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転生を希望します!  作者: 黛ちまた
皇都編

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242/360

帝国の興りと侵略者

雷帝国皇帝視点です。


そろそろ第2章が終わります。


蝋燭がゆらりと揺れ、目の前の男はにっこり微笑んだ。


「お邪魔するよ、陛下」


リオン・アルト。

ディンブーラ皇国辺境を守るカーライル王国の宰相。天才という名を欲しいままにする男。

齢12歳で初陣を果たし、ギウス王国の将軍を仕留め、以降も謀などでその頭脳を遺憾無く発揮する。


スタンキナの策略を二度も止めた男。

そしてレペンスの陰謀からレーフを守ってくれた人物。


こうして会うのは三度目になる。


一度目は叔父である大公を衆目の前で断罪した日の前日。

その際はルシアンの事もあってその場で殺されるかと思ったが、そんな事はなかった。

うちの姫の頼みだから、今回は見逃してあげるよ、と言われた。姫と言うのは、ディンブーラ皇国の世継ぎの御子になった皇女の事だろう。


二度目は、公爵がスタンキナを連れて来た。

スタンキナは私を見るなり床に平伏した。公爵が全て説明したようで、血を吐くように何度も何度も謝罪した。

私がスタンキナに何も言わずに行動に移した事が問題なのだ。そなたは何も悪くない、苦労ばかりかけてしまった、そう告げると、スタンキナは再び平伏した。涙が床に零れ落ちていたが、気付かない振りをした。


「ようこそ、アルト公爵」


着席を促すと、公爵はソファに腰掛けた。背後に黒髪、黒い瞳の燕尾服を着た男が立った。

私の影であるチエーニは、決して影としての実力が不足している訳ではない。だが、この執事の前では形無しだったようだ。

気が付けば公爵の影をかわしているつもりが、上手く誘導され、捕縛されたと言う。

主人と言い、執事と言い、規格外なのだろう。時折いるのだ、こう言った、人外のような存在というのが。

それと、水色の髪をした女性かと思う程に美しい顔立ちをした執事も並んで立った。燕尾服を着ているから、男なのだろう。


紅茶の入ったカップが置かれる。

人払いをした為、侍女は紅茶を置いて直ぐに部屋から出て行く。

珍しい事に公爵は直ぐにカップに手を伸ばした。

公爵は執事を振り返った。執事は頷くと直ぐに部屋を出て行った。


「この紅茶は飲まない方が良い。微弱ではあるけれど、毒が混入しているようだから」


頭から血の気が引く。私はぎゅっと手を握りしめた。


大公とその一派を排除し、正妃もレペンスにより命を奪われたが、正妃を慕っていた者達が未だにいる。


「…公爵、身体は平気なのか?」


「このぐらいはスパイスぐらいにしか思わないよ。アルトは毒が効きにくいからね」


常に謀に身を置くアルト一族は、王族がそうであるように毒物への耐性を身に付けていると聞いた事がある。


「所で陛下、杖はお持ちかな?」


杖?


「こう言った方が分かりやすいかな。

雷帝国を興した初代皇帝が女神から賜ったとされる杖」


この男に知らぬ事は無いと言われているが、本当にその通りなのではないかと思う。


「杖は余の元にはない」


「マグダレナ教の従順な信徒である筈の皇帝が、女神から賜った杖を、無くしたと?」


アルト公が目を細めた瞬間、部屋の温度が下がったような気がした。それ程、冷たい眼差しに変わった。


「三国の争いが激しかった時代に、ギウスにより当時の皇帝が討ち取られた際、杖は持ち去られたと聞いている。

あの後はギウスを追い払う事と、帝国を建て直す事の方が重要視されたのだろう」


「なるほど」


黒髪の執事がワゴンを押して戻って来た。ワゴンにはティーポットとカップ一式が乗っている。


「不出来な紅茶は片付けたのかい?」


「廃棄しました」


ふ、と公爵は微笑んだ。


「まだ、夢を見ている者がいるようだものね」


その言葉に、先程の侍女の末路が見えた気がした。


執事が淹れ直した紅茶の香りを楽しむと、公爵はにっこり微笑んだ。彼は紅茶をとても好む。

その所為だろう。公爵の執事は紅茶を淹れるのがとても上手だ。紅茶とはこんなにも美味しいものだったかと驚く程に。


「先程話に出てきたギウスだけれどね、そろそろ限界のようだよ」


限界?

