6.激突・火神銃
バルバロはバトルフィールドに無数にある大地の上に機体を伏せ、ライフルで狙いを定めていた。
もっとも機体の操作は歌奏姫任せのため、彼の役目はカードプレイングと目視による索敵ではあるが。
「動きがねえな」
「イエス。マスター」
抑揚のない声で下段の歌奏姫が応える。眼帯をしたその表情に感情の色はなく、ただ機械的で無機質な色だけが残っていた。
なぜなら、今の彼女はバルバロの命令によって疑似感情を封印している状態だからだ。
このゲームにおいて歌奏姫に機体操作を託す場合、アドキャラの疑似感情は邪魔にしかならない。無駄な思考は『迷い』を生み、リアルな感情は意表を突かれると『驚き』という反応を示してしまうからだ。
しかしそれでは駄目なのだ。命じられた通りに躊躇う事なく行動し、不測の事態であっても動じない。それがこのゲームにおける強さだとバルバロは考えていた。
「ドロー」
ドローゲージがオレンジ色になると同時にドロー宣言をし、山札から新たな一枚を手に入れる。カードオープンして手札に加わったそれに、彼はにんまりとした笑みを浮かべた。
「くくくっ……」
喉の奥で笑い、バルバロは視線を目の前の大画面に移した。
その中央に映る、離れた場所に鎮座する巨岩。その裏手に敵が潜んでいる。先ほど顔を出したために撃たせたが、角度が悪く外れてしまった。
そのため、今は先の一発を見て修正した位置で再び顔を出す瞬間を狙っているところである。
「何もしてこないところを見ると、あいつは近接系の兵装しか持ってないんだろうな」
「イエス。その推察は九割方正しいと思われます。この位置では互いに奏術の射程範囲外であるため、こちらから一方的な攻撃が可能であると判断します」
「当然だ。俺は一方的な戦いが好きなんだからな」
ニヤニヤした表情のまま、バルバロが歯をむき出しにした笑みを浮かべた――ちょうどその時だった。
「警告。敵機が先ほど我々が狙撃したポイントへ向かって突撃を開始しました。撃ちますか?」
「お?」
歌奏姫に言われてバルバロが画面をしっかりと確認すると、確かに左手の盾で上半身をかばいながら疾走するカヴァリエーレの姿が映っていた。
しかしその向かう場所は今バルバロたちがいる場所とはやや異なる方向であるため、ものの見事に掲げた盾が目隠しになってバルバロたちが見えていない状態だ。今ならば間違いなくがら空きの下半身に弾丸をぶち込めるだろう。
「いいぞ。やれ」
「イエス。マスター」
バルバロがいやらしい笑みを浮かべ、歌奏姫の操作するフィアンメジャロがライフルの引き金を引き絞った。
◆
「銃声!?」
カヴァリエーレを疾走させていたビャッコは、正面ではなく左前方から聞こえてきたその音に反応して即座に頭部を守るために掲げていた盾を下へ下げた。
直後、磨き抜かれた鏡のような盾に飛来した銃弾が当たり、その丸みを帯びた表面を滑った弾は軌道をずらされて地面に着弾する。
「ビンゴ!」
パチンと指を弾いて思惑通りに居場所を晒してくれた相手に感謝しつつ、ビャッコは弾の飛んできた方向へ進路を変更。前方の台地の上でやおら起き上がってきたフィアンメジャロの真紅の機体を確認する。
「そこかっ!」
敵機の行動に注意しながらもビャッコは疾走を続け、敵の攻撃を回避した白の操奏機神は見る見るうちに赤の操奏機神へ迫った。
ところで、先ほどビャッコが盾で相手の銃弾を弾いたのはむろん偶然ではない。アルヴァテラのゲーム内銃火器は、現実世界のそれと比べて圧倒的に速度が遅いのだ。彼我の距離にもよるが、大抵の場合は着弾よりも銃声の方が早く耳に届く。つまりは音を聞いてから動く事で防御が可能なのである。
