8.真打
「おにい!」
「うおっと」
試合を終えて転送から戻ってくるや否や、ビャッコは後ろから腰の辺りにタックルを喰らってあわや転倒しかける。
何事かと肩越しに振り返ってみると、目を潤ませたルシーニュがあうあうと言葉にならない声を発していた。
「なんだよ。大丈夫だって言っただろ? ってか動き難いから一回放せ」
「うう~……」
軽くたしなめてみたビャッコだったが、ルシーニュはぐりぐりと頭を背中にこすり付け始めて解放してくれる様子がない。
そんな彼女に小さくため息を吐いた彼は、しばらくは好きにさせておくかと放置する事にした。
「……ん? どうしたホウカ?」
「え? あ、ううん。なんでもない」
「いや、なんでもないならどうして服の裾を引っ張るんだ?」
「…………むー」
服の裾を引っ張っているホウカがぷくっと頬を膨らませた。どうやら少々機嫌がよくないらしいとビャッコは推測したが、なぜ機嫌が悪いのかがよく分からない。
彼はなにか心当たりはないかと考え、
「ああそうそう。言い忘れてたけど、今回もいい声だったぞ」
「あ……」
笑みを浮かべながら労いの言葉をかけつつ、ぽんぽんと頭を撫でてやる。この二週間余りで少しばかり機嫌が悪いだけならこうしてやると機嫌が直る事は学んでいるので、いつものように軽い気持ちでビャッコはそうしてやった――のだが。
「ぐふっ」
突然腰に回されていた腕に力が籠められ、脇から腹を圧迫されたビャッコは肺から空気を漏らしてしまった。
いったい何のつもりだと再び肩越しにルシーニュへ振り返れば、
「むー……」
なぜか先ほどまでの涙目ではなくジト目になった彼女が、ホウカと同じようにぷくっと頬を膨らませて不機嫌な様子になっていた。
そんな様子にビャッコが困惑していると、ルシーニュは突然背後からの拘束を解き、てくてくと彼の前の方へ回ってきた。そうして隣にいるホウカへちらりと視線を向けたかと思うと、
「………………」
「っとと」
「あっ!」
無言のままぽふとおもいっきり甘えた仕草で再度抱き付いてきて、子猫のようにビャッコの胸にぐりぐりと頭を擦りつけてくる。
「あ……あ……あーっ!」
その様を指さしてホウカが絶叫を上げ、ルシーニュは再びチラリと彼女に視線を向け、ふふんと鼻で笑う。
ビャッコはホウカがアドキャラの演技ではない素を出した事に慌てかけたが、よくよく考えてみればルシーニュはとうの昔に勘付いているという事を思い出して力を抜く。
「ず、ず、ずるい! そんなのずるい!」
「あら。なにもずるくないわよ。おにいとあたしは兄妹なんだから、これぐらいのスキンシップは当・た・り・ま・え・だよ」
再度ふふんと勝ち誇ったように鼻で笑い、ルシーニュがいよいよもってすりすりと頭と言わず身体を擦りつけてくる。
ここまで来ると色々と不味い事もあるので、ビャッコはいい加減に彼女の身体を離そうとしたのだが、
「うう~……。じゃ、じゃあわたしだってこうだもん!」
「うお」
がしりと右腕にホウカが飛びついてきて、絶対に離さないというようにギュッと締め付けてきた。右腕の全体が彼女の体温に包まれ、ビャッコの身体の他の部分もわずかに熱を帯びる。
「あっ! ちょっと何してるの離れなさいよ!」
「そっちこそ離れてよね。ビャッコはわたしの操奏者なんだから」
べーっと舌を出して挑発するホウカに対し、負けじとルシーニュまでべーっと舌を出し始めた。まるっきり子供の喧嘩である。
「え、と? おい止めろ。お前たちはいったい何をやって――」
突然わけの分からない事をし始めた二人に挟まれているビャッコが双方を嗜めようとするが、
「ビャッコは黙ってて!」
「おにいは黙ってて!」
息の合った二人に同時に一蹴されてしまい、その勢いに気圧されてそれ以上の言葉を飲み込んでしまった。
