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その『悪役令嬢』は幸せを恋い願う  作者: 玉響なつめ


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第17話 焦がれる

 レオンのそんな冷たい声なんて、これまで殆ど聞いたことがありません。

 彼が敵対する相手などに向けて放つことは何度かありましたが……それでもこんな、底冷えするような声ではなかった。


(怒らせて、しまったんだわ)


 公爵令嬢として、発言には気をつけねばとあれほど反省したばかりだというのに。

 ふとした気の緩みから『婿に来ないか』と言った挙げ句、自身の恋心を露呈させてしまった。


 義理堅いレオンにとって、断っていいと言われてもそれは……困ること、だったろうに。


「……ごめんなさい」


「それは何に対する謝罪で?」


「そうね、いろいろだわ。私自身の迂闊さや、覚悟の足りなさ、あなたへの配慮が欠けていたことに対してかしら」


 きっと疲れているのよ。

 思考を鈍らせては、王城に行ったときも似たようなミスをしてしまうかもしれない。


 そうすれば今回は……いいわけではないけれど、レオンに迷惑をかけただけで済むけれど、ワーデンシュタイン公爵家にとって良くないことになるかもしれない。

 お父様に迷惑をかけることも、ひいては領民に迷惑をかけることも避けなければ。


「……失礼」


「え? アッ」


 思わず声が漏れてしまったけれどそれは仕方がないことでしょう。


 ドアノブを握る私に、レオンが手を重ねてきたかと思うといきなりドアを開けて私を押し込んだのです。

 勿論、乱暴に……というわけではないので私もつんのめった程度ですけれど。

 それと一緒にレオンが私の部屋に入ってきて、後ろ手に鍵をかけてしまったことに思わず目を丸くしてしまいました。


 護衛騎士ですから、彼が私の部屋に足を踏み入れたことは何度もあります。

 ですがそこにはいつも侍女が同席していましたし、鍵をかけるなんてことは一度もありませんでした。


 だって、私は未婚の令嬢で、彼は騎士ですから。


「レ、オン?」


「俺は」


 まるで昔に戻ったようなその一人称に、私は目を瞬かせるしかできません。

 彼は護衛騎士になると決めたその日から、振る舞いも気をつけるために自分のことを『私』と言い始めたのです。


 慌てたり、ふとしたときに『俺』に戻ってしまうことはありましたが……今は、どうして。


「俺は、ロレッタに求婚されて嬉しい」


「えっ……」


「ワーデンシュタイン公爵に気に入られていようと、夫人の友人の息子だろうと、俺はたかが護衛騎士だ。王家に望まれるほどの姫を、妻にと願える立場にはない」


「それは……」


 それは、事実でした。

 私自身も、レオンに恋していたと気づいたのは殿下と婚約をした際でしたが……自身の立場を考えれば、殿下という婚約者がいなくともレオンを選ぶかどうかと言われたら、当時は難しかったと思います。


 婚約を失った適齢期の令嬢という、あまり嬉しくもない状況に陥ったからこそレオンを望むことが許されたと……そう、思ったくらいですから。


「あの時、馬車ですぐに答えを返せなかったのは夢みたいだったからだ。ロレッタ、あなたにとって俺は幼い頃から傍にいた身内のようなものだったろう? 兄のようだ、信頼している、その言葉をたくさんくれた」


「……ええ」


「だから、俺は貴女の(・・・)護衛騎士になると決めたんだ。終生、お仕えすると。重たいと自分でも理解しているし、一方的な想いだ。ただ、傍で笑っているロレッタを見守りたかった」


 レオンは私の前まで来ると、跪きました。

 それはかつて、私の護衛騎士になったばかりの時、主人に忠誠を誓う儀式を行ったときのよう。


「あんな男にロレッタが悲しむ姿をずっと見せられて、腸が煮えくり返る。だが、俺ならそんなことしない。ロレッタ、俺を望んでくれたんだろう? 決して裏切らないと誓おう。だから俺の気持ちを思いやるふりをして、勝手に決めつけないでくれないか」


「……!」


 ハッとする。

 私は彼を気遣うようで、拒否されるのが怖くて見ていなかった。


 でもそれが、彼を傷つける行為だったと言われれば……私はなんて愚かなのでしょうか。


「レオン……」


「ずっと恋い焦がれていたんだ。叶わなくともいいと思っていたものを、諦めないでいいというならば……どうか、俺を想うなら、恐れず選んでくれないか」


 こんなに真っ向からレオンと視線を合わせるのは、一体いつぶりなのでしょう。

 彼を異性として意識しないように、私には婚約者がいるのだからと……。


 レオンは、こんなにも私のことを大切にしてくれていたのに!


「……ありがとう、レオン。臆病な私でごめんなさい。いずれ女公爵として立つのに、私は多くの信頼を損ねてしまったけれど……それでも私の隣に立ってくれますか」


「もちろんだ!」


 レオンは勢いよく立ち上がったかと思うと、私をぎゅっと抱きしめました。

 それは少しばかり異性に免疫のない私としては近すぎる距離でしたが、ぎゅうぎゅうと抱きしめてくるレオンの喜びようが嬉しくて、私は彼のしたいがままに任せるのでした。


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