071.蜜より甘く
あー、えーと、徹頭徹尾甘いです。
ヨロシクオネガイイタシマス。
「これは、良いですね」
ルシアンは満足気に目を細めた。
「とても、可愛い」
あああああ、まさかこんな直ぐに彼シャツ着る事になるなんて思わなかったヨ……。
この前着た時は夜着の上からだったんだけど、今日は夜着替りなので、丈が夜着より短くて、スースーする……。
ベビードールとはまた違う恥ずかしさがある……。
この前は、彼シャツしたらルシアン喜ぶかな、とか思ったけど、これ、実際やるのは結構恥ずかしいものがある。
「こっちに来て、よく見せて、ミチル」
ベッドに腰掛け、ヘッドボード部分に寄りかかった状態で、ルシアンは言った。
「……はい」
ルシアンの横に正座する。正座すると太ももが丸見えになっちゃうので、シャツを引っ張って隠すんだけど、ゴムじゃないので当然伸びない。
全然隠せないから、袖で隠すしかない。
どうせならシャツの中に足全部入れて体育座りしたい。そう言えば前世で体育着の中に足を入れたら生地が伸びきった事を思い出す。人様のシャツなんでやらないけど。
ふふ、とルシアンは笑った。
ううう、恥ずかしい。
でも、耐えねばっ。
「シャツ、大きいんだ。
ミチルの手が指先しか出てない」
そうなのだ。
袖も長くて、指先しか出ない。彼シャツの絵とか見てて、そんな馬鹿な、もうちょっと手が出るでしょ、なんて思ってたけど本当出ない。
このイケメン、腕長いな。
「想像以上に可愛い」
ルシアンの手が頰に触れ、親指が唇をなぞる。
顔に熱が集まる。そんな私を見て、ルシアンはくすくす笑う。余裕ありますね!ルシアンてば!
前にひと月ぐらい離れてた時はルシアンの方が全然余裕なくって、私を壁に押し付けてキスしたり、ずっと抱きしめるとかしてきたのにっ。
今回もそうかと思ったのに、まさかのこの余裕?!
「顔が真っ赤。いつもみたいに逃げないの?」
うううううう、色々バレてるぅぅぅ。
「に、逃げません」
「そう」
ルシアンの唇が頰に触れた。
い、今までだって、されてきたんだから、平気サ。
「!」
ふと、太ももに触って、触られてらっしゃる!(混乱)
いや、だから、もっとアレな事もしてきた訳だし、私もそろそろ色々と慣れて…慣れてきてもいい筈っ。
ああああああ、アレがアレでアレなもんでですね。
って誰に何を言ってるんだ私は?!(錯乱)
「ミチル」
「ハイッ」
「緊張しすぎでは?」
「ソウデスカ?!」
いつもは、抵抗してる私にルシアンがぐいぐい来て。
今日は私が抵抗しないからルシアンがぐいぐい来ない訳で。
抵抗しないようにしてるけど、こ、このままで、良いのか悪いのか?!
教えてグーグ●先生!
貴族の令嬢は、閨事は旦那様に全てお任せ☆な訳ですが、うちのルシアン様に至ってはそれで済ませてくれない時もあると言うか何というかゲフンゲフン。
「もっと力を抜いて?」
どうやって?!
やっぱり助けてグー●ル先生!!
