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転生を希望します!  作者: 黛ちまた
皇都編

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レイ司教

帝都にあるカテドラルに勤める名もなき司教の視点です。

レペンス枢機卿の元に、ディンブーラ皇国のマグダレナ教会教皇が遣わした枢機卿補佐が来てからそれなりに経った。

ほとんど喋る事なく、ただひたすらに、枢機卿の代わりに仕事をこなしていく姿に、私達古参はどうして良いものか悩んでいた。

話しかけても喋らない。喋っても、そうですね、や、違います、と言うぐらいで、会話が成り立たない。

ディンブーラ皇国での事を尋ねても答えない。

そもそも、分厚い眼鏡に瞳が隠されており、感情が読みにくい。


「補佐殿には本当に困ったものです。あれでは上手くやりようがないですよ」


休憩時間に集まってお茶を飲んでいると、大抵、レイ司教の話になる。


「優秀な方ではありますけどねぇ」


うーん、と唸る。


「そもそも、本当は来たくなかったのではないでしょうか…」


「和平条約を結んでいるとは言え、かつては敵対する間柄だった国に単身で派遣されておりますからね。

仲良くしろと言われて、はい、そうですかともいかないですよね」


その言葉に皆、ため息を吐いた。


国同士の諍いに巻き込まれる民の立場からすれば、相手の国を厭わしく思ったとして、個人の事までは憎らしく思ったりはしないが、自分自身、単身でディンブーラ皇国に行けと言われたら戸惑うと思うし、上手くやっていけるとも言い難い。


にも関わらず、レイ司教はよく働いた。

彼が補佐として入った事で、格段にやり易くなった事は多かった。

優秀なレペンス枢機卿に一体何の補佐が必要なのだと思っていたが、こうして共に働くと、レイ司教の優秀さは明らかであり、存外滞っている事があったのだと思った程だった。


「そう言えば、この休憩室、誰がお菓子を置いてくれているんでしょうね」


ある時から、休憩室にひと口サイズのお菓子が置かれているようになった。

軽く摘まめるので、手頃で、時間がない時にとても重宝している。


それまでずっと黙っていた助祭が、顔を上げて言った。


「レイ司教が、補充なさっているのを見ました」


えっ、と言う声が重なる。


沈黙が訪れた。


きっと、皆、同じ事を考えているのだと思う。


遠く異国の地に派遣され、仕事に邁進するも、周囲と上手くやれず、休憩室にお菓子を置いて行くレイ司教。

何故歩み寄らないのかと呆れていた自分を恥じる。あれが彼なりの精一杯なのかも知れない。


「無理に心を開かせようとせず、我らはいつも通り、同胞に接すれば良いのではないでしょうか。

特別扱いはせず、仲間として」


うんうん、と皆は頷いた。


「存外、不器用過ぎて喋れないのかも知れませんよね」


優しい笑みが浮かんだ。




それから、レイ司教を見つけた際は、そっと目で追ってみた。助祭が言っていたように、皆が忙しさにかまけて見落としがちな箇所を掬い上げて、丁寧に対応していた。

誰にも褒められないのに、それでも一生懸命に対応するレイ司教の姿に、目が潤む。

年の所為か、涙脆くていけない。


なんと健気な…!


同じような姿を見た者達とは、いかにレイ司教が不器用で健気かで盛り上がるようになっていた。


ある夜、暗闇の中、窓の外を眺めるレイ司教がいた。


噂には聞いていた。

窓の外をずっと眺めているレイ司教について。

何でも、皇国に残してきた恋人がいるだとか、恋人をレイ司教よりも高位の貴族に奪われたとか、高位貴族の嫌がらせにあい、帝国に行かされたとか、そういったものだ。

レイ司教は振る舞いから貴族出身である事は窺い知れた。

だがさすがに、恋人うんぬんは想像の域を出ないのではと、聞いてる時には思ったものだ。


実際こうして窓の外を眺めているその佇まいは、確かに恋人や家族を思って物思いにふけっているように見える。


ため息を吐き、俯くレイ司教。


私の視線に気付いたのか、こちらを向いたレイ司教と目があった。そう、目があったのだ。

いつもの分厚い眼鏡をしていないレイ司教の顔を見たのは、初めてだった。


金色の瞳が私を見つめる。


分厚い眼鏡に隠されているから分からなかったが、整ったその顔立ちに、戸惑いを隠せない。

レイ司教は眼鏡を付けるとその場を去った。それから、窓の外を眺めるレイ司教の事を一切耳にしなくなった。


自分が邪魔をしてしまったのだと思うと、申し訳なく思う。

あの時間が、彼にとってどれだけの位置を占めるものだったのかは分からないが、誰にも邪魔されずに想いを馳せる事が出来る時間だったのは間違いないと思う。

本当に、悪い事をした。

軽い興味とは、得てして悪い結果しかもたらさないものだ…。


誤字脱字、いつもいつもありがとうございます。

本当すみません。大変助かります。

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