さらに、彼は盾を掲げる事で機体の上半身を守り、下半身をわざと晒していた。そうする事で相手の攻撃位置を下半身に誘導し、限定させたのだ。
どこが狙われているのかが分かれば、あとは耳を澄ませて攻撃の瞬間を見逃さないようにすればいいというわけである。
「っ! やっぱり向こう側に降りるつもりか」
立ち上がったフィアンメジャロが、くるりと背を向けて台地の向こう側へ飛び降りる姿勢を見せた。台地を目隠しにしてまたどこかに潜伏する算段だろう。
試合開始直後は先手必勝とばかりにライフルを乱射され、銃撃から隠れている間に相手を見失ってしまったが、今度も同じような手を喰うわけにはいかない。
「逃がすかよ! んでもって、ウザーレ!」
ビャッコはフィアンメジャロが台地の向こう側へ飛び降りた瞬間、それまで温存していたホウカの歌術『神速の旋律(アーリア・アリーヴォロ)』の効果を最大限に利用し、かつ『速度強化』を重ねがけして現状で出しうる最大速をもって一気に台地を回り込んだ。
「捉えた!」
言葉通り風の如き疾駆で遮蔽物である台地を回り込んだカヴァリエーレは即座に剣を抜き放ち、今まさに着地点から移動を開始しようとしていたフィアンメジャロの側面からの強襲を仕掛ける。
まさかこの短期間で一気に回り込まれるとは思っていなかったと見える赤の狙撃手は、突如として現れた白騎士の姿にとっさにライフルを構えてきたが、その動作は一歩遅かったと言わざるを得ない。
「まずは――」
ビャッコは頭の中で思い描くカヴァリエーレに剣を振りかぶらせ、本来の間合いに半歩足りない位置で振り下ろす。
それは相手のタイミングを外させるためと、
「――そいつからだ!」
相手の構えるライフルを両断するための攻撃だ。
カヴァリエーレの振るった一閃は、今まさに迎撃態勢で構えられていたライフルの銃身を半ばから切断し、返す刃で相手の手元を狙う。
しかしさすがにそこまでは許されず、相手がとっさにライフルから手を離して後方へ逃れたため、元より間合いの外から斬撃を放っているカヴァリエーレの追撃は放り出されたライフルを再度真っ二つに切断するに留まった。
「ちっ」
一つ舌打ちをして、ビャッコは『速度強化』の効果が重なっているうちに逃げたフィアンメジャロに追いすがる。だが、すでにその時には敵機の手に二丁拳銃が握られており、照準を完全に合わされていた。
「なろ」
直進行動の状態から足を踏ん張って急制動をかけ、その反動でカヴァリエーレを真横に跳ね飛ばす。急制動のタイミングで連続する発砲音を聞いたが、機体を小さく丸めて盾を構えたため、ほとんどの弾は盾にあたって見当違いの方向へ流れて行った。
それでも数発は防御をかいくぐって直撃しているが、ライフルに比べて威力が低く、対したダメージにはなっていない。
真横へ飛んだあとはオディットの火砲を避けた時と同じ要領で敵機の周囲を旋回し、とにかく見失う事のないように視界へ捉え続ける行動をとった。
二丁拳銃から放たれる弾丸の嵐を避け続け、とにかく隙をうかがう。
「はん。ずいぶんと速いと思ったら、『神速の旋律』と『速度強化』の重ねがけか。飛び出した時には旋律はすでに発動済み。それをあえて抑えた動きで隠していたってところか?」
突然通信回線が開き、画面上にバルバロの顔が映し出された。ライフルを破壊されたというのに、まるで動じた様子がない。この程度では痛くもかゆくもないという感じである。
「ふむ……」
試合前にルシーニュが言った通り、確かにバルバロは上位実力者ではあるようだ。それはビャッコの奇襲がどういったものなのかを完璧に言い当てている事からもうかがえる。
「こっちの武器を破壊して見せた事はほめてやる。ここまでの動きで初心者プレイヤーにしてはとんでもない腕をしているって事もよく分かった」