そのままガルルと互いに牙をむいての睨み合いが展開され始め、ビャッコは完全に蚊帳の外に置かれる状況となってしまった。
一体全体、何がどうしてこうなっているのかまるで分らないビャッコは盛大なため息を吐き、
「ん?」
そこで初めて自分に対して妙な視線が向けられている事に気が付いた。
それはいつの間にかステージ前に集まってきていたどこの誰とも知れない見物客たちのものではなく、同じステージに立っている者からの視線だ。
ふと見てみれば、額に青筋を浮かべてギリギリと歯ぎしりをしているバルバロの姿があった。そのやや後ろでは眼帯をした歌奏姫が目を伏せ泰然とした様子で控えている。
「……なんだよ」
顔の下で行われている二人の少女の舌戦を務めて無視し、ビャッコは目を細めて何か言いたそうなバルバロに声をかけた。すると、
「……てめえ、なんだそのうらやまし過ぎる状況は!」
半分涙目になった彼が、ずびしと指をさしてくる。
「…………………………は?」
瞬きを二度三度と繰り返し、たっぷりと間を置いてからようやく出せた声は一文字だけだった。それほどまでに、ビャッコはバルバロの唐突かつ意味不明な台詞に混乱している状態である。
彼をそんな状況に陥らせた当人は、つま先で床を蹴りつけながらぶちぶちと文句を垂れ続けていた。
「くそっ! くそっ! ありえねえ。リアルでこんなに仲が良い兄妹がいるはずねえ!」
「えっと……、ん?」
「ああそうだ。これは夢だ。俺が負けた事も、目の前でいちゃつくくそったれな野郎も、全部嘘っぱちの偽物だ。俺の夢なんだ!」
「いやその、ちょっと落ち着けよ」
ビャッコは唯一自由になる左手を相手に伸ばすが、
「近寄るんじゃねえ! 夢のくせに……偽物のくせに!」
半狂乱のバルバロを刺激するだけの結果になり、ますます状況が意味不明になって行く。
間近で続く少女の痴話喧嘩に錯乱し始めた対戦相手。ステージ上は混沌の極致だ。ステージの下には複数人の見物客がいるというのに、彼らは誰もステージ上には見向きもせず、ひとところに集まって何もない空中を熱心に見つめているという謎な行為の真っ最中である。
誰もこの状況を収められない。ビャッコがそうあきらめかけた時だった。
「失礼します」
「がふっ」
「……え?」
その時、ビャッコは何が起こったのか理解するのにかなりの時間を要した。なぜなら目の前で行われたそれが、有り得ない事に思えたせいである。
「この度はマスターが失礼をいたしました。世話役の身として、主の代わりに私が正式に謝罪させて頂きます」
きっちり丁寧に腰を折って頭を下げてきたのは、バルバロの歌奏姫である眼帯のアドキャラだった。相変わらずの無表情だが、どこかしら何かをやり遂げた達成感のようなものが見えなくもない。
「えっと、今のはお前がやったのか?」
「肯定です。私はマスターに対するあらゆる行為を承認されておりますので、対マスターに限り先ほどのような行為を自己判断で行う事が出来ます」
「マジか……」
ビャッコが驚くのはごく自然な話である。何せ目の前の彼女は喚き散らすバルバロに手刀を叩き込み、見事に昏倒させたのだ。
何かの時にオディットとの話にも出たが、アドキャラは人間を攻撃する事が出来ない。しかしバルバロのアドキャラは容赦なく主人に暴力を働いたのである。これを驚くなという方が無理な話であった。
「さておき、真に勝手ながら今日のところはこれでお暇したいと思います。マスターはこれから所用がございますので。……よろしいでしょうか?」
「え? ああ、俺は構わない。けど――」
カクンと人形のように首を傾げる眼帯の女性に対し、ビャッコはそこで言葉を切ってからいまだにホウカと睨み合いをしたままのルシーニュの額にぺちりと左手を打ち込んだ。
「あう。もう。なにするのよおにい」
「いい加減にしとけ。ってか、なんか向こうの野郎が今日はこれで帰りたいって言ってるんだが、何か言ってやりたい事とかないのか? まあ、本人は見ての通り気絶中だが」
