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転生を希望します!  作者: 黛ちまた
イリダ編

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忘れられた名

ルシアン・アルト視点です。


ルシアンのミチルへの想いが迸った描写がありますので、ご注意?下さい。


「……何故付いて来た」


「私は常にルシアン様の側におります」


「その様な意識散漫な状態で?」


目を伏せ、謝罪を口にする従者に、それ以上の言葉はかけなかった。


早朝に離宮を発ったのもあり、昼過ぎには皇都に入る事が出来た。

先駆けを猊下に送ってある。


カテドラルに向かう途中で咽喉が乾く程に甘い菓子を購入した。ミチルがいつも猊下の元に向かう際にそうしていたからだ。


朝方まで抱いていた愛しい人の事を思い出す。

絹のような艶やかな髪、滑らかな白い肌、溢れる涙、甘い声、華奢な身体を、思うままに己の物にした。

ミチルの全てが俺を誘惑する。どれだけ手にしても、満たされた事が無い。欲しい、彼女の全てが。心も身体も。肌の温かさも、放つ香りも、視線も、思考の何もかも。

己の欲の際限の無さには、失笑しか無い。

今すぐアドルガッサーの離宮に戻り、彼女を抱き締めて腕の中に閉じ込めたい。


息を吐く。


ミチルは思っている以上の秘密を抱えている。それは父の行動からも分かっていた。

問うても教えてもらえぬのであれば、己で調べるしかない。




差し出した菓子を手にして、猊下は口元に笑みを浮かべた。


「ミチルを置いてわざわざ戻って来たのは、私に頼みたい事があるから?それとも聞きたい事があった?」


「ラルナダルト家について、お聞かせ願えますか」


「古い名だね。皇都では忘れられた名だ。何処でそれを聞いたの?」


開封した菓子を口にする。


「猊下、私はアンクが欲しいのです」


「ミチルから聞いた?」


「えぇ」


ミルヒが紅茶を置く。


「皇族しか持てないよ」


「正規であればそうでしょうね」


猊下は目を伏せた。


「……何処まで知ってる?」


「推測の域は出ませんが」


沈黙が降りてきた。

猊下の反応を待つ。


「……あのやり方は駄目だ」


息を吐くと、猊下は背もたれに寄りかかった。

顳顬こめかみを指で押さえている。


「ルシアン、ラルナダルト家を継ぎなさい」


猊下は従者に視線だけ向け「七公家全てに招集を」と命令した。




*****




夜半に開かれた皇国七公家の会議。

私の姿を認めると、僅かに眉間に皺を寄せる者もいたが、何も言わずに席に着いた。


「突然の招集は、そこにおられるミチル殿下の配偶者が関係するのかな?」


「いかにも」


バフェット公の問いにオットー公は頷き、本題に入った。


「彼に、ラルナダルト家の再建をしてもらう」


全員の視線が身に注がれるのを感じる。

その目から、ラルナダルト家を知っている者と、知らない者に分かれているのが分かる。

差は、皇族として認定され、アンクを保持しているかの違いだろうか。


「復興とは異な事。養子ではなく、ラルナダルト家を再建と言い切る理由を知りたい」


クーデンホーフ公は皇族に該当する。この様子からしても、ラルナダルト家の事を知っているのだろう。


アビスがミチルに祖母の調査を依頼されていながら、結果を報告出来なかったのは、彼女の祖母がラルナダルト家の正当な後継者だからだろう。私に許可を得るように視線を向けて来た時に、アビスでは判断が付かない結果が出たのだと見てとれた。


アビスの報告から、アドルガッサーの貴族であるラルナダルト家が王家を凌ぐ力を持つ事は分かった。書物で各国の貴族の事は知っていたが、王家に並び立つ程、と言うのは違和感がある。

