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トリニータス・ムンドゥス~聖騎士レイの物語~  作者: 愛山 雄町
第三章「冒険者の国・魔の山」

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第七十話「ペリクリトル攻防戦:その五」

 十二月二十六日、午後二時過ぎ。


 ペリクリトルの防衛隊は、火に追われた中鬼族部隊の無謀な突撃を退けた。

 防衛隊の兵士たちは、敵の主力である中鬼族を自らの手で倒し、最強の敵、大鬼族部隊も炎渦巻く東地区に消えたことから、勝利を手にできたと喜び合っていた。

 防衛責任者のランダル・オグバーンは残敵の掃討が残っていると思っていたが、彼も勝利は確実だと安堵していた。


(物見台から見える範囲にいるのは小鬼族とゴブリンだけだ。同数ならこちらの方が圧倒的に有利だ。あとは森に潜まれる前に倒してしまうだけだ……)


 このとき、彼の傍らにいたレイは、無事に戻ってきたアシュレイとステラと無事を喜びあっていた。

 レイは「無事でよかった。ステラが一番危険だから心配していたんだ」と彼女を軽く抱きしめる。その行為に彼女の顔は真っ赤に染まる。


「レイ様の方が心配でした。最後まで敵と戦っておられたと聞きましたから」


 ステラの言葉にアシュレイも同意し、大きく頷く。


「そうだぞ。私が撤退する時もかなり粘っていただろう。あそこまでする必要はなかったのではないか?」


 レイが言い訳をしようとすると、「アークライト様」と後ろから声が掛かる。そこにはルークスの獣人部隊の長、ウノが跪いていた。


「報告いたします。大鬼族部隊の一部が脱出。その数、およそ百五十。東の草原に集結し、小鬼族らに伝令を出しております」


 レイはあらかじめ、ウノたちに敵の動向を探るよう依頼していた。だが、その意外な報告に驚く。


「あの状況で脱出していたんですか! どうやって……いえ、今はそれどころじゃない。ウノさん、ありがとうございました。もう少し、敵の動向を探っていてください」


 レイはウノの返事を待たず、ランダルのもとに走った。



 ランダルはレイの報告を聞き、緩んでいた表情が一気に引き締まる。


「大鬼族が百五十か。勝てぬ数ではないが……レイ、どうすべきだと思う?」


 レイは「直ちに出撃を。敵に逃げられると厄介ですし、今なら味方の士気は高いですから」と出撃を促した。

 ランダルも同意見だったようで、すぐに出撃の準備を命じた。



 レイは脱出した大鬼族がどう動くか、考えていた。


(常識的に考えれば七十パーセント近い損害を出したんだから、撤退するはずだ。いや、戦力的には八十パーセントを超える損害か。でも、撤退するにしてもクウァエダムテネブレ――アクィラ山脈の東の地――、彼らの呼ぶ名だとソキウスに戻るためには真冬のアクィラを越えないといけない。一応、戦略目的の月の御子、ルナを奪ったんだから、それが理に適っている……)


 だが、彼にはその考えが違うように思えていた。


(でも、これだけの損害を出して、おめおめと帰れるかという気になるかもしれない。元々鬼人族は月の御子の奪還に消極的だし、ペリクリトルの占領の方に力を入れていたから……だとすると、全滅覚悟で決戦を挑んでくるかも。死兵となった敵と戦うのは嫌だな……)


 死兵とは死を覚悟した軍隊のことで、生き残るより敵を倒そうと考えるため、正面からぶつかると大きな損害を蒙る。まして、大鬼族とオーガという個体の戦闘力が秀でた部隊が死兵になると、殲滅するのに時間がかかるし、被害も甚大になる。

 だからと言って、街に篭城するわけにもいかず、レイはどう進言すべきか迷っていた。


(敵に逃げるチャンスを与える……これは駄目だな。敵を疲弊させる……向こうの方が体力的には圧倒しているから、これも無理だな。敵を罠に掛ける……これなんだけど、罠を作る暇はないし、敵が何に食いつくか判らないし……)