「言ってやりたい事って……」
ぶーぶーと何やら文句を言いながら、ルシーニュがビャッコに抱き付いたままの体勢で頭だけ後ろへ向け、ステージ上に崩れ落ちているバルバロとそのそばに立つ歌奏姫を見た。
「……そうね。じゃあ一つだけ。次にまたああいう事をしたら今度こそおにいが叩き潰すって言っといて」
「は?」
「承知いたしました。……ああ、申し遅れました。私はリリスと申します。またの機会がありましたら、どうぞよろしくお願いいたします。それではこれにて」
スカートの裾を持ち上げて淑女の礼をすると、リリスの姿はバルバロの姿とともにステージの上から消え去った。どうやらログアウトをしたらしい。
「おいルシーニュ。なに勝手な事を言ってるんだ」
「別にいいでしょ。……なによ。それともおにいは今度は助けてくれないの? 可愛い可愛いたった一人の妹がピンチになっても、見て見ぬふりをするんだ?」
再びぷくーっとルシーニュが頬を膨らませてそんな事を言って来た。
それに対するビャッコの答えは、
「いや、誰もそん――」
「ビャッコはそんな事しないよ!」
なぜかホウカによって先を越されてしまう。彼女はずいっとルシーニュに顔を近づけると、
「それに、自分で可愛い妹とか言う時点で可愛くないよね」
先のお返しとばかりにルシーニュの言葉を取り上げてからふふんと鼻で笑った。
「なっ……。こ、これはあたしとおにいの問題なの。大体なんなのよあんた。あたしのおにいに馴れ馴れしいのよ」
「ビャッコはあなたのものじゃないよ。それに、今のビャッコはわたしのマスターみたいなものなんだから、馴れ馴れしくてもおかしくないもん」
「またか……」
ギャーギャーと言い合いを再開させた二人にビャッコは呆れ果て、最大級のため息を吐き出した。その後で自由な左手をゆったりした動作で持ち上げ、
「成敗」
「あうっ」
「いたっ」
ルシーニュとホウカの頭に軽く拳骨を喰らわせた。その結果、二人とも反射的に頭部をかばいにいったため、図らずも身体と右腕の拘束が解かれる事になる。
「二人とも少し落ち着け。なんでいきなり喧嘩してるんだよ」
それぞれに目を合わせて一睨みしてやり、ビャッコは腰に手を当ててお説教モードに入る。しかし睨まれた二人は同時に互いを指さした。
「だ、だってこの子が――」
「だ、だってこの人が――」
「だってもヘチマもな・い」
言い訳しようとする二人をやや強めの言葉で諌め、びくりと身体を震わせてから同時にシュンとしてしまった双方の頭にポンと手を乗せる。
「細かい事情は後でゆっくり話すし聞くから、今はとにかく一度帰ってだな……っと、そういえば――」
そこまで言ったところで、ビャッコはようやくある事を思い出した。ぐるりと首を巡らせて周囲を確認するが、求める姿が見つからない。
「なあルシーニュ。そういやオディットはどこに行ったんだ?」
「え? ……あっ! そういえばずっとおにいの試合見てたからオディットさんがどうなったか確認してなかった」
ぱっちりと目を見開き、大きく開いた口に手を当てながらルシーニュがしまったと声を上げる。
「ええっと……あ、そうだ。天鈴。天鈴は知らない?」
キョロキョロとルシーニュがあちこちに首を振りながら自分のパートナーの姿を探すが、ぱっと見える位置に小さな彼女の姿はない。
そういえばとビャッコも先ほどから姿を全く見ていない事を思い出し、一緒になって今一度首を巡らせてみたところ、
「……お。あそこにいるな」
ステージを下りた場所に天鈴の姿を発見する。彼女は先ほどからそこらにいる人々がわらわらと集まっている場所の最前列におり、先のルシーニュ同様にぽかんと口を開けて唖然としているようだった。
「なあ。そういえばさっきからなんであそこに人が集まってるんだ?」
