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転生を希望します!  作者: 黛ちまた
イリダ編

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029.侵入経路と郵便局

ようやく、ミチルがらしさを取り戻して来ました。


人数を間違えておりましたので、修正しております。

賠償を決定する為の会議に参加したルシアンに、どんな様子だったのかを尋ねると、さらりと「父上の独壇場でした」と答えた。


あぁ、うん。

それは分かるんだけどね?

その独壇場の中で、皆がエゲツなくあれやこれやと求められたのではないかと思った訳ですよ。


「お義父様は皆様に何を求められたのですか?」


「命でしょうか」


……えっ。




*****




ギウスを発つ日は唐突にやって来た。


私とルシアンはカーライルに帰るのではなく、ラルナダルトの宮に向かう事になった。

祖父母も一緒だ。

アレクサンドリアはもうアルト家に吸収されてしまったし、祖母の生家でもある宮に向かうのは、まぁ、ありっちゃありかな、という流れで。


祖父にアレクサンドリアの事を謝罪した所、別にいつ潰れても良いと思っていた、と言われてしまった。

話に聞く曽祖父母はアレな人達だったから、長男だけを可愛がって、次男の祖父に厳しく当たっていたとか、よろしくない事をしていても不思議は無いと言うか。

父と兄と姉を見るとね、そう思う訳です。


「イリーナが愛した宮に行けるのは、楽しみだ」


そう言ってふっと笑う祖父は、齢六十を過ぎてなお、イケメンである。隣で少女のように可愛らしく笑う祖母と、お似合いだな、と思う。

ちら、とルシアンを見る。

こんな風に年を取って、ルシアンと一緒にいたいな。年を取ってもルシアンはカッコいいと思うんだよね。

私の視線に直ぐに気付いたらしく、髪にキスが落ちてくる。

甘っ!甘いよ!


宮に行ったら直ぐに祈りを捧げるのだろうか…。

不安な気持ちが押し寄せて来て、堪らずにルシアンの手を握る。温かくて大きな手に撫でられている内に、少し気持ちが落ち着いて来た。


「お祖母様は……どうお考えですか?」


「イリダを排除する為の祈りの事かしら?」


そうです、と答える。

祖母は目を伏せた。


「悩ましい事だわ。命のかかる事だから即決は出来ない」


でもね、と祖母は言葉を切った。


「私も、公家も、いざとなればマグダレナの為に最善を尽くすよう徹底的に教育されているの。だから、悩むとは思うけれど、迷いはないわ」


やっぱりそうなんだ。

いざと言う時の為の教育をされるんだ。


「レイには申し訳ないのだけれど、ラルナダルトの当主が貴女で良かったと思うの」


祖母の言葉の真意を汲み取りかねて、表情を伺う。


「必要な事なのは間違いないけれど、失われるものがあまりに多過ぎるわ。私達は迷いなくその選択をしてしまうけれど、貴女はそうではないでしょう。

失われるものの重みに、胸を痛めてくれる貴女がいて、良かったと思うのよ」


私が決められないのは、弱いからだと思っていた。

そうではないと言われて、それで良いんだと言われてホッとした。


「ありがとう、お祖母様」


皆も悩んでいると言う言葉も慰めてはくれたけど、悩んで良いのだと許されたのは、一番私の心を救ってくれた。




ああああああ、どうしてこう、ルシアンは甘いのだろうか。結婚してから3年は経った…いや、厳密に言うと経ってないけど、3年目ですよ、3年目。

昔から3の付く数字は何かの切れ目、と言いますよ。

3年目の浮気なんて言う、べったべたな歌があって、ヘッドハンティングされて中途入社した日本人上司が、デュエットを女性に求めるとセクハラになるからと、一人で男性パートと女性パートを器用に歌っていたのを思い出した。


「ミチル?」


私を膝の上にのせ、髪にキスを落としてくる。それはもうあちこちに落ちてくる。

くすぐったくて、柔らかくて、甘くて、胸の奥がうずうずしてしまう。


「何を考えていたの?」


「結婚してからどれぐらい経ったのかと思っていたのです」


誤魔化すとね、何故か絶対バレるんだよね。だからアウトな部分を除いて素直に答える事にしている。

ルシアンとの付き合い方、大分小慣れて来ましたよー。フフフ。

ミチルはやれば出来る子なのですよ!


