第37話 オーバーズの一人 爆壊(バッカイ)
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エレメント系のエクスプロージョンデバイスを操るオーバーズが治めるコロニー『イゴー』。
外の山岳地帯とほとんど同じ風景の小さなコロニーだが、その地中には希少な金属が大量に眠っており、日夜その発掘がされている。
岩盤を砕く爆破も日常茶飯事だ。
そんなイゴーの岩山と岩山の間に場違いに佇む菓子専門店がある。
アームドの拠点であるハウスから一番近いコロニーということもあって、ここが新佐のお気に入りなのだ。
この時代に菓子一筋の店はかなりレアだ。
寛地がオーバーズと戦っている、そんな状況下にも関わらず、今日も新佐は足繁く菓子屋に来店し、至福の時を楽しもうとしていた。
その矢先にDDからの連絡だった。
「うわぁ、マジかよ、まだ菓子の選定を始めたばっかだってのに。俺の至福の時間がー」
来店直後に渋々新佐は菓子店を出る羽目になってしまった。
表に出ると、さっきまでニヤけていた新佐の表情は厳しくなっていた。
「DD達が表に出れないほどの爆撃……… 相当だな。
許さねえ………
誰だか知らねえが、俺の至福の時を邪魔した罪、絶対許さねえっ!」
怒りの基準がズレているのはいつも通り。
結果、助けに行くことに変わりはない。
新佐はスカイモービルに跨がった。
ハウスがバレている以上、コロニーの外を監視しているアーキノイドから身を隠して移動することもない。
とは言っても、来る時はだいたい一時間程度だった道のりを5分で帰らねばならないとは、出力最大でもかなり微妙だ。
途中、アーキノイドに見つかったが脇目もふらず振り切った。
やたら時間が経つのが速く感じる。あっという間に残り1分を切った。
「見えたっ! 凄い爆発だな。まるで戦争だ。
ハウスは持ち堪えてるのか!?
で、犯人は……… んっ!? 一人? フードからハゲ頭出して目立っちゃってるやつ?
てっきりアーキノイドが群れでいるのかと思ってたが、きっとあいつだな」
新佐はこの爆発を引き起こしているであろう男の後ろ姿を見つけると、爆走するスカイモービルから片手を伸ばし、地面スレスレに手を近づけた。
すると、手の平にモヤモヤと形の安定しない黒い物体が溜まりだし、みるみる間に新佐と同じ位の大きさに膨らんだ。
新佐はそれを、スカイモービルの推進力と併せ、地面からすくい投げるように力いっぱい飛ばすと、黒い物体は先程までのモヤモヤ状から鋭い槍に形を変えて一直線に男へ向かっていった。
槍はスキンヘッドの男の後頭部にガキンッ!!と見事命中した。
刺さりはしなかったもののスキンヘッドは衝撃でクルクル回転しながらぶっ飛んだ。
致命傷だろう。
「ガキンッって、アーキノイドか!? とりあえず命中っ!!」
爆撃がやんだ。スキンヘッドは倒れたままだ。
新佐がスカイモービルから降りて様子を伺う。
………………
『809、811、821、ブツブツ……947、953………ブツブツ………』
新佐の耳に地味に聞こえてきたのは数字を数える声だった。
どうやら倒れているスキンヘッドから聞こえてくるようだった。
仕留め損なった。
スキンヘッドの指がピクリと動き、そのままゆっくりと立ち上がる。
その目からは赤い光が漏れていた。
強改造者だ。
新佐の方を向いてはいるが焦点が合っておらず、空を見つめるようにまだブツブツ呟いている。
「ブツブツブツブツ、1051、1061………」
「オッサンっ! その目の光、それと爆発操るってことはオタクで有名なオーバーズの『爆壊』だろ? 何それ、素数数えてんの? 怖いんだけど。
お菓子食べたいからさあ、悪いけどチャッチャと終わらせてもらうよ」
新佐が構えた時、スキンヘッドの焦点が新佐を捕らえた。
その瞬間新佐は自分が爆発したかと錯覚する程の強烈な殺気を感じ、反射的にその場から飛び退いた。
バンッ!
