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転生を希望します!  作者: 黛ちまた
イリダ編

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360/360

あなた

ルシアン視点です。


後書きに色々書かれたくない、と言うご意見があるようですので、活動報告に後書きを書いておこうと思います。


庭に咲く花を、彼女の枕元に飾る。

その花を選ぶ為に、庭に出る。

それが俺の日課だ。


呪いのように続く日々に、初めの頃は胸が軋み、いつか心が潰れて死ぬと思った。

それなのに、死なない。

死ねない。

己のしぶとさには冷笑しか出てこない。


目覚めない彼女が、再び目を開けて俺をその瞳に映してくれるのではないかと、今でもその淡い期待を捨て切れない。

愚かだ。

分かっている。

それならばいっそ、己が施した虹色の魔石の効果を信じ、ミチルを殺し、自分も死んだ方が手っ取り早いのではないかとも思った。


出来なかった。

もし生まれ変わらなかったら?

生まれ変われたとして、ミチルが俺を覚えていなかったら?

確実な物など、何一つありはしない。

そんな不確かな物に全てを賭けて、得られるかも知れない未来を捨てられなかった。

そうしている内にもう三年。

まだ三年なのか、もう三年なのか。

長いのか短いのかも分からない。


惰性で眠り、惰性で食事をし、惰性で職務をこなす。

全てが惰性。

ミチルのいない世界など、こんなものだ。

そんな事、分かっていた。

幼少期に己が思っていた未来を過ごしているだけだ。


それなのに。


毎日毎日、ミチルが目覚める事を願い、祈り、絶望する。

もしこのまま彼女が目覚めないのなら、心など無くなってしまえば楽になるのに。


咲いた白い百合を鋏で切り、雄蕊おしべを全て落とす。花粉で白い花びらが汚れないように。

百合から漏れる香りに、胸が苦しくなる。

ミチルが好んで付けた香水は、百合の香りだった。

この香りを嗅ぐと、ミチルが側にいるかのような気持ちになり、喜びがわく。

でも、直ぐにその喜びは萎み、苦しくなる。

彼女が側にいない事を、思い知らされる。

それでも、ほんの一瞬の喜びを感じたくて、百合を摘む。


ミチル。

今、何処にいる?

俺の声は届くだろうか?


愛してる。

たとえ貴女の目が俺を映さないとしても。

何度でも、伝える。


不意にガタガタと物音がして、思考が中断させられる。

ミチルを想う時間すら持てないのか。


音は上からする。

見上げた先に、窓にミチルが見えた。


遂に幻覚が見えるようになったのか……?

あぁ、それでも良い。彼女に会えるなら。


窓が開く。

身を乗り出して彼女が呼んだ、俺の名を。


「ルシアン!」


幻聴ではないと思いたい。


「……ミチル……?」


声がかすれる。


「ルシアン!!」


幻聴じゃない。

幻覚じゃない。

彼女が、ミチルが、ミチルがいる……!


彼女のいる窓に向かって走る。


動かないで。

危ない。

落ちてしまう。


身体の向きを変えたミチルは、窓の縁から落ちた。


「ミチル!!」


全速力で駆ける。

駆けて、腕に抱きとめる。


「ルシアンにこうして落ちるのを助けていただくの、二度目ですわ」


こんな時なのに、何て悠長な事を言うんだろう。


何を言えば良い。

言葉に詰まっていた俺に、ミチルの唇が動く。

声は出ていない。

彼女の癖なのだ。思っている事を、声に出さずに言ってしまうのは。


"ただいま"


首を軽く傾げる。

"ただいま?"と言ったのだろう。


"おはようございます"


これもまた首を傾げた。


たまに見せるとぼけた姿を見ていたら、夢でも幻覚でもないのだという実感が迫ってきた。

あぁ、いつものミチルだと思った。


「おかえりなさい、ミチル」


戻って来てくれた。

俺の元に。


「ただいま戻りました、ルシアン」


そう言って微笑むミチルの瞳に俺が映っている。

ホーリーグリーンの瞳に。

生きてそこにいるから、その瞳に映る事が出来る。


抱き締める。

温かい。

ミチルの腕が首に回される。


「ミチル」


会えた。

また会えた。

もう二度と会えないと思っていた。

諦めもあった。

諦めない気持ちもあった。


抱き締めていた腕を緩め、顔を見る。

額に口付けを落とす。

瞼に、鼻に、頬に。


「愛してる、ミチル、愛してる」


何度も言いたい。

何度でも聞かせたい。


「ルシアン、ちょっと下ろして下さいませ」


何をするのかと思いながらも、下ろす。


「あの時、マグダレナ様に、私の願いを叶えると言われて、ルシアンが望まないと分かっていながら、ルシアンを助けて欲しいと願ってしまったのです。勝手な事をして、ごめんなさい」


俯きながら、あの時の気持ちを吐露するミチルに、愛しいという気持ちがわいてくる。


「怒って……らっしゃいますか……?」


伺うように見上げる顔は、不安気で、その眼差しに胸が幸福感でいっぱいになる。


「目覚めてくれた。それだけで十分です」


ホッとした様子で、微笑む。

あぁ、初めて見た時から変わらない、柔らかくて優しい笑顔。好きで堪らない笑顔が、目の前にあった。


頬に口付ける。

ミチルも俺の頬に口付けてくれた。


視線が重なって、どちらからともなく、口付けた。

唇を離し、まぶたに口付けを落とす。


愛しい人。

誰よりも何よりも。


「ルシアンに、ずっと言いたくて言えなかった言葉があるのです」


ミチルは俺を見て、頬を赤らめる。


「愛してます、ルシアン」


最愛の彼女が、俺に愛を囁いてくれた事に胸が震える。


「知っています。あの時も、言ってくれたでしょう?」


「聞こえたのですか?!」


驚いた顔からして、本当にあの極限状態で、俺に心を捧げてくれたのだと分かる。


「聞こえました」


ミチル。

貴女に会えて良かった。

貴女だけを求めていた。

貴女に、愛された。


涙が出そうになる。

きっとこれが、幸せと言うものなんだろう。

こんなにも、胸から溢れそうになる気持ちを、他に何と表現していいのか分からない。


「愛してます、ミチル。誰よりも、貴女を愛してます。

貴女だけを、愛してます」


ミチルの目から涙が溢れる。


「私も愛しています」


口付けをして、誓う。


「何度生まれ変わっても、あなたを愛し続ける」


絶対など、永遠など無いと言われても。

何度でも愛を告げ、愛を乞う。

何度でも誓う。愛し続けると。


だから、側にいて。





fin


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― 新着の感想 ―
[良い点] 読了しました! 大団円。よかった大団円だ。 ジャックとジル完結から短編、痴れ者、こだわりと遡りながら読みつつたどりついた360話の大長編。読みごたえありました。 もう感無量過ぎてありがとう…
[一言] 本当にこの作品が好きです。時々、チラホラ読み直していましたが、とうとう今回2週目を最初から一気に最後まで読み直しました。1度目よりも面白かったです。先を知っていても、ドキドキしながら、早く続…
[良い点] 遅ればせながら大変楽しく読了させていただきました。 小さな恋の物語から始まり、国から大陸、大陸から世界へとどんどん壮大な話になって行くのに、結局ブレないミチルとルシアンの愛の物語が本当に素…
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