「9月で4年目になります。今はまだ、新婚中ですよ」


あ、やっぱりそれ、気にしてるんだ?


「ルシアンは新婚にこだわりますね?」


頰に手を伸ばして触れる。すべすべです。

ため息を吐くと、私の手を掴み、キスをする。

徹底的に甘いです。好きです。


「新婚でありながら、思うようにミチルと過ごせていませんから。帝都に行ってミチルと過ごせていない期間などはカウント対象外にして欲しい」


そこまで…?!


「新婚でなくなっても良いではありませんか」


むしろ3年を超えてもルシアンは私に甘そうで、3年目のジンクス?は無関係で済みそうで、ホッとすると言うか?


こんな事言っちゃうルシアンてば、可愛いな、とか思っちゃうよね。

ルシアンはちょっと不満そうだ。

何でよ?新婚終わってもラブラブな方が良くない?


「何かご不満なのですか?」


「堂々とミチルに触れる期間が終わると言う事です」


?!

堂々と?!

つまりそれは、お外での破廉恥行為終了のお知らせですか?!

……おぉ…っ!


「……何故嬉しそうなんですか?」


はっ!

顔に喜びが出ちゃってた?!

慌てて表情を取り繕うと、両頰をつままれた。


「いひゃいれふー」


「ミチル?私に触れられるのが嫌なのですか?」


ちひゃいまふ。おひょとではいやでふ。破廉恥れふ」


途端にルシアンの顔が笑顔になった。


「なるほど。二人っきりなら良いと言う事ですね?」


とびきりの笑顔で言う事がそれなのか!

…と、脳内でツッコミつつも、何と言いますか、うん、ウェルカムですよ。


完全なる肉食女子化はやっぱり難しい気はするんだけど、前ほど恥ずかしさに耐えきれなくて拒否したい!っていうのもなくなって。

私からも割と自然に愛情表現が出来るようになってきた。

これ、どれだけ凄いか分かりますか?頑張らなくても出来るんですよ?ミチルなのに!凄いでしょ?ミチルなのにですよ…!?

……ちょっと自分で言ってて悲しくなった。


頰をつまんでる手を外す。ちょっと痛い。

さすってたらルシアンが困ったように笑って、ごめんなさい、強すぎましたね、と謝り、頰にキスを落としてきた。


「左側だけでなく、右側もです」


アレですよ、左の頬を叩かれたら右の頰を差し出せ、って奴ですよ。

ふふ、とルシアンは笑うと、右側の頰にもキスをくれた。


「ミチルが進化して嬉しい」


今、進化って言った…?!そこはさ、成長って言おうよ?!


「進化ですよ、物凄い前進していますから」


…本気でそういう意味で言ってるならね?

ジト目でルシアンを見ると、楽しそうにくすくすと笑いながら、私の頰を撫で、背中を撫でる。


「そんな目で見ても駄目。可愛いだけですよ?」


ルシアンは眼科行った方が良いよ…!本気で!


「これから私達はどうなるのですか?直ぐに祈るのですか?」


いえ、とルシアンは否定した。


「私も父も、公家の面々も、祈りは最終手段だと思っていますよ。ですから今は、イリダに対抗する為の準備を続けています」


知っていた事だけど、ホッとする。


イリダの文明はどのぐらい発達しているのだろう?

長距離の船旅を可能にするだけの技術はあるのか?大きい船でくれば目立つから小型の船で、でもそれだと高速じゃないと食料とか…。

うーん?でも、この前のアサシンは30人いたって言うし…。離島に行く時に乗った船は小型でそれなりの収容力があったけど、エンジンというかモーターというか、そういうのが必要なような…?


