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転生を希望します!  作者: 黛ちまた
イリダ編

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鬼が出るか蛇が出るか

言綏視点です


今日も二条様はホルヘとアドリアナに捕まったようで、テーブルの上には海鮮料理が所狭しと並び、湯気を立てている。心なし昨日より量が増えているような……?


『何の情報を教えなされました?』


昨日は燕国の、公方を頂点とした組織形態。それから、あざな文化についてと、燕国独自の陰陽道について。

他国に知られた所で何ら問題の無い話をして下さっているようで、何より。

燕国の独自文化であるから、イリダからすれば面白かろうと思う。


『では、若君の釣果をお伺いしながら、馳走になりましょうか』


テーブルの上に酒を置く。

若君の目が酒に注がれる。


『それは酒か?』


『左様です。この土地の料理にはこの土地の酒が合うかと思い、求めて参りました』


『それは良い』と答える若君の目尻が下がる。


『杯を用意する』


奥より杯を二つお持ち下さる。二条様は酒がお好きであるからな。

これまでも幾度となく酒の差し入れをしたものだ。


酒を飲み、海鮮料理を馳走になりながら、ホルヘやアドリアナから仕入れた話に耳を傾ける。


イリダの下級国民が研究施設での勤務を熱望する理由は、自分達の生活向上の為である事は分かった。

下級国民の生活水準は良い者は豊かな暮らしを営んでいるものの、そうではない者はその日暮らしのような生活を送っていると言う。

不満が排出しないのは、子供に対して一律に学習する仕組みが確立されており、その点において貧富の差が出ない為だった。仕組みは用意されている。上に行けないのは才能が足りないからだ、と。燻る気持ちを己が身の内に閉じ込めているのが精々だろうと。

不満の抑え込みは中々のものではあるが、消せはしない。敢えて消さずにその思いを原動力とさせているのかも知れぬ。

問題は、能力は足りているものの、人格的な問題で研究施設への入所が叶わなかった者だろうか。不満は蓄積するだろう。りとて己の性根の悪さが原因で拒絶された事を声高に言う事は出来ぬ。

嫌らしい事この上無い。


『言綏は、絶対に入れぬな』


そうおっしゃって笑う二条様を、直視する。大分、酔いが回ってらっしゃるように見える。


『入れると思いまする』


『無理であろう』


『その、人格を判断するものの上を行けば良いので御座りましょう?造作もない』


二条様の顔から笑顔が消える。今ので酔いは冷めまいな?


『……其方そなたはそう言う奴だったな……』


『今更何を仰せです。その仕組みはもうずっと前から存在するのですから、その為に己を表面上 たばかれば良いので御座ります』


何とも言えない表情になってらっしゃるので、酒をぐ。あまりに注いでばかりだと気取られるので、自分も飲む。


『それにしてもこの酒は、強いな』


『なかなかに呑み応えがありますなぁ』


酒を飲み、海鮮料理を口にする。


『ホルヘ殿とアドリアナ殿は、不思議なのだ』


話し方が大分砕けてきている。


『不思議とはどのような?』


『良い方達なのだ。職務にも忠実で』


頷きながら酒を飲み、続きを促す。


『様々な事を熱心にお話しになるのだ。イリダの民の生活の事など、私が聞くより先にお話し下さるぐらいだ。人が良いからであろうな、質問にも疑いなく答えて下さる』


ふむ。


『うむ……そうか……分かった。お二人とも、あまり職務内容をお話しにならぬのだ。夢中になっているものについて話す時、興奮して周囲が見えなくなる、と言うのがあろう?それがあのお二人にはない。

機密だからと言うのは分かっておる。分かっておるが、何と言うのか、何処か冷めているように感じる事がある』


『成る程』


頭脳明晰で人が良い、等と胡散臭い事この上無いと思ぅていたが、そう言う事であったか。

ホルヘもアドリアナも、良き隣人であろうと振る舞っているが、内面はそうでは無いのであろう。

何かしら思う所あって二条様に接近していると見て間違いないな。


『お二方は、某の事はご存知で?』


『んー……とても頭が良さそうな人だと評しておったぞ。頭は良いが性格は難ありと伝えておいた』


そうおっしゃるとにやりと笑みを浮かべる。してやったとでもお思いであろうが、お好きになされば良い。


初日に二条様と街中を練り歩いたぐらいであるのになぁ。

随分と人間観察がお好きと見える。

単純に、知的好奇心を満たす為であるなら、頭が良さそうな某に接近すると思われるが、そうではなく、二条様に話を聞いたと言う。

御しやすいと判断して、二条様に接近を図っていると言う事であろうなぁ。


『言綏、聞いているのか?』


『聞いておりませぬ。酔っ払いの戯言など』


『酔っ払ってはおらぬ』


不満気に口を真一文字にする。うむ、酔ってらっしゃる。

酔わせたいのであるから、そうでなければ困るが。


『お二方はどういった質問をなされまするか?』


『うーむ……燕国の事をよくお尋ねになるぞ。あ、今日は他国との交易の有無について問われたなぁ。燕国からイリダに持ち込む物品の中にはマグダレナ大陸からの物もあるから、気になっていたようだ。マグダレナからのものは物珍しく、高値なのだそうだ』