「人? ……ああ。たぶん携帯投影機で誰かの試合を観戦してるんだと思うよ」
観戦と言われて、ビャッコは人だかりが見つめている辺りの空中に目を凝らすが、何かが映っているようには見えなかった。
「何も映ってなくないか?」
「映ってないよね」
ビャッコが首を傾げる横で、ホウカも同じように首を傾げている。
それを見たルシーニュがぴっと人だかりを指さした。
「携帯投影機の映像はある程度近くに寄らないと見えないの。だからあそこに人が集まってるってわけ」
「なるほど」
「ふーん」
「でも天鈴があそこにいるって事は、今映ってるのってオディットさんの試合なんじゃないかな?」
ルシーニュの推測は十分にあり得る話だった。そのため三人は急いでステージを下りて天鈴の下へ向かおうとしたのだが、その途中で集団の中から歓声が上がったかと思うと、彼らは一斉にとある方向へ顔を向け始めた。
「ん?」
その変化にビャッコは足を止め、集団の視線を追って自分もそちらに顔を向ける。すると、噴水の前に恐ろしく消沈した様子の赤スカーフたちがたむろしており、その側にオディットとナタリアの姿がある事に気がついた。
「お?」
「あ。ちょうどあっちも終わったみたいだね」
首を傾げるビャッコにルシーニュの言葉が続き、彼はなるほどと納得しつつ進路を噴水方面に変更した。
「オディット」
「うん? やあビャッコ」
近づきながらビャッコが声をかけると、それに気が付いたオディットが同じく近づいてきながらニコリと笑って手を上げてくる。その手に自分の手を打ち合わせ、ビャッコもにやりとした笑みを浮かべた。
「時間短縮は出来たけど、さすがに君の方が終わるのは早かったか」
「みたいだな。連戦の方は大丈夫だったのか?」
「うん。棄権者が多くて結局まともに相手をしたのは七人くらいまで減ってたからね。だからもしかしたら時間的に勝てるかもしれないとは思ったんだけど」
負けたよと言って、オディットが頭をかいた。その様子を見るに、彼が言うには七連戦の試合の疲れがあるようには見えない。
「オディットさん」
「やあルシーニュちゃん」
「あ、あの、連戦大丈夫でしたか?」
「ああ、うん。全然大丈夫だよ」
兄妹そろっての同じ質問に笑みで答えると、彼はほらこの通りとその場でラジオ体操のような事をし始めた。
その側では同じく汗一つかいた様子のないナタリアがあらあらうふふといつも通りの微笑を浮かべている。
「そうそう。忘れるところだったけど、ビャッコにホウカちゃんもお疲れ様。試合は最初しか見てないけど、勝ったんでしょ?」
「おう」
「ビャッコが勝ったよ。それと、オディットさんもお疲れ様」
「うん。ありがとホウカちゃん。……あれ? 天鈴ちゃんは?」
ホウカの労いに感謝の言葉を返していたオディットが首を巡らし、唯一この場にいないもう一人の名前を出した。
すると、
「ボクはここにいるのですー」
声が聞こえた方へ視線を向けると、バイザーの歌奏姫がだーっと走って来ているところだった。彼女はすぐさまビャッコたちの前に到達すると、
「ただいま到着なのですよ」
ビシッと手を上げてそんな事を宣言していた。かと思うと何やら興奮した様子で口を開き、一気に言葉を並べ立て始める。
「今日はすごい物を見れたのです。それにしても、オディット兄さまもナタリア姉さまも人が悪いのですよ。さっきあの人だかりの中でいろんな人の話を小耳に挟んだのですが、お二人が緑の『ボルズィコレ』でランキング二十位以内にいたというのは本当なのです?」
ちょこんと首を傾げながら無邪気に尋ねる天鈴の言葉を受けて、
「ん?」
「え?」
「は?」
ビャッコ、ホウカ、ルシーニュの三人は目を瞬かせて固まった。
「あれ? なんだ。僕の事を知っている人もいたんだな。目立ち過ぎると面倒だから、いつでもトップテンを狙える順位を調整してキープしてたつもりなんだけどな」
