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転生を希望します!  作者: 黛ちまた
皇都編

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教唆

ロイエ・ルフト視点です。

「なかなか良い観客席だね」


リオン様はそう言って満足げに微笑んだ。

場所は皇帝の玉座を見下ろせる場所。本来の使い道としては、皇帝が裏からその場を覗き見るように使う隠し場所である。


「ルシアンはどうやら舞台には立たせてもらえないらしいよ。残念だね」


ルシアン様は皇弟のふりをして皇帝の横に立とうとされたようだが、皇帝から危険かも知れないから駄目だと拒否されたらしい。

実際にルシアン様を前にして、あまりにそっくりなお姿に心が揺らいだようだ。

とは言え、危険なのは皇帝も同じな為、ルシアン様は近衛兵の甲冑を着て、皇帝の近くに控える事にしたらしい。

顔は甲冑に隠れている為、見えない。


ぞくぞくと参内する帝国の貴族達を収容してなお、余裕を感じさせる大きさを持つ広間は、壁面こそシンプルであるものの、天井には女神が世界を創生した時から始まって、人が女神から力を賜り、人々の中から皇帝が選ばれる様が描かれている。


「随分と大胆な意匠の天井だが、偽りは良くないなぁ」


天井をご覧になったリオン様は、鼻白んだ様子でおっしゃった。


広間が俄かに騒がしくなった。

視線を落とすと、両腕を支える、と言うよりは拘束されたと言って差し支えのない状態の男が品もなく騒いでいる。


「えぇい、離せ!離さぬか!!」


「大公様、お時間にございますれば、どうぞお気持ちを落ち着けて下されませ」


あれが大公。

病気で城に籠っていたとは思えない程に、身体には贅肉が付き、肌の色つやも良い。

仮病である事が一目で分かる。


遠く、カテドラルの鐘の音が聞こえた。

扉の前に立つ兵士二人は目配せをすると頷き合い、扉を閉めた。

大公の顔色が悪くなる。悲壮な顔で扉を見る。


「ヴィタリー陛下、ご入場!!」


声を受け、貴族達は一斉に頭を垂れた。それまでのざわつきが消え、大広間に静寂が広がる。


堂々とした様子で皇帝と、妻である正妃、側妃達が広間に入り、皇帝と正妃は玉座に。側妃達は然るべき場所に立った。


皇帝直属の侍従が、壇の下に立つ宰相らしき男に封をされた書を手渡す。受け取った宰相は頭より上に一度封書を掲げると、貴族達の方を向き直って咳払いをした。


封を解き、書を広げた宰相は、ぎょっとした顔をした。

その様子を広間の貴族達が見逃す筈もなく、男は眉を僅かに顰め、女は扇子で口元を隠した。


気を取り直し、宰相は再び咳払いをすると、息を吐く。

その様子は読むのを躊躇しているように見える。

誰もが固唾をのんで成り行きを見守る。


「…これより、ピョートル・タラース・イェン・ライ殿下の」


大公の名前が出た事で、大公と大公派であろう貴族達があからさまに表情を変えた。

皇帝達の背後から眺めている私達からは、皇帝や正妃達の顔色は窺い知れない。


「罪過をここに、問うものとする」


さすがに広間がざわついた。

近衛騎士二人が手に持った槍で同時に床に打ち鳴らすと、広間は再び静寂を取り戻した。


「罪は16年前に遡る」


宰相は、書に記された罪状を冷静に読み上げていく。

曰く、16年前に大公が貨幣偽造を始めた事。その事実を突き止めた前皇帝が、弟である大公に秘密裏に会いに行った際に事故に遭い、前皇帝と前皇后が命を落とした事。

その後、貨幣を偽造する場所を他に移し、大公は貨幣偽造を今日に至るまで続けた事。

これは国家としての貨幣の価値を著しく損ねるものであるとして厳しく禁じられているものであり、罪一等、国家反逆罪に該当する。


更に辺境伯以外持つ事が認められていない私兵を無許可で保持し、皇帝の命を狙った事。国家の転覆を狙うものとして、これも国家反逆罪に該当する。


この度、皇帝の命であるカーライル攻略に嘘を吐いて従わず、居城に閉じ籠もるなど、皇帝に対する不敬甚だしき事が上げられた。


貨幣偽造は誰の犯行かは知られてはいなかったが、誰かが偽造している事は大公派ではない貴族達も知っていた。

私兵については知られていなかった事だろう。

カーライル攻略に関しては衆目の知る所である。


また、大公の娘である正妃にも罪が認められると宰相が口にした瞬間、広間がざわついた。

ざわつきを無視して宰相は書を読み続けるが、顔色は良くない。


皇帝が令嬢を呼び、手を付けた後、全員が死亡した事は正妃が殺したからであると宰相が言い切ると、違いますわ!と叫ぶ声があった。

声は側妃からだった。


「あれは私がした事です!」


発言を許されていないにも関わらず、側妃の一人が前に出て言った。

宰相は皇帝に目をやる。皇帝が頷いた為、そのまま会話を続ける。


