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転生を希望します!  作者: 黛ちまた
イリダ編

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026.四面楚歌ならぬ四面ギ歌?

寝落ちしてしまいました…。

セラ、銀さん、アウローラ、オリヴィエ、スタンキナ公を連れて、ギウスの捕虜が収容されている場所にやって来た。


捕虜達は突然集められた事に警戒している。

そりゃそうだよね。


どうやって言えばいいんだろうな。

ルシアンやお義父様だったら、上手く話して、その気にさせるんだろうと思う。

私にその才能は無い。だから上手い事話そうとか考えて失敗するくらいなら、直球でいこう、うん。

愚直で結構。

自分の言葉で言おう。

そうじゃないときっと、伝わらない。


皆に目配せをし、捕虜達の前に立つ。


「私はミチル・レイ・アルト・ディス・ラルナダルトです」


アルト、という名に捕虜達が騒つく。

魔王様オトーサマは有名だからね。マイナス方面に振り切ってる気がスル。

そして遂に、アレクサンドリアが名前から外れましたよ。

オットー家との養子縁組も消えました。ちょっと寂しい。


「貴方達の祖国であるギウス国は、ディンブーラ皇国と雷帝国の連合軍に敗れました」


信じられないとか、嘘を吐くなとか、色んな言葉が飛び交う。気持ちは分かるので、落ち着くのを黙って待つ。


言いたい放題だった捕虜達は、私達の態度に違和感を感じたのか、騒ぐのを止めた。


「残った人達が籠城しています。皇国と帝国からの和解は貴方達の族長に拒絶されました」


余計な事は言わず、事実を正しく伝える。


「予想では、全員で自決するつもりなのだと思います」


明らかに動揺した顔をする人もいる。俯く人も。怒ったような顔になる人も。

きっと、ここにいる人達の家族が城にはいる。


「私は、それを何とか止めたいのです。でも、私達の声は貴方達の族長には届かない」


「そんな事を言って、オレ達を皆殺しにするつもりだろう!」


そうだそうだ!

騙されないぞ!

そんな声が次々上がる。


「貴方達を皆殺しにする事に、何の意味があるのですか?」


そう返すと、シーンとする。


ギウスは資源が枯渇した国だ。手に入れたとしても何の旨味もない土地だ。毛程の、と言う表現があるけど、今のギウスはまさにそれなんだよね。


少しの沈黙の後、誰かが言った。


「オレ達に何をしろって言うんだよ」


彼らも自分達の国の状況は嫌と言う程分かっているから、割と素直に返答してくる。


「城を取り囲んで歌って欲しいのです」


歌?!と何人もが聞き返す。


「毎晩皆さんが歌っている歌を、城の人達に聴かせて欲しいのです」


歌詞を思い出したのだろう。皆、何とも言えない表情になる。


「上手くいくかは分かりません。でも、このままだと皆、死んでしまう」


「ギウスは長年の敵なのに、何故助けようとするんだ?」


それが分からないから不気味って事?

貴族もそうだね、意味もなく助けたりしないかな。

カーライルからすれば、ギウスは自分達を突然襲って来た存在だもんね。許せない人もいると思う。


「理由はありません。強いて言うなら、嫌だと感じるからです」


理解出来ない、と顔に書いてある。

私の前世からの倫理観が、嫌だと言うのだから仕方ない。


「全員とは言いません。歌っても良いと思った方だけで結構です」




最終的に、捕虜全員が行くと言い出した。

純粋に私の意見に賛同してくれた訳ではないと思う。


どうせ死ぬなら生まれ故郷でとか、実力行使でも良いから仲間を助けたいとか、色んな考えがあっての事だろう。


徒歩だと時間がかかってしまう為、輸送用の馬車に乗せられて、捕虜はギウスに入った。

足には枷が付いているし、捕虜同士を繋ぐ鎖もある。

輸送前にスタンキナ公から、おかしな動きをしたら、殺さなくてはならなくなるから、自重せよと言われていた。

殺したくないと言われるものだから、皆、複雑な顔をしていた。


ギウス城に到着した時には、日が暮れ始めていた。

城から煙が上がっている。

間に合わなかった?

