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転生を希望します!  作者: 黛ちまた
イリダ編

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それは誰の為に

ロイエ視点です。

ドレイクの元にルシアン様が訪れたのは、それから一週間程経ってからだった。


椅子に腰掛け、ルシアン様は何もおっしゃらず、ドレイクをじっと見つめる。

ドレイクもじっとルシアン様を見返す。以前と違い、ドレイクの目に敵意は無い。


「名は?」


「ドレイク」


「日頃、どういった職務を遂行している?」


「オーリー王アスランを監視する事をイリダ王に命じられている」


自分達の王を監視する。その歪さ。


「その監視対象に心酔している、と」


ルシアン様のその問いに、ドレイクは俯いた。


「オレ達は、イリダによって諍うようにお膳立てされている。王は己が贅を尽くす為に妹姫をイリダ王族に人質として差し出し、民を奴隷のように扱う事になんら躊躇いがない、と言うように」


苦々しい表情を浮かべ、ドレイクは話を続ける。


「でも、実際は違う。アスランは、アスラン王は心根の優しい、民の命を救う為に自ら泥を被るような男なんだ。

少しでもイリダに対して反発すれば、民が見せしめとして殺される。オレ達がアスラン王の足を引っ張る存在になってしまっている」


先日、燕国の報告を受けた後に、ルシアン様がおっしゃられた通り、イリダは汚い手を使ってオーリーを支配下に置いている。


ひと通り話を聞き終えた後、ルシアン様は目を閉じ、何か思考されているようだった。

たっぷり間を置いてから、ドレイクを見つめた。


「こちらに内情を暴露するように命じたのは、誰か?」


ドレイクの目が僅かに揺れた。


「予想では、イリダの、現体制を良く思っていない王族の誰かと言った所なんだが」


ルシアン様の言葉に、ドレイクは動揺を隠し切れないようで、閉じた口を更に強く引き結ぶ。


「オーリーを支配下に置き続ける為に、王の監視をする者は豪胆な者が選ばれるだろう。王を疎ましく思っている人間である事も大事な要素になる筈だ」


だが、そなたにはそれが無い、とルシアン様が言うと、ドレイクはルシアン様を見返す。


「王の監視を務めた者が、王から離れるのもおかしい。

噂と異なり王が清廉潔白な人物と知った監視者は、体制維持の為には邪魔になるだけだ。王の真実を民に明かさない事と引き換えに何かをイリダに奪われるか、脅されてもおかしくない」


もしくは、と言葉を区切る。


「誰かに命じられた場合のみだろう?

