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唯一の手掛かり

コミカライズ第一巻が6月13日に発売予定です!


http://www.jp.square-enix.com/magazine/joker/series/jaryunintei/index.html

(1話試し読み公開中です)


「女騎士よ、捜索といっても手がかりはあるのか? 特にアテがなければ隣国のグラナードとやらに向かうが」

「そうだな……」


 ペリュドーナから発ってすぐ、ドラドラが行き先を尋ねてきた。

 アリアンテとて今しがた報告を受けたばかりなので、何か考えがあるわけではない。


「だが、失踪した近辺の平原を探しても得られるものはないだろうな。既に捜索隊がしらみつぶしに探している。私がいったところで大差あるまい」

「ならば、直前に立ち寄ったという駐屯地に向かうか? 消えた金山とやらもその近くだろう」


 妥当な提案である。が、これも望みは薄い。

 レーヴェンディアの性格からして、駐屯地の者たちを騙して将官の娘を連れ去るということはない。いたって平穏無事に守関や王都を目指して出発したはずだ。


 その足跡が急に消えたというのは、道中で想定外のハプニングが発生したからに他ならない。


 となると、探るべきはやはり出発地でなく道中の平原か――


「非常時の連絡手段でも持たせておけばよかったな」


 軽く舌を打つ。

 眷属の娘に疑われないよう過度の肩入れは避けておいたが、こうなると不安で仕方ない。

 せめて連絡手段にならずとも、所在を掴めるような品をこっそり荷物に混ぜておけばよかった。


「ん?」


 そこでアリアンテは一つ思い至った。

 セーレンでレーヴェンディアが見せた、黒い爪の形の武器である。


「どうした」

「いや、レーヴェンディアがここら辺の土着神から武具を献上されていたのを思い出したんだ。あれは魔力で作られたものだったから、その作成者である神ならば在処を探知できる可能性もある」


 基本的には爪と一体化している武器だから、落としたりすることもないはずである。


「なるほど。では、俺はその土着神とやらの元に向かえばいいのだな?」

「そうしてくれ。探せるか?」

「他愛もない」


 そう言ってドラドラは翼を旋回させる。その向かう先には農業の町・セーレンが見えた。


「おいドラドラ。確認しておくが、その土着神というのはあの町の聖女ではないからな」

「……分かっている。少し翼を慣らしただけだ。この俺がそんな単純な思い違いをするわけがあるまい」

「お前、自分に都合よく事実を歪める癖があるな」


 アリアンテはため息を一つ。


「どうでもいいが、強くなりたいならその癖は直しておけ。己の非を認めてこそ改善が図れる。弱点に目を背けたままでは強くなれんぞ?」

「……すまん。恥ずべきことだが、実はあの聖女のことだと勘違いしてしまった。俺もまだまだだ。よく考えれば、あのようなポンコツ神が武器など作れるはずもないというのにな……」

「そうだ。一瞬でも考えればすぐ分かることだ。よかったな、これでお前の判断力は少し向上したぞ」


 眼下のセーレンからくしゃみの声がしたのは気のせいに違いない。

 アリアンテは、武器を見せてもらったときの話を思い出す。


「確か、盗賊がアジトにしていた地下遺跡で会ったと言っていたな」

「地下遺跡か、それは都合がいい」


 急に水を得たがごとく、ドラドラが不敵な笑みを見せた。


「場所を知っているのか?」

「知らん。が、その手のものなら探すのは造作もない。少し待て」


 そう言うとドラドラは口を広げ、威力を弱めたブレスを地上の四方八方に撃ち始めた。


「何をしている?」

「俺は風の暴竜。風の動きはすなわち俺にとって手指にも等しい。地に吹いたブレスの反響で地形を探ることなど、俺にとっては赤子の手を捻るほどに容易い仕事……」

「そうか。ところで、平原のあそこに結構大きめの穴が見えるんだが、もしかして入口はあそこじゃないか?」

「ふ。とくと聞け女騎士よ。大いなる風が俺に示した入口は――あそこの大穴だ」

「風が示すまでもなかったと思うがな」


 あくまで自分の手柄だと言い張るドラドラは無視したまま、遺跡の正面に着陸する。

 まあ、上空からでなければ探すのにもっと時間がかかったろうから、ドラドラの手柄といえなくはない。


「ともかくここで待っていろ。この遺跡のサイズだとお前は入れ――」


 ドラドラを振り向いたとき、アリアンテは反射的に剣を抜いた。

 黒一色のシルエットに、白い歯の笑みだけを浮かべた人型の影。それがドラドラに向けて草藪の陰から弓を引いているのが見えたからだ。


「伏せろ!」


 ほぼ同時に、僅かな殺気に反応したのかドラドラも避けた。鱗を掠めた黒い矢はアリアンテの大剣で迎撃される。


「何者だ、魔物か!?」

「ム?」


 アリアンテの問いに対して、黒い影は首を傾げた。


「コノ竜ハ、オマエガ飼ッテイル?」

「ああ、こいつはまあうちの町ぐるみで可愛がってやっているやつで――」

「待て、断じて違う。俺は誇り高きドラゴン。人間ごときに飼われる軟弱な存在ではない」


 ぷすっ、とドラドラの眉間に矢が刺さった。止める間もない早業だった。


「ぐぉおお! 矢がっ! 頭に矢がっ!」

「野生ノ竜。獲物ニトッテ不足ナシ。狩ル」

「狩る? まさか、お前がここの狩神とやらか?」


 のたうち回るドラドラは放置。レーヴェンディアと違って立派なドラゴンである。あれしきの傷はすぐに回復するだろう。


「ソウダケド」

「私たちは敵ではない。レーヴェンディア……お前に教えを受けた草食トカゲの友だ」


 言った瞬間、ドラドラの眉間に刺さっていた矢が霧のごとく消え失せた。

 それから狩神が手を差しだしてくる。


「悪カッタ。アノ竜ヲ獲物トカンチガイシテイタ」

「構わんさ。誰にでも間違いはある」

「おい貴様ら。当の被害者であるこの俺の頭越しで和解をするな」


 不満げなドラドラがずいずいと歩み寄ってくるが、ここは敢えて無視。

 幸いにも大剣をちらつかせたら、空気を読んで黙ってくれた。


「単刀直入に問いたい。狩の神よ、私たちは今レーヴェンディアの行方を探している。あなたが授けた武器からレーヴェンディアの状況を掴めないか?」


 狩神の表情に変化があった。白い歯の口元だけで窺える表情だが、そこに浮かんでいた笑みが消えて、深刻そうな様子となったのだ。


「アイツ、今マズイ。魔物ニ囚ワレテイル」

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