ミチルちゃん恋愛脳化計画
セラ視点です。
イマイチはっきりと示されない、ミチルちゃんからルシアン様への好意は、見ていて焦れったく思う事も多く。
あれだけルシアン様からの求愛行動を受けても、恥ずかしがって、隙あらば逃げようとするミチルちゃんは逆に凄いと思う。
普通の令嬢なら、ルシアン様に愛されている実感で満たされていても何らおかしくないと言うのに。
謙虚ともまた違うと言うか。
そんなミチルちゃんだけど、剣術大会後くらいから、心境の変化があったみたいで、明らかに以前とは違う。
まず、会話をしていても、前よりルシアン様の事を話題にしたり、一緒にいる時にルシアン様の事をよく見ていたりと、今更?!と言いたくなるような、乙女な反応を示すようになった。
今更感が半端ないけれども、いい傾向。
自分自身でも、その変化には気付いているようで、その相談を受けた訳だけど、そんなのルシアン様本人が一番聞きたがってる事なんだからと、ロイエからもらったキャラメルをミチルちゃんに食べさせた。
ロイエ特製の、脳内が安心と信頼で満たされ、目の前の人物に何でも話したくなるという、さすがロイエと言いたくなる程エゲツない効果の入ったキャラメルだ。
こんなのワタシに寄越してどうしろって言うの?と思っていたけど、今こそ使うべきだわ。
ワタシが幻覚を見せたとしても、ミチルちゃんのあの鉄壁の理性が壊れる事は想像出来ないもの。
後からルシアン様に怒られるだろうけど。
それよりミチルちゃんにはいい加減心からルシアン様を受け入れてもらわないと、本気でミチルちゃんが監禁されてしまう。
この前もさりげなく、監禁とドロドロに甘やかされるのとどちらが先が良いかとか選択させられそうになってたし。
誤魔化したけど。
卒業までに何とかしないと、監禁される。ルシアン様なら間違いなくやる。
キャラメルを食べさせた後、幻覚を見せるワタシの力を使ったと思わせてから部屋を出、ルシアン様にお叱りは後で受けます、と伝えてから、ミチルちゃんの心の声を聞いて来て下さいと送り出した。
その結果、思った以上にミチルちゃんはルシアン様への強い想いを抱えていたようで、その後激しいご寵愛を受けたようだった。
大成功よ!
これで万事解決かと思ったら、ルシアン様的に、まだミチルちゃんの心を全て手に入れたとは思えないらしく。
まぁ、ワタシから見てもそう思うけど…。
これはいかんとモニカちゃん恋愛脳化計画というのを建前に、ミチルちゃんに課題を申し渡したのに、悉く失敗。
何故、課題内容がそのまま透けて見えるような発言と態度をするのかしら?わざとなの?!
ミチルちゃん自身からの歩み寄りは上手くいかなかったものの、ルシアン様は課題とは関係ない所で行われるご自身への気持ちを感じてらっしゃるようで、機嫌が良い。
ルシアン様手ずから食べさせるという、求愛給餌行動を、ミチルちゃんは最初拒んでいたけれど、抵抗すると更に甘い目に遭う事が身に沁みたらしく、素直に受け入れるようになった。
…うん、こうやって、着実に監禁への道が整っていくのよね…。
何故、ミチルちゃんはこんなに頑なにルシアン様を受け入れないのかしら?
受け入れないと言うか、二の足を踏んでると言うか。
そう思っていたら、ミチルちゃんてばリジーの代わりに入ったリュドミラがルシアン様の愛妾になると勝手に思い込んで凹んでるし。
何でそうなるの?!
