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トリニータス・ムンドゥス~聖騎士レイの物語~  作者: 愛山 雄町
第五章「始まりの国:神々の島」

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第五十五話「三つの条件」

 六月十三日。

 クレアトール神殿で三主神と八属性神と邂逅したレイは、今後の方針についてアシュレイたちに相談した。

 彼は自分を操ったとしか思えない神々を信用しきれないと言いつつも、その依頼を断っても自分たちの意思に反して使われるだけではないかと危惧している。

 更に研究者であるキトリー・エルバインから虚無神(ヴァニタス)の行った侵略についての仮説を聞き、レイは自分の結論を話すと宣言した。


「僕の考えた結論だけど、神々に協力するつもりでいる……」


 その言葉にアシュレイは表情を変えずに頷き、ステラは反対の言葉を上げそうになる。レイはステラを目で制した後、


「……但し、条件をつける。まず僕を操った理由を聞かせてもらうこと。納得できる理由を聞かせてもらわなければ、僕の不信感は消えないから……」


 そこでステラが同意するように小さく頷く。


「……二つ目は今後の僕たちにどの程度関与するつもりか確認すること。神々の操り人形になるなんてお断りだ。僕たちは意思を持つ人間なんだ。その意思を、心を無視するようなら、ヴァニタスと何も変わらない。そのことははっきりと伝えるつもりでいる」


「神々が正直に言わねば意味はないと思うが」とアシュレイが懸念を示す。


 レイは「そうだね」とあっさり認めるが、


「もしそうなら、どんな条件を付けても意味はないよ。でも、神々にはある一定の縛りがあると思っている」


「縛り?」とルナが首を傾げる。


「神々には一定の制限が掛かっている気がするんだ。どんな理由があるのかは分からないけど、ヴァニタスに対抗するのに、僕たちを使う必要はないと思うんだ。僕たちより凄い人、例えばザックさんのような人でもいいし、そもそも神々自身がやった方がいいに決まっている。でもそれができないから、僕たちみたいな中途半端な力しかもたない者に頼らざるを得ないんじゃないかって」


 そこでキトリーが「あなたは凄いわ」と賞賛し、話に加わった。


「私の仮説もそれに近いわ。神々とヴァニタスは人を介してしか世界に干渉できないのではないか、どちらも世界への直接的な干渉を禁止されているから、間接的に干渉する手段として人を使っているのではないかって考えたの。あなたの考えに近いと思わない?」


「そうですね。その考えに近いと思います」


「私も不思議だったのよ。古代文明があんなに簡単に滅んだことが。そして、今の世界がまだ滅んでいないことが」


「今の世界が滅んでいないことが不思議なんですか?」とルナが質問する。


「ええ、そうよ。古代文明の人々はあなたやレイ君のように全属性が使えるほどの才能を持った人たちだったわ。そして、今の文明より遥かに進んだ技術も持っていた。ヴァニタスが巧妙に罠を仕掛けたから滅んだのだけど、今の世界ならそんなまどろっこしい方法を取らなくても、もっと簡単に滅ぼせると思わない?」


「そうですね」とルナは納得する。


「それなのになぜ滅んでいないのか。というより、私には滅びの前兆すら見えないわ。魔族の侵攻があったことも知っているし、カエルム帝国とルークス聖王国の戦争のことも知っているけど、どちらも国が滅ぶことはあっても世界が滅ぶなんてことではないわ」


「僕も同じことを思いました。だから神々とヴァニタスは何らかの縛りがあるんじゃないかと。それなら神々と交渉することができるんじゃないかと思ったんです」


「レイ君が素直に言うことを聞かなければ、神々は強く干渉しないといけない。そうなると、もう一方のヴァニタスに何らかの特典を与えてしまうから不利になる。だから、素直に言うことを聞かせる方法を採ってくる。そう考えたってことね」


 キトリーはレイの考えを理解したが、アシュレイたちは未だに理解できないでいた。


「つまりだ。レイが自ら進んで神々の依頼を受ける方が、神々にとっても都合がいいということなのか……」


 アシュレイの言葉に「そうだと思う」とレイが答え、


「話を戻すけど、三つ目の条件というか、これはお願いなんだけど……」といって、獣人奴隷であるウノたちを見る。


「ウノさんたちの首輪の外し方を教えてもらえないか聞くつもりなんだ。元々神々の力でできている物だから外す方法はあると思うんだ」


「私も賛成だ。死ぬまで外せないなど、人のやることではない」


 アシュレイが憤りを見せる。


「それはいいかもしれないわ」とキトリーが呟く。


 その呟きに、レイには別の考えがあるように思え、「どういう意味ですか」と尋ねた。


「あなたが光神教と対決する時に有利になると思ったのよ」


 意味が分からないライアンが「分かるように言ってくれよ」と呟く。キトリーはその呟きに答えるように、


「光神教の最高の聖職者である総大司教でもできないことをレイ君が成し遂げるの。それは神の奇跡としか見えないはずよ。実際そうなんだけど、それでも今まで外すことができないと言われていた獣人奴隷用の首輪を外すという行為はいいアピールになると思うわ」


