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転生を希望します!  作者: 黛ちまた
皇都編

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他人の空似

高貴な方のお付きの人視点です。

『想像以上に栄えているではないか』


私の前を歩く殿下は、皇都に入り、ざっと街並みを見て回られると、独り言のようにおっしゃった。


『左様でございますね』


『女帝の手腕が噂程ではなかったか、皇都の民が思いの外賢明であったか、官僚共が我が国よりまともであったのか。さて、どれであろうな』


楽しそうに殿下は笑う。


確かに、殿下がおっしゃるように、目の前に広がる光景は予想とは違っていた。


今日と明日は、マグダレナ教会が新たに決めた祝祭とやらで、皇都は大変賑わっている。

あちこちに出店が並んでいるものの、整然としており、出店にありがちないざこざも、見て回った際には見受けられなかった。

役人とも違う服装をした者達が、出店の者達に話しかけ、困った事はないかと聞いて回っていた。あの者達が管理しているのだろうか?


『女帝の暴走を異母妹が支配する議会が止めていたとは聞いておりますが、これだけの規模を持つ国、表面化するのは時間がかかるもの』


私の言葉に殿下は頷かれた。


『内部から腐敗するものだものな、我が国のように』


『お控え下さいませ。何処で誰が聞いておるとも知れませぬ』


ハハッ、と快活な笑い声を殿下は上げた。


『国から遠く離れた異国の地で、我が国の言葉を知る者がそうそういる筈もない。そなたは相変わらず心配性だ』


『用心に越した事はございません』


まぁな、とお答えになる。


風に殿下の濡れ羽色の髪が揺れる。楽しげに通り過ぎる者達を何気なく眺めておられる。

整った殿下の容姿に、前を通り過ぎる女達は色めき立つ。


「おや、兄さん。今日はあの別嬪さんは一緒じゃないのかい?」


噴水の横にいた花売りが、気安く殿下に話しかける。

何を言っているんだ、この男は?


「ん?私の事か?」


殿下の問いに、そうだよ、と花売りは頷く。


「妖精みたいな別嬪なお嬢さんを連れていたじゃないか。振られたのかい?」


どうやら、この花売りは殿下を別の誰かと勘違いしているようだ。


だが、俄かには信じがたい。

殿下程の容姿を持つ者が他にもいるなんて、到底ありえぬ事だ。

我が国でも屈指の美貌を持つ殿下と似た容姿だと?


「店主、誰かと勘違いしてるのではないか?」


私の言葉に店主は首を横に振る。


「いやいや、見間違えないよ、兄さん程の美丈夫はそうそういないだろう。あの連れのお嬢さんも恐ろしく美しかったから、よく覚えてる」


殿下の口元に笑みが浮かぶ。

また殿下の悪い癖が始まった、と思った。


「残念ながらその御仁と私は他人の空似だが、不思議な事もあるものだ」


店主は眉間に皺を寄せるものの、最後には納得したようだった。


「確かに姿形はそっくりだが、あの兄さんとは雰囲気が全く違うな。

それにしても、双子かと思う程にそっくりだよ、あんたとあの時の兄さんは」


「その私にそっくりな男と言うのは、何処の誰なんだ?」


「何処かのお貴族様だったよ。お忍びだったんだろうけど、護衛が付いていたし、ありゃぁ、それなりに高貴な貴族なんじゃないかね。

お嬢さんと一緒に噴水にコインを投げてね、見事に女神の手に乗せてたよ」


詳しく聞くと、女神像に背を向け、コインを女神に向けて投げる。そのコインが女神の手の上に乗れば願いが叶うというもので、女性のコインは噴水に沈んだようだが、殿下にそっくりだと言う男のコインは、女神像の手に乗ったのだそうだ。


殿下が手を差し出される。ご自身も試してみる気になったのだろう。

コインを手に乗せると、コインの厚み、大きさを確認する。それから、女神像の手の位置を確認すると、顎に手をあてて何やら思考を始められる。


「では、私も女神に願いを叶えてもらおうか」


そうおっしゃると、女神像に背を向け、コインを後ろ向きに放り投げた。

綺麗な弧を描き、コインは女神像の手の上に乗った。


おぉ!という声が沸き起こる。

花屋の店主も興奮している。


「あんたも凄いな!」


私も素直に凄いと思ったので、殿下にさすがでございますね、と声をかけると、殿下は笑った。


「コインの重さ、自分の身長と女神像の距離、角度から導いただけだ。そなたもやってみるといい。

そうだな、そなたの身長からして、ここから、このように投げてみよ」


殿下のおっしゃった位置に立ち、その通りに投げると、歓声が上がった。

どうやら私の投げたコインも女神像の手にのったらしい。


「こりゃ凄い!さすが祝祭の初日だ!女神様も大盤振る舞いだな!」


的外れな事を言っているが、説明しても分からないだろうから、否定せずに置く。


それからまた、しばらく歩いて皇都を回っていると、見知らぬ令嬢に殿下は声をかけられた。

それが何度も繰り返された為、さすがに殿下とその男が似ているのだと認めざるを得なかった。


ルシアン・アルト、という男に。


『会ってみたいものだ、そのルシアン・アルトという男に。こうまで間違われるのだ、さぞかし似ているのだろう』


『そのようですね』


私も少し、興味がわいてきた。

殿下に似ているというその男に。


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