映像がやや引き、顔だけしか映っていなかったバルバロの映像がバストアップになると、突然彼は降参だとでも言うように目を伏せ、両手を上げて首を左右に振った。
ビャッコはそんな相手に訝しんだ表情を作る。いったい何のつもりだとその行動の真意を問いただそうとしたが、
「だが、それだけだ」
その行動は唐突に目を見開き、歯をむき出しにした笑みを浮かべたバルバロによって制されてしまった。
「恐るるには、足らねえな。――ウザーレ!」
バルバロの使用宣言とともに画面内のフィアンメジャロが残弾わずかとなった両手の拳銃を放り捨て、代わりに紅橙の本体に金の装飾が施されたやたら目立つ銃がその手に握られた。
その特殊な色合いと形状から、ビャッコは脳に刻みこんだ数百種のカードから該当するカードを検索。バルバロの手にしたそれの名称と効力を即座に把握した。
「『焔銃プロメテウス』か!」
「よく知ってんじゃねえか。なら喰らいな!」
「ちいっ!」
フィアンメジャロの近くで旋回回避をしていたカヴァリエーレが、やや強引な動作で相手から離れるために飛び跳ねた。
直後、そちらへ照準を向けたフィアンメジャロが即座に引き金を引き、火薬の炸裂音とともに銃弾を射出。放たれた弾丸は内部に納めていた無数の小弾をばら撒き、点攻撃を面攻撃と化してカヴァリエーレに襲い掛かった。
「うおっ!」
「きゃあっ!」
一度に数十発も殴られたような衝撃がコックピット内を暴れ回り、体勢を崩したカヴァリエーレが後方へ倒れ込んだ事でさらなる衝撃がコックピットを襲う。
プレイングデスクに手をついて転倒を防ぎながら自機情報を確認すると、完全な直撃ではないというのに二割近いライフポイントを削り取られていた。もしまともに受けていればどうなっていたかなど想像したくもない話である。
バルバロが使用したのはアルティメットレアの兵装カード『焔銃プロメテウス』。コスト八という重量級のカードだが、通常は近接戦に持ち込まれると弱い遠距離射撃ユニットにとって、このド級兵装は近接型のユニットに対する切り札となる威力と攻撃範囲を有していた。
「くはははっ! ざまあねえなあお兄ちゃん? そらそらどんどん行くぜぇ!」
通信を介してバルバロの高笑いがコックピット内に響き、ビャッコは奥歯を噛みながらも急いでカヴァリエーレの機体に寝返りを打たせて第二射の被害を最小限に抑える。そうしてすぐさま機体を起こしてフィアンメジャロから改めて距離を取り、第三射は完全に回避する事に成功した。
『焔銃プロメテウス』は散弾銃型の火器であり、攻撃範囲が広く威力が法外なほど高い兵装だ。しかしその代わりに飛び道具でありながら射程が槍の二倍程度しかないという弱点がある。
ゆえに、間合いの外に出てしまえば絶対に喰らう事はない。
「はっ! いいねいいねえ。やっぱ狩りってのはこうでなくっちゃ面白くない。なあ? お兄ちゃん」
「てめこの。さっきからまた気安くお兄ちゃんお兄ちゃんってうるさいんだよ。――ドロー!」
舌戦を飛ばしながらも、きっちり視界の隅でドローゲージが満タンになったのを確認したビャッコはドローを宣言。新たなカードを手札に加える。
「どうだ? いいカードは来たか? まあ、どっちにせよお前が俺に負ける事に変わりはねえがな!」
「くっ……」
飛び出しから一気に間合いを詰めてきたフィアンメジャロが引き金を引き、ばら撒かれる散弾がカヴァリエーレの装甲を削り取って行く。
散弾の攻撃は一点集中ではなく広範囲に衝撃を被るため、被弾覚悟で相打ちに持ち込もうとしても一方的に吹っ飛ばされるだけになり、正面からの迎撃はほぼ不可能と言えた。かといって相手の射程外からでは一部の奏術以外に攻撃を届かせる手段がない。
