企みの行方
本日2つ目になります。
ゼファス視点です。
そして、第2章の最終話になります。
目の前のリオンは、満足気にワインを口にした。
「リオンの思い通りに進んでるのが、つまらない」
ふふふ、と笑うリオン。兄上は静かにワインを口にすると、「何を今更」と言って薄く笑った。
「何でも思い通り、と言う訳でもないよ?」
私の知るリオンは、いつも思い通りに物事を進めていく。
「これでも色々と準備は怠っていないのだから、そうなってくれなければ困るなぁ」
「だが、ミチルが現れなければ、無理だったろう?」
兄上の問いにリオンは首を傾けた。
「手段を選ばなければ色々とやりようはある。正規に拘らなければ、いくらでもね」
蠱惑的な笑みを浮かべるリオンに、ぞわりとする。
「二人の姫には感謝しているよ。とても、順調だ。」
アレクシアが愚物である女帝を追いやって女皇になり、リオンの計画の進捗率はぐっと上がった。
「ただ、杖が帝国にないのは計算外だったなぁ」
はぁ、とリオンはわざとらしくため息を吐いた。
「そんな事を言って、もう、ギウスを滅ぼす算段はついてるんじゃないのかい?リオン」
「人聞きが悪いよ」
「だが、杖はギウスにあるのだろう?」
" 杖 "は、リオンがずっと探し求めていたものの一つだ。
「 滅ぼそうかと思ったんだけどね、ハウミーニアの二の舞はね、困るなぁと思って」
ハウミーニアはウィルニア教団に食い物にされ、国家としての体をなさない状況になっていた。それを皇国はカーライルに押し付けた。
雷帝国とギウスと隣接するハウミーニアが崩壊した状態は大変不味い。かと言って皇国からは距離もあり、適任はカーライルしかいなかった。
素直に頼めば良いものを、当時の宰相は皇国の権威がアルト家にも通じると勘違いをした。
バフェット家の長男からアレクシアに皇太子が変更になった事で、これまでバフェットと結んできた誼が無駄になったと思ったのだろう。辺境国の宰相風情がと馬鹿にして、一連の騒動を引き起こした責任を取れ、と暗にカーライルを脅した。
同じようにルシアンにも皇国の建て直しを手伝えと執拗に迫った。
横で見学していたが、何処まで愚かなのだろうと、感心する程だった。いっそ清々しい程に滑稽な物言いに、さすがのリオンも笑っていた。
ルシアンに死にたいなら今すぐ殺してやる、と脅され、リオンからは「皇国はカーライルに何もして下さらないのに、恩を返せと、無いものを強請られる、困った事だ」と言い返されていた。
当然カーライルは断った。カーライルに旨味が全くない。
アルト家が介入してくれなければ皇国は更に悪い方へと進んだ事だろう。
バフェット公は愚かではないが、アレでは駄目なのだ。何も分かっていないバフェット公では。それに、あの長男では女帝の二の舞までは行かずとも、頭上の重しであるバフェット公がいなくなればどうなるやら、という点でも皇国七公家の面々は不安視していた。
宰相は直ぐに解任され、クレッシェン公はリオンの弟であるキースを己が養子に取り、アルト家の顔を立てた。皇国へアルト家が介入する事を良しとしたのだ。これは異例だ。本来なら許されざる事だ。
抵抗勢力になるかと思われたバフェット公爵夫人は、皇太子が亡き兄の忘れ形見であり、その皇太子を擁立する為にアルト家が援助すると申し出た事により、態度を軟化した。引っ張られるようにバフェット公の実兄であるシドニア家も受け入れた。
ハウミーニアは、カーライルの支配の下、恐ろしい速さで復興を遂げていると言う。今の所、順調だ。
未だに中毒に苦しむ者は多くいるが、心を支える存在としてマグダレナ教会から多数の聖職者を派遣している。
皇国貴族によりミチルが実害を受けた事をルシアンが抗議したが、キースとアレクシアの介入により処分は軽かった。
ルシアンは即座にカーライルに帰国するとキースとアレクシアに伝えた。アレクシアは人の悪意に触れた事がない。だからこそ罰する事そのものに抵抗があった。
しかし、罰しなければルシアンとミチルが帰国する。焦ったアレクシアは妻に操られていたキースの言う通りに処罰を軽めにする事を良しとしてしまった。本人からすれば、間を取ったつもりでいたのだろう。
結果としてミチルに媚薬が盛られ、アレクシアはフィオニアから徹底的に糾弾されたと聞く。
フィオニアはルシアンを何においても第一とする。そのルシアンの抗議を軽く受け止めていた事にも腹を立てていたようだ。その上あの騒動があった。
騒動後、自分の甘さが招いた事を知り、アレクシアは顔面蒼白になり、リオンにも詰められ、這う這うの体だったようだ。言葉で詰められるだけで済んでありがたいと思って欲しい。
あの時、皇弟が来なければ、秘密裏にミチルに付けていた影であの男を処分する所だった。
フィオニアがアレクシアに言った言葉を、アレクシアに付けていた影から聞いたのだが、かなり辛辣だった。
何の被害にも遭っていない姫が、何故そんな風に辛そうにするのですか?