 彼は部隊の再編をしているランダルに自分の考えを話した。


「敵は死ぬ気で攻めてくると思います。この街では篭城はできませんし、打って出るしかないです。でも、戦力的にはこちらが多少有利というだけで、圧倒しているわけじゃないですし……どうしたらいいのか全く思いつきません」


 ランダルはその言葉に頷き、


「俺も野戦での勝負になるだろうという考えに賛成だ。確かに敵は自棄になって攻めてくるだろうな。だが、敵は何を求めて戦うつもりなんだ? 武人の意地って奴か」


 レイはランダルの言葉に閃く。


(敵の目的は何だ? ランダルさんの言うように武人として意地なら、どうしたいと考える……敵に一矢報いる……敵の指揮官を倒す。いや、僕を、“白の魔術師”を狙うっていうのが、一番ありそうな話だ。だとしたら……)


 彼は小さく頷くと、


「策があります」


 ランダルはその言葉に表情を明るくし、「どんな策だ?」と説明を促してきた。

 レイは表情を変えないように注意しながら、ランダルの目を見つめ、「僕が敵の指揮官に一騎打ちを申し込みます」と宣言するように伝える。


 ランダルは信じられないという顔で小さく首を振り、「どういう意味だ」と確認する。


「恐らく敵の目的は、街の占領ではなくなったと思うんです。さっき、ランダルさんが言った“武人の意地”っていうのが、戦いの理由になっているような気がします。それなら、“白の魔術師”と呼ばれている僕を倒すのが一番判りやすい。そう言うことです」


 ランダルは静かに目を閉じ、「確かにありえる話だ」と言ったあと、「だが、許可はできんな」と首を横に振った。

 レイはランダルの意外な言葉に「なぜですか?」と疑問の声を上げた。


「僕が適任ですし、僕以外が申し込んでも受けてくれませんよ」


 ランダルは真剣な表情でレイを見つめ、


「敵は大鬼族だぞ。あのオーガ並みの巨体で人の知恵と技を持っている。当然、一騎打ちに出てくるような奴は武器の扱いも一流だろう。お前に十分な魔力が残っているなら勝ち目もあるんだろうが、今のお前にそれほどの魔力が残っているとは思えん……相手にもよるが、俺でも確実に勝てるとは言えんだろう。俺が知る限り、あいつらに確実に勝てると言える奴はハミッシュ・マーカットくらいなものだ」


 レイが「ですが……」と言いかけた時、ランダルは軽く右手を上げて彼を制した。


「第一、お前が勝ったとして、敵をどうするつもりだ? 魔物は殺すとしても、大鬼族を捕虜にするのは危険すぎる。撤退を許すと言っても、敵がこの辺りに居ついたら、それこそ厄介だ」


「確かにそうですね。やはり殲滅しないと拙いですよね」


 ランダルはそれに頷き、


「俺たちと魔族では相容れんのだ。戦えば、どちらかが死に絶えるまで戦わねばならん」


 レイはその考えに素直に首肯出来ない。だが、どう言っていいのかも判らず、ただ沈黙するしかなかった。


「どちらにしても、敵が仕掛けてくる前に街の外に出ねばならんな。どういう隊形で展開するかだが……」


 ペリクリトルの防衛隊の戦力は、開戦前、剣術士、槍術士などの前衛部隊約千五百、弓兵約四百、魔術師百の約二千名に、ルークス聖王国の聖騎士隊約百名、引退した冒険者ら市民による義勇兵二百、ルークスの農民兵二百の計二千五百人がいた。

 緒戦で聖騎士隊がほぼ全滅し、その後の戦闘で前衛部隊が損害を受け、治癒師の活躍にも関わらず、六百名程度の死傷者を出していた。弓兵に損害はないものの、魔術師の半数以上は罠への対応で魔力を消耗しきっていた。

 各門の防備に市民義勇兵を回すと考えると、前衛は千百、弓兵が四百、魔術師が五十の千五百強しかいない。更に前衛の中にはルークスの農民兵二百が含まれており、戦力的には非常に心許ない。