それ程の力がありながら、王家とラルナダルト家は血縁関係を結んでいない。本来であれば、結び付けるものだ。

いくら歴史のある貴族とは言え、そこまで力を持つ事は容易い事では無い。悪事の上での権力であるなら、後継者不在を突かれて途絶えるような体制にはしない。

ラルナダルト家がそれを望まぬのであれば、必要ない程の力を持っている、と言う事になる。


皇都に向かう途中に、アビスが調査したラルナダルト家に関する書類を読み、違和感は解消されつつあった。

ラルナダルト家は基本的に子を他家に出さない。他家から受け入れるのみだ。アルト一門でも同様の事をする家はある。出したとしても、特定の家にしか出さないようにして、血の混じりを最小限に止める。

それはまだ良い。他家が問題だった。皇国七公家から受け入れているのだ。皇室からも入っている。

アドルガッサー王家を上回るのは、ここに起因するのだと分かる。皇家の血を引くのなら、下手に王家と交わる事は許されない。アドルガッサー王家が他国よりも抜きん出た位置になってしまうからだ。

皇家に輿入れする事はあっても良い。だが、外に出てはならない。

イルレアナ・ラルナダルトの母は直系皇族だった。

もし、イルレアナ・ラルナダルトがミチルの祖母なら、ミチルは皇族に該当する。


「理由も何も無い。ミチル殿下がラルナダルト家の血を引くからだ」


推測の域を出ていなかったが、オットー公が断言した事により、確証が得られた。

オットー家はこの事実を知っていた。父も同様に知っているのだろう。……いや、父が知り、その情報をオットー家に知らせていると言った方が良いか。

父はずっと、ミチルを"姫"と呼び続けていた。あれは揶揄などではなかったのだ。


「……どう言う事か、ご説明願えますか?

可能であればラルナダルト家の立ち位置から」


エステルハージ公は鋭い視線をオットー公に向けた。

オットー公は咽喉をワインで潤すと、話し始めた。


「皇族として認定され、皇宮図書館にて皇国の成り立ちを調べた者なら知っている事だが…。

昨今は、皇室の血を引く者が減った為、我等皇国七公家の中でも、"知る者"と"知らぬ者"に分かれてしまった。

何の問題もない状況であれば、そのままでも良いが、有事は迫って来ている」


有事と言う言葉に、知らぬ者達が眉をひそめた。


「かつてディンブーラ皇国はこの大陸全土を治めていた。女神マグダレナを崇め奉る司祭としての役割を果たす者が、皇国の頂点に立った」


女神マグダレナが選んだ最初の司祭が女性であった事から、代々女性がその役割を果たす事が暗黙の了解となっていたようだ。

女皇の補佐をする者として八つの家が立てられる。それが皇国八公家の興りであり、血縁を濃すぎないように、薄め過ぎないようにする役割も果たす。

長きに渡り、女皇を頂点として栄華を極めて来た皇国に翳りが見え始める。

女性のみが君臨する状況に異を唱えたのは、時の第一皇子だった。良くも悪くも皇子は優秀であり、野心家だった。

彼を支持する多くの貴族の助力もあり、皇国は二分され、雷帝国が誕生する。

お互いが己の正当性を証明しようと、皇国と帝国による不毛な戦いが始まるが、その戦いは一度収束する。

第二皇女アスペルラが動いた事により、兄である帝国皇帝も、姉である皇国女皇も、剣を引かざるを得なかった。

アスペルラの望みは女神の望みと言われる程に、アスペルラは女神に愛されていた。

元は大陸の中心にあった皇都は今の場所に遷都したが、アスペルラはそれを嫌がり、現在のアドルガッサーに留まった。

姉である女皇の治世にとって、自分の存在が新たな火種になる事を恐れたアスペルラは、アドルガッサーに留まる際、皇国八公家のラルナダルト家に降嫁し、その生涯をアドルガッサーの離宮にて過ごした。