現在のビャッコのデッキには『剣』と『槍』、そして『槌』が兵装カードとして組み込まれているが、そのいずれも散弾銃に対するには向かないものばかりだ。
銃火器兵装に散弾銃が存在している事は知っていたし、今までの対戦経験でも何度か使われた事はあるが、そのどれもがここまでの代物ではなかった。ゆえにその脅威に関しての認識が甘いものになっていたと言わざるを得ないだろう。
これほど厄介極まるものだと分かっていれば、たとえ弱くても奏術以外の飛び道具兵装をデッキに組み込んでおくべきだったとビャッコは少々後悔する。
「どうするのビャッコ!? このままじゃ……」
「分かってる! 焔銃プロメテウスの弾数は八発だ。それをしのげばこのでたらめな攻撃力はなくなる」
銃撃をかわしながら確認した自機の残存ライフポイントは六割弱。対してプロメテウスはバルバロが気前よく打ちまくってくれるおかげで残弾は半分以下の三発になっていた。直撃さえ喰らわなければ撃ち尽くさせる事は出来るだろう。
「ひとまず回復だな。――ウザーレ」
手札のカードを選択使用。カードが光になると同時にプレイングデスクが淡く輝き、表示されたカヴァリエーレのライフポイントが八割前後にまで回復する。
「くくっ。ちょっとばかし回復したとこでどうにもならないぜ?」
「そうでもないさ。このちょっとが明暗を分ける」
ビャッコは淡々と相手の言葉に応じ、会話からヒントを拾わせる事のないように留意する。
手札にはもう一枚『生命回復』の支援カードが存在していたが、ビャッコはゲージも含めてまだ温存しておくつもりだった。
なにしろ他の手札が複数のゲージブーストカードに偏っており、攻撃に割くカードが不足している状態である。ゆえに今はとにかく最小限の被害で相手の残弾をゼロにするのが肝要だった。
「どうした。さっきまで派手に撃ってたくせに、もうおしまいなのか?」
「はっ。冗談言うなよお兄ちゃん。そんなに喰らいたいなら、たっぷりと喰らわしてやるよ!」
再びフィアンメジャロが間合いを詰め、プロメテウスの銃口を向けて来る。
その動きに合わせてビャッコはカヴァリエーレの右腕を突き出し、
「ウザーレ!」
現状手札で唯一の攻撃用奏術カード『魔弾の射手』を選択使用。向けられた銃口へ目がけて三連発の光弾を打ち放つ。
「うおっと」
引き金を引く指が止まらず、プロメテウスが六発目の弾を発射。飛び出した弾は散弾を散らす前に飛来する光弾と接触して爆発を起こし、相殺された。
「ちっ」
バルバロが舌打ちをし、続けて二連続で銃声が轟く。
「なっ……」
ビャッコはバルバロがプロメテウスで残る二発の光弾を撃墜した事に驚き、ほんの一瞬呆然としてしまった。
しかし相手が弾を撃ち尽くし、爆煙によって一時視界が悪くなっている今をおいて反撃のタイミングはあり得ないと我に返り、納めていた剣を抜き放って強襲を仕掛ける。
開戦が繋がりっぱなしのため画面上に映っているバルバロはちらりと視線を下に向け、今まさに次のカードを選択しようとしているところだった。
それを確認して、ビャッコは攻撃の成功を確信する。相手が使用を宣言してからその手に武器を出現させ、しっかりと照準を合わせるまでの時間があれば、カヴァリエーレの斬撃の方が一歩速い。
即座に間合いを詰め、振りかぶる剣で一閃を描こうとした瞬間、ビャッコは強烈な悪寒を感じるとともに急激な思考の加速を認識した。
◇◆◇
周囲の全てが止まっているような感覚。その中で、ビャッコの思考だけがいつも通りに働いている。
――なんだ……? 今の……
感じられるはずのない心臓の鼓動が早鐘を打ち、何かの警告を発している。おそらくはこの思考加速も、直面する脅威に身体が反応した結果だ。
――なんだ? なにを俺の身体は恐れている?