泣きたいのも、辛いのも、姫ではない。我が主人の最愛の妻であるミチル様です。
ルシアン様に想いを寄せる令嬢に罵倒され、怪我をさせられ、媚薬を盛られ、見ず知らずの男に穢されそうになったのは姫ではない。その恐怖が、姫には分かりますか?もしそれが切っ掛けでお二人の関係に亀裂が入っていたら?
謝罪されたと言う事ですが、姫の謝罪にはあった事を無かった事に出来る力でもあるのですか?記憶を消せるのですか?時を戻せるのですか?
出来ないでしょう?貴女が皇女であろうと何であろうと、そんな力はないのです。
そしてこんな悲劇を起こしたのは、貴女にも責任があります。貴女は皇国の貴族に嫌われたくないばかりに、ミチル様を生贄にしたのですよ、姫。
貴女と宰相が然るべき罰を与えなかった為に、貴族達は貴女を御せると認識した。
それはそうでしょうね。罰は本来の半分以下だったのだから。侮って下さいと言っているようなものです。
為政者として鉈を振るえないのであれば、今すぐ皇太子を辞してバフェット家の次男にでも譲られてはいかがですか?その方が貴女も、意に添わぬ事をしなくて済むのですから、良いのでは?
……貴女には、失望しました。
アレクシアに言い訳を一切許さず、フィオニアは言うだけ言うと、去ったらしい。
ここに来てようやく、アレクシアは自分の愚かさを、真の意味で理解したようだった。
考えていない訳ではなかったが、己の下した判断が、どういった結果をもたらしたのかを遅まきながら理解したのだろう。好かれようとした事が、侮られただけだったなど。
ミチルと友達になりたいなどと言いながら、自分が何をしていたのかと。
愛されたいという己の欲求が、招いた事件。
そしてその愚かさ故に、最も嫌われたくなかった人に、軽蔑された事。
それからのアレクシアは、少し変わった。
自分の立場、言葉、態度一つが与える影響を、自覚するようになった。
軽口は以前のように叩くが、無理は通さなくなった。
ミチルが皇城に上がると、必ず会いに行った。散歩時には必ず付いて行き、ミチルを一人にしないようにした。
護衛がいようと、影が付いていようと、関係なく。
「とは言え、下さいと言ってもらえるものでもなかろう。どうするつもりだ?」
「春になれば、ギウスは帝国に戦争をしかけるよ」
「皇国ではなく?」
「私がいるもの」
ふふふ、とリオンは微笑んだ。
かつて無敗を誇った将軍が12歳のリオンに討ち取られた事を思えば、ギウスも同じ轍は踏まないだろう。
「それに、杖を皇国から奪い、迂闊にもギウスに奪われたのは帝国なのだから、帝国が対処すべき事だよ」
「手を貸すのか?」
「貸すよ。杖は必要だ。ミチルに必要だから」
「そのミチルは、何処まで知っている?」
リオンは首を横に振った。
「まだ何も知らないよ。"レイ"の意味が何なのかも」
兄上は息を吐くと、リオンに紙を差し出した。
「そこにミチルの祖母がいる」
紙に書かれた文字を読み、苦笑いを浮かべる。
「これはこれは…さすがシミオン。ずっと探していたのに見つからぬと思えば、こんな所に」
「隠れているつもりはないだろうが」
「まぁね。ミチルは無事に"レイ"を継承出来たから、祖母の事はどうでも良いけど、知らずに巻き込んで傷付けてしまってミチルに嫌われるのは困る」
リオンは背後に立つ悪魔にメモを渡した。
「ようやく、ここまで来たね。これからも、よろしく頼むよ、シミオン、ゼファス」
思わせぶりな終わりで申し訳ありません。
第3章は間を置かずに書く予定でおります(書かないでいると設定とかを忘れてしまうので)。
これまでお読み下さった皆様、ありがとうこざいます。
心から感謝申し上げます。
第3章 ギウス編も引き続きよろしくお願い致します。