そんな三人を無視して、オディットがやあ困ったなと言うような苦笑いを浮かべている。という事は、今の天鈴の発言は本当だという事だ。
「お、おいオディット。それはいったいどういう――」
一番早く我に返ったビャッコがオディットに問うと、
「どういうも何もその通りだよ。僕は緑の陣営にいた頃は十五位から二十位くらいの、上位で一番目立ちにくいところをキープしてたんだ。前にも言ったけど、ランキングによって特典が手に入ったりもするから、そういう時だけぱぱっと十位に食い込んで、すぐに消えるようにしてたんだよ」
いつも通りにあっけらかんとそんな事を言って来た。
「あ、そうか。だからオディットさんはガンスリンガー戦をやったんですね?」
「うん。さすがにルシーニュちゃんには分かるよね」
オディットがぐっと親指を立てて肯定し、ルシーニュはふんふんと納得したように頷いている。
「いやちょっと待て。あそこの奴らってそんなに高ランクなのか?」
ビャッコはちらちらと悔しそうにこちらを見ている赤スカーフを指さした。このゲームではランク差があればあるほど獲得賞金とポイントが増える仕組みになっているので、二十位以内のオディットが戦っても美味しいとなると、噴水前にいる連中全員が百位以内にでも入っているという事になってしまう。
「あ、それは違うよおにい。えっと、このゲームって陣営を移動するのは確かに自由なんだけど、ペナルティというか対価として現在のランキングポイントを半分にされちゃうの。だから今のオディットさんはもっと下のランクになってるはずだよ」
「……なるほど。緑から白に移った事で減ったポイントを取り戻すための試合か」
ポイントが半減となれば、元々のオディットの順位からして中位ランク程度にまでは落ちているはずだった。
「正解。いやあ何せあの赤スカーフの人たちって実力の割にランキングの上の方にいるからさ。ポイントが半分になってランキング急落した僕にとっては恰好の獲物だったんだよね」
うんうんと一人頷くオディットのそばで、ナタリアもまた涼しげな表情をしたまま同意をするように頷いていた。実に何ともなペアである。
「まあそれはともかく、重ねてになるけどみんなそれぞれにお疲れ様。時間もそろそろいい頃合いだし、ビャッコとルシーニュちゃんには話す事もあるだろうから、今日はこれでお開きにしとこうか。後ろのと向こうの人たちが妙な気を起こすのも嫌だしさ」
指も視線も向けずに言葉で示した先には、オディットが無双した赤スカーフの集団と、試合を観戦していたギャラリーたちがいる。
赤スカーフの方はともかく、ギャラリーの方には確かに何かしらの動きを見せている者がいた。
「確かにな。それじゃあ、今日は落ちるか」
「あたしもそれがいいと思う。それに、オディットさんの言う通りおにいには聞きたい事が山ほどあるし」
ルシーニュがジロリとした視線をビャッコに送り、次いでそれがホウカに移る。
睨まれた彼女はジト目になって睨み返していた。
「……なによ」
「そっちこそなによ」
視線合戦を始めた二人の間で火花が散り、
「ふん!」
「ふん!」
見事にシンクロして互いにそっぽを向いた。
ビャッコはそんな二人を見て、なんだかんだで実は相性が良いのではないだろうかと思う。
「やあこれは大変だねビャッコ」
面白くなってきたと顔に書いてあるのが丸分かりな笑顔を向けて来る友人に対し、
「他人事だが他人事みたいに言うな」
ビャッコはため息混じりに文句を言う。
「あらあら。うふふ」
「あ、嵐が来るのです。これは嵐になるのですう」
ナタリアはやはり変わらず微笑みを浮かべ、天鈴は頭を抱えてガタガタと震えていた。
何はともあれ妹の変調に始まった今回の一件は、様々な問題点を新たにしつつも、これにて解決と相成ったわけである。




