147 飲み比べ
僕達は領主邸を離れ、また商店街の方に戻ってきていた。
先程も見て回ったので、見るものはあまりないのだけど。
「まだ時間あるけどどうする」
「私、歩き疲れちゃった」
「私は、お腹空いた~」
「アナンタ、またか」
「だって…」
「仕様がないな」
何処か、食事するところがないか探していると、商店街の路地の奥に茶屋と書かれた看板を見つけた。
これはもしかして、茶菓子屋さんか。
そう思って、路地に入り茶屋の前までくると、何やら美味しそうな匂いがしてくる。
アナンタは匂いに釣られて先頭きって店へと入っていく。
「いらっしゃい」
女性の店員が入ると同時に声をかけてくる。
「何にいたしましょうか」
「え~っと」
僕は、並んでいる商品を端から順番に見ていく。
団子やお饅頭等、和菓子みたいな物があり、中央にはケーキ類がずらりと並んでいる。
その横には、クッキー、ビスケットみたいな物が置いてあった。
「皆、何にする」
「あれも食べたいし、これも美味しそうだよね」
「ルナさんは、何食べたいですか」
「え、私ですか。う~ん悩みますね」
「空は、決まった?」
「やっぱり全部食べたいよね」
「そうだね、全部美味しそうだもの」
『えっ』僕は一瞬戸惑う。
全種類なんて食べきれるのか、精霊達とアナンタは食べきれるかも知れないが、他の女性はどうだろうか。
皆、全種類食べたいと言うから全種類買うか、食べきれなくても知らないぞ。
「すいません、それじゃ全種類、人数分ください」
「えっ」
次は女性店員が驚いている。
普通、そうなるよね。
「あの~、全種類を人数分だと、ここにあるもの全てになりますが、よろしいのでしょうか」
何~、全部買うことになるのか、やはり買い過ぎか、いやでも言ってしまった事を言い直すのも格好悪いし…。
「はい、全部ください」
「あ、ありがとうございます」
店員さんは、ご機嫌で全ての商品を袋に詰めていく。
詰めた袋を渡し、店の外まで出て来て見送っていた。
そして僕達は、買ったもの歩きながら食べまくっていた。
路地を出て大通りに戻ると、ちょうどそこにはセレナさん達の部隊と遭遇した。
「あれ、翔くん、こんな所で何やってるの」
「あ、セレナさん、いや、セレナ女准男爵様」
「何堅苦しい事を言っているの、セレナでいいわよ」
「じゃあセレナさん、千年の森に行くので、挨拶ついでに寄ってみました」
「そうなの、歓迎するわ。
取り敢えず、皆、領主邸に行きましょうか」
僕達は、セレナさん達と領主邸へと向かうことになった。
女性達は一人ずつ袋を持ち、先ほど買った食べ物を食べながら付いていく。
精霊達とアナンタは、既に自分の分は食べてしまって、他の人の分を狙っていたが貰えなかったようで、僕の分を分けて与えた。
領主邸に着くとエレナさんが待っていた。
「お帰り、セレナ」
「ただいま、エレナ。
今日は、翔くん達が来ているから宴会しようかと…」
「ハイハイ、わかってます。
そう言うと思って準備してます」
「流石エレナ、分かってる~」
「誉めても何も出ませんよ」
「たまにはいいじゃない、ケチ~。
もう皆も帰ってくると思うから、先に宴会初めましょう」
僕達は中庭に通されると、そこには先ほど見たときにはなかった宴会の準備が整っていた。
「いつの間に」
僕は無意識に呟いたようで、
「エレナの能力使えば、このくらい朝飯前よ」
「そうなんですか」
「誉めても何も出ませんよ、セレナ」
「分かってるわよ」
先ほどの件に戻るかと思ったが、上手く躱したようだ。
「それじゃ、まだ皆戻って来ていないけど、始めるわよ。
今日はトコトン飲むわよ」
「程々にね」
エレナの突っ込みが入る。
料理は、商店街で見かけた料理とほぼ同じで、食べたことない料理がズラリと並んでいる。
他の仲間達は、さっき団子やケーキ買って食べてたのに、また食べていた。
聞いてみると、食事とデザートは別腹らしい…、よく皆言うけどただの食い過ぎだから、そう思う。
そしてセレナさんが隣にやって来て、
「どう、楽しくやっている?」
「え~、まぁ」
「何、その曖昧な返事~。
よし、今回は翔くんと飲み比べしましょ」
いきなり飲み比べですか、この世界に来てかなり飲まされてきたけど、どのくらい飲めるかは分からなかった。
「ミレナ達が戻るまで勝負よ。
まず一杯目」
木で出来たビールジョッキに、ビールのような物が注がれていく。
容量は500mlくらいだろうか。
僕とセレナさんは、一杯目を一気に飲み干す。
「やるね翔くん、二杯目」
二杯目も僕とセレナさんは、一気に飲み干した。
二杯目を飲み終わった後から、僕の頭はボオッとなり、少しゆらゆらし始めた。
「セレナさん、前の約束っていつまで有効ですか」
「前の約束?」
「セレナさんに勝ったら、奥さんになってくれるという」
酔ったせいか、僕はとんでもないことを言っている気がした。
少し間があいて、
「う~ん、私が結婚するまでかな」
「相手はいるのですか」
「まだ、今の所いないわよ」
「そうですか」
僕は少し安心した。
そして三杯目、一気に頭がクラクラする。
立ち上がったら、直ぐに倒れそうな感じだった。
「翔くん、何なら今から勝負する?」
「…、いえ、今はまだ勝てないでしょうから、千年の森から帰って来た時勝負していいですか」
「分かったわ、でも早く帰って来ないと結婚してるかも知れないわよ」
「え!なるべく早く帰ります」
「冗談よ、翔くん」
そして四杯目、所々記憶が飛んでいるのが自分でも分かる。
「それで翔くん、留守の間誰に任せて来たの」
「イマリ、さんにまかせ、てきました」
「大丈夫なの、この前まで敵だったのに」
「だ、大丈夫、です。信用、して、るから」
「裏切ってクーデターが起らないように人質もとっているのでしょ」
「人、じち?」
「あのミディアさんよ、イマリさんの娘さんよね。
流石ね、翔くん」
「そ、そんな訳、あり、ません」
五杯目を飲んでいるところまで、記憶にあるがそれからの記憶が全くなかった。
宴会が始まって一時間ほど経った頃、ミレナさんとボンゴさん、ムラサメさんの部隊が戻ってきた。
「あらあら、羨ましいこと」
「拙者には、出来ないでござるな」
そこには、僕とセレナさんが抱きついて寝てたらしく、宴会場で二人とも飲みすぎて、その場で寝てしまい、隣同士だった為いつの間にか抱き合っていたらしい。
後でその話を聞かされた時、恥ずかしさのあまり顔が赤くなってしまったが、記憶に残ってないことを残念に思い、飲みすぎた事を後悔していた。
『せめて感触が残っていれば』
そう思いながらため息をつくのでした。





