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少し陽が傾いた放課後。
俺はりんこを誘って、少しお値段が高めでオシャレな喫茶店に来ていた。
香ばしい珈琲の香りと、古書の香りが入り混じる素敵な空間だ。
「なんかお前、いつもと雰囲気ちがうな」
「えへへ、可愛いでしょ?」
「たしかに可愛い」
「何点?」
「92点」
「結構高得点だね」
「ロングスカートはえっちだからな」
今日の幼馴染は、いつもと雰囲気が違う。
チェック柄のシャツに黒のロングスカート、少し地味なファッションだけど、喫茶店の落ち着いた感じと上手くマッチしていて、さながら良いところの文系お嬢様のような出立ちだった。
そんな気合いの入ったりんこは、柔らかな笑みを浮かべながら苦そうなブラックコーヒーをこくこくと飲んでいる。
「あっくんが誘ってくれるなんて何年ぶり? 嬉しいなぁ〜」
「年も経たないだろ」
「いーや、年経ってるよ。だってこの前デートしたの一昨年の冬だよ? さみしかったなぁ」
「デートって言うな……てか毎日欠かさず顔合わせてるし」
「毎日欠かさず顔合わせてても、女の子は特別扱いされたい日もあるの」
「ふーん、そんなもんか」
「そんなものなの」
可愛らしい笑みを浮かべながら、りんこは俺の頬に手を伸ばす。
「ほら、トーストのバターついてるよ」
「ちょっ! 自分でとれるって……!」
りんこは俺の口元についたバターを小指でとって、ペロリと舐めた。
「ふふっ、あっくんは私がいないとダメだなぁ〜」
「べ、別に気付いてたし! 自分でもとれてたし!」
「はいはいツンデレかわいいね」
いつも通り俺をからかって楽しむ幼馴染。
やっぱり落ち着くなぁ〜。
彼女の独特な雰囲気に絆されていると、被っているニット帽の下、右耳につけたイヤホンから低い声が聞こえる。
『何してんの?』
底冷えするような雫の声。
「っ……!」
忘れていた……!
今日はりんことのデートじゃない……!
十年以上付き合いのある幼馴染に『俺、お前より妹の方が好きなんだ』と告白しなければいけないイベントの真っ最中だった……!
義妹の催眠にかかったフリをしつつ、幼馴染に妹が好きだと告白する。
誤魔化しは効かない。
なぜなら雫は、遠い後ろの席で俺たちを監視しているからだ。
しかも、スピーカーモードにしてスマホで通話を繋げているから、会話まで雫に丸聞こえ。
何から何まで詰んでいる……!
『怪しまれないようある程度演技しろとは言ったけど、あくまである程度よ。そこまでいちゃつく必要あるわけ? アンタ今催眠かかってて私のこと大好きなんでしょ? ならなんでそんな地味女と楽しそうに話してんの? 死ぬの?』
ブチ切れかまして饒舌になる俺の妹。
なんとかなだめないと義妹がこの場に乱入してきてリアルファイトに発展しかねない……!
「り、りんこ、ちょっと目をつむっててくれ。あとついでに耳も塞いでくれるとありがたい……!」
「別にいいけど、どうして?」
「えっ、あっ、あの……そのですね……」
「……ふーん。まぁいいよ。はいつむった、耳も塞いだよー」
「ありがてぇっ……!」
こういう時、りんこは理由も聞かずに俺の必死加減を察してくれて気を使ってくれる。
俺になんかもったいないほど、気が使えて優しい幼馴染だ。
『雫……聞こえるか……!』
イヤホンのマイクに小声で話しかける。
『何よ』
心が痛むけど、雫とりんこの仲をこれ以上悪くするわけにはいかない。
俺は嘘をつくときの癖とやらをなるべく出さないよう努めて、言葉を続ける。
『いいか、今のはお前の言う通り演技だ。俺はお前のことが大好きだからな。ちゃんと命令通り、りんこにそう伝える。だからりんこにダイレクトアタックするのだけは我慢してくれよ……!』
大好きという単語を聞いた途端、雫の声が少し上ずる。
『はぁ!? こんな人目のある場所でアンタ何口走ってんの!? ま、ままままぁ当然よね……! クソ兄貴が私のことが大好きなことくらいわかってたわよ……! ちょっと聞いてみただけ! とにかく、早くしなさい! もうこれ以上は待てないからね!』
『わかった』
雫との連絡をとり終わった後、俺はすぐさまイヤホンを外す。
「ごめんりんこ、もういいぞ」
肩を軽く叩くと、りんこはニヤリと意味深な笑みを浮かべて、オシャレなバッグからメモ帳を取り出し何か書き出す。
『もしかして、雫ちゃん?』
息が止まる。
驚きのあまりりんこを見つめると、俺の表情を見て確信したのか、またニヤリと笑った。
そのままスラスラとメモを書く。
『あっくんがニット帽かぶるなんて珍しいと思ったんだよね。イヤホン、少しだけ見えてるよ。通話繋げてるんでしょ?』
幼馴染の推理力に素直に驚愕した。
りんこは昔からそうだ。
のほほんとしていても、本当は誰よりも賢くて、大人が頭を抱えて悩むこともすんなり正解を導き出してしまう。
俺の一瞬の表情、チラリと見えたイヤホン、そして今日のデートの誘い。
それらすべての細かな情報を統合して、りんこは雫が何やら糸を引いていると見抜いたのだ。
何から何までお見通しだよ。
りんこの瞳はそう言っていた。
俺は彼女からボールペンをかりて、うまく雫の視線をきってメモに走り書きする。
『ごめん。雫見てる』
するとりんこはまたもや可愛らしい笑みを浮かべて、ゆっくり呟く。
「だと思った」
俺の幼馴染はエスパーなのかもしれない。本気でそう疑ってしまうほど、りんこの推理、勘は鋭かった。
『今は雫ちゃんのおままごとに付き合ってあげるから、後でちゃんと電話で何が起きてるのか教えてね?』
走り書きにも関わらず綺麗な字。
俺はその書き文字にうんとうなずいて、重たい口を開く。
「その……りんこ、話があるんだけど……」
幼馴染と義妹、そして催眠をかけられたフリをする俺。
混沌を極めた心理戦が開幕した。
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長くなりそうなので一回投稿して、できれば今日の夜また更新しようとおもいます!
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