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トリニータス・ムンドゥス~聖騎士レイの物語~  作者: 愛山 雄町
第四章「魔族の国・東の辺境」

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第二十一話「トリニータス世界の秘密(前篇)」

お待たせしました。

 夢の回廊で“観察者(オブセルヴェ)”と名乗る存在とレイは邂逅(かいこう)していた。観察者はこの世界が“箱庭”のような世界であると伝えた。


「箱庭ですか……」というレイの呟きに、観察者は『そう、箱庭なのだ。それも君たちの世界を模して(・・・)作られた“箱庭”なのだ』と伝えてきた。

 レイは「僕たちの世界を模した……どういうことなんでしょうか?」と困惑し、思いつく限り、自分がいた世界との違いをしゃべり続ける。


「僕がいた世界には魔法なんてありません。それにエルフやドワーフ、獣人もいません。魔物だって、ここにいるようなものは……」


 観察者は『混乱させてしまったようだ』と謝罪の念を送る。


『まずはどこが類似点かということだが……この世界の度量衡を知っていると思うが、これについて疑問を感じたことはないかね?』


「度量衡? 長さとか重さのことですよね……確かに呼び方が似ています。メートルが“メルト”だったり、キログラムが“キグラン”だったり。でも、それが何か?」


 観察者は『それだけかね』とやれやれという感情を滲ませた思念を送る。レイはどんな答えを求めているのだろうと思いながら、「確かに長さも重さも同じくらいですよね。正確には分かりませんけど」と答える。


『確かに“原器”が存在せぬから、分からないでもないか……」と呟き、『一メルトは正確に一メートルなのだ。そして、一キグランは正確に一キログラムになるのだ。どちらも千分の一以下まで同じと考えてよい』と説明する。

 レイには最初、一致していてもおかしくないと思ったが、海外ではヤードやポンドを使っていることを思い出し、ある結論に達した。


「メートルってもとは地球の赤道の外周から決められたはず……昔はフィートや尺なんかを使っていた……そうか! 基準がおかしいんだ!」


 レイの言葉に観察者はよく気付いたばかりに『その通り』と首肯するイメージを送る。


『君の世界の昔の単位はほとんどが生活に密着していたはずだ。フィートはその名の通り、足の大きさから決められていた。インチは指、ポンドは食糧の消費量が基になっている。つまり、生活する上で必要に応じて決められたものなのだ』


 レイはようやく観察者の言いたいことが分かってきた。


(生活に密着していない単位は、“自然発生した”ものじゃない。“与えられた”ものってことか……)


 観察者は首肯すると、『先ほどの人についても同じだ』と言った。それに対し、レイは「同じですか?」と首を傾げる。


『君たちの世界には亜人はいないかもしれない。だが、物語では普通に出てくるのではないかね? 魔物にしても同じだ。ベースとなった物語は複数あるが、いずれも君たちの世界の創作物に出てくるものなのだ』


 レイは混乱し始めていた。


(つまり“神々”が僕たちの世界を見て、それを参考にこの世界を作ったってこと? でも、それじゃ、この世界の人たちは、アッシュやステラも作り物ってことに……ゲームで言うNPC――ノンプレイヤーキャラクター――ってことになるのか?……そんなことは絶対にない! ちゃんと感情もあるし、生きている……)


 レイの思念を読んだ観察者が『この世界は作られたものだが、生きている世界だ。君たちがいう仮想空間のようなものではない。参考にはしているかもしれないが』と伝える。

 レイは納得できないものの、観察者の語る言葉に反論できないでいた。

 観察者は『こう言えば納得するかな』と言い、『ここの生物はすべて遺伝子操作で生み出されたもので、当然生きている。しかし、ベースとなった生物はいる……』と説明を始めた。

 レイは「遺伝子操作ですか……実験動物のような……」と呟く。

 観察者は『少し違う』と否定の思念を送り、


『正確には遺伝子操作のように生物を生み出していったが、君たちの世界にあるような技術ではない。神々の能力を表すにはそれが一番理解しやすいと思ったのだ』


 そして、『実験動物とは人間の役に立てるために作られた動物という定義なら、当てはまらないこともない。神々は自分たちの役に立てるために作ったわけではないが、実際には人々が神々の役に立っていることは間違いない』と付け加えた。