『……左様に御座りますか。好奇心旺盛ですなぁ』


その質問さえ無ければなぁ。

魔石にだけ関心がお有りなのであればまだ、良かろうに。


若君の目蓋が、自然と下りている。

暫く様子を見守りながら、酒を嗜む。


『二条様』


『んー……』


眠りに入ったようだ。これなら、しばらく目覚めまいな。


そのままテーブルに突っ伏されたので、食器類を洗って重ねておく。

水を一杯飲み息を吐く。


『……さて』


鬼の待つ地に向かうとしよう。




指定された場所にて、待つ。

約束の時間、果たして使者は某を迎えに来た。

現れたのは数人の男。


「場所を変える」


「すまぬが、場所を知られると困るのでな、目隠しをさせてもらう」


目を閉じ、手を開く。


如何様いかようにも」


目を覆う布が何重にも巻かれ、身体を回転させられる。

何方どちらを向いてるのか分からせない為であろうが、拠点には関心が無いので好きなようにさせる。

それに、わざと遠回りもしようし。袋にでも入れて連れて行ってくれれば良いと思う。その方が楽である。

仮眠も出来て一石二鳥なのだが、その考えは無いらしく、無駄に歩かされたのは食傷してしまうと言うもの。


如何程いかほど歩いたか、体感的には一刻程と言った所か。

止まれ、と前から声がした。

言われた通りに立ち止まる。


「段差がある。目隠しを外す」


布が取り払われ、視界が開ける。

あまり視力にばかり依存しないように修練はしているが、やはり見えるのと見えぬのでは大きく異なる。百聞は一見に如かずとは、良く言うたものである。


目の前には大きな観音開きの扉。

開かれた扉の中に足を踏み入れる。


御免仕ごめんつかまつる」


「……それは、どう言う意味だ?」


「邪魔をする、と言う意味に御座りますよ」


「燕国ではそのように言うのか」


左様、と答える。


薄暗い廊下を進む。

再び閉ざされた扉の前で立ち止まる。

扉を軽く叩く。


「入れ」


低いが張りのある声。声の主は妙齢の御仁であろう。一概には言えぬが、体格の良い人物特有の太めの声である。


扉が開く。

次第に見えて来た部屋の中央に、楕円のテーブル。

正面に座る御仁は、顔の前で両手を組み、鋭い視線を某に向けている。

四十路程の御仁が二人、中央の人物の脇を固めるように座っている。

背後で扉が閉まり、鍵のかかる音がした。


これは、当たりやも知れぬ。


「お前が燕国からの闖入者か」


値踏みするような、油断の無い視線。

自然と溢れる笑みを隠さず、深くこうべを垂れる。


「お初にお目もじつかまつります、我ら燕国の祖であるオーリーの長、アスラン王」


眉間に皺を寄せたかと思うと、大きく息を吐き、目の前の御仁は背凭れに寄り掛かる。


「こちらの事はお見通しか。ただの出入り商人とは思ってはいなかったが、そなた、燕国でも上位に位置する者だろう」


「燕国国主、公方を努めます日生ひなせ家に代々お仕えしております、多岐家四男、言綏ときまさと申しまする」


「は、これは随分と大物が潜り込んだものだな」


座れ、と命じられ、引かれた椅子に腰掛ける。


「何しに来た。苦情なら受け付けんぞ」


「苦情なぞ」


詮無い事。


「某、マグダレナからの使者としてこちらに参りまして御座ります」


マグダレナと言う言葉に、アスラン王の眉が動く。両隣の方々からも動揺が感じられる。


「マグダレナ、だと?」


「左様」


「マグダレナ大陸に公方家嫡男が引き込んだ者達はすべからく、捕縛させていただいておりますよ。確か、ドレイク殿と言うお名前でしたなぁ」


そこで明らかにアスラン王の顔に動揺が走る。監視人と被監視人と言う間柄では無い事は元より承知してはいたが、こうも明らかに動揺するとは、思った以上の関係性であるのかも知れぬ。


「……どうするつもりだ」


怒りと焦りの滲む声で問われる。

懐より扇子を取り出し、口元を隠して笑う。


「どうもこうも御座りませぬよ。今の所は客人まろうどとして持て成しております」


そう、今はまだ。


「王こそ、今後どうなさるお心算こころづもりにあらしゃりましょうや?

燕国はもはやマグダレナ大陸への密航の橋渡しは致しませぬよ。イリダは恐ろしゅう御座りまするが、マグダレナにも恐ろしい方はおられますからなぁ」


「これまでの暴挙に関しては、マグダレナには申し訳ない事をした。それについては改めて謝罪の場を設けたいと思っている。だが、今はそれ所ではない」


「イリダがマグダレナに攻め込もうとしている事に御座りましょうや?」


呆然とした顔で、アスラン王は呟く。


「何故、それを?ドレイク達がもらしたのか?」


首を横に振り、否定する。


の方達は、オメテオトル殿の言い付けをよぅ守られておりますよ」


開いていた扇子を閉じる。


「知恵者はイリダにしかおらぬ訳では御座りますまい」


先程よりも深いため息を吐くと、アスラン王は言った。


「話を聞こう」


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