新佐がいた場所で激しい爆発が起こった。
何もなかったはずだ。
冷や汗が流れ落ちる。
「避けたか……… よく勉強してるな、その通り、いかにも、俺はコロニーイゴーを治める爆壊。
それじゃあ、俺に勝てないことも理解してるだろ? しかしさっきのやつかなり痛かったぞ。
ハゲ頭に槍を当てた衝撃でクルクル回転させるなんてギャグ漫画みたいな攻撃、よく思いついたな。
惜しい逸材だ。
頭に来たけどちょっと面白かったぞ。
ちなみに高ぶった気持ちを落ち着かせるのに素数はいいぞ、心の平穏を保てる。
で、お前もアームドだろ。
全員で6人ってことは分かってるんだが、今、外にいる奴は後何人だ?
正直に白状したらギャグセンスに免じて楽に殺してやる。
どーだ?」
「あー、それより、さっきの槍が当たった所、黒く汚れがこすれてて、間違えて生えちゃった髪の毛みたいになってんのよ。
笑いが込み上げて戦いに集中出来ないから、まずそれ何とかして」
新佐はクックックと苦笑した。
爆壊もブハッと吹き出した。
ハッと我に返った爆壊はローブの袖で頭を拭うとギロリと新佐を睨みつけた。
「二度も人をコケにするとは、もうつまらないぞ。死に急ぐ奴なんだな」
そう言いながら爆壊が手の平を新佐に向けると、また先ほどの強烈な殺気が襲いかかってきた。
今度は広範囲に広がっている気配がする。
回避できるか!?
「うぉっ! まずい、マグネット解除っ!」
咄嗟にリミッターを解除し、目から赤い光が漏れる。
新佐の得意とする脳波はベータ。
デバイスはマグネットとパワーのデュアル。
磁力を自在に操る能力だ。
しかし、爆発の速さに間に合わず逃げ遅れた。
周辺の地面がベコンッと大きく沈み込んだ瞬間、ババババンッ!!と大きな音が轟き、新佐は激しい爆発に飲み込まれた。
辺りが真っ暗になるほどの砂煙が空高く舞い上がり、小規模なキノコ雲が立ち昇った。
「俺としたことが、頭にきて少しやり過ぎた。
これじゃあ木っ端微塵だな。
さて、あと一撃、このアリの巣も中の連中もろとも吹っ飛ばすか」
そして、爆破のために両手をハウスにむけた。
「ッ!? まさか………」
爆壊は気配を感じて手を止めると、さっき新佐を爆破させた場所を凝視した。
薄くなりだした砂煙の中から黒い物体が現れた。
長方形の鉄の塊に見えるそれは、一瞬の後、砂のようにザーッと崩れ去り、中から新佐が現れた。
鉄壁の防御を誇る技、『サンドボックス』だ。
「この爆破で死なない。お前、危険だな。」
爆壊が両手を新佐に向けた。
しかし、それより早く新佐は地面に両手をつきながら叫んだ。
「サンドフォールっ!」
その腕は力がみなぎり張り裂けんばかりだ。
すると今度は、爆壊の爆破よりももっと広範囲で大量の砂が舞い上がり、爆壊を吹き飛ばしながら空を覆った。
そしてそれは霧散していくのではなく、黒い大粒の雨のように二人に降り注いだ。
砂の雨に打たれながら立ち上がった爆壊は、この砂の雨の正体を理解した。
「これは砂鉄だな。お前を包みこんで爆破に耐えたやつも砂鉄の塊か。磁力を操るとはなかなか面白い」
「面白いだろ? でもそれだけじゃないのよ。
よく見てみな、この砂鉄の雨。あんたもう負け確だよ」
黒い砂鉄の雨は二人に等しく降り注いでいる。
しかしよく見ると、その雨は新佐の体には触れず、直前に弾け落ちており、爆壊にだけ本当の雨のようにバシャバシャと当たっている。
そしてそれは、じわりと体に染み込んでいるようだ。
「俺達は強改造者だ。
体をデバイス化している。強い者ほど体に占めるデバイスの割合が多い傾向があるだろ? あんたらオーバーズならそれは顕著だよな。
俺のサンドフォールの真価は、大量の砂鉄がデバイスの隙間に入り込み体の自由を奪うことにある。
ちなみにアーキノイドなら確実に動けなくなる。
しかし周りに仲間がいると巻き込んじまうことがあるからなかなか使えないのが玉にキズなんだよね」
そう言って新佐は不敵な笑みを浮かべた。