 厄介なことに、今回は敵に主導権があり、早急に敵に立ち向かわないと防備の薄いペリクリトルでは、街に侵入される恐れがあった。


(敵と味方の実数はほとんど同じだけど、戦力的にはこちらの方がかなり劣っているはず。特にオーガと大鬼族が百五十もいるとなると、前衛の千百人では押さえ込むだけで限界だ。オーガや大鬼族に弓はほとんど効かないから、弓兵は小鬼族とゴブリン相手にしか使えない。ここは僕が囮になるのが、一番合理的だな。一騎打ちよりマシだけど、危険なことには変わりない。ランダルさんは許してくれないんだろうな……)


 レイは自らが囮になると言う提案はしなかった。今の段階で口にしても具体的なことは話せず、ランダルが許可する可能性が低いと考えたからだ。

 結局、彼は部隊の編成について現状の指揮系統を維持したまま運用することのみを提案するに留めた。各部隊の戦力はかなり不均衡になっているが、今からの短時間で再編できるほどペリクリトル側の練度は高くない。

 ランダルにも彼の案以上の考えはなく、レイの案はそのまま各部隊に伝えられた。

 レイはランダルの表情に僅かに不安を見た。


(これだけだとランダルさんは不安に思っているんだろうな……何か手はないんだろうか……一つあると言えばあるんだが……)


 レイはランダルにステラたちの斥候班約五十名を、未だ火が燻る東地区に隠し、戦闘が始まったタイミングで後方から撹乱に使うことを提案した。


「……という感じでどうでしょうか?」


 ランダルは「確かに有効だな」と頷く。

 レイはステラに指揮を執らせることに危惧を感じ、


「ステラでは指揮官として問題があると思います。誰か他の人に任せた方がいいと思います」


「ラディスに指揮を執らせよう。奴なら全員が納得するはずだ」


 ランダルの命令でステラと猫獣人の斥候、二級冒険者のラディスがやってきた。

 ランダルが指揮官をラディスにすると言うと、ラディスは首を横に振って断ってきた。


「ここまでステラが仕切ってきたんだ。最後まで仕切らせてやれ。それにこいつはマーカット傭兵団(レッドアームズ)なんだろ。なら、俺より適任だ」


 ランダルはどうすべきか悩み、レイの意見を聞いた。


「ラディスはこう言っているが、正直、ステラの適性が判らん。お前やアシュレイなら黙って認めてやるが、今回もこいつらが肝になりそうだ。レイ、お前の意見を聞かせてくれ」


 レイはステラを見つめてから、小さく頷く。彼女の目に決意の色を見た彼はランダルにステラが指揮官でも問題ないと伝えた。


「ラディスさんがここまで信頼して下さるなら、大丈夫だと思います」


 そして、何かを思い出したように笑いながら付け加えた。


「そう言えば、部隊の指揮を執ったことがないのは僕も同じなんですよ」


 ランダルやラディスがその言葉に笑うが、レイはステラに向かって、真剣な表情で「頼んでいいか」と言った。

 彼女はしっかりした口調で「はい」と頷く。

 それを見たランダルは、


「よし、決まりだ。ステラ、別働隊の指揮を頼む。ラディス、お前が副隊長だ。サポートしてやれよ」


 ステラとラディスが頷く。

 レイは二人に指示を出していく。


「タイミングは花火の魔法で知らせます。駄目ならウノさんたちに伝令をやってもらいます。別働隊はあくまで牽制。無理はせず、敵の後ろを脅かすだけで十分ですから」


 ステラは小さく頷き、ラディスと共に別働隊のところに行った。




 アシュレイは若い冒険者たちと共にランダルの指示を待っていた。

 部下である冒険者と話すアシュレイの表情は明るいが、内心はかなり悲観的な考えに染まっていた。彼女は自らの指揮下にいる冒険者のうち、何人が生き残れるものなのかと考えていたのだ。


