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集合前のプロローグ③

全編書き下ろしの書籍版3巻が10月1日にスニーカー文庫より発売予定です!

(ページ下部にて表紙公開中!)


また、コミカライズ4巻も9月21日に発売予定です!

どちらもよろしくお願いします!

「おいどうしたドラドラ。誰にやられた」


 アリアンテはドラドラのそばにしゃがみこんで尋ねる。

 このドラドラをここまで打ちのめせる相手となれば、それなりに警戒すべき敵である。そんなのが街の近くにいるなら見過ごせない。


「やられたわけでは、ない。ここ数日、妙に魔力が抜けていくのだ……」

「魔力が抜ける?」


 どういうことかと訝っていると、背後から数名の冒険者が走ってきた。いつもドラドラをしばいている面々であるが、今はカゴに山盛りの水晶を運んでいる。おそらくは魔力を込めたものだろう。


「おい! エサ用の魔石持ってきたぞ!」

「死ぬなよドラドラ! お前にはまだ使い勝手のいい練習相手サンドバッグとして生きてもらわないと……」

「まあ最悪、死んでも呪法でゾンビ化させればいいですけど」


 どうやら邪悪な魂胆でドラドラの救命に駆け付けたようだ。汚い友情である。


「あ、アリアンテさんもそいつ助けに来たんですね」

「助けに来たわけではないが……お前ら、こいつが弱ってる原因に心当たりはあるか? 誰かが新手の毒とかでも試したんじゃないだろうな?」

「いえまさか。大事な共有物にそんな。なんかいきなり弱り始めたんですよ」


 そう言いながら冒険者たちはドラドラの口に魔石を流し込もうとする。

 しかし、当のドラドラはそれを拒むように首を振った。


「余計な世話だ。俺は人こそ襲わんと誓ったが、人から施しを受けるほどに落ちぶれてはいない」

「くそ、なんて強情なんだお前ってやつは……じゃあほら、いつもどおりに野菜クズな」

「ああ」


 冒険者の一人が懐から虫食いだらけのナスを取りだし、ドラドラの口に放り込んだ。こちらはドラドラも拒絶せずにむしゃむしゃと喰う。

 アリアンテは静かに問う。


「おいドラドラ。それは施しに当たらないのか?」

「これは食事ではない。あの日、あの眷属の娘に味わわされた屈辱を噛みしめているだけだ」

「お前の中の基準がよく分からん」


 と、ここで聖女様が「そういえば」と呟いた。


「うちの町の近くも最近魔物が静かですね。普段はしょっちゅう低級のが寄ってくるから追っ払ってたんですけど、ここ数日は一匹も近づいてきません。魔物の間で病気とか流行ってるんですかね?」

「魔物に病気などないだろう」


 冒険者たちも「言われてみりゃここ数日、全然魔物が出てきてないっすね」と聖女様と似たようなことを口々に述べる。

 しかし、この異変も数日前からときた。タイザンカタリトカゲの存在がいきなり思い出された件と関係があるのだろうか。


「ところでところで。なんか世間の魔物さんたちが弱っちゃってるみたいですけど、全然ちっとも弱ってないわたしってすごくないですか? やはりわたしは別格の存在というわけですね。そんじょそこらの魔物とはグレードが違うんです」

「そうだな」


 冒険者たちに正体を聞かれないよう、ヒソヒソ声で聖女様が自慢してくる。実際は単に魔物としてのカテゴリから弾かれているだけとは思うが、面倒なので雑に頷いておく。


「仕方ない。ドラドラは置いていくことにするか」

「……待て。この程度、何の問題もない」


 馬での道行きに変更しようとした途端、ドラドラは食い下がってきた。

 強がりの虚勢もあるだろうが、仇敵たるレーヴェンディア(の眷属)に相対する機会を逃したくはないのだろう。


「しかしお前みたいなデカブツを引っ張ってはいけんぞ」

「さっき食べた野菜で闘志が湧いた。今ならば飛べる」

「燃費いいなお前」


 無論、痛んだ野菜ごときで魔力が回復するはずもない。カラ元気もいいところだ。


「む! 野菜で飛べるようになるならここは私の出番ですね! さあドラドラさん、好きなだけ食べていいですよ!」


 しかし言葉を額面通りに受け取った聖女様は、衣の袖から何本もネギを伸ばした。たぶん聖女様の神殿に捧げられた供物だろう。


「いらん。その野菜からは鼻持ちならん神聖な匂いがする」

「む! わたしの野菜に難癖を付けるつもりですか! 食べず嫌いはよくないですよ!」


 頬を膨らませながら聖女様がドラドラの牙の隙間からネギを捻じ込もうとする。ドラドラは断固としてそれに抗う。


 その隙に、アリアンテはその場をそっと離れた。

 下らない意地に付き合ってこれ以上時間を浪費するわけにもいかない。聖女様がドラドラに無自覚の嫌がらせをしている間に、こっちは馬で移動するとしよう。


「……ん?」


 そのとき、アリアンテは嫌な気配を感じた。

 何か凄まじく恐ろしいものが間近に迫っているような、途轍もない悪寒だった。だが、周囲に敵らしき影はない。

 思い過ごしか――いいや、自分に限ってそんなはずはない。


 次の瞬間。


 アリアンテの足元からいきなり魔力が迸った。見下ろせば空間を穿ったかのように、真っ黒い穴が空いていた。

 飛びずさって逃げようとしたが、その穴は抗いがたいほどの引力を発してこちらの身を吸い込んでくる。


「くそ!」


 咄嗟に穴の縁を掴むも、掴んだ地面の土ごと崩れ落ちてアリアンテは穴に吸い込まれる。

 魔王軍の襲撃か。はたまた未知の敵か。


 真っ暗闇の空間に落ちていく感覚の中で、アリアンテは背中の大剣を握る。ここからまだ一矢報いるチャンスはあるか。否、作ってみせる。


 そして唐突に視界が開けた。


「ご覧ください邪竜様。来るのが遅かったので強制的に呼び寄せました」


 着いたのは、目的地たる狩神の洞窟の入口前。


 目に入ってきたのは、ドヤ顔で短剣を掲げるレーコと、申し訳なさそうに頭を下げるレーヴェンディアの姿。ドラドラと聖女様もすぐ傍らに転がっている。


「おい女騎士。貴様、邪竜様を待たせるとは何事だ」


 憤慨した様子でレーコは鼻を鳴らしていた。

 魔王すら遥かに凌駕していそうな、圧倒的オーラを放ちながら。

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