「る、ルシアン…」
「なぁに?」
しまった!思わず名を呼んでしまったけど、何かしたい訳でもされたい訳でもないって言うか、あの、その…っ。
帰って来たら、あぁしてこうしてって、いっぱい考えてたのにっ。
絶対抱き付いて離れないんだとか意気込んでたのは何処のどいつだったんだろうか…。帰ってきて、あの時の私っ。
それにしても、近い。近いって言うか、もう触れてる。触られてる。ゼロ距離。
ルシアンが私の手を取り、指先に口付けた。
……あぁ、本物なんだ。
夢でも幻でもルシアン君シリーズでもなく、本物のルシアンが目の前にいる。
唐突に、恥ずかしさよりも、目の前のルシアンへの気持ちが上回った。
「会いたかった…」
泣きそうになる。何だろうこれ、嬉し泣きかな、きっとそうだ。
「会いたかったです、ルシアン」
「うん」
困ったような、喜んでるような顔で私を見つめるルシアン。
溢れた涙は、ルシアンの唇に吸われた。
金色の瞳に私が映る。私だけが映っている。私の瞳にも、ルシアンが映っているんだろう。
膝を立てて、ルシアンのおでこにキスをする。
柔らかな髪を撫でて、指で梳いて、髪にキスをする。ルシアンの匂いがする。そっとまぶたに口付けを落とす。
ルシアンの腕が腰に回された。温かくて、力強い、ずっと、ずっと欲しかったルシアンの体温。
頰にキスをしてから、両手で顔を包み込む。
そっと唇にキスをしたら、もう、止められなかった。何度もキスをした。どちらからキスをしているのか、もう途中から分からなかった。
愛しくて、愛しくて、頭がおかしくなりそう。
触れたい。触って欲しい。強く抱きしめる。抱きしめられた。身体中にキスして欲しい。私もキスしたい。私のものなんだって、ルシアンに思い知らせたい。
せっかく着たルシアンのシャツは、ボタンが外されてしまった。お返しとばかりにルシアンが着ているシャツのボタンを外す。
直接触れたルシアンの肌のぬくもりに、涙が溢れる。
生きてる。生きてルシアンは帰って来てくれた。
いくら皆が無事だと言っても、心の何処かで信じきれてなくて、不安で不安で堪らなかった。
その所為で食欲も減った。睡眠時間も減った。以前の私はあんなに、毎日ぐーすか寝ていたのに。
前は、こんな時、好き、って言う言葉が頭に浮かんでいた。でも、今の私の頭に浮かぶ言葉は違う。
愛してる。
そればっかり。
言ったら最後、止められなくなりそう。
だって、目を見る度に、心臓が鷲掴みされるようで、堪らない気持ちになる。
「ミチル、愛してます」
耳元で囁かれる声に、言葉に頭が痺れるみたいになる。
ルシアンの頭を抱き締め、キスをする。
「愛してます、ルシアン…私も…愛してます…」
溶けて一つになってしまえたら良いのに。
ルシアンの腕の中にすっぽりと包まれ、幸せな気持ちを満喫していた。胸の中がほわほわします。
ミチル頑張りました!
こんな風に、ベッドでですよ?ルシアンの腕の中にいる自分とか、なかなかに成長したなと思います。フフフ。
ちょっぴり肉食女子みたいな事もしましたし!シャツを脱がしたり、徴付けちゃったり…。
酔ってもいないし、お仕置きでもなく!
きゃーーーーっ!!
ミチル凄い!成長ですよー!!
赤飯炊こうかな!
「ねぇ、ミチル?」
「何ですか?」
ルシアンの首に頰を寄せてみたりして。
いやぁ、これはもう、脱草食と言っていいんじゃないの?
自分の成長に感涙したくなるレベルです。
「棚に置いてある、私らしきぬいぐるみが気になる」
「!!」
ルシアンの言葉に吐血するかと思った。
ワスレテタ!!
ワスレテマシタ!!
一気にテンションが下がる。ほわほわした気持ちなんて吹っ飛んだ。
棚に向かってルシアン君を取りに行こうとして、自分が何も着ていない事を思い出す。
「あれは何?」
「アレは、クロエが作ってくれたぬいぐるみで……」
「シャツは許せるけれど、ぬいぐるみは、嫌ですね」
やっぱり駄目なんだ?!
