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トリニータス・ムンドゥス~聖騎士レイの物語~  作者: 愛山 雄町
第五章「始まりの国:神々の島」

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第二十七話「最新技術」

 四月二十九日。


 ドワーフたちによる武具の製作、調整が終了した。

 しかし、レイの愛槍“白い角(アルブムコルヌ)”と鎧“雪の衣(ニクスウェスティス)”の解析は終わらなかった。


 四月二十五日以降も手の空いている鍛冶師たちが数十人単位で解析に当たり、様々な推論が出されている。しかし、材質が未知の魔法金属であること、八属性の魔法陣が描かれていること以外、確たることは何も分からなかったと言っていい。


 二十五日以降はレイが呼び出されることも少なくなり、手入れと軽微な改造のみのアシュレイとステラの三人は比較的時間があった。

 そのため、アルス郊外に遠乗りに出かけている。


 レイの愛馬トラベラーの運動不足を解消させるため、街道が空いている時間に駆けさせていたが、それは彼にとってもよい気晴らしになった。

 また、ウノたちが傭兵として登録されたため、アルスの城門を堂々と出入りでき、安全面の問題もなかった。

 もっともアルス郊外はカウム王国で最も安全な場所であり、レイたち三人でも充分に安全ではあったが。



 二十九日の午後、レイたちは鍛冶師ギルド総本部に集められた。普段なら人前に出ないウノたちまでレイの後ろに並んでいた。


 既に三百人のドワーフの鍛冶師が集まっており、集会室はざわめきに包まれている。


 匠合長ウルリッヒ・ドレクスラーが演壇に立つと、職員たちが演壇の前にあるテーブルの上に武具を並べ始めた。

 並べられた武具は漆黒の鎧が一式、鋼の胴鎧が二つ、ミスリルの剣が五振り、鋼のハルバードが一振り、そして銀色に輝くチェインシャツが九着。


「黒龍の鎧はルナのものじゃ。硬化と自己修復、重量軽減が付与されておる。リュックが作った初めての三属性じゃ」


「遂にやりおったか!」という声が上がり、リュック・ブロイッヒが立ち上がって、右腕を大きく上げる。


「重量軽減はレイの鎧の魔法陣を参考にした! 今までの魔法陣より二割程度は効率が上がっておる。ルナ、これを持ってみてくれ」


 そう言って手招きする。

 言われたとおり、ルナが手に取ると、その軽さに目を丸くする。


「本当に軽いです! 今まで使っていた鎧の半分もありません! リュックさん、ありがとうございます!」


 そう言ってリュックに抱きつく。


 リュックは照れながらも「無事に帰って来い」と言ってルナの背中をポンポンと叩く。


 リュックが下がると、ウルリッヒはミスリルの剣を一振り持ち、高々と掲げる。


「これはウノ殿たちのものだ。剣に付与した属性は二つ。硬化と攻撃用の属性じゃ。それぞれ、火、光、風、闇、水が付与されておる。レイ、お前が渡してやれ」


 レイは突然のことで驚くが、すぐにウノたちを呼び、


「この剣で僕たちのことを守ってください。特にルナのことをお願いします」


 その言葉に五人が片膝を突き、頭を下げる。

 そして、ウノが代表して、


「剣はお預かりいたします。命の限り、お守りいたします」と答えた。


 奴隷である彼らに所有権がないことと、万が一、光神教の聖職者に引渡しを要求された場合、断ることが出来ないための措置だ。


 既に誰がどの剣を持つか決まっているらしく、レイが一振りずつ手渡していく。

 ウノには闇、セイスには水、オチョには火、ヌエベには風、ディエスには光が与えられた。


「光と火と風については説明はいらんじゃろう。闇と水について説明するぞ。ウード、ヨハン、説明を頼む」


 そう言うと二人のドワーフが立ち上がった。


「まずは儂の闇属性の剣じゃ」と言ってウードがウノに剣を構えるように促す。


「闇属性は分からんことが多い。だが、ザックが開発した麻痺の魔法陣を組み込んでみた。ウノ殿、魔力を込めてくれんか」


 そう頼むとウノは素直に従い、剣身(ブレード)に闇を纏わせていく。


「「オオ!!」」というどよめきが起きた。


 銀色に輝く剣身が闇に飲まれ、真っ黒な剣に変わる。その姿に禍々しさはなく、静寂を視覚化したかのような美しさがあった。


「直接的な攻撃力には劣るが、ウノ殿らの任務を考えれば悪くないと考えておる!」


「どの程度の効果があるんじゃ!」という質問が飛ぶ。


「オークで試したが、ほぼ確実に麻痺させることができた。無論、相性の悪い相手もおるだろうから確実なことは言えぬが、翼魔が使う麻痺の矢(パラライズアロー)並の効果は期待できる」


