286 組手2
真剣でなくとも、ただの木刀でガクシンさんなら人を殺す事は容易いだろう。
ただの組手だと思っていた僕がバカだったのか、スイッチを切り替えないと。
僕は戦闘モードに移行し、ステップを踏みながらスピードを上げ加速していく。
「良いぞ、翔殿。もう翔で良いや。
もっと楽しませてくれ、翔」
僕はガクシンの目の前まで来ると、そこから一瞬加速して背後に回り、右手に持ったトンファーを回転させながら遠心力で勢いを増し、そのまま叩きつけた。
当たったと思った瞬間、ガクシンの体が動きトンファーを軽く交わしていく。
『くそっ』と思いつつ次は左手に持ったトンファーを横向きにスイングした。
「まだ、甘いな、翔」
ガクシンはトンファーの攻撃を簡単に木刀で防いだ。
そしてそのまま木刀を力技で振り切り、トンファーを持った僕ごと10メートル先まで飛ばした。
ここまで飛ばすなんて、凄い怪力だと思いながら体に異常はないか確めていたが特に問題内容だ。
改めてガクシンを見ると、普段と比べ大きく見えてしまう。
やはり歴戦の強者、次、本気で戦ったら勝ち目はないだろう。
ここまで強くなったのに、上には上がいることを痛感した。
僕はどこまで強くなれば良いのだろうか、まるで僕が次から次に強敵を作っているように感じてしまう。
今日は組手だし、次戦う時は100回戦ったら100回勝てるようレベルを上げ戦闘訓練をしなければならない。
なので、今回のような強者との組手には、戦闘訓練にはもってこいだ。
だが先ほどから全く僕の攻撃が当たらない。
フェイントを入れながら攻撃しても、今の最速で動いて攻撃をしても見えているようで木刀で防がれてしまう。
何度も何度も…、あれ、何故、ガクシンさんは攻撃してこないのだろうか。
先ほどから僕が攻撃を仕掛けて、ガクシンさんが防ぐという事の繰り返しだった。
暫くするとガクシンさんが、
「あ~も、やめだやめだ」
「どうしたのですか」
「どうしたじゃない。翔、お前、手を抜いているだろう」
「いえ、そんな事ありませんよ。僕は 必死で攻撃仕掛けていたのですから」
「いや、違うな。現に攻撃に殺気が全くなかった」
「それは組手だから…、」
「組手だから?違うぞ翔。組手だろうと相手を倒す勢いで攻撃しないとお互い切磋琢磨して強くなろうとしてるんだ。
なのにお前は、その武器のみで魔法を使おうとしない」
「だってそれはガクシンさんだから、折角、強者を知り合いになれたんだし」
「甘いよ、翔。次会うときはまた戦場だろう。その時、知り合いだからと言って手を抜くのか?
俺は手を抜かないぜ。遠慮なく叩きのめしてやるからな」
「そんな、折角、知り合ったのに」
「はぁ、お前な、一言忠告してやる。
仲間だろうが知り合いだろうが気を抜かないことだ。
翔、お前が殺すつもりはなくても、相手は殺しに来るかも知れない。
お前は既に有名人だ。
敵国からも、自国からも鬱陶しく思われるかも知れないから、常に周りに気を配り、周りを信用するな。
また、戦場で会えることを楽しみにしてるからな。それまで死ぬなよ」
「ガクシンさん、もしかして…、」
ガクシンは何も言わず領主邸へと戻って行った。
ガクシンは僕の事、気にしてくれているのかな。
確かに今まで甘かったのかも知れない。
周りを信用して、何もかも受け入れていたがこれからは気をつけていかないと、ガクシンは忠告してくれたのだろう。
もしかするとガクシン自身と重なる部分があったのかも知れない。
このまま流されて行くのか、それとも…。





