が出来て嬉しくて、ルシアンに笑いかけたら、ルシアンが顔を手でおおった。耳が赤い。
照れてるっぽい。
「可愛い……」
ルシアン、漏れてる、漏れてるよ……!
なかなかルシアンがその場から動かないので、ルシアンの手を引いてお店を出た。
帰りの馬車の中、ルシアンが「ミチルへのプレゼントに、髪を飾るものはいいですね」と言い出した。
また、そうやって無駄遣いを……。
「あと数ヶ月で卒業だし、成人すれば髪も結い上げるから、髪飾りはいくつあってもいいと思うわ☆」
セラまで無駄遣いを唆そうとしてるし。
でも、そうか、あと数ヶ月で私も成人扱いなんだよね。
年齢的には一年早いけど。
「セラも髪を結いあげたらどうかしら?」
名案でしょ!
絶対このド級美人は似合う!
「……ミチルちゃん、ワタシの性別忘れてない?」
「存じ上げてますけど、セラなら似合うと思って。
あ、私とお揃いとかどうですか?」
「しないから!」
「えぇー……っ」
拒否されたー……。ショックー……。
姉妹でお揃いみたいで楽しそうなのにー……。
「セラ、ミチルもこう言ってるから」
「ルシアン様まで何言ってるの?! 男なんだってば!」
そんなの大したことじゃないヨー。
屋敷に戻った私は、前世の記憶を総動員して、編み物を始めた。
細すぎても太すぎても良くないんだよね、幅。
幅を決めてルシアンにあててみる。
……うん、このぐらいかな?
書斎にいるルシアンにちょっとだけお邪魔させてもらって、マフラーの幅を決めた。
ルシアンはずっとにこにこしてる。マフラーがそんなに嬉しいのかな? 手作り好き?
その話を部屋に戻って、セラのお茶を飲みながらしたら、呆れられた。
「マフラーがって言うより、ミチルちゃんからルシアン様に近付くからじゃないの?」
え? 私からルシアンに近付くとか、普通に……普通に………あんまり……してない……。
いつもルシアンから来てくれてマス……。
「自覚なかったのね?」
ため息混じりに言うセラ。
「だ、だってあの、ルシアンはいつもお忙しいから、邪魔してはいけないと思って……あの……」
すんませんっした……。
いや、忙しいから邪魔しちゃいけないって思って、近寄らないでいたのは確かなんだけど。
それにさ、淑女はさ、ベタベタしちゃ駄目って教わったよ?
何が正解なの?!
分かんないよ?!
「普通は違うんでしょうけど、ルシアン様がそれを喜ぶんだから、もっとミチルちゃんから行ってもいいとは思うけど」
でもそういう加減って難しいよね?
調子に乗ってうざがられる未来とか、容易に想像出来ちゃうからね!
「た、たまに、やってみます」
セラがにやっと笑って「いいんじゃない?」と言った。
ご機嫌だったルシアンが仏頂面になってるのは、不意打ちでラトリア様が来たからで。
しかもというか、今日に限って夕食が私のオムライスだったのもあって、ミチル作オムライスを美味しそうに食べるラトリア様を、今にも殺しそうな目でルシアンが見てる。兄に向ける目じゃないよねー……。
ラトリア様がまた、青磁の食器を持って来てくれたことがルシアンの逆鱗に触れたっぽい。
そうは言っても、私は青磁の器が好きだし、もらえると嬉しいしで、困る。
こ……これはもう……腹をくくってですね……。
「ルシアン、あーん」
チキンライスと玉子をスプーンで掬って、ルシアンの前に差し出すと、ルシアンの氷の表情が溶けてきた。
ぱくりと頬張るルシアン。
う、可愛い……。
きゅんとする。
「美味しいです、ミチル」
美味しいと言われて嬉しくて、つい、にやついちゃうのを必死に我慢する。
「熱々だなぁ……兄の前なんだから遠慮してくれても良いんだよ?」
呑気なラトリア様の発言に、さすがに私も殺意を覚えた。ユーの為にやってるんだけど?!
「邪魔で邪魔で仕方ないと思ってましたが、ミチルから食べさせてもらえるのであれば、また来てもいいですよ、兄上」
ルシアンの言葉に、ラトリア様の表情に衝撃が走る。
「?!」
喜んでいいのか、悲しんだほうがいいのか、迷っている複雑な顔のラトリア様に、同情した。
弟はやっぱり容赦なかったです……。
帰り間際、ラトリア様が言った。
「父上がバフェット公爵と接触した。
皇女に魔力の器が無いことを教えたようだ」
予定通りですね、とルシアンは返す。
「あちらは忙しいだろうけど、こちらは冬休みと言う事で様子見させてもらおう」
真剣な表情からいつもの軽い表情になると、「では、おやすみ」と挨拶をしてラトリア様は帰って行った。
おねだりはヒロインが超絶得意ですよね




