突然婚約破棄なんてされたら、世界すべてが変わってしまったかのように感じてしまうものですよね。
昨日までは幸せだった。
でも今日は生きている世界すべてが変わってしまった。
あの頃の私はもういない、かのよう。
それほどにすべてが変わったのだ。婚約者から告げられた一言で。歩んできた道は絶たれ、信じてきたものは壊された。失ったもの、どれも、確かにそこにあったものなのに。元通りにすることはできなくて。
……それでも、また、朝は来る。
人生とはそういうものだ。
それならばどんな思いをしていようとも定めという自然の流れに従う外ない。
何かを失っても。
何かを手放すことになっても。
それでも必ず来る新しい朝に、人は息をし続けるしかないのである。
だから。
辛いとき、傷ついたとき、そういったときには思いきり泣いて。
そしてまた歩き出すのだ。
どんな苦難も少しずつ進むことで乗り越えてゆくしかない。
◆
あの唐突な婚約破棄から二ヶ月が経った。
暖かかった屋外も今ではすっかり暑くなり、暖かい、なんて可愛いものではなくなっている。
今や世界は夏真っ盛り。
誰もが暑い暑いと口癖のように繰り返すような、そんな季節である。
先日新しい出会いがあった。資産家の男性と。そして今は交際しているところだ。
一度はすべてを失ったけれど、でも、今はそれすらも受け入れて進む決意と覚悟がある。
だからもう何も怖くはない。
ようやく始まってくれた新しい関わり。それを大切にしながら歩むことこそが、今私がすべきことだろう。
私はもう過去を振り返りはしない。
ただ、前だけを見据えて、歩んでゆく。
芽生えたばかりのこの小さな幸せを、育て、大切に抱き締めてゆく。それこそが私の選ぶ道、私の選択。ようやく生まれた希望を手放しはしない。
……ああ、そうだ、そういえば。
あの時私を理不尽に切り捨てた元婚約者の彼だけれど、幸せにはなれなかったようだ。
というのも、あの後少しして出会った女性の罠にかかり、意図せず借金を背負わされたうえその人と結婚しなくてはならないように追い込まれてしまったのだそう。
そうして彼はその女性の言いなりでいることを求められ続けているのだとか。
気の毒に。
……だが自業自得。
どれも彼の選択の結果。
ならばそれは彼が受け入れなくてはならないもの。
◆終わり◆