…と思っていたら、確かにリュドミラの行動には問題が。
リュドミラは確かに美しくて、これまでのキャロルや皇女とは違って落ち着きがあるし、庇護欲を掻き立てるような淑女ではあるのよね。
そんな女性が一つ屋根の下で自分の夫を、うっとりした目で見てるって言うのは、確かにあまり気分の良い事ではないわね。
とは言え、ミチルちゃんは妖精姫と呼ばれる程に美しくて、リュドミラなんて目ではないのに、何故か自信がないみたいで。
ルシアン様に伺ったら、子供の頃から家族に容姿を蔑まれていた所為で、自分の外見に自信を持てないらしい。
ミチルちゃんの感覚としては十人並みらしい。あれが。あの容姿が十人並みとか、世界中を敵に回すからそろそろ気付いて欲しい気もするけど、ミチルちゃんらしいと思うとまぁ、いいかなと思ったり。
容姿うんぬんはさて置いても、どう考えたってルシアン様がミチルちゃん以外に目を向ける筈ないし。
ミチルちゃんに愛される為だけに真逆の自分になったり、憂いを取り払う為にリオン様主導の謀に乗ったりしたルシアン様が、美しいからと言って心を奪われる訳もなく。
あまりにリュドミラの存在がミチルちゃんに悪影響を及ぼすなら、リオン様の元に戻すしかないわね。
ミチルちゃんは帰るべき家で落ち着かない状況をとても嫌がる。明らかに食べる量が減って、言葉が少なくなり、内へ内へと向かっていく。
リュドミラも、己が仕える主人に頰を染めるなんて、どうかと思うわ。
無いとは思うけど、リュドミラとミチルちゃんを二人きりにしないようにしないと。
同じ事を屋敷の他の使用人達も思っていたようだった。
ミチルちゃんに昔から仕えているエマはリュドミラとミチルちゃんを絶対に二人にしない。
ロイエも気が付けばミチルちゃんの様子を見に来ていたりと、誰もがミチルちゃんの様子を気にかけている。
ミチルちゃんはこの屋敷の使用人に愛されている。
会えば挨拶をし、労いをくれ、名前を呼んでくれる。こんな貴族はいない。
自分の仕事をちゃんと見てくれて、褒めてくれる。
そのミチルちゃんを苦しめる存在であると、皆がリュドミラを認定しようとしてる。
エマを始め、苦言を呈した者は少なからずいたみたい。
にも関わらず、リュドミラのルシアン様への態度は変わらず、遂にミチルちゃんがリュドミラを拒絶した。
ミチルちゃんの側にいればルシアン様との接触も増える。
その度に恋心を滲ませたような目でルシアン様を見つめるのだから、当然の結果だった。いくら防ごうとしても、リュドミラは意識的なのか無意識なのか、ルシアン様に近付こうとした。
ミチルちゃんは食事を断り、エマだけを呼び、誰も部屋に入れるなとワタシに命じて自室に閉じこもってしまった。
大慌てでルシアン様に状況を伝えた。
ルシアン様はどうしても直ぐに片付けなくてはならない事を済ませたら、ミチルちゃんの元に向かうとおっしゃった。恐ろしく怒っていて、言葉をかけられない。
ロイエが深いため息を吐いて、リュドミラを呼び出した。
ワタシも同席する。
「リュドミラ、貴女は一体どういうつもりなのか?」
常に冷たい口調のロイエだけど、いつも以上に冷たく感じた。本気で怒ってる。
ルシアン様に幼少より仕え、絶対的な忠誠を誓うロイエは、ミチルちゃんをとてもとても大切にしている。
ミチルちゃんと出会って救われたルシアン様を、誰よりも近くで見ていたのはロイエで、ルシアン様とミチルちゃんが二人で幸せになる事を切に願っているし、その為なら手段を選ばない。
だからこそ、リュドミラの態度が気に入らないのだ。
リュドミラが来てから、使用人の中で彼が一番苛立っていた気がする。
ロイエの懸念通り、彼女の行動の所為で、ミチルちゃんは部屋にこもってしまったのだから。
呼び出されて、開口一番に詰められたリュドミラは、青ざめて、目を伏せた。
「あの…私、何かしてしまいましたでしょうか…。」
ロイエがリュドミラを睥睨する。
リュドミラは身を縮こませる。
「無自覚なのか?それなら尚更質が悪い。」
確かに。
散々周囲から注意を受けても止めないのだから。
「何故ルシアン様を、あのような目で見るのか。」
その言葉にリュドミラが耳まで顔を赤らめた。
あぁ、やっぱり駄目な子なのかしら。
ミチルちゃんの予感が当たったと言う事?