捕虜達の間にも動揺が走るのが分かる。


「ミチル」


待機してくれていたのだろう。ルシアンは私を見つけると直ぐにやって来た。


「一時間程前から、煙があちこちから登りました」


「開門は……」


首を横に振る。


間に合わないかも知れない。でも、その為に来た。

一人でもいいから、届いて欲しい。


合図をし、捕虜達に城を取り囲んでもらう。

歌ってくれと頼むより前に、自然と歌が始まった。


"

例えこの身が明日にも滅びようとも

何を悲しむ事があろうか

この身に宿った心が

魂が残るのだから

何も悔いる事は無い


例えこの身が明日にも消え失せても

何も悲しむ事は無い

この身に宿りしは

形あるものだけでは無い

ここに我らの記憶は宿る

"


男性だけで歌われるこの歌は、歌詞こそ悲壮感があるけど、力強さもある。

負けないぞ、と言う意思も感じられる。

でも、私が城内の人に聴いてもらいたいのは、三番目の歌詞なのだ。


"

それでも願う事が許されるなら

我が子よ、妻よ、我が友よ

我を慈しんでくれた父母ちちはは

共に生き共に笑い

新しい記憶をこの身と心に

刻ませて欲しい

"


繰り返し、繰り返し歌っている内に、城の中からこちらを見つめる人が増えて来た。


お願い、皆の思いが届いて欲しい。

死のうとしないで。


その後も根気よく皆は歌い続けた。


いくつも上がっていた煙が、一つ、また一つと消えていく。

辺りがすっかり暗くなった時、門が開いて、城内から一斉に人が飛び出して来た。

こちら側に緊張が走る。


ルシアンが私を庇うように少し前に立ち、セラも前に立った。銀さんも静かに背筋を伸ばした。


背後のアウローラとオリヴィエが剣を直ぐ抜刀出来るように、剣帯の金具を外した音がした。


しばらくの間くらい見守っていたけど、大丈夫そうだった。

とは言え、最後まで油断は出来ない。

これは、戦争だから。


それに、ギウスの族長とその一族と思われるような人達が見当たらない。

まだ城内にいるのかも。


……随分素直に開門された気がする。


「セラ、ニヒト、アウローラ、オリヴィエ」


顔を上げてルシアンを見る。ルシアンもこちらを見ていた。


「城内に入ります」


ルシアンは頷くと、アビスの名を呼んだ。直ぐにルシアンの前に立ち、頭を下げる。

私の執事をしていた時とは、何と言うのか雰囲気が違う。

デューと同じ、こっち側の人では無い雰囲気と言うか。


「配下を連れて城内に先に入り、為すべき事を為すように」


「かしこまりました」


アビスと十人ぐらいの黒装束の人達が城内に入って行った。心なし、格好も忍っぽかった。


「門が閉まる前に私達も入りましょう。

ミチルのお祖父様とお祖母様を助けなくてはいけませんし、取り戻さねばならないものもありますからね」


私は頷いた。


思っていた通り、門が閉じられようとしていたので、強引に押し入った。

兵達は攻撃してこようとしたけど、ルシアンと銀さんとセラにあっという間に組み伏せられていた。


城内の人の殆どはさっき逃げ出したようで、城の中はガランとしている。

逃げ遅れた人や隠れている人がいないかも兼ねて部屋を見て行く。

いくつもの部屋を見て回って分かったのは、本当に生活が困窮していたのだと言う事。

食べ物が、全然ない。水がかろうじてあるぐらいだ。


「炊き出しをしましょう」


ルシアンが言った。


「アレクサンドリアは今年も夏野菜が大量に収穫出来たんですよ」


笑顔で頷いた。


奥へ奥へと進む内に、大きな扉にたどり着いた。

扉を開けようとするも、開かない。

中から鍵を掛けているのか、何か物を置いているのか。

僅かな隙間から、何か燃えるような臭いがする。


ここにいる。

ここにいて、死のうとしてる。

中にいるのはギウスの族長一族なんだろう。


「開けて下さい!話を聞いて!!」


中に聞こえるように大声を張り上げる。


「命を粗末にしないで!」


何度も何度も声をかけるけど、一切反応が無い。

隙間から漏れる煙の量も増えて来た。


「殿下のお声掛けに反応しないとは、無礼な」


銀さん、今、そういう事言ってる場合じゃ…。


「本当ですわ。ラルナダルト家の姫がこうして直々に助けに来たと言うのに、あり得ない事かと」


アウローラまで何を言いだしちゃってんの?