 その言葉に「さすがは“白き軍師”よね」とルナが茶化す。


「僕はそこまで考えていたわけじゃないけど……でも、光神教のやり方は酷い。人を物のように扱うことが神の意思かと言いたいんだ……」


「ヴァニタスが作らせた宗教だから仕方がないのだけど、確かに神の意思に反していると思うわ。特にノクティスの考えは寛容と安らぎなのに、闇属性を悪用したやり方は絶対にノクティスの意思に反している」


 その言葉に闇の神殿の神官見習いであるイオネは同意の言葉を上げることができなかった。闇の神殿の神官、すなわち月魔族や翼魔族ら妖魔族の呪術師たちは“傀儡(くぐつ)”の魔法を使い、人の意思を無視しているからだ。

 そのことを素直に告げる。


「そう考えると、闇の神殿がヴァニタスに操られていたというのがよく分かります。ノクティスの意思を無視していたのですね、私たちは」


「僕も捕虜に使ったことがあるから人のことは言えないけど、あれは隷属の首輪以上に酷い魔法だと思う。自分の意思とは違う行動を強制されるんだから……」


 レイは小鬼族の捕虜ダーヴェとラウリに傀儡の魔法を掛けたことを後悔していた。特に最後まで魔法を解かなかったことで、彼らの魂を穢したと悔やんでいる。


「あれは仕方がなかったのだ」とアシュレイが慰めると、レイは「ありがとう」といって俯きかけた顔を上げる。


「三つ目の話はウノさんたちにも意見を聞きたいと思っています。僕が首輪を外す方法を伝授されたとしたら、そして皆さんを解放すると僕が言ったら、どう考えますか?」


 突然の問いにウノたちは困惑する。


「我らはアークライト様のご指示に従うよう命じられた者。それがアークライト様のご意思なら、我らに否はございません。ですが……」


 ウノはそう言った後、僅かに口篭り、再び話し始めた。


「既に半年以上お供に加えていただいております。アークライト様のお考えのすべてを分かったとは申しませんが、その一端は分かっているつもりです。あの絶望の荒野と呼ばれる場所では、我らに対しても命を賭けて守ってくださいました。我らは上位者に従う者でございますが、それとは別にアークライト様に忠誠を捧げたいとも思っております」


 ステラはその言葉に驚きと共に喜びを感じた。ウノたちが自らの意思で考え始めていることに、自分の過去を重ねたためだ。


「分かりました。神々にもできるかは分かりませんし、教えてもらえないかもしれませんが、今の言葉は覚えておきます」


 そう言って再びアシュレイたちに視線を向けた。


「今までの話は僕の考えであってみんなの考えと違うかもしれないし、今の流れで僕の考えに賛成したいと思うかもしれない。だから、明日まで時間を掛けて考えてほしい。僕ももう一度考えてみるつもりだ。明日の朝、もう一度僕の考えを聞いて意見を聞かせてほしい」


 そう言って立ち上がった。


 その後、レイたちはそれぞれ思い思いの方法で時間を過ごし、夕食も静かに済ませ、翌朝を迎えた。


 レイは自分の考えが変わらなかったことを説明し、一人ずつ確認していくが、全員が賛成する。


「じゃあ、この後神殿に行ってもう一度神々に会ってこようと思う。今回はウノさんやキトリーさんを含めて全員で行きたいとお願いするつもり。あの場所なら全員が入ることができるから」