オットー公の説明が終わった後、その事実を知らなかったバフェット公は眉間を指で揉んでいた。

バフェット公は元々シドニア家の出身であり、かの家には何代にも渡り、皇族は降嫁していなかった。

また、オットー公はこの事実は例え子であろうとも伝えてはならないとされていると告げた。それは曲がった歴史を親が子に恣意的に伝える事を防ぐ為だった。

アスペルラの姉である女皇が決めた事のようだ。

真実を隠したいとしつつも、真実を必要以上に隠す事も出来なかった女皇の、苦渋の決断だったのかも知れない。

己の代で国を分裂させた不甲斐なさ。己の傲慢さが招いた事実を隠したいと言う思いもあったが、それを良しとしなかったのだろう。


「当家の者が、何故アドルガッサーのラルナダルト家に輿入れする必要があったのかが長年の疑問でしたが、ようやく謎が解けました」


エステルハージ公は、すっきりした顔で眼鏡を指で押し上げた。


「それで、ラルナダルト家の再建とはどう言う事か?」


クーデンホーフ公の問いにオットー公は珍しく笑顔を曇らせた。


「アドルガッサー王家が、ラルナダルト家を潰した」


「!!」


「馬鹿な!」


「皇家を、潰すだと…?アドルガッサー王家はラルナダルト家が何者なのか知らなかったのか?」


オットー公は首を振った。


「当時のアドルガッサー王が何を考えてそうしたのかは不明だ。我等がそれを知ったのは、つい最近なのだよ」


「どういう事だ」


唸るような低い声がクーデンホーフ公から漏れる。


事と次第によっては、アドルガッサーという国そのものを滅ぼす必要が出て来る。


「当時、ラルナダルト家は早世した公爵の跡を継いだ若き当主が率いていた。ラルナダルト家の将来は安泰であると言われていたそうだが、公爵が落命し、ショックで前公爵夫人は儚くなり、残ったのは公爵の妹である令嬢のみ。

ラルナダルト家は皇国七公家の我等に養子縁組を望む為、慣例通りにアドルガッサー王家を通そうとした。

それを王家が握り潰し、後継者不在を理由に強引に爵位を奪った」


「その様な横暴は許されません!何故皇国に申し出なかったのか!」


「イルレアナ様の母上は皇女だ。もし、兄である皇帝がこの事実を知れば、どうなる?」


皆、一様に声を失くす。


「もし、アドルガッサー王家の不正を皇帝に訴えた場合、あの方ならば、王家を罰するのではなく、王国を滅ぼしただろう」


「黙らざるを得なかったという事か…」


「令嬢が行方不明になった事もあり、言えなかった、と言うのもあったのだろう」


行方不明?とクレッシェン公が聞き返す。


「とある国の伯爵家次男は、家を継ぐ必要もなかった為、好き勝手に生きると言って諸国を巡っていたのだそうだ。嫡子である長男が落馬で命を落とした事も知らずに。

家人は必死に次男を捜索するが国外にいた為、見つからない。このままでは家が取り潰されると焦りを募らせていた所に、ラルナダルト家の令嬢であるイルレアナ様を連れて帰国したと言う訳だ。

イルレアナ様はご自身の出自を絶対に口になさらなかったようで、当然家人は二人の結婚を反対するが、それなら家を継がないと次男が頑として聞かない為、渋々結婚を認めたと聞いている」


「それが、ミチル殿下の生家であると?」


ミチルが、祖父の事を殺しても死なないと表現していたのは、この辺の豪胆さに由来するものなのだろう。


「色々と、規格外だな、ミチル殿下は」


バフェット公のため息混じりの言葉に幾人かが頷いた。


「では、七公家の方々、ラルナダルト家の再興に異議はお有りか?」


誰も異議は唱えなかった。


「血統としても、ミチル殿下とアルト伯の子がラルナダルト家を継ぐのが相応しかろう。

それに、皇家を守れる力を持つ家と言うのはそう多くない。アルト家なら問題あるまい」


「アルト伯、皇国公家の仲間入りをする事になる。覚悟は出来ているか?」


クーデンホーフ公の真っ直ぐな視線が向けられる。


「元より覚悟の上です」


ミチルの側にいる為に必要な事ならば、何でもするとあの時に決めた。ミチルは既に皇族の仲間入りを果たしている。今更何と言う事も無い。


それまで黙っていた猊下が、「有事は近い。現在の七公家の当主に特例としてアンクを授ける。アンクを手にして皇宮図書を読むかどうかは各人に任せる」と言うと、エステルハージ公やバフェット公が頷いた。