防衛本能が働いたという事は、このままでは何かとんでもない目に合うと予言されているようなものだ。必勝を確信しているはずのこの一手。そこに何か穴があるとビャッコは考えた。
彼は最大限に思考を並列展開し、この攻撃は失敗するという前提を立てた上で何が起これば攻撃が失敗しうるかを検証し始める。
猶予はいつまであるか分からない。加速した思考の中で、彼はかつてないほどの速度で検証を進めて行った。
記憶を洗い、関係のありそうなピースを探し出して一つ一つを当てはめて行く。
残弾を撃ち尽くしたバルバロ。彼は爆煙に紛れている間に次の一手を仕掛けようとしている。
それに気が付いたビャッコは先んじて攻撃を開始しており、相手よりも一歩先を行った。
しかしそれでもこの攻撃は失敗する。それはなぜかと問えば、あり得る可能性は二つだけ。先んじたつもりが先んじれていない。もしくは、相手こそ先んじている場合だ。
――いや待て。そもそも、なんで俺は相手より先んじていると確信した?
ビャッコが先手を取ったと確信した理由。それは画面に映るバルバロの視線が下を向き、今まさにカードを使おうとしているからだ。
――いや、そうじゃない。
よくよく考えてみればおかしい話だ。これは普通の試合であって、オディットと戦り合うようなものではない。通信は互いに必要な時があれば一方的に繋げるだけだ。
きっちりとしたターン制のカードゲームと違って、アルヴァテラではカードを使うタイミングを知らせる必要もどんなカードを使ったのか説明する必要もない。特に支援カードなどはいつ使ったかを知られていない方が有利なものだ。
だというのに、バルバロは自分から繋げてきた通信を今なお閉じていない。それはつまり、繋げている事に何かしらの意味があるためと考えられる。
その真意が何かといえば、考えられるのはデメリットを逆手に取る方法だ。つまりはあえて自分の行動を見せる事で罠を張り、相手に勘違いをさせる方法である。
――思い出せ。バルバロは何をしていた?
全ての思考を記憶の検索に向け、ビャッコは魔弾の射手とプロメテウスの三連相殺が起こった直前から画面に映っていたバルバロに注意して記憶映像を進めて行く。
一発目の相殺が起きる直前、バルバロは少し驚いたような顔をしていた。
しかし光弾と散弾が相殺して爆煙が巻き起こった時、彼はにやりとした笑みを受けべ、続く二発目三発目の相殺が起きる直前には完全に視線を手元、つまりは手札の方へ向けていた。
もしこの段階でカードの確認と選択をしていたのだとすると、今現在もそれを行う様子が画面に映っているのはあまりにおかしい。
であれば、バルバロはあの瞬間に何かしらのカードをプロメテウスの銃声に紛れさせて使用宣言していた可能性が高い。
たとえその時点でフィアンメジャロに何かしらの変化が生じていたとしても、相殺爆発の閃光と後に残る煙でビャッコからはそれを認識出来なかっただろう。
――となると――
画面に映るバルバロの行動は攻撃を誘うためのフェイク。彼はすでに迎撃の準備を終えており、ゆえにビャッコの本能が危険信号を発して今の状態に陥っていると考えるのが自然だ。
そしてここまでの仮定を踏まえた上で、バルバロがやけに景気よくプロメテウスをぶっ放していたという事実を加味すれば、どんなカードを使って迎撃準備を整えているのかも予測が付く。
――最悪だ。
結論を得た瞬間、ビャッコの思考加速は唐突に終わりを迎えた。
◇◆◇
「かかったな馬鹿が!」
「くそっ!」
爆煙からにゅっと突き出された紅橙の銃身。それは残弾を撃ち尽くして壊れているはずの『焔銃プロメテウス』だった。
「撃て!」
「イエス。マスター」
無機質なバルバロの歌奏姫の声が聞こえ、直後に引き金を引かれたプロメテウスが火を噴く。
撃ち出された散弾が小弾をばら撒き、ほぼ直近まで迫っていたカヴァリエーレに直撃、爆発。煙の尾を引き、白い金属片を撒き散らしながら、機体はトラックにでもはねられたかのように吹っ飛んだ。