セラは肩を竦ませる。仕方ないわねぇ、という顔。

銀さんとアウローラとオリヴィエはルシアンを見る。

ルシアンが頷いた瞬間、三人は目配せをして、扉に斬りつけた。


ええええええええええっ?!

いきなり武力行使に出た!?


繰り返される攻撃で、扉が少しずつ壊れていき、煙がどっと外に出て来た。

扉が半壊し、強引に解放される。

……激しいッス。


部屋は広かった。

広間だ。

奥は壇になっており、族長らしき男性と、女性達が部屋の奥にいた。


「見た所、そなたは王族であろう」


族長らしき人物が話しかけてきた。


「王族であるならば我らの心情も分かるだろう。

このまま死なせてくれぬか」


血筋は皇族らしいけど、そんな風に育ってないし、前世の庶民感覚があるからちょっと、分かんないデス。


「民は、ギウスの民はどうするのですか?」


「……ギウスの戦士を殺さず、捕虜として生かしてくれた。見た所、食料まで与えてくれていたのが分かった。

城内の女子供を助ける為に、我らの歌まで歌わせた人物だ。最低限の、人としての尊厳を守ってくれる人物であると見える」


……つまり何ですか。

おまえ、面倒見良さそうだから、任せた、って事?

何ほざいてくれちゃってるんですかね?


「おかしな事。王としての責務も果たさぬのに、王としての矜持だけは持ちたいだなどと」


皮肉たっぷりに言えば、皆、視線を逸らす。


……ほら、自覚あるんじゃない。


頭くるよね、こういうの。

何て言うの、上手い事言ったつもりなんだろうけど。

民の為に自分達の命を差し出してるとか思っちゃってる?


いやいや!大間違いだから!

あなた達のやろうとしてる事は、これからの大変な事から全部逃げて、民を更に困窮させようとしてるだけだから!


食べるものがなくて、捕虜なんて屈辱的だったろうに、泣きながら食べてる人達だっていた。

それでも、生きる為に食べて、仲間を助ける為に私に付いて来て、歌ってくれた。


それなのに…自分達だけ逃げようとするなんて!

民はこれからも生きるのに!どんなに辛くても生きていかなきゃいけないのに!!


「あなた達が死んだ所で、何も好転しない!

