013.皇都観光という名のデートその2
実はまだ続くデート
コーヒースタンドでコーヒーを買い、ルシアンに渡す。
ひと口飲んで口の中の甘さを払拭したルシアンは、息を吐いた。
あぁ、駄目。本当に可愛い。
あまりに可愛いから顔がにやけてしまいそうになる。
「今度からは、甘い物をルーシーが召し上がる時は、コーヒーかお茶を用意しますわ」
可愛くて可愛くて仕方なくて、ルシアンの頰をつい撫でてしまった。その手をルシアンが自分の手で押さえる。
ふふ、とルシアンが微笑む。
「お二人の仲が良いのは喜ばしいけど、デートなんて本当付き添うもんじゃないわね」
セラにうんざりした顔で言われた。フィオニアは苦笑してる。
「セラもオリヴィエ様といらしては?」
「レイちゃんがいないと来ないと思うわよ?」
確かにー。
だからってダブルデートしても、彼女、私の事見てそうだしなぁ…。
気が付いたらお土産用?にワッフルをたっぷり買い込んだゼファス様がやって来て、またね、と言って帰って行った。あれ全部一人で食べないよね?
皇族とは思えぬ自由さ。
「相変わらず不思議な方ですわね」
「リオン様と気が合うぐらいだからねぇ」というセラの言葉に、なんだか凄く納得がいった。
そうだよねー。
凄い納得する言葉アリガトウゴザイマス。
広場の中央に辿り着いた。
「ちょっとこれを送ってきちゃうわね」
セラとフィオニアは布を持って去って行った。配達屋さんに向かったんだな。
私はルシアンと噴水の前に立つ。
「ルーシーも留学時代には皇都見学をなさったの?」
「いえ、興味なかったので」
ないんだ…じゃあ何に時間を?
「言ったでしょう。レイが興味のある事を私もやっていたと。それに、古武術や昇級試験の為に勉強もしていましたし、合間に調べ物をしていましたから、暇はありませんでした」
そうだったそうだった。それだけの事をたった2年でやったチートイケメンでしたよ!!
「じゃあ、ちゃんとした皇都見学は私と同じで初めてですのね」
「そうですね」と、ルシアンは微笑んだ。
噴水の中を見るとコインが沢山入っている。
ローマの噴水とかみたいな感じかな。
噴水の中央には女神が両手を上に向けて広げていた。
「像に背を向けてコインを投げて、女神像の手の上に乗ったら願いが叶うって言われてるんだよ。お二人さんもやってみたらどうだい?」
噴水横でお花を売っているおじさんに教えてもらった。
「ルーシー、やってみましょう」
「叶えたい願いがあるのですか?」
「ふふふ、それはもし、運良く乗ったら考えますわ。きっと乗りませんもの。ルーシーは、願い事はあるのですか?」
「そうですね。レイにたべ」
「ルーシー!」
慌てて両手でルシアンの口を塞ぐ。
「もう!こんな所で!」
ふふ、とルシアンは笑うと、私のおでこにキスをする。
花屋のおじさんに、熱々だねぇ、と茶化された。
もーっ!顔が熱い!!
「レイからどうぞ」
頷いて、女神像に背を向けて、コインを背後に向けて投げる。ぽちゃん、という音が後ろからした。
「やっぱり駄目でしたわ」と、ルシアンに笑いかけると、ルシアンは私の頰を撫でる。
「今度は私が投げますね」
ルシアンは女神像をじっと見つめた後、像に背を向け、コインを背後に投げた。キレイな弧を描いてコインは女神の手の上に乗った。
「?!」
おぉーーっ!!という歓声が沸き起こる。
どういうこと?!
「兄さん凄いな!」
花屋のおじさんが興奮気味にルシアンに声をかける。
「願い事が叶うと聞いたので」
そう言ってにっこり微笑むルシアン。
あああぁぁ、その願いって…。
へなへなと腰を抜かした私をベンチに座らせると、ルシアンは花屋のおじさんからレンギョウを1本買うと、私の髪に挿した。
レンギョウの花言葉…希望の実現
いやーーーーーっ!!!ルシアンが追い詰めてくるぅぅぅ!!
「ただいまー、ってレイちゃん、何で半泣きなの?」
セラが泣きかけてる私に駆け寄った。
フィオニアが苦笑して言った。
「レイ様の様子と、噴水と髪に挿された花からして、ルーシー様が投げたコインが女神像の手に乗ったんでしょうね。ルーシー様の願い事がレイ様にとってはとんでもないものだった、と言った所でしょうか?」
エスパー?!
フィオニアの説明を受けて、セラは頷くと、なるほどねと言った。
納得してる場合じゃないです!私には死活問題なのに!!
「願い事が叶う、なんて言うものをルーシー様にやらせたレイちゃんが悪いわよ。そんなの絶対、ルーシー様は本気でやるもの。その願い事は絶対にレイちゃんに関するものだろうし」
こんなにチートだなんて聞いてない!聞いてないーっ!!
「ほらほら、観光の続きをしましょう」
呑気に観光してる場合なの?!
でも、帰ったら…!
かっ、帰りたくない…!!