「それほどか……ならば、充分に使えるの!」


 更にいくつかの質問が飛び、ウードは得意げに答えていった。


「そろそろよかろう」というウルリッヒの言葉で、ヨハンに代わる。


 ヨハンはセイスを呼び、ウノの時と同じように剣を構えさせる。


「水属性は儂が生まれて初めて付与した。こいつもザックの知恵を借りたものじゃ」


 セイスに目で魔法を纏わせるよう合図を送る。

 しかし、見た目はほとんど変わらず、鍛冶師たちから疑問の声が上がる。


「よく見てみよ!」と僅かに勝ち誇った感じでそう言うと、変化に気づいた数人が驚きの声を上げる。


「ブレードに霜が付いておる。冷気を付与したのか!?」


「いや、違う」というと、「何が違うんじゃ! もったいつけずに説明せんか!」という声が上がる。


「今から説明するから待っておれ!」と叫ぶが、その顔には満面の笑みが張り付いていた。


「セイス殿、頼む」と言うと、セイスは小さく頷き、剣を軽く振った。


 すると、剣先から薄い氷の刃が伸びる。


「ここではできんが、こいつは氷を飛ばすことができるんじゃ。さっき、霜が付いたのは表面に薄い氷を作るための準備なんじゃ……」


 この画期的な剣に鍛冶師たちは言葉を失った。


 今までの魔法剣は剣身に魔法を纏わせることができたものの、それを飛ばすということはできなかった。正確にいうと、それまでも魔法剣から魔法を撃ちだすことはできたが、それは魔法の素養のある魔術師だけしかできなかったのだ。

 今回、ヨハンは史上初めて、魔術師でない者が魔法を飛ばすことに成功したのだ。


 レイはザックという人物に興味を抱いた。


(ルナを助けてくれた人で僕たちと同じ日本からの転生者って話だけど、本当に凄い人だな。もし、その人がいなかったら、今のこの状況はないんだ。もしかすると、彼女を助けるためにいろいろとやっていたのかもしれないな。こういうことが起きると知っていて……)


 そう考えるものの、そのことを誰かに話すことはなかった。


 ヨハンの説明はまだ続いていた。


「セイス殿は投擲を得意としておるが、知っての通り、投擲剣を多く持つことはできん。精々、十本といったところじゃ。しかし、こいつなら魔力が続く限り、飛ばすことができる。一日当たりにすれば十回程度じゃろうが、補給を気にせんで済むということは大きなメリットじゃ」


「外で見せてくれ! どうなるんじゃ!」


 好奇心を刺激されたドワーフたちの声がヒートアップする。


「鎮まれ!」とウルリッヒが一喝し、場は一瞬にして静かになった。


「あとで好きなだけ見せてやる。残りの武具の披露じゃ」


 そういうとそのままミスリルのチェインシャツをレイに手渡した。


「こいつはお前とステラ以外の分じゃ。急いで手直しをしたから、特に変わった細工はしておらん。ただ、一応硬化の魔法陣は組み込んでおるから、鋼のチェインメイル並みの強度はある」


 レイはその美しいチェインシャツに目を奪われるが、九着という数をこの短期間に揃えられたことに驚きを隠せない。


「よくこの短期間でこれほどのものができましたね。驚きました」


「こいつも行き先があったが予定が変わって浮いておったんじゃ」


 このチェインシャツもドワーフ・フェスティバルでラスモア村に持っていく予定のものだった。

 鍛冶師ギルドではロックハート家の騎士たちの標準装備として提案するつもりだったが、それが流れたため、余っていたのだ。


「レイには作ってやらんのか」という声が上がる。


「いや、儂らも最初は贈るつもりじゃった。ゲールノート、お前から説明せい!」


 そこでゲールノートが立ち上がる。


雪の衣(ニクスウェスティス)の中に着せればよいと儂も最初は考えた。しかしじゃ、こいつを中に着ると、魔法陣が上手く働かんのじゃ。魔法陣に魔力を供給する繋がりを絶つというか、阻害してしまうんじゃ……」