「首を傾げて、どうしたの?」


無意識に首を傾げちゃっていたらしい。


「イリダの文明が、私の前世に近いものがあったら、太刀打ち出来ないなと思いまして」


「そんなに違うのですか?」


頷く。


「離れた場所にいる人とも一瞬で手紙のやり取りが出来たり、話が出来たり、馬車よりもっと大きな乗り物で、遠くまで行けたり、空も飛んで別の大陸にも行けます」


「それは凄いですね。それは動力はどうなっているんですか?」


あぁ、そうか。

ここまで発達していないとしても、メールや電話なんかはネットワークが必要だし、電車だって、電気の前に蒸気?

飛行機なんて以ての外だよね。プロペラ?


「それ以外にも色々必要ですが、電気が必要ですね。

魔石の有効性が発見されてから間もないので、まだそこまで大量のエネルギーを必要としていないと言う事でしょうか…」


でんき、エネルギー、とルシアンは単語を繰り返す。


「この国では魔石をエネルギーとしては使用していませんが、将来的にはあるかも知れません。最もクリーンなものですし」


木は資源だけど、育つのが時間がかかる上に、乾かさないと生木のままでは使えないとか、煙が出るとか、炭は炭で使えるけど。有限だしね。

石炭ってそのまま使えるんだろうか?私が生まれた時にはもう使われなくなっているエネルギーなんだよね。

その後は油田か…?

風力に太陽光とか、水力発電なんかもあるね。


「クリーン?」


「木材を燃やす事でエネルギーを生み出せると思いますが、木は育つのに時間がかかりますし、森林が伐採される事で二酸化炭素がどうのと言う問題もあったのですが…」


こっちにもオゾン層とかあんの?

……ん、分からん。


気を取り直して他のエネルギーについて説明をする。

二酸化炭素についても、説明した。上手く説明出来たか分からないケド。


「ミチルの知るかつての世界では、エネルギーは重要な問題なんですね」


一瞬にしてエネルギー関連を理解したっぽい?!さすがチートイケメン!


「そうなのです。それが原因での戦争も起きていたりするのです」


「せっかくミチルに教えていただいたのです。マグダレナの民が持つこの魔力で、エネルギー問題を解決出来るよう、別方面でも研究を進めていきましょう。

魔道研究院など、良いと思います」


確かに。それはイイネ!


「ギウスは風の強い土地です。その、風力ですか?それが使えそうですが、どうやって使うのですか?」


風力でエネルギーを溜めるにしても、溜めるものが無いんだよね。


「風車を建てるのが殆どなのですが…」


「ふうしゃ?」


言葉だけでは説明しきれない…。

絵心はないけど、言葉よりは伝えやすいかも。


紙とペンをルシアンが持ってきてくれたので、風車を書いてみる。水車の風版というか。


「なるほど。風を受けて羽が回り、中央の軸が回ると」


「はい、その力を使って小麦を粉にしたりするんですよ。似た原理が水車ですね」


私と祖母は、ギウスにいた間、毎日歌った。場所は教会周辺だけに限られたけど。あの辺りの緑は大分戻ってきた。

その様を目の前で見せた後、族長やセオラにこの大陸の仕組みを説明した。お義父様が。

魔素の事も、魔力のことも。女神マグダレナの事も。


「我らは慈愛の対象外と言う事か。侵略者の子孫なのだから当然か」


自嘲するように言った族長を、セオラが慰めていた。


例え血が混じっても、純血のマグダレナでなければ器が無いのだから、オーリーの民もイリダの民も永遠に魔力を持てないのだ。


ついでにと帝国皇帝とレーフ殿下、スタンキナにも同時にレクチャーしたら、知らない事ばかりだったようで、焦っていた。

これまで寄付で済ませていた魔石が、大地に魔力を注ぐ為の重要なものだったなんて。

帝国を興した皇帝は男性で、そう言った基本的な知識を教えられていなかったんだから、知らなくて当然だ。


イリダに吸われて魔力が枯渇してしまった大地から、優先的に癒す事を決意していた。

帝国はマグダレナの民だからまだ良いんだろうけど。ギウスがねー、永久に魔石を購入するのだろうか?


