010.真意
(アレ…ジャンル設定間違えたかな…)
帝都に行く前にカーライルに戻れそうだ。
良かったー。
ラトリア様とロシェル様の結婚式があるんだよね。是非参加したい!
いやー、最近物騒な事ばっかりだったので、こう言った話題は心に優しいな…。ありがたや…(涙)
女皇になる気がない事をお義父様に伝えると、笑顔で頷いていたものの、本心が分からない。
「そんなに警戒しなくて良いよ。
私自身はアルト家にラルナダルト家を吸収させる気はなかった。ただの皇族の養子が女皇になれる筈もないだろう?」
屋上は冷えると言う事で、サロンに移動した。
その上での、会話である。
確認出来る事はしておきたい。
「お義父様は、私の祖母がラルナダルト家の人間だと知っていたのですか?」
「だから姫と呼んでいただろう?」
…………そっスね。
思わずため息が溢れる。
「愛息子の婚約者が何者かを調べていたら、予想外の事ばかり出て来るものだから、さすがの私も驚いたよ。その上転生者だったしね。これは、全く想定していなかったからね」
最近自分が転生者だって事は忘れる時あるよ。いや、常に自覚してなきゃいけない事でもないんだろうけどさ、何て言うか、色々ありすぎて。主に祖母の属性が激しくて。
「教えられない事もあるが、現時点で教えられる事を伝えておこうか。それが、ミチルの当初からの願いだったからね」
駒は駒なりに使われ方を知りたい、とお願いした時の事ですな。
約束守られた事、ない気がする。お義父様から…。ルシアンやセラから教えてもらってたけど、セラがいなくなって、ルシアンが私に心配させまいと伝えなくなった所為で、情報迷子ですよ。ポツンですよ。
「ラルナダルト家の事をもう少し教えておこうか」
ラルナダルト家はアスペルラ姫が降嫁した先ではあるが、他の公家とは一線を画した。それは何故か。
「アスペルラ姫が、女神に愛された姫だからだよ。
女神がその姿を直接見せる程にね」
祖母もアスペルラ姫の事を、女神に愛されていたと言っていたなぁ、確かに。
って言うか本当に愛されてるなー。女神って視認出来んの?凄くない?
「我こそは正当な後継者だと名乗りを上げている兄と姉にとって、妹がどれだけ脅威な存在だったか分かるかい?」
それは、恐ろしい存在だったろう。常に動向から目が離せなかっただろうな。
邪魔だと思っても手出しなんかしたら、女神の怒りを買う事は必須だ。リアル天罰ですよ。
「アスペルラ姫は自分の価値を正確に理解していた。
だからこそ、どちらにも付かず、ラルナダルト家として、元は皇国の首都だったアドルガッサーに残った。
この宮で女神に祈りを捧げ続けたと言われている。
女神の意思に反して国を二つに分けてしまった兄姉の事を、女神に謝罪する為に作ったそうだよ」
あー、だからこの宮、神殿っぽいのかな?
柱が大理石なのはお城でもそうだけど、何て言うか、豪華と言うよりは神聖な感じと言うのか。
「ラルナダルト家は、公家ではあるけど、アスペルラ姫が降嫁している分、格が違っていたようだよ。女神に愛された家だからね、当然と言えば当然だ。
今ではそう言った情報を知る者が少なくなったようだけど、直ぐに正しく認識されるようになるだろうね」
そう言ってルシアンを見るお義父様。
そうなの?
情報の共有とか見直しでも行われてるのかな?
ルシアンは目を閉じたままだ。
「ねぇ、ミチル。
ラルナダルト家が特別な家だと他の公家が正しく認識したとしたら、どうなると思う?」
正しく認識?ラルナダルト家が特別な家だと言う事を他の公家が認識する?血統が別格な家が判明する?
アレクシア様の高祖母は他国から嫁いで来た姫だという。
各公家はその事をよく思っていないとルシアンは言った。更にバフェット家と前女帝のした事についても、同様だろう。
もしも、今の皇室の血そのものを否定したいと思っていたら、アレクシア様も、バフェット家の次男も、歓迎されていないという事になる。バフェット公爵夫人の事もそうだ。
そうなると一番なのはゼファス様だけど、もし、ラルナダルト家である事がそれ以上の価値を持ったら?