「有事とは?」


クレッシェン公が尋ねるも、猊下もオットー公も答えなかった。


「女皇の教え、か。分かった。己が目と頭で判断させてもらおう」


猊下が視線を寄越す。それを受けて皆、こちらを見た。


「では、アルト伯、そなたは今よりラルナダルトを名乗るが良い。

ルシアン・アルト・ディル・ラルナダルト、と」


「有り難く頂戴致します」




*****




翌日、皇室から届いた物を手に、直ぐさま皇宮図書館に向かった。


受け取ったばかりのアンクを扉横の穴に填めると、金属音がした。錠を外したと言う感じでは無い。

扉が開いて行く。完全に開いたのを確認してから中に入ると、左右に帯剣した騎士が立っていた。……生者の気配がしない。

…にも関わらず、騎士は頭を垂れた。それも、滑らかに。


背後で金属同士がぶつかる音がした。フィオニアも続けて入ろうとして拒まれたのだろう。


「外で待つように」


「ですが」


「心配は無用だ」


「かしこまりました」


フィオニアが下がるのと同時に扉がゆっくりと閉まった。


廊下の先に受付らしきものが見える。

受付の前まで進む。

そこには中性的な顔立ちの、対称的な髪型をした少年と少女が立っていた。この二人からも生きた人間の気配がない。死者という訳でもなさそうだ。


「「ようこそお越し下さいました」」


同時に発せられる声は僅かに差がある。


「私はハル」と幾らか柔らかみのある顔立ちの方が言い、

「私はエル」と顎が幾らか尖った顔立ちの方が言った。


この二人が、ミチルの言っていた二人なのだろう。


「初めてお目にかかります」

「お名前をお伺いしてもよろしいですか?」


「ルシアン・アルト・ディル・ラルナダルト」


名乗ると、二人は同時に頷いた。


「登録致しました」

「完了致しました」


「そのアンクがあればこの図書館の」

「全ての本をルシアン様は読む事が可能です」


二人が頭を下げたのを見て、奥へと進む。


真っ直ぐに奥へと向かう。

予想通りならば。


奥へと進むと、先客がいた。

こちらに背を向けたまま、本を読んでいる。


「エザスナ・レミ・オットー様……いえ、父上」


声をかけると、わざとらしく今気付いたとばかりに振り返った。

いつものように父は何もかも見透かした目で俺を見る。


「その名で登録している事も分かっているとは。

それにしても、思った以上に早くここに辿り着いたね、ルシアン」


「ラルナダルトの名をいただきました」


「アルト家も遂に皇国八公家の仲間入りか。出世したものだね」


「……何処まで想定しておいでなのですか」


本で口元を隠し、目だけで父は微笑んだ。


いずれ来る事は分かっていたよ。ミチルの為ならどんな事も厭わないそなたならね。正攻法で来るのか、私のように手段を問わないのかはさておいても」


まぁ、良い、と本を閉じて父は言った。


「そなたがここにラルナダルトとして来たと言う事は、直に他の公家もここに来るようになるのだろうから、ここに出入りするのも潮時のようだ」


閉じた本を私に向けて差し出してくる。


「ミチルが見つけるように、皇城の図書室に魔力関連の本を置かれたのは、父上ですね?」


「上手く誘導出来ただろう?ミチルの事も、そなたの事も。カーネリアン家の職業病もね」


本を受け取ると父は微笑んだ。


「次からはそなたも加わりなさい」


何に、とは聞かない。


「かしこまりました」


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