「中に植物から採取した魔石が入っております。ですから、捨てたりしては駄目ですよ?」
自然にね?自然に話題の論点をね?ズラして、嫉妬するものじゃないんだよ、と言いたい訳です。
なるほど、とルシアンが微笑んだ。
……あ、コレ、失敗です。大失敗です。
「中身だけ取っておけば良いという事ですね?」
やっぱり!
「もうっ!せっかくクロエが作ってくれたのですから、捨てたり壊したりしたら駄目です!」
「私以外をミチルが愛でるのは良い気がしません」
さすが飼い猫にすら嫉妬する男……!褒めてませんよ?!
「ルシアンを模しているから可愛いのであって、そうでなければただの触り心地の良いぬいぐるみなだけですのに」
無機物にまで嫉妬とか、幅広いよこのヤンデレ。
いや、分かっていたんだけどさ。
「じゃあ、気にならないぐらい、私を愛して?」
「?!」
なして?!
「そうやって、私を困らせる事ばかりおっしゃって、ルシアンは酷いです」
ルシアンは意地悪な笑みを浮かべた。
あわわわ、こ、これはっ!
指が私の顎をなぞり、耳に触れる。
ひぇーーーっ!
「足りないでしょう?まだ」
ナニガ?!
いやっ、言わなくていい!言わなくていいです!
「たっ、足りてますっ」
「ふぅん?」
不満気な顔で私を見たかと思うと、私の上に覆いかぶさる。
「っ!」
「ミチルは私のシャツやぬいぐるみで満足出来たのかも知れませんが……私は全然足りない」
ドキドキする。良い意味のドキドキではない。
この後の流れも分かってる。分かってるから緊張するのかも知れない。
「貴女の声をもっと聞きたい。ミチルが一番私の名を呼ぶのはいつだか知ってる?」
顔が熱くなる。
分かってるけど、言わないよ!言わないからね!
って言うか、予想より危険な流れな気がする?!
ルシアンは私の反応に気を良くしたのか、ふふ、と笑う。
鬼畜だ……!
「貴女が私に抱き付くのも、甘えるのも、熱の籠もった目で見つめるのも、全部」
言わせてはならぬ!
慌ててルシアンの口を両手で塞ぐ。
でも片手で簡単に外されてしまう。
「全部、閨事の最中ですよ。私がそれを求めたとして、不思議はないでしょう?」
不思議はないけど、どうかと思うっ。
「さっきまであんなに情熱的だったのに、ミチルは直ぐに満足してしまう。直ぐに熱が失われてしまう」
そんな事は?!
いや、だって、結構長時間いちゃついたと思うし!
「何故?」
何故と申されましても?!
一般的に、男性の方が事後はさっぱりしたものだと聞いていたのに、ルシアンは違うラシイ。
あぁ、まぁ、一般的な男性はまずヤンデレじゃないな……。
「私は、いくらでもミチルを愛し続けられますよ」
なんの宣言ですか!!
少しの間、ルシアンと私の睨み合い?が続いた。睨まれ合い?
「……あぁ、そうか」
次の言葉が怖い。何に気が付いちゃったんだろうか。
何を言われるのか分からん。
コワイヨー!!
「ミチルに求めてもらおうとするからいけないんですね」
えっ!
「ミチルは決して私を愛してくれない訳でも、求めてくれない訳でもないですし」
蛇に睨まれてオリマス。グルッグルに巻き付かれた挙句ゼロ距離からの睨みです、ハイ。
「ミチルは足りてると言うのだから、足りていないのは、私だけです」
ルシアンの唇がおでこに触れた。
「私が、ミチルを愛し続ければいいだけです。
もっと早くに気が付けば良かった」
そう言ってにっこり微笑むルシアン。
ああああああああ、藪から蛇千匹みたいな事になってるぅぅぅ!!
「愛してますよ、ミチル」
凄まじい色気を放って、ルシアンが次に言った言葉に、悲鳴をあげそうになった。
「溶けるぐらい、甘やかしてあげますね」




