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193 成人の儀式

食事を終え、王竜への謁見の為、王の間に来ていた。

この扉を開けると、あの巨大な王竜が居ると思うと、何故か扉を開けたく無くなる。

あの圧倒的な力の前に、僕の力は届かず炎で焼かれた記憶しかなかった。


僕は何故死んでいなかったのだろうか。

竜の試練はどうなったのだろうか。

気になって仕方なかった。

王竜に聞くしかないか、そう自分に言い聞かせて勇気を振り絞り、扉に手をかけ押し開いた。


巨大な王竜が居座って居ると思っていたが、そこは普通の王宮と変わらない風景で、左右に10人ほどの人と奥の一段高くなった席に座って居る人物がいた。


中に通され王竜の前に進んでいく。

回りの人物も人だと思われていたが、よく見ると竜人族のようで、竜が人の姿になっているらしかった。


僕はまだふらついていたので、今はアルケーに肩を貸してもらって歩いていた。

一段高くなっている王の座の手前で止まり、膝をつき敬意を払うようにとラドンから指示があったので指示に従った。


「面を上げよ」


王竜の凛とした声に、ゆっくりと頭を上げると王の座にいたのは、一瞬女神様かと思うくらい神々しく美しい女性がいた。


「お母さん~」


「アナンタ、今はお前の母ではなく竜を束ねている王竜ですよ」


「は~い」


「翔殿、そしてアナンタ、よくぞ試練を乗り越えました」


「でも僕達、王竜様に殺されましたよ」


「いえ、十分力を示しましたよ。

現実だったら私は大打撃を受けて、もし精霊達と一緒に戦っていたら、私は翔殿に殺されていたでしょう」


「王竜様、今、現実だったらとどういうことでしょうか」


「これは竜の試練を受けた者以外には秘密なのだが、途中から精神の世界で戦っていたのですが、気が付いていたでしょうか。

竜が暴れると洞窟が崩れる可能性があるので、途中から気がつかないように精神の世界で戦っていたのです」


「それじゃ、僕が竜の試練で手に入れた経験値やドロップアイテム、覚えたスキル等はどうなるのでしょうか」


「自分のステータスを見れば分かると思いますが、精神の世界で手に入れたものはそのまま手に入れていると思います」


自分のステータスを確認するとレベル200に上がっていた。

持ち物、お金等もかなり増えていたので、精神の世界で戦っても同じくらい、いやそれ以上のドロップアイテム、経験値が貰えているみたいだった。


「どうして精神の世界で経験値やドロップアイテムが手に入るのですか」


「それは、そのくらいの価値がないと誰も試練を受けようとしないからです。

私が精神の世界を作り出し、体に付加をかけて経験値を上がりやすくします。

そしてラドンに手伝ってもらいながら、戦う相手の魔物のレベルを変化させていきました。

翔殿のレベルアップの早さが早すぎたので、100階層行く前に私の出番が来たということです」


「それじゃ、僕達が体が筋肉痛のような状態やお腹すいていたのは…」


「そうです、食事を取らず横に寝たまま急激にレベルアップしたからです。

時間としては約70時間、ちゃんと回復魔法はかけていましたので、食べなくても大丈夫な筈ですよ」


精神の中では、食事してもそう思っているだけということか、それじゃお腹はすくよな。

精神の世界で、まず死ぬことはないからラドンは最初から大丈夫だと言っていたのか、後で聞くと精神で戦っているので試練の途中で頭がおかしくなり精神崩壊する竜もいるそうだ。


「それじゃ、竜の試練達成ということで良いでしょうか、王竜様」


「最後の質問があります。

貴方にとって力とは何でしょうか」


「は~い、獲物を捕まえる為の力」


王竜はゆっくり頷き、


「アナンタ、分かりました。

翔殿にとって力とは」


僕にとって力とは…、誰にも負けない力、何の為に強くなろうとしたかな、セレナさんに勝つため、元の世界に帰るため、やはり…、そう思い王竜に向かって訴える。


「僕にとって力とは、仲間を守る為の力」


一瞬の沈黙が何分も何十分にも思えた。

これが正解なのか、それとももともと答えなどないのか、王竜は頷き、


「それでは、翔殿にはこの我ら竜人族が鍛え上げた竜聖剣を送ろう」


王竜が取り出した竜聖剣が、勝手に空中を飛ぶかのように、僕の目の前に来たので僕は剣を受けとると浮力がなくなり、ずっしりとした重さが手に伝わる。


「ありがとうございます」


「ウム、そしてアナンタには竜の試練を達成したので成人の儀式を行なう。

アナンタ、そこにある魔方陣の中心にはいるがよい」


「は~い」


アナンタは王竜の横にある魔方陣の中に入り、こちらに手を振っていた。


「それでは儀式を始める」


王竜が何やら呪文を唱え始めると魔方陣が輝き始め、アナンタを包んでいく。

大丈夫だろうか、何処かに転生されるとかないよね。

僕はちょっと心配になってきた。

呪文が終わりアナンタを包んでいた光が花びらのように1枚ずつめくれていく。


そしてそこにいたのは、


「アナンタ、だよね」


「はい、ご主人様」


そこにいたのは、僕と変わらない年齢、いやちょっと年上だろう。

王竜に何となく似ている、親子だからか。

母親に似て、とても美人だしスタイル抜群で、胸が大きいのが印象的だった。

特徴としては最中に付いている竜の翼、頭に付いている竜の角が目立っていた。


「今宵は成人した娘を祝って宴だ」


僕には、そんな事をやっている暇はないが、レベル上げに手伝ってもらったし、無下に断る訳にはいかなかったので、参加することになった。


親子水入らずの時間もとってあげたかったのでちょうどよかった。


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