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転生を希望します!  作者: 黛ちまた
学園編

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教皇の悪戯

ゼファス・フラウ・オットー視点です。

しばらくミチル以外の視点が続きます。

皇都に向かう馬車の中、私とリオンはとりとめのない話をしていた。

リオンとは、彼が皇都の学院に留学していた時以来の付き合いで、まさかこんなに長く付き合う事になるとは、思っていなかった。


人と長く付き合う事が面倒な私は、いつも適当な人間関係しか構築しない。

面倒になる理由は、己の血筋による所が大きい。

皇族である私はしがらみが多い。三男だろうとそれは変わらない。皇籍を持つと言う事は、それだけの特権と、責務を負う。


皇族である事が面倒臭いと言った私に、リオンは事もなげに言った。


俗世を捨てればいいんじゃない?


そして私はマグダレナ教会に入った。

丁度上の兄を鬱陶しく思っていた頃でもあった。

皇族である事が幸いしたのか、私は直ぐに特定の階級まで上がった。

単純労働や過酷な労働が免除される立場というのは、ありがたかったが。働いた事などないし、その必要もないから。


枢機卿として聖下の補佐をそれからずっと勤めてきた。

面白い事はない。ただ、惰性で過ごしていた。

惰性の割に長くやってきたのだから、意外に向いていたのかも知れない。


リオンとは、アイツが皇都にやって来た際に必ず会って飲むような、細々とした付き合いをしていた。

皇都から離れたカーライル王国に住んでいるリオンと、それでも付き合いが続いたのは、偏にリオンがマメだったからだろう。


そのリオンとの会話は、いつも他愛のないものだった。

リオンの妻の事、息子の事。国内の当たり障りのない事。

それが急に、私に教皇になれと言うのだから驚いたのは当然だし、理由を知りたくなるのも無理からぬ事だ。


そろそろ飽きた頃だろうから、ゼファスにちょっとした喜劇を観せてあげるよ。

参加する形の、喜劇をね。


リオンはそう言った。


そして今日、私はリオンと共に皇都に向かう。

リオンの二人の息子と共に。




「ミチルを何で連れて来ないんだ。」


「ゼファスがそうやって構い過ぎるから、ミチルが嫌がって来ないんだよ。」


「仕方ないだろう。アレは面白い。私に向かって働けなどと言う者は初めてだ。曲がりなりにも皇族に。」


リオンはふふふ、と笑った。


「面白いよね、ミチルは。でも駄目だよ、あまりちょっかいを出しては。ルシアンに怒られるよ?」


ミチルを構い倒していた時、ルシアンから向けられた冷たい視線を思い出し、苦笑いを浮かべた。


「ルシアンは誰に似たんだ?」


「誰だろうね、分からない。

アルト家の男とは思えぬ程に愛想もないし。

まぁ、あれで愛想が良かったら、惨劇の幕開けだろうから、あれぐらいで丁度良いのかも知れないよ。」


確かに。


リオンもラトリアもかなり整った顔だ。二人ともルシアンに遜色がある訳ではない。

決定的に違うのは、あの瞳だ。

心を見透かすような黄金色の瞳に、誰も受け入れようとしないあの冷たい視線。それなのに魅かれる。どうしても魅かれるのだ。

皇女もそれにやられたのだろう。

ルシアンが皇都留学中、数々の令嬢が言い寄ったが、誰一人相手にされなかったという話は、皇都の貴族間でも有名だ。

言い寄ったのは学院の令嬢だけではなかった。

男色も嗜む紳士や、未亡人なども、我も我もと言い寄った。花に群がる蝶のように。

時には媚薬も使われたと聞くが、悉く失敗に終わったのもまた、有名な話だ。


そのルシアンが愛して止まないのはミチルただ一人。狂おしい程にミチルだけを求めているのに、ミチルは何処か冷静で、あのルシアンに溺れない。

普通の令嬢なら、あの瞳に見つめられて愛を囁かれたら、泥のように溺れるだろうに。

それがまた、興を引く。

世の中上手くいかないものだ。…いや、むしろ均衡が取れていると言うべきなのかも知れないが。


そうは言っても、いずれルシアンの掌中に閉じ込められてしまうのだろう。

あの狂気じみた独占欲は並ではないから。


「いや、でも本当に、ミチルは予想外の事をする。」


うんうん、と頷きながらリオンが言うには、リオンとラトリアがそれぞれ馬車に乗り込んだ後、馬車まで見送りに来たミチルに声をかけようと窓の外を覗いた時、ミチルがルシアンに口付けをしたのだそうだ。