他国と交渉する術の無い民を残して死んで、相手の温情に期待する。それがあなたのやりたい事ですか?」


本当に民を思うなら、生きて一緒に苦しむべきだ。王がその命を差し出さなくてはならない局面は存在する。

普通なら王族の命を差し出して終結するものだと思う。

こんな何もかもがないギウスが、差し出せるものは人命しかない。

そんなのは分かってる。


沈黙が続いた。

誰も何も話さない。話せない。


外から、ギウスの歌が聞こえて来た。

男の人の声だけじゃなく、女の人の声も混じっている。


民はきっと、族長達に死んで欲しくない。

だから歌っている。

状況は壊滅的だけど、それでも、生きていて欲しいと思われている。

それが彼らの生きてきた結果なのだと思う。


族長は両手で顔を覆った。


「兄様」


私と同じ歳くらいの女の人が族長の肩に触れた。

……全員族長の妻かと思ってた。


女の人はこっちを向き、膝立ちになると、両手の甲を合わせてお辞儀をした。


「私はセオラ、前ギウス族長の娘であり、現族長の妹です。ギウスの民を助けて下さった事、心より感謝致します」


何も言わず、次の言葉を待つ。


「貴女は、帝国の方ですか?皇国の方ですか?」


「皇国です。カーライルから参りました」


カーライル!」


カーライルと言うとめっちゃ反応される。本当、魔王様オトーサマ効果怖い。


「あの、私はカーライルから来た老夫婦を匿っています。ソルレと、イリーナと言う夫婦なのですが、ご存知ですか?」


お義父様が言っていた通り、祖父母はここにいた。

殺しても死なない人達だとは思っていたけど、生きてた。

生きていてくれた。


私は頷いた。


「私の祖父母です」


そう答えると、セオラは両手で口を覆った。驚いているようだ。そうかと思えば慌てたように早口で話し始める。


「貴女が、ミチル…!あの、本当はずっと、貴女の元に返さなくてはと思っていたの。それなのに、ごめんなさい。ずっと、こちらの都合でここに引き止めてしまった…!」


頭を床に擦りつけて謝るセオラを、慌てて顔を上げさせる。


「あの二人、と言うか祖父は、気に入らなければどんな状況でも行動に移してここを出ていたと思います。

だから、貴女が気にする事ではありません。むしろ、二人を匿って下さってありがとうございます」


一目でギウス人ではないと分かる見た目の二人だ。姫であるセオラが匿わなければ、今頃命が無かったかも知れない。


セオラの目からボロボロと涙が溢れる。


「ミチル」


ルシアンが私を立たせる。


「"杖"の所在を確認しても構いませんか?」


あ、そうだった。


頷くと、ルシアンは族長に向けて聞いた。


「ギウス族長となられてから、まだ日が浅い事とは思われますが、"杖"と呼ばれるものをご存知ですか?」


ルシアンの質問に、族長は顔を上げた。


「杖……?」


何の事か分からないと言う顔の族長。

かなり昔の話だし、ただの戦利品として奪ったのだったとしたら、知らない可能性大だ。


「かつてギウスが帝国を襲撃した際に、帝国皇帝から奪ったものです」


「"杖"ならここにあるよ」


振り返ると魔王様オトーサマが立っていた。

手には黒い、さほど長くもない棒を持っている。

私の思っていたのとはかなり違っていた。


「ご機嫌いかがかな?」


にこにこと笑顔のお義父様。

安定の魔王感。なんだそれ、って感じだけど、この表現が一番しっくりくる。

だってさ、両脇に立つベネフィスとデューは完全に悪役って言うか、参謀と暗殺者って見た目だし。

魔王の側近ですよ。


「こうしてお会いするのは、二度目だね。

あの時の君はまだ幼かったから、私の事など覚えてないかな?」


「それを言うなら、そなたも十二の童だったろう」


何でこの二人面識あるの?

きょとんとしている私にお義父様が説明してくれた。


「カーライルとギウスの戦いが済んだ後、賠償関連で族長と会談したんだよ。その時にね」


ふふふ、と笑うお義父様。


「時間も無い事だし、火の手も上がっていたからね、勝手ながら家捜しをさせていただいたよ」


そう言って手の棒を軽く振る。


「さて、略式だけど、賠償問題を解決しようか」


族長の肩が揺れ、恐ろしいモノを見るようにお義父様を見上げる。

……この反応、前回、かなりエゲツない賠償させたんじゃなかろうか……?


「皇国皇帝の玉体に傷を付けた事、帝国に宣戦布告も無しに一方的に攻撃をしかけた事。

どちらも許される事ではないね。本来なら王族全員極刑、民は全員奴隷落ちが定番だね」


ちら、と私を見てくる。

なんですか、負けませんよ。

今回に関しては譲りませんよ。


「うちの姫がこう言っている事だし、今回の戦争の首謀者である貴国の将軍、族長の兄上だったかな?彼の命は申し訳ないけどいただくよ」


あぁ、そう言えば、お誂え向きなヒト、いた。


「それから、我が国にとって、途轍もなく貴重である"杖"を返して下さるなら、交渉のテーブルに着く事もやぶさかではないよ」


って言うか"杖"は既に手にしちゃってるけど、権利はまだギウスにあるって事だろうか?


次々と出てくる好条件に頭がついていかないみたいで、族長はぽかんと口を開けてる。

当然だよね、うん。


コレ全部、お義父様のシナリオ通りなんじゃないの…?

なんかそんな気がしてならない。


ジト目で見ていたら、セラにおでこを軽く突かれた。


「目に出過ぎよ」


「でもセラ、お義父様が胡散臭い」


「言わないの」


コソコソ話していたら、お義父様はいつものようにふふふ、と笑った。

聞こえてた!


「大筋ね。でも、ところどころ予想とは異なっているよ、良い方向に」


ホラやっぱり!


「アレクサンドリアから運び込んだ食材が届いたからね、外で炊き出しをしている。

族長達も食べておいで。それから、我が国の民が二人、こちらにおじゃましているだろうから、その二人もね」


戦争は終わりだよ、と言ってお義父様は微笑んだ。


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