セラの腕にしがみついた私を、ルシアンがあっさりひっぺがすと、自分の手と私の手をつないだ。
「さ、行きますよ、レイ?」
「はぅ…」
「抱き上げて差し上げましょうか?」
慌てて立ち上がる。
ルシアンはにっこり微笑んだ。
「次は食器を見に行きましょう」
「食器?」
「皇都には色んな国からさまざまな器が届きますから、レイの気に入る器があるかも知れませんよ?」
あ、なんか珍しいのがあったら、ラトリア様に送ろう。
ルシアンに案内されるまま、食器を取り扱っているお店に入る。
なんか皇都観光と言うより、ショッピングだなぁ。
観光名所を今度は教えてもらおう。
割れ物を扱うお店だけあって、店内は空間を広く取られていて、食器はガラスケースに仕舞われている。
青い食器が目に入って、自然と足が向かう。
ブルーグレーや、空色、ネイビー、色とりどりの青いお皿が並んでいる。
「ルーシー、見て下さい、この青いお皿」
ルシアンは私の横に立って、私が指差すお皿を見る。
「あのお皿に、きのこたっぷりのホワイトソースペンネをのせたら、それだけで美味しそうです」
青に白は映えるよね。
私の中に、お皿を飾るという概念はございません。
「あのお皿を贈ったら、レイが言った料理を私に作ってくれますか?」
「えっ?買って下さるのですか?」
びっくりして聞き返すと、何かを堪えるような表情をルシアンは一瞬見せた後、勿論です、と笑顔になった。
「ありがとうございます、ルーシー。
私、沢山沢山、ルーシーのお好きな料理を作りますわ」
ルシアンはお皿を10枚購入した。そんなに?!と思ったけど、人が来たら結構枚数いるんだよね。
それから他の器も見ていたら、切子のグラスを見つけた。
「切子?」
「よくご存知ですね」
40代ぐらいの見た目の店員さんが声をかけてきた。
「それは燕国から入ったものなんですよ。燕国の王都の名前から取って日須切子というんです」
「そうなんですね…とても、美しいですわ」
「気に入りましたか?」と、ルシアンが聞いてくる。
「ラトリア様に、この日須切子のグラスを差し上げたいと思いましたの」
ルシアンがちょっとムッとする。
何でそんなに兄に対して厳しいんだい、ルシアン…。
「夏の暑い時にはこの切子の器に料理を乗せただけで、涼しげに見えそうだと思って」
そうめんとか。
冷やしておいた野菜の煮浸しとか。
「兄のはおまけということで買いましょう」
「えっ!駄目です!先程、青いお皿を」
「レイが物を欲しがるなんて珍しいのですから、贈りますよ」
ルシアンは私のおでこにキスをする。
「これはこれは、愛されてらっしゃる」
店員さんに冷やかされながら、全部ルシアンに買ってもらってしまった。
購入した皿はすぐにセラとフィオニアに渡された。
「もっ、もうお店には入りません」
「何故?」
「ルーシーは私にお金を遣い過ぎです」
「レイ程お金のかからない妻も珍しいですよ?周囲の方から聞いてる限りでは、何処の奥方も、流行の扇子やドレスがとおねだりなさるようですから。レイもそんな風におねだりして下さると嬉しいのですが」
えぇ?何でそんなにお金遣いたいの?
「それは勿論、レイの喜ぶ顔が見たいからですよ?」
「贈り物は嬉しいですけれど」
物よりも一緒にいられたり、思い出の方が嬉しいんだけどな。
ルシアンがまた一瞬、何かに耐えるような表情をした後、困ったように笑う。
「…レイは無欲ですね、本当に」
「そんな事ありませんわ」
そうかな。相手の時間が欲しい、と思ってる時点で、一番贅沢な望みを持ってると思うけどな。
…はっ!
もう店に入らないとか言っておきながら!私ってば行きたいお店があるんでした!!
「レイ、本当にお金の事は気にしないで下さい。
貴女が思う以上に、私は収入があります」
アルト家の嫡子だからお金には困ってないのは知ってるけど、ノウランドの税収は大した事ないだろうし。
…あ、皇室の建て直しでお給料とかいただいてたり?
「いえ、収入の多さ少なさではなくて、無駄遣いは駄目なのですよ?」
「何故無駄だと思うのですか?」
頰を引っ張られた。しかも両方。
「いひゃぃ…」
「私が、レイの喜ぶ顔が見たい事が、無駄だと言う事ですか?」
「ちひゃいまふ」
怒ってる?
「何かしたいのです、貴女に。何でもいいから」
きゅんとしてしまう。
こんな時、ツンデレなら、仕方ありませんわねっ、私の為に精々お金を遣うがいいですわ!とか言えるんだろうけど、残念ながらワタクシ、ツンデレに非ず。
「…ありがとうございます、ルーシー…でもあの…今から行くお店は、それでも駄目ですわ」
ルシアンが悲しそうな顔をする。
「ルーシーへの贈り物を作る為の材料を買うのですから、これだけは駄目です」
「私への、贈り物…?」
「クラヴァットに付けるタイタックピン、私が以前贈った物ばかりをお使いですから、別の新しいものをと思ったのです」
途端にルシアンの顔がパァッと明るくなり、道端だと言うのに、抱きしめてきた!
「ルーシーッ!離して下さいませっ」
セラとフィオニアにへるぷ、と目を向けると、二人はやれやれと言った様子で私とルシアンを引き剥がしてくれた。
「ルーシー様、さっさと買い物を済ませて屋敷に帰りましょう。それから存分にレイちゃんを愛でて下さい」
「あ、それなら先日お渡ししたネグリジェがオススメです。背中がキレイに空いてて」
こらっ!道の往来で何て事を言うんですかっ!
「セラッ!フィオニア!変な事を吹き込まないでっ!」
キラキラした笑顔のルシアンにしっかりと手を恋人つなぎされる。
「何処へでもお付き合いします、レイ。
気が向いたら、おねだりして下さいね?」
まったくルシアンは…。
とは言え、こんなに喜ばれるのは、正直に悪い気はしないんだよね。
「では、宝石店へ向かいます」
「宝石?やはり私が」
「ルーシーへの贈り物なんですから、駄目なものは駄目なのですっ!」
「レイは頑固ですね」
どっちが?!