「も、申し訳ございません。
あの、あまりにもルシアン様がお美しくて、分かってはいるのですが、つい、見惚れてしまいまして…。」
「つい、奥方であるミチル様の前でも、そういった目でルシアン様を見てしまったと。」
そこまで言われて、ようやく意味が通じたらしく、リュドミラは青ざめた。
身体を震わせて、申し訳ありません、と消え入りそうな声で謝意を口にする。
主人であるミチルちゃんの様子を気にかける事なく、己の想いだけを優先させるような侍女など不要なのよね。
ましてや己の行動で主人を不安にさせるなんて、以ての外。
「ルシアン様がリュドミラに好意を抱く事は永遠にない。
あのお方の心に住むのはミチル様ただお一人だ。
だが、貴女の考えなしのその視線が、ミチル様のお心を苦しめている。」
リュドミラは紙のように白い顔をしている。
ミチルちゃんが不調を訴え、エマだけを呼んで自室にこもってしまったことを、ミチルちゃん付きの侍女になったリュドミラが知らない訳はない。
「あ…アルト公爵様に…お助けいただく前に…。」
声を震わせながら、リュドミラは話し始めた。
「私が…いと高きお方の元から逃げ出すのを…助けて下さった方に…旦那様はよく似ておいでで…その…旦那様を通して、その方を思い出しておりました…。
決して、旦那様に邪な想いを抱いた事はなく、奥様にそんなご不快な思いを…申し訳ございません…。」
その場に蹲ると、リュドミラは頭を下げた。
「申し訳ございません…命をお助けいただいた身でありながら、かようなご迷惑おかけして、お詫びのしようもございません…。」
ちらっとロイエの顔を見ると、ロイエは目を伏せた。
「…貴女の処遇は、ルシアン様とミチル様が決める。部屋に戻りなさい。」
「はい…。」
リュドミラは立ち上がると礼をし、部屋から出て行った。
ロイエは苛立たしげに口を真一文字にしてる。
あんなにあっさり引いた所を見ると、思う所があるのだろう。
「ロイエ、知ってる事を教えてちょうだい。」
ワタシを軽く睨んだかと思うと、ロイエはため息を吐いた。
「一人だけ、リュドミラの言う人物に心当たりがある。」
あの顔がもう一人いるってこと?!信じられない!
「皇弟だ。」
皇弟ならば確かに、皇帝の寝所に入り込んでリュドミラを助ける事は可能だろう。
「そんなに似てるの?」
「私は見た事はないが、見た者が酷似していると報告して来た。」
つまり、その助けてくれた皇弟に心奪われたリュドミラは、ルシアン様を通してその皇弟を見ていると言う事?
頭が痛んで、思わずため息を吐いてしまった。
ルシアン様はミチルちゃんを徹底的に甘やかしたらしく、翌日ミチルちゃんはカウチの上に座らされていた。
容赦ないもんね、ルシアン様…。
隠してるつもりだろうけど、隠し切れてない徴がね…絶対ミチルちゃんから見えない所に付けたんだと思うのよね。
本当、ミチルちゃんに関して、ルシアン様は容赦ない。
あの独占欲と言ったら…。
ミチルちゃんを妻にしただけでは飽き足らず、身体はもうご自身のものにされてるし、心は確実に己を愛するように外堀をきっちり埋めていくし。
早くしないと、本当に監禁されそう…。
それもこれも、ミチルちゃんがもうちょっとルシアン様に求愛行動をしてくれたら…。
ミチルちゃんが言うには、あっちでは、もっと男女関係が進んでいると言うか、女性もぐいぐい男性を求めていくのだ、と言う割に、ミチルちゃんはこちらの世界の女性よりも奥手だ。
とは言え、もしこれでミチルちゃんが前世に恋人なんかいたりしたら、既に監禁されてる事間違いなしで、下手したら前世の記憶を消す為に、記憶に作用するような薬物をロイエに処方させる可能性大。
だから、ミチルちゃんの前世に恋人がいなくてホッとした…。
本当に、ルシアン様は危険…。
それにしても…。
「変な心配をするわよね、ミチルちゃんてば。ルシアン様がミチルちゃん以外を相手にする訳ないでしょ。」
ミチルちゃんはワタシの言葉にぴく、と反応する。
「ほ、本当にそう思いますか?」
あら?
思っていたのと違う反応が返って来たわ。
予想では、そんなの絶対とは言えませんわ、と返してくるかと思っていたのに。
「思うわよ。何処を疑えばいいのか教えて欲しいぐらい溺愛されてるわよ。」
困ったような顔になったかと思うと、顔を赤くし、今にも泣きそうなぐらいに目にいっぱい涙をためている。
「…嬉しい…です。」
信じられない…ミチルちゃんてば…こんな顔をするようになったのね。
これはようやくルシアン様の願いが…。
扉の方を見ると、ルシアン様が恥ずかしさを堪えるように口元を手で覆ってミチルちゃんを見ていた。
良いタイミングね。
これ以上ワタシがここにいるのは無粋なので、さっさと部屋を出た。
扉を閉めた後、ホッと息を吐いた。
これなら、監禁されずに済むかしら…。
ルシアンはヤンデレではなく、ヤンデル、と指摘いただきました。
ごもっともでございます。