ぼんやりと浮かぶ可能性に、じわり、と汗が浮かんだ。
「公家の面々が、皇国公家の事とは言え、何故わざわざ動いたのか、分かったみたいだね?」
「……ですが、バフェット公は何故それに……」
「あの男は基本的に妻の望みを叶えるけど、元はシドニア家の人間であり、今はバフェット家の当主でもあるからね。何でもかんでもという訳ではないよ。
さて、ルシアン、どういうつもりなのか説明してもらおうかな?何故、ラルナダルト家を継いだ?」
隣に座るルシアンの表情を見る。いつものように無表情で、何を考えているのか、伺い知れない。
「……初めは、些細な違和感でした。
父上がミチルを姫と呼ぶ事も、別ルートも存在するのに、敢えて迂回してアドルガッサーを通っていたのも、いつもの気まぐれだと思っていました。
ミチルを何かの計画に使おうとしてる事は分かっていました。本来なら必要ない筈なのに、ミチルを魔道研究院の准研究員にしたのは、あれは計画の一環ですね?
あの事件の後、皇族となった途端に研究院とミチルの関係を断ち切った」
責めるような視線でお義父様を見るルシアン。
その目に、思わず息を呑む。ルシアンが静かに怒っているのが分かったからだ。
「父上、"アンク"と"天秤"、それから"杖"とは、何の為に使うものですか?
ミチルを何に使おうとしてるんです?」
お義父様はにっこり微笑んだ。でも、目は笑っていない。
動揺した様子もない。
「私の息子は、私が思っていた以上に、優秀なようだ」
その言葉を受けて、ルシアンの目が細められた。
「その件については隠していた筈なのに、よく見つけ出したね?」
ルシアンは答えない。
ふふふ、といつものようにお義父様は笑った。
「安心すると良い。私の企てはミチルを危険に晒さない」
「明かして下さる気はないと言う事ですか?」
「そうは言っていない。次から参加するようにと言っただろう?」
……コレ、親子の会話なんだ?
緊迫感の無いツッコミで申し訳ないけど。
しかも当事者の私、完全放置デスわー。
「私は別に秘密主義ではないよ?ただ、確実に遂行する為に情報を制限はするけれどね。
まだ準備段階なんだよ。上手くいくかどうかも不明だしね」
それ、普通に秘密主義じゃないの?
お義父様はカップをテーブルに置くと、立ち上がった。
「おしゃべりの続きはまたにしよう。帝都への家族旅行もあるし、話す時間はあるからね」
そう言ってサロンを出て行った。ベネフィスもそれに付いて退室する。
ちらりとルシアンを見る。
私の視線に気が付いたのか、こちらを見て微笑んだ。
さっきまでの表情とは打って変わって、柔らかい。
ホッとした。
「ごめんなさい、ミチル。何の事か、分からなかったでしょう?」
うん、ぼんやりと、って言うか断片的にしか分かってません。
「ルシアンも、まだお義父様の計画の全容は掴めていないと言う事ですか?」
ルシアンは頷いた。
「皇都に行き、ラルナダルト家を継ぐ事でアンクを手に入れた私は、直ぐに皇宮図書館に行きました。
そこではずっと、失われていた皇国の歴史や、女神マグダレナの事などを読み漁っていました。
けれど、欠落している部分があるのです。あるという事は分かるのに、肝心の部分がない。
そこに、貴女を中心に据えた計画が何なのかを知る手がかりがある筈です」
私の頰を、ルシアンが撫でる。
温かい。優しさを感じる触れ方に、向けられる眼差しに、自分への気持ちを感じる。
「ルシアンの知る情報では、お義父様の計画で私が危険な目に遭うという事ですか…?」
さっき魔王様自身は否定してたけど。
頰に触れるルシアンの手に、自分の手を重ねる。
「可能性を全て否定する事は出来ませんが、父も言っていた通り、それはないでしょうね。
また別の話として、フィオニアが調べてきた情報の中にキナ臭いものがあるのです」
キナ臭い……それがあるから私の帝都行きを嫌がった?
「皇国内にいた方が本来ならば安全です。でも、父上が帝都に行くなら、父上と一緒にいた方が安全です」
「それは、お義父様直属の影がいるからですか?」
ゼファス様が私に付けてくれたという影は、帝都にも付いて来てくれるのだろうか?
「いえ、父がそこにいると言うだけで牽制になるからです。それだけの知名度を父は持っていますから」
規格外だもんね…まぁ、魔王だしな……。
「ルシアン…少しで良いので、教えて欲しいのです」
お義父様はルシアンに、何故自分の意思に背くような事をしたのかと尋ねていた。
「何故、私がラルナダルト家を継ぐ事にしたかですか?」
そうです、と答えて頷く。
さっき、ルシアンはお義父様の問いに答えなかった。
アンクの為だけじゃなさそうだし。
何だっけ、さっき、"天秤"とか"杖"とか言ってたような?
"アンク"が皇族になった時にもらえたものだとするなら、"天秤"と、"杖"も比喩ではなく、存在するもの?
