婚約者である彼は私と会う時いつも冷ややかな目をしています。
婚約者エリトリッジは私と会う時いつも冷ややかな目をしていた。
「この紅茶、とても美味しいですね」
「……ふん」
「エリトリッジさんはお好みでないですか?」
「知るか」
努力してこちらから話しかけても、極めて短い言葉にもならないような言葉を返してくるばかりで。
「エリトリッジさんは、好きな飲み物はあるのでしょうか?」
「………」
「紅茶はあまり、ですか?」
「……知るか」
「よければまた教えてくださいね。好きなものは共有したいですし」
「……だらね」
仲良くしようという考えは一切ない様子で。
「本日はありがとうございました」
「……ふん」
「またこうしてお茶できれば嬉しく思います」
「うっざ」
帰りしなでさえ。
「……こっちは嫌だっての」
彼は心なく吐き捨てるほどだった。
――そんな彼は、ある晴れの日、突然この世を去った。
その日彼は私ではない女性とお出掛けしていたそうだ――噂によればその女性のことを愛していたのだとか――まぁ、それは置いておくとして。
女性と二人で出掛けていたエリトリッジだったが、街の酒場で飲んでいたところ酔っ払いに絡まれ揉み合いになり、その最中によろけて転倒。テーブルの角で頭を打ってしまい、その場で落命することとなってしまったそうだ。
また、エリトリッジと一緒にいた女性も、その酔っ払いに殴られ病院へ搬送されたらしい。
……結果、私とエリトリッジの婚約は自動的に破棄となった。
あれから三年。
私は良き人と巡り会うことができ、その人と結婚、穏やかな家庭を築くことができている。
平穏の中にこそ真の幸福があるのだと、彼との日常が教えてくれた。
だから私はこれからもこの日常を抱き締めて生きてゆく。
◆終わり◆