そんな事を王を監視する役割の者に命じられる人間は限られる。王位継承権を保持し、かつ、その順位は低めで王位を得られない、または王位そのものに関心が無い。

王であるならマグダレナを手に入れたいと思うだろうし、継承位が高い人間も同様で、こちらに目を向けている暇があるなら、他の継承者を排除する」


ドレイクは深いため息を吐いた。


「……アイツみたいな奴が、ここにもいるなんてな」


「アイツ、とは?」


「オメテオトル。オレにマグダレナ大陸に行けと命じたイリダの王族だ」


「オメテオトル」


反芻するようにルシアン様はその名を口にする。


「アンタが言う通り、オレはオーリーの王であるアスランを、今のような名ばかりではない、ちゃんとした王にしたい。その為にイリダは邪魔だ」


「そんな時にオメテオトルに出会った?」


いや、とドレイクは首を横に振った。


「オメテオトルがオレをアスランの監視者にしたんだ」


オメテオトルは、アスラン王とドレイクの気質を理解した上で引き合わせている、と言う事になる。


「それで?」


「オメテオトルはイリダ王族の中でも上位に位置する。本来なら次の王として指名されてもおかしくない血統だ。

それを今の王と他の継承者が阻害している」


だが、とドレイクは言葉を区切ると、僅かに首を傾げる。


「アイツは王になりたくないようなんだ」


「理由は?」


「分からないが、アイツが彼と呼んでる男の為に今回の事を計画している事だけは確かだ」


この口振りからして、彼が何者なのかはドレイクにも分からないのだろう。


「そなたはアスラン王の為に、オメテオトルは彼の為に。双方の最終的な目的の為に共通するのは、イリダによる現体制を覆す必要がある」


そうだ、とドレイクは頷いた。


「最終的帰結点がどう交錯するかは現時点では問わず、最大の懸念項目であるイリダ王政の転覆にのみ着眼する」


最善とは言い難いが、悪くはない、とルシアン様は答える。


「オメテオトルの案を聞こう」




オメテオトルは現在のイリダによるオーリーの支配を良く思っておらず、イリダとオーリーは国として分かれて生きるべきである、と言う考えを持っている。

ただ、その為にもイリダの大陸に未だ残る毒を何とかしなくてはならない。

現在のイリダ王政はオーリーを道具として消費する事を前提として構築されている為、イリダ大陸に蔓延する毒すら、オーリーを支配する要素となっている。


下級国民の中でも特に優秀な者達が集められている研究施設で、イリダ大陸の毒を無効化させる為の研究をさせたいが、それをさせる為の障害がいくつかある。

まず、イリダ王と、現在の王政を良しとするイリダ王族。

次に、甘い汁を吸い、現状を甘受するオーリーの上位貴族。

この二つの勢力を排除する必要がある。


研究施設の全権は王のみが握る。

その為、一度は王位の入手も考えたが、王座に就いて研究施設で毒の研究をさせたとしても、妨害を受ける可能性がある。

下手な事をすれば敵方の結束が高まり、やりづらくなる。それは控えたい。

一網打尽にしなくてはならない。


王は孤立した存在である。

その権力故に、常に命を狙われる。前王も殺された。誰も信用出来ない。己の命を守る為に王族同士が争うように、撹乱させる事もあるそうだ。


王族は派閥があり、どの王族につけば権力を手に入れられるか、美味しい思いが出来るかを、上級国民は見極め、動向を注視し、油断なく動く。王族もまた、どの上級国民の一門を味方に付ければ自分が王位に近付くかを注視し、行動する。


オーリーの上位貴族は、イリダの王侯貴族に媚び諂うだけの存在かと思わせて、重要な働きをする。

彼らはイリダの民よりも毒に弱い。それを逆に利用して、毒味役をするのだ。

イリダ同士は直接的暴力で訴える事はせず、じわじわと真綿で首を絞めるような陰湿なやり方を得意とする。毒を相手に仕込むなんてものは日常茶飯事だ。その毒により命を落とす事や、後遺症が残る事は少なくない。それをオーリーが引き受ける。