「ミチルがラルナダルト家の血を引くと言う事が分かり、このまま何もしないでいれば、否が応でも公家内の揉め事にミチルが巻き込まれる事は避けられそうになかったからです。
彼らは本来、大人しく見守ってくれるような存在ではありません。先手を打たれてしまえば、こちらの盤面が減る。後手に回って良い事は殆ど無い。ゲームのように交互に攻める訳ではありませんからね。
アルト家は部外者であり、不要な因子です。皇国を維持する為にミチルが必要な駒だと彼らが認識した場合、アルト家とミチルを引き離す行動に出る可能性は高い」
ルシアンのその言葉に咽喉が一瞬にしてカラカラになる。渇きを癒したくて、紅茶を飲んだ。
「先程の発言からしても、父の当初の計画では公家にここまで踏み込ませるつもりはなかったのは間違いありません。きっと、ミチルがラルナダルトの血を引いている事すら隠そうとしていたのだと思います。
……アンクを手にする手段は他にもありました。ラルナダルト家を継いだとしても、飾りになる事でやり過ごす事も出来ました」
飲んでも飲んでも、咽喉が乾くような感覚がする。
「…ゼファス様は…オットー家は、どちらに立っているのですか?」
お義父様の計画にオットー家は協力しているように見える。でも公家としての立場もある筈だし。
「父の計画に賛同して動いているでしょう。現時点では皇国に仇成すものではないと認定されているから。
いえ、計画が皇国を揺るがすものとは思っていません。
ですが、何が逆鱗に触れるかは分からない、と言う事です」
仇成す、のあたりで私が怪訝な顔をしたものだから、ルシアンは苦笑して訂正した。
「皇国は二千年の歴史を有する大国です。領地でもないそれぞれの国を宗主国としてまとめあげるという事は、生易しい事ではありません。それを可能にするのは、公家が影に日向に皇家を維持しているからです。
その大国の重鎮である彼らを、不用意に刺激するのは得策ではありません」
刺激しまくりな気がするけど?それともまだ許容範囲なの?心、逆に広くない?
「彼らも愚かではありませんから、父が動いている事は分かっている訳です。むしろずっと監視されてると言っていい。そんな中で、皇国公家の血を引く貴女と、リオン・アルトの息子である私が婚姻を結んでいるという事実を、捨て置く筈はありません」
貴族コワイ。
上級貴族コワイ、マジ、コワイ。
「私は若輩者です。父のいる間は彼らも手出しはしないでしょう。ですが、その後は?」
ルシアンは紅茶を飲んだ。
お義父様がいなくなれば、それまでの反動が来る事は想像に難くない。
「七公家同士にもそれぞれ複雑な関係があります。ですが先日見たように、皇国を守る為に必要とあれば、簡単に手を組みます。
父がいなくなった後、アルト家が単体で皇国七公家とやりあえる筈がありません。そんな事が出来るのは父ぐらいでしょう」
息を吐く。
確かに、そんな事が出来るのはお義父様ぐらいだろう。
ルシアンは確かに優秀で、努力を欠かさないけど、そう言う次元じゃないと感じる。
それは公家の人達も分かってるから、お義父様が仕切っている間のアルト家には手を出さない。
でも、お義父様がいなくなったら?ルシアンの代になったら?アルト家を敵と認定したなら、間違いなく手を組んでアルト家を潰しにくるだろう。多勢に無勢だ。
「ですから、敢えて飛び込みました。
私から貴女を奪わせない為に。貴女の意思を無視して女皇にさせない為にも」
やっぱり、そこに帰結するのか。
「中に入り込みさえすれば、簡単には潰されなくなりますから。
有り難い事にアルト家そのものは大きな一門です。比較的結束も固い。公家としての土台を作るだけの時間を作る余裕はあるでしょう」
ルシアンは私の手を握りしめた。
「頼りないかも知れませんが、全力で貴女を守る事を誓います」
頼りないどころか、これ程頼りになる人がいるのだろうか。力のある人はいるだろう。でも、私の気持ちを考えてくれるかどうかは別問題だ。
「ごめんなさい、ルシアン…」
「何故貴女が謝罪を?」
「私の所為で、ルシアンが大変な目に」
ルシアンと婚約してから、私も大概な目に遭ってきたとは思うけど、ルシアンも大概な事に巻き込まれてるよね。
「貴女の側にいる為なら、どんな事も耐えられます。
だから、心配しないで」
胸が締め付けられて、耐えきれなくて、ルシアンに抱き付いた。
ルシアンの腕の中は温かくて、安心する。
「嫌です。心配です」
大変なのはルシアンなのに、私を安心させようと、私の背中を撫でてくれる。
女神様、お願いです。
どうかルシアンをお守り下さい。
どうか、お願いします。