 彼の説明ではミスリルのチェインシャツによって、魔力の供給が阻害され、雪の衣(ニクスウェスティス)の内部に描かれている魔法陣に魔力が上手く伝わらなくなる。そのため、重量軽減や硬化などの効果が切れてしまうため、着けない方がよいという結論になった。


「……鋼でも効率が落ちることが分かっておる。この辺りの理屈はよく分からんが、この鎧は今の姿が最もよい形ということのようじゃ」


 レイからウノたちに手渡され、ウルリッヒからルナ、アシュレイ、イオネ、ライアンに渡される。

 ステラは既にゲールノートのチェインシャツを持っていることから、レイ以外の全員がミスリルの防具を持つことになった。


「いくらになるのだ」とアシュレイが呟き、ライアンも「俺がミスリルの装備だと……」と呆然としていた。


 ミスリル製の武具は非常に希少で、アルス以外では見ることは少ない。ステラの剣のように運がよければ小型の剣一本分は手に入るが、防具のようにオーダーメイドのものは滅多に手に入らない。


 その後、イオネとライアンの鋼の胴鎧とハルバードが披露される。

 高品位鋼であるアルス鋼を使ったものだが、それまで武具の印象が強すぎて、ドワーフたちの興味を引くことはなかった。


「アシュレイの鎧は内側にミスリルを貼り付け、そこに硬化の魔法陣を追加しておる。これでバルテルが作った時より、三割以上は強度が上がっておるはずじゃ」


 更にステラのミスリルの剣も改造されていた。


「バルテルの剣は悪くはなかったが、少し手を加えて魔法剣に変えておる。こいつには光属性を付与しておるから、今まで以上に使えるはずじゃ」


 レイ、アシュレイ、ステラ、ライアンの四人は呆然としていた。それほどまでに信じられないほどの強化が施されていたからだ。


 ルナは驚いているものの、ロックハート家という特殊な環境にいたことから、言葉を失うほどの衝撃は受けていない。ただ、自分のためにここまでしてくれたことに対し、どう感謝を伝えていいのか悩んでいた。


(これはすべて私のため。いいえ、ロックハート家のルナのため……どうやってこの人たちにこの恩を返したらいいのかしら……)


 それに気づいたのか、ウルリッヒが声を掛ける。


「これはすべて儂らの気持ちじゃ。儂らに恩を返したいと思っておるなら、無事に帰ってこい。それが儂らにとっては一番じゃ」


「ありがとうございます……必ず元気な姿で戻ってきます……本当にありがとうございました」


 僅かに嗚咽を漏らしながら、大きく頭を下げる。


「必ず彼女のことは守ってみせます! 本当にありがとうございました!」


 彼女の横に立つレイも頭を下げた。

 彼に合わせてアシュレイたちも頭を下げる。


 ウルリッヒが「湿っぽいのは儂らの流儀ではないぞ!」と大きな声でいい、


「では、宴じゃ! ルナと仲間たちの前途を祝う宴を行うぞ!」


「「「オオ!!」」」


 集会室にドワーフたちの怒号が木霊する。


 そして、職員たちによる送別会の準備が始まった。


 準備中にセイスによる氷の魔法の射出の実演が行われた。

 彼は魔力を込めた魔法剣を軽やかに振り、十(メルト)先の的の中心に長さ十cm(セメル)ほどの氷の刃を突き立てる。

 その見事な技量にドワーフたちは「「オオ!!」」と叫ぶ。


 彼らは新たな魔法剣の可能性に興奮していた。


「儂もやるぞ! 魔法陣は分かっておるんじゃ。儂でも作れるはずじゃ!」


「儂は槍で再現するぞ!」


 腕を振り上げて叫んでいる。


 この魔法陣は数年前に提案されたが、今まで誰も武器に付与できなかった。それは魔法陣が複雑であったためで、今回レイの槍“白い角(アルブムコルヌ)”の魔法陣を参考に縮小化に成功した。

 他にも“雪の衣(ニクスウェスティス)”に刻まれた魔法陣から、積層化のアイデアも出されており、彼の武具は革命的な進歩をもたらそうとしていた。


 興奮冷めやらぬドワーフたちにギルド職員が宴会の準備が完了したと告げる。


「宴会じゃ! 今日はいつも以上に飲むぞ!」


 一人のドワーフがそう叫ぶが、レイとライアンは「いつも以上ってどれだけなんだ」と同時に口にしていた。

ようやく強化が完了しました。

外伝よりも装備としては地味ですが、新技術がふんだんに使われています。

これらの武器がどう活躍するかは……乞うご期待!

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[一言] 宴会きたー、
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