(オーク相手でもかなりの人数がケガを負った。まして、今度はオーガとそれに匹敵する大鬼族なのだ。こいつらでは十人がかりで一体と渡り合えるかだろう……)


 内心とは裏腹に彼女は明るい表情で若い冒険者たちに声を掛けていく。


「敵の数は主力のオーガが百五十だ。最初は八百もいたのにだ。あと少しで戦いは勝てる! だが、気を抜くなよ。ランダル殿の指揮と私の指示に従えばよい! 今夜には勝利の美酒が飲めるんだ! こんなところで詰まらんケガはするなよ! さあ、気合を入れていくぞ!」


 彼女の言葉に「「オウ!」」という明るい声がそれに応える。

 厳しい訓練で彼女に反感を持っていたものもいた。だが、オークたちとの戦闘で彼女がケガをした仲間を命懸けで運んだことから、自分たちの身を真剣に案じていると感じていた。若手の冒険者たちは、既に彼女に対するわだかまりを捨てていたのだ。



 レイがランダルと出撃の打ち合わせをしていると、冒険者ギルドのギルド長、レジナルド・ウォーベックが現れた。

 彼はやや肥満気味な体を古い革鎧に押し込み、右手には使いこまれた短めの槍を持っていた。

 その姿にランダルが驚きの声を上げた。


「おい! まさかと思うが、戦場に立つつもりじゃないだろうな?」


 ウォーベックは涼しい顔で、「そのつもりだが?」と答え、「お前も知っての通り、これでも二級冒険者なんだぞ」と笑い掛ける。

 ランダルはその軽口に乗らず、苦虫を噛み継ぐしたような表情で苦言を呈した。


「あんたが現役だったのは何年前の話だ? それにあんたには街で指揮を執ってもらわなきゃならんのだ」


 ウォーベックは表情を真剣なものに変え、


「儂が全軍の指揮を執れば、お前が前線に出られる。お前ほどの使い手を後方に置いておけるほど戦況は楽観出来んのだろう?」


 彼はペリクリトルで最高の使い手であるランダルを前線に立たせるため、自ら全軍の指揮を買って出たのだ。


「どうせ、策を立てる暇もなかったのだ。儂が指揮を執っても大差あるまい。それにレイの言うことを全軍に伝えるだけなら、儂でもお前でも変わらんだろう?」


 ウォーベックはそう言って、悪戯小僧のような笑みを浮かべる。

 ランダルは返す言葉を失うが、横からレイが話に加わってきた。


「ギルド長の代わりに住民の避難の指揮を執る方がいらっしゃるんですよね?」


 レイの問いにウォーベックは大きく頷く。


「なら、ギルド長に指揮を執ってもらいましょう。僕もランダルさんも前線に出ないといけないんです。なら、安心して指揮を任せられる人がいてくれた方がいいと思うんです」


 ランダルはレイの言葉に「だがな……いや、そうだな」と呟き、


「ギルド長に指揮を任せる。久しぶりに暴れさせて貰うとするか!」


 ランダルは大きく肩を回し、笑顔を二人に向けた。

 ウォーベックは「任せておけ!」と言って、冒険者たちに顔を見せてくると言って、彼らのもとを去っていった。



 その直後、光神教の司教マッジョーニ・ガスタルディが現れる。彼の後ろには聖騎士隊の臨時隊長ランジェス・フォルトゥナートが従っていた。


「オグバーン司令、アークライト卿。戦況はどのような状況なのだろうか」


 ガスタルディは不安を見せまいと無理やり笑顔を作って、そう問いかける。

 ランダルはこの忙しい時にと思ったが、周りの目を気にして余裕の表情を作り、ガスタルディの問いに答えた。


「敵の八割は殲滅した。あとは残敵の掃討だけだが、何用かな?」


 ガスタルディはランダルに話しかけながら、時折レイに視線を送り、


「聖騎士十六名をアークライト卿の指揮下に如何かと思いましてな。小職は戦には疎いが、フォルトゥナートが言うには、アークライト卿は我が聖騎士が一目置くほどの騎乗戦闘の達人と伺った。ならば、少数といえどもあの乱戦を生き残った強者つわものをぜひアークライト卿の手足として使って頂きたい」