 レイは更に混乱した。


「では、この世界の人々は神々のために作られたのですか?」


 観察者は『違う。結果として人は神々を存在させるための存在だが、それだけではない』と断言する。


「では、何のために?」とレイが問うと、『世界のためだ』と即答した。


『この世界を構築する上で、人、若しくはそれに類する、思考し成長する存在が必要だったのだ』


「その理由は何なのでしょうか? 神は何のために考える者として人を求めたのでしょうか?」


 レイの問いに『それについては未だに分かっていない部分が多い。むろん仮説ならあるが』と観察者は答えた。

 レイは観察者の言葉に引き込まれ、「仮説……どんな仮説なんだろう」と呟いた。

 そして、「教えてもらうことはできないんでしょうか」と頼むが、『この仮説は不完全なのだ。更にいえば、この仮説を説明するにはこの世界を知る必要がある』と言った。


「分かりました。では、あなたが見たこの世界について教えてください。どうやってこの世界は作られていったのでしょうか」


 観察者はすぐに「よろしい。私が見たこの世界について説明しよう」と言って語り始めた。


『私が見たのは三万年前……その当時の文明は非常に進んだ機械文明だった。私はそれを第一文明と名付けた……私が知る限り、第一文明は二万年ほど続いた。この第一文明は機械により最適化された世界だった……人々は不足することない物資と機械により守られた環境に、幸福を享受していた……』


 レイは思わず「えっ! 魔法はなかったのですか? 神々の力と言えば魔法ですが」と疑問を口にした。


『魔法はなかった。というより、当時の神々は“精霊の力”若しくは“マナ”と呼ばれるシステムを全く使っていなかったのだ』


 レイは“マナ”という言葉に引っ掛かるが、小説などでよくある“魔力”のことであると解釈し、特に口を挟むことはなかった。その間にも観察者の話は続いていた。


『……だが、物質文明というものは徐々に信仰心を失うものらしい。この世界は“神々”というシステムによって成立している。その神々は人々の信仰心により、その存在を強化している。逆に言えば、信仰心が減ることにより、存在は希薄になっていくのだ……その結果、神々は力を失った……』


 神々が力を失ったという言葉にレイは強い衝撃を受けた。


(神々の力でこの世界が成り立っているなら、神々の力が失われていけば、世界は崩壊するんじゃないのか……)


 レイの思考を読んだ観察者が『その通り』と答え、『神々が力を失った結果、世界は崩壊した……』と続けた。世界の崩壊という言葉にレイは言葉を失った。


『先ほどの仮説の話だが、これが私の考えた結論なのだ。世界を維持するためには、神々が力を維持する必要がある。その力の源泉が人々、つまり、“思考する存在”が必要なのだ』


 レイはなるほどと思うが、先ほどの説明と少し違う点に気付く。


「さっきは“思考し成長する存在”と言いました。でも、今の説明では“成長”って部分が省略されているのでは?」


 観察者は『ほう』と感心し、『よく気付いた。先ほどいった仮説の不完全な部分がここなのだ』と答え、


『“成長する存在”が必要ということは、五万年の観察の結果から確認できた事柄だ。だが、その必要性については未だに理由が判明してはおらぬのだ』


 レイは「成長する存在は観察の結果……」と呟く。


『私が見た文明はいずれも成長している。先ほども言ったが、箱庭のような世界では成長させる必要は無いはずだ。神々が与えればよいだけだ』


 レイは違和感を抱いた。


(神々は何をしたいんだろう? もし、この人が言うみたいに、この世界が箱庭世界なら、神たちは実験をしているのかな? 人々が成長する実験か、研究みたいなものを……それだとおかしいか。人々が成長して神に頼らなくてもいいとなれば、自分たちの存在が危うくなるんだ。自己否定みたいな気もするし……)


 観察者は『私もそう考えた』と言い、『彼らの目的が何かを知らねばと思い、ここに居続けているのだ』と笑いを含んだ思念を送り、更に話を進めていく。


『そして、もう一つ謎な存在がいた。先ほどの話だが、世界は崩壊したが、それは自然に起きたわけではなかった。ある存在によって引き起こされたのだ……』


 レイは口を挟むことなく聞いていたが、“ある存在”というところに反応した。


(ある存在? 確か僕の書いていた設定でもいたはず……虚無神……そうだ! 虚無神、ヴァニタスだ!)


