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ペテン再び


「手合わせの結果からして、やはり今の私は実力不足ということですね……」

「そう、そうよレーコ。だからまだ一人でお遣いなんて早いって」

「だからこそ――私にはさらなる成長が求められましょう。ゆえに、此度の遣いは絶好の機会といえます」


 命がけの手合わせが終わって早々、レーコはなんだか都合のいい解釈を始めた。


「あの、レーコ? 話が違わない? お主がお遣いに十分な力を備えているかっていう話じゃなかった?」

「いいえ違います邪竜様。これは私に対する試練の必要性を知っていただくための一種のプレゼンです」

「というか、どんな結果でも絶対お主お遣いに行こうとしたよね」


 まあ、レーコが簡単に納得するような子だとは元から思っていない。

 そしてわしがどんな手を尽くそうと、ここまで来たら本国とやらを目指すに決まっている。


「のうシェイナ。本国ってここからどのくらいの距離かの?」

「そうだねー。王都までは馬ならとびきり速い奴で丸7日くらいかな。ただ、情報と資金の提供だけでいいなら、東部守将の関所で十分だと思うよ。話は伝わってるだろうし、そっちなら2日くらいで着くから」

「あ、本国って言ってもいろいろ広いのね」

「まあねー。山向こうのペリュドーナとかセーレンも結構な規模だけど、本国の中にはああいう街がいくつもあるから。ここらの辺境なんてほーんの隅っこも隅っこだよ」

「すごいのう」


 わしが人里に紛れていた大昔は、そこまでの規模の国というのはなかった。

 というのも、街が大きくなればなるほど、守るべき外周が広がっていくからだ。

 魔物と十分に戦える手練れというのは、人間の総数の中ではごく一握りである。街の防衛には彼らを一定数配置せねばならず、巨大な国土を維持するにはそれだけ大量の戦士が必要となる。


 昔は戦闘が個人の才能頼りだったため、強力な戦士の数がそこまで多くなかったが、今はきっと魔法の研究や戦士の養成法もある程度進歩しているのだろう。


「そうなると、やっぱりお主は魔力があるっていう点で貴重な人材ではないのかの? 変にこじらせてないで、ちゃんと本国で訓練した方がええんじゃない?」

「分かってないなあ邪竜様。いい? 魔導教導院なんて行ったら、みんながみんな魔力持ちなんだから。その点、ここいらの辺境警備だったら魔導士ってだけで主力扱いだよ? しかも、たまに実家に帰ったらご近所には『この若さで実践経験ありの強者』感をアピールできるし」

「お主もかなり捻くれとるね」


 ため息をついたわしは、現状をどう打開すべきか悩む。

 おそらくレーコが使者として本国に向かうのは止められない。だが、この子の場合物事の限度というものを知らないから、国が傾くほどの支援を要求しかねない。


 可能ならわしが同行したいところだが、暗に来るなと言われているのに同行すれば一悶着起きてしまうかもしれない。


「邪竜様。問題なければ今すぐ行って参りますが」


 と、わしがまだ何も考えついていないのにレーコがばさりと黒翼を広げた。わしは必死に足にしがみついて離陸を阻止する。


「タンマ。待ってレーコ。空路はやめて空路は。そんないきなりじゃわしの心の準備が間に合わないから」

「地を踏んでこそ学べることがある――と」

「うん。そういう感じの理由でええから飛ぶの禁止。陸路も普通の速度で歩いてね。いつもみたいに地面が抉れるくらい速く走るのは禁止ね」


 言い含めてから、わしはくるりとシェイナを振り向く。


「で、お主にお願いをしたいんじゃけど、この子の同伴をお願いできるかの? たぶんこの子はいろいろと無茶を言うかと思うんじゃけど、あんまり気にせんでええから。わし――本物の邪竜レーヴェンディアは、普通に旅ができるくらいの些細なお金が貰えればそれだけでええから」

「いやあ、それは難しいんじゃないかな。本国の方も邪竜様に恩を売りたいだろうし、絶対にレーコちゃんの注文に従って相当な額を出してくると思うよ」


 わしは先行きの不安に暗澹となる。が、ふと一つのアイデアが思い浮かんだ。


「あ、そうだ。いっそのことわし自身が眷属って名乗っていくのはどうかの? この姿なら小さいし眷属って言っても通じそうじゃない?」

「あ、ごめん。もう報告のときに、眷属は人間の女の子の姿をしてるって報告しちゃってるから……。おかしな話、なんだか私も、レーコちゃんより邪竜様本人が行く方が安心感あるんだよね」


 そのとき、シェイナは自分の肩の上を見た。そこには、無表情でぼぉっと青空を眺める精霊さんが乗っかっている。

 本来は巨大な山を己の身体としているが、今は「小さな女の子の姿」である。


 それからシェイナは、何かを思い出したかのように怪しく笑う。

 その笑みは、いつぞやレーコを精霊と偽って本国に連れていこうと提案したときの――


「邪竜様。少し相談があるんだけどいいかな?」

「奇遇ね。わしもお主の計画にちょっと乗ってみてもいい気分になってきたかも」


 わしはレーコにしばしの待機を命じ、ハイゼンの屋敷に引き返した。



 レーコと精霊さんを互いの替え玉とする作戦を講じるために。

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