ルシアンの無事を祈る言葉と共に。


日頃、ルシアンから逃げたりする癖に、突然ルシアンを押すらしく、ミチルの行動は予測が付かないらしい。


「それはそれは、情熱的な事だ。

あちらの風習なのか?」


"あちら"と言うのは、ミチルの前世の事だ。


「さぁね。確認する前に出て来てしまったから分からないけれど。

ミチル恋しさに早く帰りたいルシアンが予定外の事をしでかさないか、それが心配だよ。」


心配だと言いつつ、楽しそうに笑うリオン。


「リオンの予定通りはすぐに終わってつまらないから、少しぐらい予定外があった方が、私としては面白い。」


「ゼファスの悪い癖が始まった。」


そう言ってリオンは笑った。


私は教皇になってから、二つの拠点を構えた。

マグダレナ教会のカテドラルがある皇都と、カーライル王国だ。

長い年月を経た皇都のカテドラルは、補強などの補修を必要とする。

アルト家とバフェット家、各国の王からの資金援助を受けて、補修が開始された。

まさかこれ程の資金が集まるとは思っていなかった。

さすがリオンと言うべきか。


カーライル王国にいる理由は、現在のマグダレナ教会の主たる後見人がアルト公爵家であると印象付ける為だ。

全てが片付き、カテドラルの補修が終わればカーライル王国から引き上げ、皇都に戻る。


「バフェットにその後の動きはあるのか?」


「いや、監視させているがその気配はないね。

議会漬けにしてるから、そんな暇はないと思う。」


細かい、けれど必要な議題を掲げた会を程々の頻度で開く事で、バフェットが目先の議会を己の思惑通りに掌握する為に動き、こちらの本当の狙いが見えないようにする、というものだ。これはルシアンが考えた。

目先の羽虫への苛立ちで、思考が継続しない状況を作り出す、と言っていた。

ルシアンはリオンのようにじっくり取り組まない。その分綿密に計算し、一つ崩れても問題ないように、むしろ失敗した方が相手が深く罠にひっかかるように案を組み上げていくのだそうだ。その為の調査は徹底的に行われる。その中で、リオンすら取りこぼしていたものを見つけ出した事は賞賛に値する。

今回、それが全ての勝敗を左右する決め手になる。


「我が子ながら恐ろしいよ。私も謀は好きだし得意な方だし、二重三重の罠は張り巡らせるけれど、こちらが失敗した方が相手が罠にハマっていくなんて方法、やった事もない。」


「よくそんな事を思いつくね。」


「どうやらミチルに仕掛けているうちに会得したらしいよ。」


何故そこでミチルが出てくる?

罠の話だぞ?

それとも罠にかけてミチルをものにしたのか?…まぁ、あり得なくもなさそうだが。


理解に苦しむ私に、リオンが苦笑いを浮かべながら説明した事には、ミチルも聡いから、ルシアンがミチルを泥のように甘やかそうとすると、それを上手く回避しようとするらしい。

そうさせない為に、どちらに転んでもミチルを必ず甘やかすように仕掛けるのだそうだ。


「どんな夫婦だ。」


はは、とリオンは笑う。


「それぐらいしないとミチルは手の中に落ちて来ないらしい。結婚したからと言って簡単に手には入らないのだから、ミチルらしいだろう?」


「らしいな。」


それに、それぐらいやらねばあの娘は手に入らんだろう。

なかなかに素直じゃないから。




今日はカーライル王国と皇都の間にある国に宿泊する。

王から招待を受け、私達4人は王城に入る。


謁見の間で私以外の3人はアドルガッサー王とその若き王妃の前に跪いた。


王妃はリオン、ラトリア、ルシアンへと目を向け、顔を上げたルシアンを見た瞬間に、息を飲んだ。


…一国の王妃が品の無い、とは思うものの、ルシアンは魔性ではないかと思っているから、不思議はない。


ルシアンに手を出したら、いくら王妃とは言え、リオンに潰されるぞ?とは思ったけれど、とりあえず様子見をする事にした。

どうせルシアン自身は王妃になぞ興味を持たないだろうし、媚薬や酒を飲まされても無駄だし、ある程度の薬物にも耐性があると聞いている。


案の定、ルシアンは無表情のままだが、リオンがうっすら微笑んでいた。これは、苛立っている時の表情だ。

ラトリアは目を伏せている。こちらも警戒度を上げたようだな。


王妃が馬鹿な事をしなければいいが。

それにしても、傾国の美女、なんて言葉があるが、ルシアンはそれではないのか?


