狙われた意味
レーフ皇弟殿下視点です。
ディンブーラ皇国が私に付けてくれた護衛役の影は、本来の護衛対象でも何でもない私を、守り続けてくれた。
突如何者かが私を狙うようになり、昼となく、夜となく、襲撃を受けるようになった。
私の側に、従者のレーリエ以外の者がいる場合は何もない。二人きりになった途端に、攻撃が始まる。
暗殺者と護衛の影の実力は、拮抗しているようだった。
だが、たまに護衛が逸らしきれなかった攻撃が私を襲い、兄が仕向けていた影達が、全く本気でなかった事を痛感させられた。
攻撃の鋭さが比ではないからだ。
ギリギリで攻撃を躱す事を何度繰り返しただろう。
満足に寝られない夜が続いた。
さすがに疲労が消えず、頭がぼんやりする。
「レーヴァ様、大丈夫ですか?」
「…大事ない」
誰が私を狙っているのか。
その答えは意外な所からもたらされた。
図書室で本を読んでいた私の前に、マグダレナ教会の教皇が現れた。
マグダレナ教会の教皇であり、ミチルの父となった、ゼファス・フラウ・オットー聖下。
頭を下げ、恭順の姿勢を示す。
私は皇族ではあるが、マグダレナ教の信者でもある。
「君の今の護衛だと力不足みたいだから、変更するね」
「…は……?」
何を言われてるのか分からず、間抜けな声で聞き返してしまった。
聖下は私の正面のソファに腰掛ける。
「あ、それからね、君を狙っているのは、リオンだよ」
「お、お待ち下さい、聖下。
私の護衛は、聖下がお決め下さったのですか?
それに、アルト公爵が私を殺そうと?」
そうだよ、と答える聖下の表情は、それが何か?とでも言わんばかりだ。
頭がついていかぬ。
私は何かアルト公の怒りを買うような事を手紙に書いてしまっただろうか?
「何一つ分からないという顔をしてるね。
リオンが言っていた通り、兄に守られた純粋培養なんだね、君」
賢いつもりだった。
武術も優れているつもりだった。
兄の気持ちも分かっているつもりだった。
全部、そうではなかった。
私はただひたすらに、兄に守られているだけだったのだ。
「過保護だね、君の兄は」
私は苦笑いを浮かべるしか出来なかった。
何も分かっていなかった自分が恥ずかしい。
「お恥ずかしい限りです」
「はぁ?馬鹿なの?」
突然の言葉に、なんと返していいのかも分からない。
「まだ分かってないの?
何故自分がそこまで知らないのか、本当に分からないの?」
聖下ははぁ、とため息を吐く。
「ミチルの方がまだ察しが良いよ。
君は別に無能じゃない。人を使う事だって出来るでしょ。それなのに君が知る情報には常に偏りがあるんだよ」
その瞬間、バラけていた様々な情報が結びついた。
「……そうか……そうなのか…」
「分かってくれたようでなにより。これなら護衛も不要になるね。
じゃあ、覚悟は良い?」
覚悟?
その言葉の意味を確認しようと顔を上げた瞬間、聖下が手を上げ、四方から飛んで来た物が私の身体に刺さった。
「…っ!!」
「レーヴァ様!」
「始末しても良いんだけど、君はミチルを助けてくれたから、今回だけは助けてあげるよ」
レーリエが私に駆け寄り、私を庇うように覆い被さった。
「死なないから大丈夫」
出てきたあくびを噛み殺しながら、聖下は立ち上がった。
「薬の効果もあるから、よく寝られると思うよ。
最近よく寝られてなかったでしょ?」
視界が霞む。
出血で熱を持ち始めた身体から汗が吹き出る。
「レーヴァ様!」
レーリエの叫び声が次第に遠くなっていく。
痛みや熱の感覚すら薄れて、私は意識を手放した。
頭は良いのに残念な殿下です。