 レイの思考を呼んだ観察者は、『その通り。虚無神ヴァニタスだ』と答えるが、更に話を進めていく。


『虚無神は単に人々の信仰が減るのを待っていたわけではなかった。“あれ”は巧みに人々を誘導していたのだ……その過程は実に洗練された(スマートな)ものだったよ』


 世界が崩壊したという話の割には観察者の言葉は楽しげだった。そのことにレイは違和感を抱く。


(世界が崩壊したってことは多くの人々が死んだはずだ。そんな楽しそうに言う話じゃない。それにこの人には助けられたんじゃないのか……)


 観察者から否定のイメージが送られ、『私は“観る者”であり、世界に干渉する力はない』と言った。レイはその言葉に反発する。


「でも、今、僕にこれほど重大な事実を伝えています。それなら、ヴァニタスと同じように人々にメッセージを送ることができたんじゃないですか」


 観察者はややトーンを落とした口調で『君がこの事実を記憶することはない。先ほども言ったが、ここは“夢の回廊”。つまり、君が目覚めれば、夢と同じく、この場の話は記憶から零れ落ちていくのだ』と伝えてきた。

 レイは「夢なんですか……」と呟くが、すぐに違和感を覚え、「夢でも憶えていることだってあります。強いメッセージなら目が覚めても憶えているんじゃないんですか」と反論する。

 観察者は苦笑するイメージを送りながら、『私が望まないのだよ』と言い、『どのような結果になるのか、それを観ることが私の生きる目的なのだから』と悪びれもせず付け加える。

 その言い方にレイは怒りを感じた。だが、感情が抑制されているのか、激しい怒りを感じそうな話に対しても冷静さを失わなかった。


「あなたは自分の楽しみのために、世界が滅びることも厭わないということですか……多くの人々が死ぬ。それをあなたは助けることができたのに……」


『私には何もできないのだよ』とレイの言葉を静かな口調で遮る。


『正確に言えば、私がこの世界に干渉しても必ず“修正”が入るのだ』


 レイは「修正ですか」と聞き直し、「誰が修正するんですか。虚無神ですか?」と尋ねる。


『神々だ。少なくとも虚無神ヴァニタスだけの意思ではない。創造神を含め、三主神、八属性神、更には敵対していると思われる虚無神までもが“修正”に力を貸すのだ……』


「なぜなんでしょうか。いいえ、本当にそうなんでしょうか」


 観察者は『一度試して見たことがある』と言った後、突然話題を変えた。


『私がこの“絶望の荒野”と呼ばれる場所にいる理由がそれなのだよ』


 レイには観察者が何を言いたいのか理解できなかった。


「この場所と神々の干渉はどう関係するんでしょうか」


 観察者は『性急な言い方だったな』と言い、


『この場所だが、四千年前、虚無神が今の世界を崩壊させようとしてできた場所なのだ。それを語るには私が見たこの世界の歴史を語る必要がある……では、先ほどの続きを話そう……』

自分で書いていてなんですが、異世界の度量衡でSI単位系と同じになるっていうのはとても違和感がありました。

VRMMO物や神様が地球を参考に世界を作ったという設定があれば、違和感はないのですが、普通ならフィート・ポンドや尺貫法みたいな度量衡になると思います。

ただ、読まれる方にとっては、フィート・ポンドなどの単位はなじみがないので、メートル・グラムの方がいいですよね。

(私の場合、仕事でもインチやポンドを使うことがありますし、ボライソーシリーズのような海洋冒険小説ではフィート・ポンドが出てくるので違和感はあまりないのですが)

時間の単位や度量衡の理由づけとして、世界の成り立ちの話を入れてみました。

もちろん、それだけではなく、伏線の意味の方が大きいんですが(笑)。


話は変わりますが、活動報告にドリームライフ第1巻のカバーイラストをアップしております。興味のある方は覗いてみてください。

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[良い点] 面白いです。 [気になる点] メートルの定義が違っています。 現在は光の進む距離、一番最初は北極と赤道までの長さを基準として、それぞれ何分の1貸したはずです。 まぁ、地球の大きさを基準にし…
[一言] ドーリームワールドとは別の神様みたいなのご出てきた
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