「せっかく聖下がお越しであるのに、宴も用意出来ぬとは、残念にございます。」


アドルガッサー王が言った。


「かように歓待してくれた事を嬉しく思う。それだけで十分だ。」


王は再び頭を垂れた。


「いずれお越しの際には是非。」


「うむ。」


晩餐の際も、必要以上に着飾った王妃が、隠す事すら忘れたかのように扇子越しにルシアンを、熱のこもった目で見つめている。

その視線とルシアンの視線が交差する事はない。


確かに王妃は美しい。

齢を経た王が求める程に。そしてこの美しく年若い王妃は、王では満足出来ないのだろう、色々と。


皇族が連れた供に手を出すなど、愚の骨頂ではあるが、あの様子では何かして来るかも知れんな。


晩餐後の、酒を伴う軽い歓談で、王妃は己の手にリオン、ラトリア、ルシアンに口付けをするよう求めた。

最後に口付けたルシアンを、うっとりした目で見つめる王妃に、さすがの王も気付いたようだったが、己の年齢の所為で満足させていない事に罪悪感があるのか、元々甘やかしているのかは不明だが、何も言わなかった。

その様子に、リオンの笑みが深まった。


酒が振る舞われ、ひと口飲んだルシアンは、動きを一瞬止めた。媚薬が入っていたのだろう。

昔、同じように酒に媚薬を入れられたリオンが、同じ反応をしていた。

気にせず酒を飲むルシアンの反応を、王妃が窺っている。

媚薬の効きでも確認しているのだろう。


ちょっと、揶揄って遊びたくなった私は、歓談の後、ルシアンに言った。

ルシアン、ちょっと私の暇つぶしに付き合え、と。

無表情のまま、ルシアンは御意に、と頷いた。




そろそろと言った所か。

寝台の中で私は寝返りをうって布を頭から被った。


そっと、扉が開き、誰かが室内に入り込んだのが分かった。

衣擦れの音がして、誰かが私の近くに寄った瞬間に、甘い香りがした。女物の香水だ。


寝台がわずかに軋む。


私の耳元に顔を寄せ、囁く。


「ルシアン様…。」


私の頭にかかった布を取り払おうとした手を逆に掴む。


「誰だ。」


腕を掴んだまま、ライトに手を伸ばす。

明るくなった部屋に、薄布だけをまとった、あられもない姿の王妃がいた。


「聖下?!な、何故…?!」


「誰かある!」


私の声を聞きつけて、数人の兵士とリオン、ラトリア、ルシアンが部屋に入って来た。

状況を把握した兵士はすかさず部屋を出て行く。アドルガッサー王を呼びに行ったのだろう。


「お、お離し下さいませ、聖下っ。」


悲鳴のような声を上げ、身をよじる王妃に鼻白む。


少しして王が入室した。そこでようやく王妃の手を離す。

王はぶるぶると身体を震わせ、王妃の頰を叩いた。


「きゃあ!」


アドルガッサー王は寝台の横で跪き、頭を垂れると、呻くような声で謝罪を始めた。


「皇族にかような事を仕出かすなど、申し開きの程もございません。いかような罰もお受け致します…!」


王の横でぶるぶると震えながら、何故、私はルシアン様の居室に来た筈、と呟く王妃。


「…恐れながら聖下、この部屋はアルト伯爵の為に用意した居室にございます。何故聖下が…。」


わざわざ聞くまでもない事だろうに、混乱で頭が諸々受け入れられていないのか?

それなら、この発言も微妙だな。問題は、誰の部屋であるかが大事なのではなく、誰に何をしようとしたのかが重要なのだから。


「私に用意された居室の寝台より、こちらの寝台の方が気に入ったからだが、何か問題があったか?」


「いえっ、聖下のお気に召すものを用意出来ず、誠に申し訳ございません。」


…なるほど、王は、王妃が何をするのかも分かっていたと見て間違いなさそうだ。

己では満足させらない王妃に、他の男をあてがうとは。

それ程までにこの女に溺れているという事か?


「下がれ。不愉快だ。今後私の前に王妃が姿を見せる事は許さぬ。」


小さく悲鳴をあげる王妃。


引き摺られるようにして王妃を連れ、王と兵士は部屋を出て行った。


やれやれ、といった顔でため息を吐くリオン。


「ゼファスったら、随分大事にしてくれたね?」


「暇つぶしだ。」


「確かこの国、あまり良くない噂を聞くけど、その為の暇つぶしじゃないよね?」


「おまえが動くよりは穏便だ。」


くすくすと笑うリオンに、ため息を吐くラトリア。


「もう寝る。そなた達も下がれ。」


3人は同時に頭を垂れ、部屋を出て行った。


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