ギウスが?

そんな話は聞いた事はない。


「公爵、ギウスが限界とは、どういう意味か?」


「そのままの意味だよ。あの国はそう遠くない未来、内部から崩壊する」


「…ギウス族長が病である情報は入っているが、それ程までに…」


あれだけの大国が次の族長の座を巡って争えば、帝国も皇国も影響を受ける事は必至だ。


「族長の嫡子は病で命を落とし、三男が次期族長と目されているが、何分年若い。側女の子は他にもいる。

頭の痛い事だろうね」


族長の長子は庶子であり、武勇に優れた男だったようだが、カーライルに攻め込んだ時に命を落としたと聞く。

次男は正妻の子で、族長の後継ぎだった訳だが、病にて命を落とした。


「杖はギウスにあるのか、困ったねぇ」


困っているようには聞こえない。


「素直に杖を返して下さいと言っても無理だろうね。

むしろあの危機的状況のギウスに皇帝が杖を返せと言えば、知らなくても杖に価値があると見做して、何かしらの要求をしてくるだろうし。

かと言って私が行くのもね。私はギウスにとって、偉大な将軍を殺した大罪人だからねぇ」


無敗と言われた将軍を仕留めた人物として、アルト公爵は帝国でも有名だ。

かつてカーライル王国はギウス王国の属国だった。酷い扱いを受けていたと聞く。


ギウス王国の侵攻を防ぐ為に、ディンブーラ皇国はギウス王国の属国だった三国(ハウミーニア、カーライル、サルタニア)を受け入れる。


属国として扱っていた国を、ギウスの将軍が侮ったとしても何ら不思議はない。

とは言え、属国だったのもかなり昔と聞く。いつの話をしているのだか。そもそも皇国の力添えがあったとして、簡単に支配から逃れられる筈もない。

それだけの準備をカーライルはしていたのだ。


「…公、一体何を考えているのか、差し支えのない範囲で教えてもらえないか。余は公に救われた身だ。出来る事があれば手伝いたい」


私は許されない事をし続けた。

燕国の青年に言われたように、己の為に皇帝だけが持つ影を用いた。

今度はその力を、人の為に使わねばならぬと思う。


吟味するように、アルト公爵は私をじっと見つめる。


「取り戻した杖を、私にくれるのならね」


「そこまで公が執着する杖が何なのか、気にならない訳ではないが…どちらにしろ帝国にずっとなかったものだ。

約束しよう、杖は公爵にお渡しする」


ありがとう、と笑顔になった公爵は、紅茶を飲み、紅茶と一緒に出された菓子を口にする。


「時に陛下は、マグダレナの信徒と聞いているけれど、どれだけご存知なのかな」


「?」


話が飛ぶ為、発言の真意を汲み取り辛い。


「雷帝国が己に都合良く編纂した帝国史ではなく、正史を目にした事はあるかい?」


正史──。


「丁度良い機会なのだろうね。

マグダレナの末裔として、正しい歴史を知るべき時が来たのだろう」


「…公爵は、それを知っているのだな?」


「そうだね。正規ではない手法でだけれどね」


正規ではない手法?