 ランダルは胡散臭げにガスタルディを見るが、今は僅かでも戦力が必要な時と考え、レイに視線を向ける。


「どうする。確かにお前の戦い方は聖騎士に通ずるものがある。お前の指揮下においてもいいし、フォルトゥナート卿に指揮を任せてもいい。お前の判断に任せるぞ」


 レイが答える前にガスタルディが口を挟んできた。


「ここは是非ともアークライト卿の直属として頂きたいのだが。フォルトゥナートらは先の戦闘でアークライト卿に命を救われたことに感激しておるのです。是非とも彼らの意を汲んでは頂けまいか」


 レイはフォルトゥナートの目を見ながら、ガスタルディの思惑について思いを巡らせていた。


(この場で僕に聖騎士を押し付けてくる理由は何だ? 僕が死なないようにするためか? それとも僕に恩を売るためか? 僕が目立つから、良い宣伝になるというのも考えられるけど、違うような気がするな……)


 彼はガスタルディの意図が読めず、困惑していた。そして、ガスタルディの後ろで静かに彼を見つめるフォルトゥナートと目が合った。


(このフォルトゥナートという人は、パレデス隊長と違って信用できそうだ。もちろん、人間的には判らないけど、少なくとも腕は信用できる。それに僕と合わせて僅か十七騎とはいえ、重装騎兵部隊が手に入る。確か重装騎兵は歩兵の天敵だったはず。それなら、敵に混乱を与えることくらいは出来るはずだ。ここは司教の思惑は無視して、協力してもらった方がいいな……)


 レイはガスタルディに頭を下げながら、フォルトゥナートの前に立つ。


「若輩者ですが、僕の指揮に従って頂けますか?」


 フォルトゥナートは即座に片膝をつき、


「アークライト卿のもとで戦えることは我らの望むところ。もちろん否はございませぬ。どのようなご命令でもお与えください」


 レイはやや芝居がかった彼の言葉に一瞬戸惑うが、フォルトゥナートの真剣な表情からは光神教の聖職者から感じる不快感のようなものを感じなかった。

 レイはフォルトゥナートを信じることに決めた。


 レイはランダルに向かい、「これで戦術の幅が広がりました。後で作戦の修正を行いましょう」と言って二コリと微笑んだ。



 ランジェス・フォルトゥナートはガスタルディがレイのことを気にしている理由に気付いていた。


(司教はアークライト卿が光の神(ルキドゥス)の現し身だと思っているようだな。確かに、この若さで槍、馬術、そして魔法の腕は俺以上だ。連射の利く光の矢の魔法など、聞いたこともないし、あの名馬と人馬一体での攻撃、特に槍捌きは英雄を彷彿とさせた……俺にもチャンスが巡ってきた。もし、アークライト卿が神の現し身なら、すぐにでも第五階梯――大隊長級――、いや、第六階梯の軍将――連隊長級――になるに違いない。ならば、この方についていけば……)


 そこで、レイがパレデスを嫌っていたことを思い出した。


(この方は智謀に優れた方だ。その一方で非常に清廉な方でもある。俺が自らの出世のことばかり考えていると、必ず悟られるだろう。今でも司教に対してあまり好意的ではないように見えるからな……)


 彼は自分の中で腑に落ちる結論を見付けた。


(そうか! この方の魂は武人なのだ! ならば、俺も武人として仕えればよい。昔、聖騎士を志した頃の誠実さを思い出すんだ。そう、あの理想に燃えていた頃の自分を……)


 彼はそう自分に言い聞かせて、レイとの会見に臨んだ。そして、彼の思惑は見事に当たった。

 レイはフォルトゥナートにガスタルディやパレデスから受けた不実さのようなものを感じなかったのだ。


 フォルトゥナートは他の聖騎士たちと共にレイの直属となった。


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