「大陸に入り込んで来たイリダのアサシンは、どうやって来たのでしょう?船が何処かに停泊しているとか?」


「いえ、ト国経由か、燕国経由だったようです。あちらの国はオーリーとも、イリダとも交流があるんです」


元は同じ民族なんだから、交流もあるのかな。


「燕国の源之丞殿や言綏ときまさ殿を通して、密入国が出来ないようにしていただこうかと思っていたのですが、むしろ入り口にするのも有りなのですね」


そう言って思案を始めるルシアン。

……何か企もうとしてません?


「実際、現状は相手の力量が判明していない為に、備えの方向性が定まらず、迷走しているのです」


あー、それはそうだよねー。

とは言え、燕国は帝国側に近い。直ぐに連絡も取れないだろうな。

メールも電話もないし。


「源之丞様達とやりとりをするにしても、時間がかかってしまいますね」


「そうなんです」


「ギウスの馬ならいくらか早く就くのでしょうが…」


騎馬民族の馬はスタミナも多いし、脚力もあるだろうしね。


「私の前世には、郵便局、というものがあったのですよ」


「ゆうびんきょく?」


「そうです。お金を頂戴して、手紙や荷物を目的の場所に運ぶのですが、その事業を管理する組織です」


ルシアンが突然笑顔になり、ぎゅっと抱き締められた。

なんだろう?!抱き締められるのは、正直に嬉しいけど。


「あぁ、ミチル、素晴らしいです」


「その、ゆうびんを仕切るギルドをギウスにやってもらえば良いんです。そうすれば彼らは各地に行き、自分達の生活に必要なものを手に入れやすくなりますし、外貨を手に入れられるようになり、魔石も購入しやすくなりますし、賠償金も支払えるようになります」


お、おぉ……私の過去からすれば当たり前の事でも、こっちでは当たり前じゃないんだもんね。


あちこちにキスされる。そんなに嬉しかったのか…。

ルシアンがギウスの事を考えているとはおもわなかっ…。


「ルシアン!」


「あぁ、気付いてしまいましたか?」


さすがに押し倒されれば気が付くよ?!

どう考えても、新しい案に喜んでるの域を超えてる!


「今ので私が懸念していた事がいくつも解消されそうなのです。その感謝をミチルにしようかと思って」


それは良かったけど、感謝が押し倒しっておかしい!


「では伺いますが、ミチルは私からどんな礼を受け取りたいですか?」


言いながらキスが落ちてくる。

ひぃっ、破廉恥。


わ、私が欲しいもの?!

ドレスも宝石も要らないし、皇帝にも仕返し出来たし、ギウスの事は何とかしてもらえそうだし、セラも戻って来たし、えっと……うーん……ルシアンの側にいたい、ぐらいだろうか?


「……決まりました?」


頰にキスされる。

顔が熱くなる。熱が頭に上がってくるー!


で、でもこの状況で言ったら、このまま続行なだけなんじゃ?!


「言って?」


ううううううっ!

きんちょーが高まるよ?!


で、でもさ、この前もさ、頑張って言えたし。

今回だってさ、頑張って言えば良いんじゃない?


ルシアンの首に腕を回す。


「ルシアンの、側にいたい、です」


金色の瞳がとろりとする。あぁ、蜂蜜みたいだ。本当に、舐めたら甘そう。


「甘いとミチルはよく言うけれど、本当に甘いのは貴女ですよ。今もこうして私を溶かしてしまう」


唇が重なる。


「今度は貴女を、溶かしましょうね…」


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