「マグダレナの歴史は大陸の歴史だ。

帝国にとっては都合の悪い事が書いてあるからね、陛下が知らなくても不思議は無い。

では、不詳ながら私が陛下に教えて差し上げよう」


そう言って公爵は、マグダレナの歴史を話し始めた。


創造神が世界を作った事。女神マグダレナには兄神が二柱いる事。

その二柱が作った民。オーリーの民とイリダの民の間に起きた長い戦い。

それによりこの大陸に流れ着いた民が平民となった事を。


女神マグダレナが選んだ者が女皇となり、ディンブーラ皇国を興し、マグダレナの民を導いてきた。

女皇を頂点として複数の氏族が女神マグダレナに仕えていたが、女性による統治に異議を申し立て、皇家が分裂し、男子を主体とした新たな国を興した。それが雷帝国。

その為、帝国の後継者は絶対に男子でなくてはならないという決まりがある。

女皇を守り続けていた筈の皇国は、気が付けば男子が皇位を継ぐようになった。

それは、ディンブーラ皇国と雷帝国とは別の集団、ギウス王国が大陸に渡って来た所為だ。


イリダとオーリーの混血である民が海を渡り、雷帝国とディンブーラ皇国の領土を侵略した。

あっという間に大陸の1/3を呑み込んだギウス王国は、ディンブーラ皇国と雷帝国が手を組んだ事により、その侵攻を止めたが、その戦いの中で様々なものが失われたという。


「そして、今に至る、と」


めでたしめでたし、と繋がりそうな言い回しで話が終わった。


「杖というのは、本来ディンブーラ皇室が持つべきもの、という事か?」


皇国ではもうじき御子へと皇位が継承されると言う。その際に、杖が必要だと言う事なのではないかと推察する。


「理解が早くて助かるよ。あれは本来、皇位を継承した者が持つべきものだ」


国を二つに分割し、皇位継承者が持つべき杖を奪ってまで国を興した己の祖に対して、複雑な思いが湧く。


「公爵は、帝国やギウスは滅んだ方が良いと考えているのか?」


いや、と公爵は首を横に振った。


「そこまでは思っていないよ。原理主義的な思想はない。

既にこれだけの年月を経てきたものを否定する気もない。ただ、最低限やらねばならぬ事がなされていない為に、事態が深刻な方向に向かっている。それを憂いているんだよね、私は」


…公爵はまだ、私に話していない事が多くあるようだ。

今はその時ではないのか、私にそこまで話す必要がないと判断したのか。


そんな私の考えを見透かすように公爵は言った。


「直にギウスが動くから、楽しみにしていると良いよ」


それはつまり、帝国や皇国に対して何かしらの行動を取って来るという事か。


「明日、私は帝国を発つ」


「!」


「妻が恋しいのでね、帰るよ。

春になったら、私の可愛い姫を連れて来るよ」


「世継ぎの御子を?」


春には即位している筈では?


「彼女ではないよ。私の愛息子の妻だよ」


ふふふ、と公爵は微笑む。

あのルシアンの妻か。


「レーフ殿下が懸想しているみたいだから、兄として全力で止めて欲しいな。もしそうなったら容赦なく始末するからね」


レーフが、ルシアンの妻に懸想?

これまでどんな令嬢を目にしても、心を奪われる事のなかったレーフが?

外見だけでなく、女性の趣味も似るのだろうか?


「まぁ、そんな事になれば、私より先にルシアンが動くだろうから、気を付けてね」


そう言って公爵は立ち上がり、部屋を出て行った。


公爵から教えられた帝国の興りについて思いを馳せた。

女子のみが即位する事を許されるディンブーラ皇室で、己の不遇を嘆き、国を分裂に至らしめた己が祖先。

しかも正当性を主張する為に、皇位継承者が持つべき杖を奪い、帝国では史実と異なる歴史を編纂し。

不遇であるからと言って、このような事が許される筈もない。


ため息が溢れる。


ギウス王国にあるという正当な皇位継承者が持つべき杖が、既に破壊されていたら。

奪われてから久しい。そう考えると、既にこの世に無くても不思議はない。

まだ残っていれば良いのだが。


また、ため息が溢れた。


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