「…死亡が確認された令嬢の数は5人。その全てを側妃様が手をかけられたと申されますか?」


確認するように宰相が尋ねると、別の側妃が前に出た。


「私も手にかけました」


それに倣うように3人の側妃が名乗り出た。

皇帝が召し上げた令嬢の5人はそれぞれ、側妃達の手にかかって死んだという事になる。


「…それは、何故にございますか?」


「正妃様が悲しんでおられたからですわ」


「正妃様のお苦しみを思えばこそ」


5人の側妃は全員、正妃の為だと言った。


「正妃様に、命じられたのですか?」と宰相が問えば、全員が首を横に振った。


「正妃様の御心を思い、私が勝手に行った事にございます」


「私もそうですわ」


「私も」


この場をどう収めて良いのか考えあぐねた宰相は、兵士に側妃達が逃げられないように見守るよう命じると、手元の書を読み始めた。


貨幣偽造が行われている場所に騎士団が踏み込むという情報を、正妃が大公に漏らし続けた事をあげると、正妃は鈴のような声で言った。


「いつもどなたかが私に教えて下さるの。私がお父様を案じているから、教えて下さったのだと思いますわ。

ですから、私、お父様にその情報が伝われば良いのに、と答えておりましたわ。

いけない事なのは分かっておりましたから、私からは何もお伝えしておりません」


それからも宰相は正妃の罪を挙げ列ねたが、全て、誰かが正妃に告げ口し、それを正妃が間接的に大公に漏らし続けていた。


そこにいる者達は正妃の異常さを感じ始めていた。

誰にでも親しげで、慈愛に満ちていると思われていたその振る舞いは、思い返せば同情を買おうとするものではなかったか。

あまりにも正妃が不憫だからと、こっそり情報を正妃に渡していた。少しでも、正妃の心が晴れればと。今回だけと。

それを、正妃は罪の呵責もなく、己の手を汚す事なく、父である大公に何年にも渡って情報を流し続けた。


「最も深き罪は、陛下に避妊薬を飲ませ続けた事にある」


ざわつきは当然だった。

長らく子が出来ないのは、皇帝に子種が無いのだと皆思っていた。

それがまさか、正妃により避妊薬を飲まされ続けていたと聞かされれば、幾ら何でも正妃を見る目は変わる。


正妃は入城して直ぐに、皇帝の飲む薬をト国産から燕国産に変えた。産地が変わった事により、薬の副作用も変わった。その副作用は避妊効果であり、その説明は燕国から正妃に対して適切に行われたとの事。


正妃の勤めの第一は、皇帝の子を成す事。己だけが避妊するならいざ知らず、皇帝本人にその薬を服用させると言う事は、側妃との間にも子が出来ないと言う事である。


「どういう事だ!!」


大公が叫んだ。

大公はずっと、皇帝と娘との間に子が生まれる事を望んでいたと言うが、この態度を見るに間違いなさそうだ。


「何故そのような!そなたが国母となれば私は!!」


狼狽える事もなく、正妃は言った。


「お父様、陛下のお身体には、ト国産の薬よりも燕国産の薬の方があってらっしゃったのですよ?

お子も大切では有りますが、陛下のお命の方が大切です」


側妃達は何を信じれば良いのかと言う顔をしていた。

皇帝を慕う健気な正妃なればこそと、許されない事も犯して来たと言うのに、正妃は全て分かった上で、そう言うのだ。


「私は罪に問われますか?」


正妃は誰にも、何も、命じていない。

だが、誰もが正妃に罪が無いとは思えなかった。


「咎人を捕らえよ」


皇帝が言葉を発した。

扉が開き、兵士が大勢雪崩れ込み、大公を始め、大公派の貴族達、側妃、そして正妃を捕え、大広間を出て行った。

大公派の貴族は大人しく捕縛されたが、最後の最後まで大公だけは騒いでいた。


呆然と成り行きを見守る貴族達に、皇帝が言った。


「皆、大義であった」


皇帝が玉座から立ち上がった瞬間、即座にその場にいた貴族達は頭を深く垂れた。


覗き見る為にめくっていた布から手を放し、リオン様は用意されていた椅子に腰掛けた。


「大公と大公派は国家反逆罪に問われて死罪と言った所かな。正妃は生涯幽閉が関の山だろうね」


ふふふ、とリオン様は微笑んだ。


「ですが、皇帝の子を…」


思わず口にしてしまった私を父が睨む。

まぁまぁ、とリオン様が取りなして下さった。


「子は出来ていないんだよ。出来ていないのだから、命を奪った事にもならない」


罪ではあるが、重罪にならない、という事なのだ。

こと、ここに至っても。


「まぁ、不敬罪には問われるだろうね。

それに困った困ったと言っていただけだから、犯罪教唆にもならない。

皇帝の身体に薬が必要だったのも事実だ。その為に子が出来にくい身体になっていたとしても、不妊になった訳でもない。

いやらしくて、実に私好みだ」


リオン様はにこにこなさっている。

その様子にセラはため息を吐いた。


「さて、麗しい猫が飼い主の元に帰るのを待とうか」


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