「全員で? 俺も神々に会うのか……」とライアンが絶句する。


 それに引き換え、イオネは感動に打ち震えるように目を潤ませ、「ありがとうございます」と頭を下げる。


「全員で入った場合、不測の事態に対応が難しいと思いますが」とウノが控え目に注意を促すが、


「神々が何かしてくるなら、どこに誰がいても同じだと思います」


 レイの言葉にウノは小さく頭を下げて引き下がる。


 神殿に到着すると、神官長のレーア・ガイネスと神官のアトロ・カヤンが待っていた。


「結論は出ましたか」とレーアがにこやかに聞き、アトロが真剣な表情でレイの答えを待つ。


「はい。神々の申し出を受けようと思います」


 その言葉にレーアは「そうですか」と自然体で頷き、アトロは僅かに安堵の表情を浮かべた。


「では参りましょう。昨日と同じでお二人でよろしいですよね」


 レイは「いいえ」と答えると、


「これは仲間全員に関わることです。ですので、みんなで会いに行きたいと思います」


「そうですか……」と言いつつも一瞬ためらいを見せる。


「何か問題でも」とルナが聞くと、


「問題はないのですが、これだけ多くの神官でもない方を地下神殿にお入れするのは初めてですので」


 表情を曇らせたまま動こうとしない。


「神々から禁じられていないなら問題はないのではないか」とアシュレイが促すと、


「分かりました。神々が拒まれるようなら引き返しますが、とりあえず一緒に参りましょう」


 そう言うと表情を戻して歩き始めた。


 地下神殿への通路は何事もなく開き、神々から拒否の意思は伝わってこなかった。

 レーアに率いられたレイたち十二人はゆっくりと階段を下りていく。

 神官見習いであったイオネは徐々に強くなる神気に「神がおられる」と呟き、場違いな場所にいると思っているライアンはキョロキョロと周囲を見回していた。

 ウノたちは強い視線を感じ、周囲を絶えず警戒している。しかし、階段全体から感じるその視線に戸惑っていた。


 昨日と同様に突然階段は途切れた。階段を降りている途中だったはずが、いつの間にか神殿の前に立っている。その異様な体験にウノたちはレイを守るように周囲に散る。その動きにレーアが目を見張るが、レイが「大丈夫です」というまで周囲を警戒し続けていた。


「今日は私も話を聞かせていただけるようですね」とレーアがうれしそうに話す。


 昨日は別の場所に飛ばされ、レイたちが出てくるまで神々から情報を与えられず、ただの道案内でしかなかった。


 突然、神々が降臨した。しかし、昨日のような強烈な力を感じることはなく、十一人の神が人の姿となり、静かに立っていた。

 その姿にレイとルナ以外の全員が跪く。

 神官長であるレーアと見習いであるイオネは神々に敬意を表しての行動だが、アシュレイたちはその神気に無意識に跪いていたのだ。


 背中に鷲の翼を持つ天の神(カエルム)が一歩前に出る。


「まずは掛けたまえ」といい、現れた椅子を手で指し示す。レイとルナはすぐに座るが、ウノたちは座ることを拒否した。


「我々は護衛ですので、後ろで控えております」


 ウノが代表してそう言うと、レイは「分かりました」といってそれを認めるが、アシュレイたちには「椅子に座らないと話が始められないから」と座るよう促した。


 アシュレイたちが座ると、カエルムが満足げに頷く。


「そなたが我らの提案を受け入れたことをうれしく思う」


 レイはやはり聞かれていたかと思うが、それを表情には出さず、


「では、僕の求めている条件についても応えていただけるということですね」


「然り。では、一つずつ答えていこう」


 キトリーはそのやり取りを見ながら、神々に邂逅していることに感動していた。


(研究者としてこれ以上うれしいことはないわ! この後に私に質問する時間があればいいのだけど……)


 そう考えながらも手元にある手帳に周囲の状況や神々に関する印象などを書き込んでいく。


 アシュレイは堂々と神々と渡り合うレイを誇らしく思っていた。


(相手が大物になるほど落ち着くと思っていたが、神々を相手にこれほどまでに堂々としていられるとはさすがだ……)


 しかし、その一方で一抹の不安も感じている。


(光神教の司教が言う通り、“光の神(ルキドゥス)の現し身”なのか。だとしたら、私に横にいる資格はあるのだろうか……)


 ステラも同じようなことを感じていたが、アシュレイよりも達観しているため動揺はなかった。


(やはり凄い方……でも、私はこの方のために生きていくだけ……)


 彼らの中で最も動揺しているのはライアンだった。


(お、俺はここにいてもいいのか……こんなこと誰も信じない。与太話にもならねぇよ……それにしてもルナは堂々としている。やはり神の使いだったっていうことか……)


 そんな彼の動揺を感じたのか、ウノがライアンの耳元で囁く。


「ロックハート様を守るつもりなら、何があろうと盾になれるよう考えておくべきです。他のことに気を取られていると、いざという時に動けなくなります」


 その言葉にライアンが驚く。今までウノと言葉を交わすことはほとんどなく、自分に興味を示さないと思っていたためだ。


「我らは今、神話の一場面に立ち会っているのです。ですが、アークライト様、ロックハート様のような選ばれた方々と共にあるからに過ぎません。我らにできることだけを考えておけば、心を平静に保つことができるでしょう」


 いつも以上に饒舌なウノにライアンは更に驚くが、彼のアドバイスに素直に頷いた。


(ウノさんの言う通りだな。俺にできるのはルナの盾になるくらいだ。それが役に立つかどうかは別として、それだけを考えておけばいい……)


 周囲の人たちの思いとは別にレイとカエルムの話し合いは静かに始まった。

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