また、暗殺や密偵などに特化した者を育成する事に長けてもいた。

気が付けば、イリダにとってなくてはならない存在になっていたと言うのだから、強かなものだ。


どれもこれもが、蔦のように複雑に絡まり、簡単には解せない。

立ち行かなくなるとまでは言わないものの、欠ければタダでは済まない程度には依存しあった間柄だ。

切り捨てられないように、反抗されないようにと、長い月日をかけた結果がこれだ。


どれかを潰そうとすれば、他の勢力が加わって抵抗してくる事は火を見るよりも明らかだ。

だからこそ、全てを一度に潰さなければならない。


「それで?」


ルシアン様が冷たい声で聞き返す。


「その為にマグダレナを巻き込んだ?」


その声の低さに、ドレイクが怯むものの、食い下がる。


「どちらにしろ、エネルギー問題でマグダレナに辿り着く事は、時間の問題だった」


「その為に、無関係なマグダレナの民の命を奪う事は仕方ないと?」


「それについては、歌う事で魔力を生み出せる女がいる事が分かった。その女を我らにくれ」


最後まで言い切る前に、アビスの短剣がドレイクの首に突き付けられ、うっすらと横に傷付けたのだろう。赤い線が見えた。


「私の妻だ」


ドレイクの顔から色が消える。ルシアン様はドレイクに微笑んだ。目は笑っておらず、強い眼差しが向けられる。


「歌う事で魔力を生み出せる者と言うのは、私の妻だ。

……それで、私の妻で、何をすると?」


ごくりと、ドレイクの咽喉が鳴った。




「どうなさるのですか?」


私の問いに、ルシアン様はちらとこちらを見る。


「どうもしない」


「ミチル様を魔石代わりとしか見ていない浅慮な者達と見做しますか?それとも、御し易い者達と判断なされますか?」


「オーリーとイリダが浅慮なのは今に始まった事ではないし、イリダ王よりはいくらか思慮深いとも言える」


少なくとも、と言葉を区切る。


「妻だと言っても顔色を変えないようなら腕の一本も切り落とそうと思っていたし、そう言った反応も想定の範囲内だった」


確かにその通りだ。


「オーリー王の為に命を賭けてこの大陸に来るだけの事はある」


そうおっしゃると、私が淹れたコーヒーを口にされる。


「感情のある人間は扱い易い。オメテオトルにとっても、我等にとっても。それだけの事だ」


「その、オメテオトルと言うのは、何者なのでしょうか」


イリダの王族でありながら、イリダらしくない思考を持つ者。王家の転覆を考えるなど、異常だ。王位を狙っているならまだしも、そうでは無いと言う。


「現在のイリダとオーリーの関係の歪みを正す為に、二千年のわだかまりを解消する手段として、国家そのものを覆そうとする。

単純な思考の持ち主なら、オーリー王に手を貸して終わるだろうが、その手は取らず、双方にとって癌となっている部分を根絶しようとしている辺り、破滅思想の持ち主ではなさそうだ」


おっしゃる通り、オメテオトルと言う人物は、イリダの崩壊は望んでいない。双方の膿を出そうとしている。

その為にドレイクに目を付け、王を監視させ、王に絆されるように仕向ける。その上で王の為にマグダレナ大陸まで行かせる。

ただ王に絆されただけでは来ない。オーリー全体の未来に繋がると思うからこそ、ドレイクは命懸けで来た。


なるほど、これでオーリー側は王が復権する。

だが、イリダは?


「オメテオトルは彼とやらを王にする為にこのような事をしているのでしょうか?」


いや、とルシアン様は否定する。


「オメテオトルが王になれば良いだけの事だ。名を己が取り、実を彼に与えれば解決する。それをしないと言う事は、そんな単純な話では無いのだろう」


確かに。


「彼が何者なのか、気になります」


ドレイクは知らないと言った。


「王族だろう」


「それは何から推察なさったのか教えていただいても?」


「イリダの王族は己が国民すら階級で区切る。下級国民と同じ場所に好んで向かうとは思えない。

唯一接点のある研究施設だが、王直属と言われる場所が出入り自由なのは考え難いし、たとえ自由だったとしても、それなら他の者の目がある。どうやってその中で、国を転覆させたくなる程の存在を見極める?」


「おっしゃる通りに御座いますね。であるならば、その者が王になる事も可能と言う事ですね。ですが、それは望まない……」


「深く考える必要は無い。

こちらにとって重要な事は、使えるか使えないかでしか無い。あちらにとっても同じ事だ」


ルシアン様の言葉に、ハッとする。


「左様に御座いますね。不要な事まで考えてしまいました」


「不要ではないが、必須でもない」


大事な事は、一つ。

マグダレナの敵に回るなら滅ぼす手段を講じるのみ。そうでないなら、どの点まで手を組めるのか、考えれば良い。


「ドレイクが発する言葉は全て書き記して提出するように。あの様子からして、オメテオトルはドレイクに全てを話していないとは思うが、何がこちらにとって重要な情報になるかは分からない。

少なくともミチルの事は、オメテオトルの耳に入っている。ミチルで何をしようとしているのかを知りたい」


「仰せのままに」


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